教師編・1『シングルベッドでいいって言ったのに』
「そこだ! やっちまえナギ!」
「うるさいです」
ナギが悪態をつきながら太刀を走らせると、魔物が断末魔の声をあげて素材に変わった。
バルギア竜都フォースの地下ダンジョン、その48階。
俺たちSランク冒険者【王の未来】は、絶賛ダンジョンの攻略中だった。
俺とエルニ以外はダンジョン初心者だったので、せっかくだから順当に攻略してみようという話になったのは半年前。
前衛ナギ、中衛サーヤとプニスケ、後衛(という名の賑やかし)セオリーの編成で、ここまで探索してきた。もちろん新人育成も兼ねていたから俺とエルニはほとんど手を出していない。
そう考えたら、サーヤが加入してから数か月で一気に増えたなパーティメンバー。
魔物の素材を集めている彼女たちを遠目で眺める。
……全員チビだなぁ。
Sランク冒険者になってから約半年。ギルドやダンジョンで他の冒険者たちに絡まれた回数は数えきれない。
一番年上は23歳になったエルニだ。ただ、見た目は出会った時からずっと変わらず幼女体型のまま。
サーヤは年齢どおりに成長してて、ちょっと前に11歳になった。
ナギはもう18歳のはずなんだけど、前世と同じくなぜか12歳くらいで成長が止まっている。
この3人はまだまだチビだ。
つまり一番背が高いのはセオリーということになる。
ちなみに中身は一番こどもだし、ゴスロリ中二病ファッションだから身長のわりに幼く見えてしまうけど。
名誉のために言っておくけど、俺たちのパーティがロリっ子ばかりなのはただの偶然であり、俺の趣味ではない。
しつこいようだけど、俺の好きなタイプはエルフのお姉さんなのである。
『ボクの好きなたいぷはご主人様なの~』
「なにこの従魔可愛すぎる」
俺の肩に乗って、スリスリしてくるプニスケだった。
癒されるぅ。
「でもルルク知ってる? 最近ギルドで、神秘術には成長を止める術式があるって噂されてるの」
「初耳なんだが。そんな術式あんの?」
「うちのパーティって客観的に見たらハーレムでしょ? 話題の〝神秘の子〟が私たちの成長を止めてるっていう噂があってね……」
「おい誰だよそんな噂流したやつ! とっちめてやる!」
名誉棄損だ! 出るとこ出てやるぜ!
サーヤは呆れながら言った。
「どうもラキララさんみたいよ」
「あの腹黒悪女め! 今度飲みに行ったら酒にこっそりスゴ玉入れてやる……いまにみてろ……」
「でもルルクが悪いんだからね? ラキララさんと飲む約束、忘れてたんでしょ」
「うぐっ……」
実はあの魔族領クエスト以来、ラキララとは意気投合して飲み友達になっていた。
リーダーのフラッツが魔物騒動の時に亡くなってしまい、しばらく活動を休止していた【白金虎】。大怪我を負って生死を彷徨ったベズモンドがリハビリを終えるまで、残りの3人とはよく会っていたのだ。
新リーダーはケムナになった彼らだったが、そこで大きく動いたのはラキララだった。いつ命を落とすかもわからない危険な冒険者稼業、後悔してからじゃ遅いとケムナをあの手この手で篭絡して、ついに念願の大人の関係(キスした。もう一度言うがキスしただけ)になったのだった。
その祝いと、さらなる関係の発展のために作戦会議をおこなう予定だったんだけど、俺のところに竜王がいきなり訪ねてきてまたガチ喧嘩になったせいで、酒場に行く約束をすっぽかしたのだった。
「確かに俺が悪いんだけど……でも、突撃隣の竜王! だぞ? 仕方なくね?」
「同情はするけど、そのあと行けばよかったのよ。忘れてたのはルルクでしょ?」
「はい……すみません」
「でも代わりに謝っておいたし、次の飲み会もセッティングしておいたわ。そのとき意地張らずにちゃんと謝るのよ?」
「はい。何から何までありがとう……」
「よろしい。よしよし」
しょんぼりした俺を、微笑みながら撫でるサーヤ。
第2回、第3回お姉さん決定戦でも優勝している、さすがのお姉さんパワーである。
「サーヤはルルクの世話焼きすぎ、です」
「そう?」
「このダメ男は甘やかすとすぐにつけあがるです。ナギくらい厳しくて丁度いいです」
呆れていたのはナギ。
同じセリフをどこかで言われたことのあるような……うーん、思い出せない。
もっとも、おまえは厳しすぎだけどな。
「それに戦闘中の野次は邪魔です」
「なんだよ。せっかく応援してるのに」
「ルルクの声は耳障りです。せめて兄様みたいにイケボになってから出直してくるです」
「その兄様の声を知らないんだが」
「では教えてあげるです。低音ですが耳どおりがよく、芯が甘くとろけるように優しい砂糖菓子のような風味を感じるですが、ほんのりと爽やかなテイストも含まれており、まるで草原をかける白馬のような美しさがあるです」
「まったくわからん!」
このブラコン魔族、兄様のことになるとすぐフレーバーテキストになるのはやめてほしい。
「つまりルルクの声援はうるさいです。黙って見てろです」
「え~。でもじっとしてるのヒマだし」
「マグロです?」
「……それ、ベッドの上の話?」
「ふん!」
「ぐべっ!?」
鳩尾を肘で強打されて呻く俺。
ナギの視線がまるでゴミを見るようだった。
「ぼ、暴力反対……」
「いまのはルルクが悪いわ」
「ん。わるい」
「あるじ……」
味方はいなかった。
そんな風に48階の攻略を終えて、そのまま49階の最初の部屋に転移ポイントを設置してから、40階の転移部屋までワープ。ふつうの冒険者たちはダンジョンの転移装置まで進むか戻らないと脱出できないけど、俺のスキルがあればいつでも戻れるから、毎日ちゃんと宿まで帰っているのだ。
ダンジョンの受付で退場手続きをして、広場でひととおり露店を眺める。欲しいものはルニー商会で買えるんだけど、露店には掘り出し物があったりするからな。チェックは欠かさない。
「なあ見ろよ、この国のダンジョンってあんな子どもの集団でも遊べるのか? こりゃ俺たちも楽勝だな」
「おいバカかよ! あいつら例の【王の未来】だぞ!」
「……誰だそいつら」
「知らねえの!? 全員子どものSランク冒険者だぞ!」
俺たちを見てざわざわする冒険者たちも、こうして時折見かける。
さすがにネームバリューがデカくなってきたな。Sランク冒険者になるってのはそういうことだろう。無視するように心がけているので、遠巻きに見られてる分にはトラブルになることは少ない。
……少ないんだけど。
「おいチビ、お前が〝神秘の子〟か」
ガタイのいい荒くれ物の冒険者っぽい男がニヤニヤ笑いながら話しかけてきた。
こうして問答無用に絡まれる時もあるんだよね。
仲間らしき男が慌ててそいつの肩を掴む。
「お、おい! やめとけって!」
「うっせえな。デカい看板背負ってるだけのガキにビビってんじゃねえよ」
仲間の手を払いのけた冒険者。
ちなみに俺は気にせず買い物を続けている。
「なあおい、無視んなよSランク。それともビビッてんのか?」
「店主のおじさん。このアクセサリっていくら?」
「てめえ調子乗ってんじゃねえよ!」
俺の肩を掴み、拳を振りかぶった冒険者。
近くにいる俺の仲間たちが、呆れたように目を細めていた。
「『反射』」
「なっ――がふっ」
俺は指先でベクトルを書き換えた。
男の拳は、そのまま自分の顔面に吸い込まれていった。自分に殴られて後ろに吹き飛ぶ男だった。
「な、なんだいまの」
「あれが神秘術か……」
「さすが〝神秘の子〟だな」
周囲の人たちが感心したような声をあげるなか、吹き飛んだ男は鼻血を流しながら立ち上がった。
「てめぇ、この俺を怒らせたな!」
「えっと……そもそも誰です?」
「俺を知らないだと!? 聞いて驚け、殺戮闘技場の〝チャンピオン〟グラーガ様が冒険者デビューしてやったぞ!」
「……誰?」
俺は仲間たちに聞く。
全員首を横に振った。誰も知らないらしい。
そのチャンピオン男は、俺たちの反応にとうとうブチ切れた。
「殺し合いもしたことねぇガキが! 俺を舐めてんじゃねえぞ!」
「舐めるも何もまず知らないし。そもそも殺戮闘技場って子どもが考えた名前みたいだよね」
「ぶっ殺す!」
腰の剣を抜いた自称チャンピオン男。周囲の人々はかなり遠巻きに様子を見ている。一般人の女子供は……うん、近くにいないな。
裏稼業あがりの新人冒険者なんだろうけど、こういう勘違い野郎は早めにとっちめるに限る。こんな場所で武器を抜いて騒ぎを起こすなんて、そもそも冒険者以前の問題だろう。
「ん、わたしやる」
『ボクもやりたいなの!』
「ナギの出番です」
「いやまて、指名は俺だから」
血の気が多いメンバーたちを手で制す。
これだけ大々的に注目されてるんだ。今後似たような絡まれ方をしないよう、少しだけ大袈裟にやってみよう。
「覚悟しろクソガキ――」
「『覇者の威光』」
解き放ったのは威圧スキル。
王位存在未満の相手を強制的に恐慌状態にさせるスキルだ。
当然、男は全身を恐怖で震わせながら地面にへたり込んだ。
もちろん彼だけに伝わるだけじゃ意味がないので、余波がある程度周囲に漏れるようにわざと制御を甘くしている。
静寂が落ちるダンジョン前広場。
ただまあ、これだけじゃインパクトは弱いだろう。
恐怖で失禁するチャンピオン男に向かって、ゆっくりと歩いていく。
「殺し合いをしたことがない……ね。まあ俺もまだ子どもだから、見た目で判断されるのは仕方ないかもね。でもオッサン、冒険者たるもの外見に惑わされちゃイケないよ。例えばほら、こういう風に」
俺はチャンピオン男の目前まで来ると、指先をパチンと弾いた。
その瞬間、男のまわりの地面が十本の槍に変化して、男の喉元に突き立った。もちろん足で『錬成』を使っただけなので、指先を弾いたのはただの師匠のマネだ。
「ひいっ!?」
「俺が子どもの見た目なのは、油断を誘うためだって思わなかった? 武器が短剣一本だけなのは、弱そうに見せるためだとは? もし何も考えてなかったんならオッサン、あんた冒険者として活動してもすぐに死ぬよ。闘技場のチャンピオンか何か知らないけど、冒険者は常にイレギュラーな死と隣り合わせの職業だ。用意された相手と戦って勝てる強さは、ここじゃ半分も通用しない」
俺はそう言って、地面の槍を引っ込める。
失禁し、口の端から泡を吹き始めたチャンピオン男に背を向けて仲間の元に戻る。
最後に一言だけ、これも忠告しておこう。
「それに俺もまだまだ弱いって思うこともあるからね。自分が強いっていう思い込み、はやめに捨てたほうがいいよ」
その言葉を言い終える頃には、チャンピオン男は気絶していた。
彼の仲間が慌てて駆けてくると、周囲の人たちからは大歓声があがったのだった。
「自分が強いって言う思い込み、はやめに捨てたほうがいいよ……です」
「もうやめてナギ! 恥ずかしい!」
夜の酒場。
俺のマネしてカッコつけたナギが、果実水片手に不敵に笑っていた。
「もう一度再現するです。ではセオリー、どうぞ」
「御意。へっへっへ覚悟しろクソガキ~」
「『覇者の威光』、です」
「ぐ、ぐわ~っ!」
「人を殺したことがない? ふ、外見に惑わされてはいけない、です。例えば――」
「ストーップ! もう終わり! 終了! 後生だから!」
さっきの俺とチャンピオン男のやりとりを再現しているナギとセオリーの間に入って止める俺。
いやね? 確かにちょっとカッコつけてたから、こうして寸劇で再現されると顔から火が出そうになるんだよね?
「おい止めるなよ兄ちゃん! もっかい見させろ!」
「そうだぜSランク、あの啖呵はよかった!」
「だまれ酔っ払いども! 我慢しろ!」
「「「ぶー」」」
周囲の酔っ払いたちはブーイング。
この数か月、通いなれている酒場だ。ほとんどが常連客なので顔見知りばっかりなのである。
酒場の酔っ払いはどこの国もノリが良すぎるんだよな……。
「しかたないです。また後日、ルルクがいないときにやるです」
「やめろって! ナギは俺をどうしたいの!?」
「もちろん辱め……コホン、ナギたちのリーダーの武勇を多くの人たちに伝えたいだけです」
「辱めって言ったよなこのド畜生娘!?」
「しかし我が主よ、さきほどの雄姿は語られるべき! 吟遊詩人も万雷の拍手を送るであろう!」
セオリーが香ばしいポーズをとると、酔っ払いたちは「そうだ!」と賛成していた。
ナギはただ俺をイジりたいだけなんだけど、セオリーは本気でさっきの俺がカッコいいと思ってるみたいだから余計に困る。善意100%は時に悪意よりも怖いんだな……。
「なあサーヤ、おまえもナギを止めてくれよ」
「え、何? ごめん聞いてなかった」
隣のテーブルでは、サーヤとエルニ、プニスケが料理に夢中になっていた。
我がパーティの食いしん坊トリオは料理が来ると肉の取り合い合戦が始まるからな。残念ながら俺の味方はいなかった。
俺が肩を落としていると、その隙にまたナギとセオリーが寸劇を始めていた。酔っ払いたちも指笛を鳴らして煽っている。
くそっ、どうにかして止めたいけど……エンドレスな気がする。
「ルルク様、お食事中に失礼します」
ふと声をかけられて振り返る。
後ろには老父の恰好をした竜種――ラドンが立っていた。竜王の執事みたいなポジションのひとだ。
「ラドンさん!? どうしたんですかこんなところに」
「ルルク様にご報告がございまして、お時間よろしいですかな?」
「もちろんです。あ、よければ一杯どうですか? 人族の酒に抵抗がなければですが」
「酒は好物でございます」
ならば、と俺たちはカウンター席に移動。
マスターにラドンのために一杯酒を用意してもらった。
「お久しぶりです。セオリーの誕生日以来ですね」
「左様ですな。先日は竜王様がお邪魔したようで、ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「大変でしたよ。セオリーと買い物してたときだったんで、デートの許可なんざ出してねェ! ってブチ切れましたからね。まあ上空に移動して半日ずっと殴り合ってたんで疲れはしましたけど……まあ問題はなかったです」
「なるほど。帰って来た竜王様も上機嫌だったわけですな」
「上機嫌? 不機嫌じゃなくて?」
俺が首をひねると、ラドンはにこやかに笑っただけだった。
あの竜王、マジでよくわからん情緒してやがる……。
「それでラドンさん、報告ってなんですか?」
「先日報酬として頼まれておりました屋敷の件ですが、完成致しましたのでご報告に参りました」
「本当ですか!」
もうできたのか、バルギアの拠点!
1年くらいは想定していたけど、意外と早かったな。
「こちらである程度家具も見繕いまして、姫様やお仲間がたのご要望通りに整えましたので、すぐにでも住んでいただける状態にございます」
「おお、そこまで……って、要望通り?」
「間取りや家具など、細かい要望を伺っております」
いつの間に!?
俺にはなにも言われなかったけどな……いやまあ、他の仲間たちは女の子だ。女の子には色々あるだろうし、当然かもしれない。
「どうでしょうか。すぐにでもご覧になれますが、明日に致しましょうか?」
「すぐ見ます! おいみんな、屋敷ができたらしいぞ! いまから見に行くぞ!」
「「「おーっ!」」」
迷うことなく返事した仲間たち。
楽しみにしてたんだろうな。俺もだ。
そんなわけで、俺たちはラドンに連れられて竜王にもらった屋敷を見に行くことになったんだが……。
「立派すぎるだろ!」
ダンジョンの北側にある公園、そのすぐ脇。
そこにあったのは第一中央区の貴族屋敷よりデカい大屋敷だった。
俺の実家よりも遥かにデカい。
二階建てなんだけど、その敷地面積が異常だった。冒険者ギルドや商人ギルド、ルニー商会にも引けを取らないレベルの建物だ。
当然、庭も広い。余裕でサッカーができそうだ。
さすがにこんな屋敷は想像してなかったんですけど。
「姫様のお住まいなのですから、当然でございます」
「あ、そうだった……」
そういえばセオリー、大陸一デカいこの国のたった一人のお姫様だった。
そりゃ人間の屋敷より小さいものは作れないよなぁ。
これは考えてなかった俺が悪い。
ラドンが門の外に立っているメイド服に一言言いつけると、すぐにメイドは門を開いた。
素手で、押して開いたのである。マッチョだ。
「屋敷の維持管理には二十名ほど駐在するようにしております。すべて臣下の竜種ですが、ご要望があれば人族の奴隷も雇いましょう」
「えっと……ひとまず竜種の方々でいいです」
「かしこまりました。無論、許可のない使用人には夜間の二階への立ち入り禁止を徹底させておりますので、安心してお励みになられるよう」
「その気遣いはいりませんよ!?」
俺をなんだと思ってるんだ?
「はて。人族は繁殖に長けた種族だと伺っておりますが」
「そ、それは否定できない……」
そんなことを話していると、前庭を抜けて正面玄関へ。
玄関にも当然のようにメイドが立っており、扉を開いてもらう。
玄関ホールも立派だった。
バルギア特有の白い石をふんだんに使った純白基調の床や壁。所々に薄いピンクの模様があしらっているが、これはおそらくセオリーの鱗模様を表現しているんだろう。竜姫様の屋敷だもんな。
そのままラドンに屋敷内の主要な部屋を案内してもらった。廊下は広く、一階にはパーティが開けそうな大広間、応接室や客間、多目的ホールのような場所が数か所、炊事場や水回り関連の設備が数か所にバラけて配置されていた。
階段は建物の中央付近のロビーにあった。
階段を上がると居住スペースで、大きなリビングやダイニング、トイレや洗面台が数か所。そのすべてが魔術器ではなく、ふつうの蛇口タイプの水道だった。俺はともかくナギはいままで不便だっただろうから、コレを見て感動していた。
その気持ち、めっちゃわかるぞ。
そして問題だったのは寝室だった。
「……え、ナニコレ」
「みなさまの寝室にございます」
20畳くらいありそうな寝室には、天蓋付きのベッドがあった。
キングサイズの3倍くらいはありそうな超大型のベッドだ。
「わ~! ふっかふか!」
「ん、すごい」
「ふっ、これぞ極上の至り」
「すごいです」
ベッドに飛び乗ってはしゃぐ仲間たち。
俺はイヤな予感がして、プニスケを抱きしめながらラドンに問いかける。
「……ちなみに、個別の寝室は?」
「ご要望通り、ルルク様以外の方の寝室はございます。あくまで予備ですが」
「俺だけないの!?」
「はい。ご要望通りでございます」
「おい全員集合! 俺だけ寝室ないってどういうことだコラ!」
半ギレで言うと、全員視線をスッと逸らした。
確信犯だ……!
「というかナギ、おまえもいいのか。宿じゃローテンションで一緒に寝るのもしぶしぶだっただろ」
「それは……よく考えたら、ローテーションの日は寝てるルルクに仕返しできるチャンスだと気づいたです」
「え、何じゃあ最近起きたらなんか疲れてるのって、ナギのせいなの!? 何してんの!?」
怖い。この子怖い。
「素直じゃないわね。ナギだってずっと一緒にいたいって言ってたのよ。ひとりでリビングで寝る日は寂しいんだって」
「サ、サーヤ! 出鱈目はやめるです!」
慌ててサーヤの口を塞ぐナギだった。
「ふーん。ナギちゃんって、やっぱツンデ」
「死ぬです!」
「ぶげっ!?」
いつもの肘打ちを食らって、ベッドに倒れ込む俺。
せっかくの立派な屋敷なのに……せっかく数えきれないくらい部屋があるのに……。
シングルベッドがいいって、いつも言ってるのになぁ。




