弟子編・0『とある少女の旅立ち』
本日2話同時更新です。1/2
「そろそろ行くわよ。お別れ、済ませておきなさい」
少女はそう言われて、墓標の前で最後に目を閉じた。
ボロボロに朽ちた集落だった。もともと森の中にあるひっそりとした一族の集まりで、百名にも満たない小規模な集落。
慎ましいながらも平和に過ごしていたその集落は、魔物の襲撃を受けて滅んでしまった。
生き残ったのは少女だけ。
親も友達も、みんな殺されてしまった。
少女は魔術が得意だった。
この世界では、ほとんど誰しも魔術を使うことができる。とはいえ、9つある属性のうち2か3種類の適性を持っているのが普通だ。4種類使うことができる者や、聖魔術が使える者は貴重だ。
そのなかでも少女は、9つ全ての魔術適性を持つことで大人たちに一目置かれていた。レベルのわりに魔力値もかなり高く、才能もあった。
集落での質素な生活だけど、得意な魔術でみんなの助けができるその暮らしが好きだった。
しかしそんな平和も、突然襲ってきた狼の魔物たちによってあっけなく壊されてしまった。
ひとり、またひとりと倒れていく一族の仲間たち。
最後に残ったのは、少女ただひとり。
そんな彼女も魔力が切れて意識が朦朧となり、もはや狼に食われるだけになってしまった。
恩師がその瀬戸際に駆けつけて魔物を一掃してくれなければ、確実に死んでいただろう。まさしく間一髪だった。
だから幸運にも生き長らえた。
たったひとり、生き長らえてしまったのだ。
「……みんなの、ぶんまで」
少女は一族の墓に祈りながら小さく決意した。
生き残ってしまったその運命に、一族全員の命を背負った過酷な人生に、少女は報いなければならない。
「ぜったいに、いきる」
この先、どんなことがあっても生きぬいてやる。
強くなろう。
誰にも負けないくらい強くなって、二度とこんな悲しいことが起こらないように、大切なひとたちを全員守れるくらいに強くなって、生きていくのだ。
少女はゆっくりと立ち上がる。
涙は我慢した。旅立ちの時に泣いていたら、みんなが心配するだろうから。
「じゃあ行くわよ」
「ん」
こうして少女は、恩師とともに滅びた故郷を後にした。
それは、魔術の王――〝魔王〟となる宿命を背負った小さな少女の、ひっそりとした旅立ちだった。