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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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激突編・30『複数の上位存在を従える覇者』


「『空間転移』」


 エルフの里へと転移した。


 サトゥルヌに奪われていた神秘術練度は元に戻っていたので、今まで通りすべてのスキルが使用できるようになっている。

 それとプニスケの進化のおかげでひとつ増えていたから、その性能チェックはあとでしておこう。


 里の中央殿付近に出現した俺たち。

 景色が森に一変したことで、ナギが声を震わせた。


「ほ、本当に長距離転移ができたです……」

「まあ本質的には短距離も長距離も変わらないからな」


 見えないところの座標計算が激ムズなだけだ。

 ひとまず森長たちに報告を――と思ったら、転移場所のすぐ近くにルニー商会のフィーアが立っていた。


「お待ちしておりました。お帰りなさいませルルク様」

「ただいまフィーアさん。戻ってくるタイミング知ってたんですか?」

「はい。ルルク様がサトゥルヌを倒したことは確認できましたから、まもなくかと」

「さすがだね」


 もうルニー商会の情報網には驚かない。たぶん商会の誰かが、何かを媒介にして広範囲の情報を知る術式かスキルを持ってるんだろう。それを導話石通信で共有している。そんなところだろう。

 さも当然のように会話していると、ナギが俺の服を引っ張った。


「このエルフがルルクの仲間です?」

「違う違う。こちらフィーアさん。ルニー商会って言って、魔族領での活動をバックアップしてくれてた団体のひとだよ。ルニー商会は情報通で、基本はなんでも知ってる」

「何でもは知りません。知ってることだけです」


 しれっとセリフを吐くフィーア。

 うん、何も言うまい。


「……で、こっちの子はナギです。フィーアさん、ナギは見ての通り魔族ですけど俺の友達だから、決して手は出さないようルニー商会に周知してて欲しいんですけど」

「かしこまりました。すぐに徹底させます」


 フィーアは導話石のようなものを取り出してどこかに連絡していた。

 連絡が終わるのを待ってから、もう一度フィーアに質問する。


「それで、俺の仲間たちはまだエルフの里にいます?」

「2日前に竜都へ発ちました。おそらく、ちょうど着く頃合いかと」

「わかった。じゃあ俺たちも森長に報告してからバルギアに戻ろうか……あ、その前に」


 俺はアイテムボックスから導話石を取り出して、


「ヘプタンさんから頂いたコレ、魔族領でも問題なく使えました。深度Ⅲでも雑音や音飛びもなかったので、魔力濃度の影響はなさそうです」

「有難うございました。ではお約束通り、そちらはそのままお持ち下さい。もし不具合などが見受けられましたら商会へお持ち込みください」

「はい。では遠慮なく」


 これで正式に貴重な通信アイテムゲットだぜ。

 ひととおり内緒話を終えたら、フィーアは報告書の作成のために離れていった。

 その背中を見送ってから、ナギが怪訝そうな顔で言う。


「もしかしてエルフは、悪趣味な仮面をつける種族です?」

「悪趣味て。あの仮面はルニー商会のマークだから、ここではフィーアさんだけだ。エルフたちはちゃんと素顔のままだよ」


 兎に角、ここで突っ立ってても始まらない。

 俺たちはすぐに中央殿の大木の根元まで歩き、見張り役のエルフに声をかけた。


「恩人殿! 戻られたのですね!」

「はい。森長たちに報告がありますので通してもらってもよろしいですか?」

「もちろんです!」


 門番は上に合図を送ると、またもや長い植物梯子が降りてきた。

 そのままビビるセオリーを応援しながら上まで登った。


 森長たちの部屋には厳ついジュマンの森長、防衛隊長のディスターニア、それから副隊長のカルマーリキが里の地図を広げて話し合いをしているところだった。


「ただいま戻りました」

「おう、戻ったかルルク殿」

「ルルク様ぁああああ!」


 飛びついてきたカルマーリキをひらりと躱しておく。顔面から壁に激突したカルマーリキだった。

 鼻血を出しながら頬を膨らませるカルマーリキ。


「なんで避けるのさ!」

「なんで飛びつくんだよ」

「だってそこにルルク様がいるから!」

「意味わからん」

「ちょっと黙っとれカルマーリキ」


 森長が頭痛を我慢するような顔でカルマーリキを諫めた。


「ルルク殿、まずは礼を言わせてくれ。我が同胞の子らは皆無事に戻って来た。貴殿と、貴殿の仲間たちの活躍なくしては成し遂げられんかったことよ。恩に着る」

「いえいえ、エルフの皆さんの手伝いがあったからこそですよ」

「かたじけない。して、別行動で上位魔族サトゥルヌの討伐に向かったと聞いておったが、そちらはどうだったのだ?」

「はい、そちらも完了です。エルフの里を襲った魔族一派は全滅しました」


 もしどこかで潜んでいたとしても、サトゥルヌの眷属は全員死亡したはずだ。

 これ以上、エルフの里に魔の手が伸びることはなさそうだ。


「そうか。重ね重ね、どう礼を申し上げてよいものか」

「畏まらないで下さい。そっちは自分の都合でやったことですから。礼も報酬も不要ですよ」

「そうか……では、せめて里一番の馳走でも用意させてもらおう。カルマーリキ、すぐに手配して来い」

「はーい! 今日はルルク様とごはん~♪」


 森長が指示すると、カルマーリキは鼻歌混じりに部屋を出て行った。

 子どもみたいな反応に苦笑した森長だったが、気を取り直して話を続ける。ちらりとナギを見て、


「して、なぜ魔族がここに? 事情があるのであろうが、今回はすべて魔族の陰謀によるものと聞いている。理由如何では、里としては受け入れられぬ」

「この子は里やバルギアを利用していた魔族の一派とは違います。黒幕だった上位魔族のサトゥルヌにトドメを刺したのも、このナギですよ」

「なんとそうであったか。では、敵ではないと考えてよいのだな?」

「ええ。俺の友達ですから、エルフ全員に言って聞かせてください。ナギに手を出したら俺たちが敵になりますよって」

「すぐに手配しよう。ディスターニア、徹底的に周知して来い。くれぐれも漏れなく伝えるのだ」

「ああ」


 ディスターニアは緊張した顔で飛び出していった。

 その様子を眺めていたナギは、怪訝そうな表情を深めた。


「ルルクって何者です?」

「ふつうの冒険者だよ。たまたま俺と仲間でエルフの里の危機を救っただけで、それと、エルフの精鋭たちをボコボコにしたくらい。いやあ、エルフたちが義に厚い人たちで良かった」

「……ナギは人族に詳しくはないですが、ルルクが普通じゃないことはわかるです」


 呆れた視線を向けたナギだった。

 

「ではルルク殿、食事の用意ができるまでゆっくりと休んでおるとよい。上の部屋を開けておるので自由に使ってくれ。できればディスターニアが周知を終えるまで、魔族の子を外に連れ出すのは遠慮願いたい。失礼があるかもしれんからな。あとの詳しい報告は食事の時にでも聞かせてくれ」

「わかりました。では、上の部屋をお借りします」


 俺たちは勧められるままに部屋を移動した。


 すぐに給仕係が果実水と菓子を持ってきてくれて、ゆっくりと腰を落ち着かせることができた。

 セオリーは疲れていたのかソファにしな垂れかかって座り、プニスケは菓子をパクパク食べている。ナギは物珍しそうに、部屋や窓の外の景色をキョロキョロ見渡していた。


 俺も果実水を飲みながら、ひと息つく。

 魔族領ではさすがにリラックスできなかったからな。


「ルルク、あれが聖樹です?」

「そうそう。聖樹は知ってるんだな」

「魔樹を生み、魔族を魔族領に閉じ込めている元凶です。アレを巡って魔族とエルフは過去何千年と戦ったことがある、という言い伝えがあるです。結局、聖樹は世界に根付いているので無駄だと知って諦めたらしいですが」

「そんな伝承が!? それは知らなかったな。その話あとで詳しくゆっくり教えてくれよいいか絶対だぞ教えるまで寝かさないからな」

「ちょ、近いですルルク」


 おっと失敬。

 魔族の伝承なんて聞く機会がなかったからな。時間があるときにナギにゆっくりと教えてもらおう。


「ナギが教える義務はないですが」

「え~ケチだな。いいだろちょっとくらい時間くれても。こうして無事に生きてるんだし」

「……そう、ですね……兄様、ナギはまだ生きてるです……」


 聖樹を眺めて、感慨深くつぶやくナギ。

 さすがにまだ心の整理がついてなさそうだった。いまはそっとしておこう。


 それより、俺が気になっているのはプニスケだ。

 ミスリルスライムなんていうトンデモ進化を遂げた、メタリックに輝く愛しい我が従魔。お腹が空いていたのかモリモリ菓子を食べているから、話しかけずに鑑定してみる。


――――――――――


【名前】プニスケ

【種族】ミスリルスライム(ルルクの眷属)

【レベル】27


【体力】780(+85)

【魔力】950(+90)

【筋力】50(+40)

【耐久】7850(+1800)

【敏捷】40(+40)

【知力】1790(+110)

【幸運】540


【理術練度】890

【魔術練度】40

【神秘術練度】10


【所持スキル】

発動型(アクティブ)

『弾力操作』

『体温操作』

『色彩操作』←NEW

『巨大化』

『変形』

『眷属化』


――――――――――



「硬っ!?」


 思わず叫んでしまった。ミスリルだから当然なんだけど。

 スライムのステータスから大幅に強化されている。しかもレベルカンストの格上を倒したからか、レベルもすでに27になっていた。


 増えたスキルは『色彩操作』だけみたいだが、いままで使えたスキルや技術はすべてそのまま継続して使えるみたいだ。

 というかさっきのミスリル銃モード、恐ろしく強かったよな。ミスリルの弾丸なんて防げる相手がいるんだろうか……。

 じっと見つめていると、プニスケが気づいたようだ。


『ご主人様どうしたの~?』

「いや、成長したなと思って」

『ふふんなの! ボク、強くなったの~!』


 自慢げに跳ねるプニスケ。かわいい。

 耐久値がやたら高いので、これで防御面はかなりしっかりしたな。というか核までミスリルだろうから、そもそも物理的に倒すのはほぼ不可能なんじゃないか?


 確か、キングスライムやメタルスライムがAランク魔物だから……たぶんSランク魔物相当なんだろうな。さすがにミスリルスライムなんてのは図鑑には載ってなかったけど。


「今回は本当に助かったよ。ありがとなプニスケ」

『うんなの! でも、竜のお姉ちゃんもがんばったの!』

「ふえっ!?」


 いきなり話を振られ、ソファでねそべっていたセオリーがビクっと反応した。


「確かに、そもそもセオリーがいなけりゃ確実に死んでたな。改めてありがとうセオリー」

「わ、我は眷属として当然のことをしたまで」

「それでもだ。それとセオリーも例の超強化、スキルとして増えてるな。ステータス見てみるか?」

「ふっ、仕方あるまい。プニスケよ、そなたも我が力の片鱗を見ておそれ慄くがよい!」

「はいはい。『閾値編纂』」


 俺は紙を取り出して、ステータスを写し込む。


 ――――――――――


【名前】セオリー=バルギリア

【種族】竜種・真祖(ルルクの眷属)

【レベル】24


【体力】1640(+1860)

【魔力】1470(+1180)

【筋力】750(+900)

【耐久】1210(+1940)

【敏捷】440(+740)

【知力】410(+620)

【幸運】44


【理術練度】80

【魔術練度】1100

【神秘術練度】30



【所持スキル】

自動型(パッシブ)

『光魔術適性』

『高速飛翔』(竜状態)

『硬化』(竜状態)

『知力上昇(小)』(人状態)

『自動回復(光)』(人状態)


発動型(アクティブ)

・『強制隷属(スペルゲッシュ)

・『変化』

・『ブレス(光)』(竜状態)

・『滅竜破弾(光)』(人状態)

・『竜気現化(ジンテーゼ)』(人状態)←NEW


 ――――――――――


【 『竜気現化(ジンテーゼ)

 >溜め込んだ竜気を使用し、ステータスを大幅強化する王級スキル。

 >>発動時に解放する竜気の量により強化値が変わる。

 >>>時間制限はないが、スキル使用中は竜化ができない。怠けるほど強くなる怠惰の竜。 】



 怠けるほど強くなるスキル、か。


「……なあセオリー」

「ふっ、如何様か我が主」

「いままでよっぽど怠けてたんだなぁ」

「ふえぇ」


 ベーランダーの屋敷で一年間引きこもってたくらいだからな。

 そのおかげで助かったっていうなら、怠け癖にも感謝しないといけないだろうけど。


「というか出発前に比べたら素の肉体も強くなってるな」

「……たくさん歩いたもん。疲れたもん」


 ソファにぐだっと横たわるセオリー。

 そういえば最初、慣れない旅ですぐヒイヒイ言ってたからな。そのうちピンピンするようになってたけど、たぶん竜種本来の肉体強度からしたら最初の状態はよほど貧弱だったんだろう。怠けすぎだ。


「だが我が主よ! この闇のスキルにより、我はこれから怠惰であることを強制されるのだ! やむを得まいが、我が主を守るため仕方なしと考え休息を申告する!」

「いや怠けるって言っても、竜気を溜めればいいんだろ? スキルはなるべく使わないようにしてもらうけど、体そのものは鍛えるぞ?」

「え~」


 露骨にイヤそうな顔をするセオリーだった。

 ちゃんと鍛えればもの凄く素のステータスが高いことはわかったんだ。せめて超強化なしでもまともに戦えるようにして欲しい。ブレスが撃てるシーンなんて限られてるしな。


「セオリーはそんな感じだな。俺はどう変わったかなっと」


 俺も自分のステータスをチェックしてみる。


――――――――――


【名前】ルルク=ムーテル

【種族】人族

【レベル】94


【体力】510(+6670)

【魔力】0(+1)

【筋力】510(+4770)

【耐久】390(+4410)

【敏捷】650(+6990)

【知力】780(+6100)

【幸運】101


【理術練度】740

【魔術練度】1

【神秘術練度】9960


【所持スキル】

自動型(パッシブ)

『数秘術7:領域調停(マルチレギオン)

『冷静沈着』

『状態異常無効』

『逆境打破』


発動型(アクティブ)

『覇者の威光』←NEW

『精霊召喚』

『眷属召喚』

『装備召喚』

『転写』

『変色』

『錬成』

『刃転』

『拳転』

『蹴転』

『裂弾』

『地雷』

『反射』

『閾値編纂』

『相対転移』

『空間転移』

『夢幻』

『言霊』

『伝承顕現』

『数秘術0:虚構之瞳(みとおすもの)


――――――――――


【『覇者の威光』

 >威圧系の王級スキル。

 >>複数の上位存在を従える覇者の威厳。王位未満の存在は、その威光にひれ伏す。 】



 ……うん、これはヤバい。

 プニスケがミスリルスライムに進化したから、たぶんSランク魔物と真祖竜を同時に従魔にした判定でゲットしたんだろう。

 でもこのスキル、使ったら周囲の王位存在以外が全員行動不能になるってことだろ? 王位存在なんて、ロズと竜王以外に知らないんだが?

 街で使ったら恐ろしいことになるな。


「……使いどころなさそ~」

「ふっ、我が主の高貴さは留まることを知らぬ。我が父にも引けをとらぬはず」

「半分はおまえのせいだからな?」


 というか竜王で思い出したけど、解呪薬がなくなったんだった。

 このままじゃ竜王にブチ切れられるよなあ。


「……はあ。竜王どうするかなあ。俺まだ死にたくないぞ」

「だ、大丈夫。あるじは我がまもる」

「火に油注ぎそう。というか、セオリーはよかったのか? せっかく『強制隷属(スペルギッシュ)』が戻るチャンスだったのに」

「……だって、使ったらあるじとの繋がりが消えちゃうもん」


 モジモジしながら言うセオリーだった。

 まあ確かに、眷属通信のおかげで居場所も状態もわかるからな。安心といえば安心だけど。


「そうか。ま、セオリーがいいならそれでいいけど」


 竜王のことはひとまずポイっだ。必殺・明日の俺に任せる。

 そうやってステータスチェックも終えて休んでいたら、食事の用意ができたと伝令がやってきた。


 呼び出されたのは中央殿から少し離れた巨木。

 二十人ほどで会食できる広めの食堂だった。

 そこには豊富な料理がテーブル一杯に並んでいた。


「おお、うまそうだ」

「あるじ! すごい!」

『わーい! ごはんなの~』

「ご、豪華です」


 ゴクリと喉を鳴らす俺たち。


「遠慮なく召し上がって下さい。魔物のお肉も使っておりますので、恩人様がたにも満足いただけると思いますわ」


 エプロンを着けたエルフがにっこりと言って、俺たちに席をすすめた。

 遠慮なんてものは前世に忘れてきたので、せっかくの宴会だ。楽しませてもらおう。


 俺たちが座ると森長たち三人と、ディスターニアやカルマーリキなど魔族領に遠征した精鋭たちも着座していた。端っこにフィーアもいる。

 ジュマンの森長が最初に酒杯を掲げた。


「此度はルルク殿とその仲間たちに感謝を込めて、ささやかながら祝いの席を設けさせていただいた。ルルク殿、誠に感謝いたす」

「どういたしまして」

「では、野暮な言葉で主賓を待たせる必要もあるまい。乾杯」

「「「乾杯!」」」


 こうしてエルフたちのもてなしを受けた俺たちは、腹いっぱいになるまで料理を堪能した。

 エルフの里を出たのは、夜も少しばかり更けてきた頃だった。

 



 


 バルギア竜公国、竜都フォース。

 

 別行動だったサーヤとエルニもそろそろ竜都に着くだろうということで、ナギを連れて転移で戻って来た俺たち。

 ナギをどうするかはまだ決めていない。ナギ自身がどうしたいかもあるだろうけど、魔素欠乏症の魔族を無条件で受け入れてくれる場所なんてほとんどない。


 なのでひとまず、俺たちの宿に匿うことにしたのだ。ナギの居場所にできそうな環境はひとつだけ思い当たることがあるから、その準備ができるまでひとまず仮住まいだ。

 ナギも人族の街を見てみたかったらしく、素直についてきた。


 宿の屋上に戻って来たそんな俺たちを出迎えたのは、予想外の光景だった。


 竜都が燃えていた。

 貴族街の上空には燃える鳥が、教会がある方には武装した大巨人が、そして南のほうには大ムカデが見えたのだ。それぞれが街を破壊しながら暴れている。

 なんだこの状況。とりあえず、宿にサーヤたちはいないようだけど。


 俺が周囲を見回して確認していると、ナギが物珍しそうにしていた。


「はあ……これが人族の街ですか。随分と賑やかです」

「いや何言ってんの、緊急事態だからな? 通常なワケないだろ?」

「じょ、冗談です」


 耳の先を赤くさせたナギだった。

 天然ボケを炸裂させたナギは放っておいて、ひとまず魔物を退治することに決めた。どこから手を付けようか考えていると、そのうち不死鳥は魔術で弾け飛んで、巨人は倒れていた。


 となると、残るは大ムカデか。

 それなら迷わなくていい。


「ちょいと失礼」


 俺は全員を連れたまま上空に転移。ムカデの全貌を視界にとらえる。

 デカい。全長100メートルはあるだろう。背中でムカデを斬りつけて止めようとしているアフロは、言うまでもなくギルドマスターのカムロック。

 しかしカムロックの武器は短剣だ。規模が違いすぎて、まったく止まる気配がない。


 俺はすぐにムカデの進行方向の家の屋根に転移した。

 迫りくる巨大なムカデを、真正面で見据える俺たち。


「あ、あるじぃおっきいよぅ」

『ボクのでばんなの~?』

「ナギが斬るです?」

「いや、ちょっと試させて」


 俺は迫りくるムカデをみつめて、スキルを発動させた。


「『覇者の威光』」


 放たれたのはゲットしたばかりの威圧スキル。

 相手はSランク魔物だ。通用するかは分からなかったが。


『ギィ……』


 さすがにただのSランク魔物くらいじゃ王位存在ってことはないか。

 俺の威圧を浴びて硬直した大ムカデ。その巨体を震わせて、正面についている複眼をすべて俺から背けようとバラバラに動かしていた。

 効果は抜群だった……が、コントロールが難しいなこれ。


 俺の後ろでナギがガクガクと足を震わせ、プニスケが丸く固まり、セオリーがチョロロロと聖水を漏らしていた。

 まあそれはおいといて。


「ってことでムカデ。おまえに恨みはないけど、さすがに街を滅茶苦茶にしたみたいだし退治されてくれ――『大裂弾』」


 巨大な空気の塊を、ムカデの顔面にぶちこむ。

 大規模な座標攻撃をまともに受けた大ムカデは、一度ビクンと体を跳ねさせてから力尽きた。

 一瞬で沈黙した大ムカデを眺めて、呼吸を整えたナギがため息をついた。


「威圧とその攻撃、サトゥルヌに向けたら良かったのでは?」

「攻撃はともかく、威圧は憶えたばかりなんだよ」

『ご主人様すごいなの~!』

「おおよしよし。褒めてくれてありがとなプニスケ」


 腕に飛び込んできた従魔を撫でていると、倒れたムカデの背を滑り降りるようにして近づいてきたのはカムロック。


「ルルクか! おまえさん、いつの間に戻ってたんだ。まだ魔族領にいるって話じゃなかったのか。それにこの有様、まさか一撃でギュゲスを倒したのか?」

「あ~……まあ、色々あるんで」


 やべ、時間の辻褄合わせるの忘れてた。

 カムロックもそろそろ転移スキルの存在を疑っているだろう。まあ、信頼できる相手だし教えてもいいかもしれないな。

 そう考えていたら、カムロックは俺の後ろを眺めて言った。


「聞きたいことは山々だが、いまはそれどころじゃねえ。よし姫さんもいるな……っておいルルク! 姫さんどうにかしてやれ!」

「え?」


 振り返ると、足元に水たまりをつくったセオリーが真っ赤な顔を手で覆っていた。

 お姫様、人生二度目の粗相だ。


「あ~……ごめんてセオリー」

「あるじのバカぁ!」

「ぐへっ」


 みぞおちを殴られて、悶絶する俺だった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] どんどん主人公が強くなっていくな! それしても、ここまで読み進めてもまだあと数章残っているのか。この後の展開が楽しみすぎる。 [気になる点] 領域調停がセオリーの腹パンに効かなかったのは眷…
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