表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

150/333

激突編・21『解呪薬』

 

「3、2、1……はい、いま!」

『ずどーん! なの~!』


 転移装置が作動し、魔族たちが転送されてくる。

 よく観察していればそのタイミングは分かりやすかった。転移装置が光ると準備状態、床が光ると転送中、床の光が点滅したら最終位置調整中。

 その最終調整に1秒くらい時間がかかる。つまり転移後のその1秒間、ほとんど無防備になっていた。


 プニスケはそのタイミングを狙って、鞭モードで送られてくる魔族たちを一撃で気絶させていった。

 すでに5回目。人数にして20名。同時に転送できるのは4名までみたいだな。


 5回連続で転送されてきたあとは、しばらく転移装置は動かなかった。

 ひとまずはこれで終わりかな。


 気絶させた魔族たちは縄で縛って、口に布を詰めて部屋の隅に転がしている。

 さすがに追手たちも、俺たちが最初の部屋で待ち構えているとは思ってなかっただろう。武器も抜かずに油断してたからな。


 で、なんで俺がこんなことをしてるのかというと……。


「おはよう、魔族のお兄さん」

「へ?」


 縄で縛った魔族のひとりを起こす。目を覚ました若い男は混乱していた。

 転送直後に気絶させられていたので、あまり状況が呑み込めていないらしい。

 俺はニッコリ笑って言った。


「いきなりで悪いんだけど、このダンジョンの地図持ってない?」

「う、動けん! 貴様こんなことをしてどうなるか――」

「あ~ごめん手が滑った」

「ハウッ!?」


 俺は魔族のお兄さんの秘部(てぃんてぃん)にデコピンをした。デコじゃないから……よし、玉ピンと名付けよう。

 涙目で震えるお兄さんにもう一度問いかける。ニッコリと笑うのも忘れずに。


「お兄さん、このダンジョンの地図持ってない?」

「……き、貴様に教えることなど何も、」

「おっとまた手が滑った」

「ぴぎぃっ」


 ニワトリのような悲鳴を上げるお兄さん。

 後ろで見ているセオリーが、耳を赤くして目を逸らしていた。

 俺はため息をつきながらもう一度だけ言った。


「あのさ、別に命まで取ろうとは思ってないんだよ? 俺が敵対してるのはサトゥルヌだけだし、お兄さんたちサトゥルヌの部下が忠誠で俺たちを襲うのか、隷属してるから襲わざるを得ないのかなんてわからないし、区別して敵かどうか判断するのも面倒だし」

「……な、なにを言ってる……」

「だから、サトゥルヌ以外を殺すつもりもないんだって。さすがに神秘術奪われたから、サトゥルヌには手心なんて加えられないけどさ」

「バカな。貴様ごときがサトゥルヌ……様を殺すなど、世迷言にも程がある」

「かもね。まあそれはべつにいいんだよ。問題はどうやってサトゥルヌのところに辿り着くかだから」


 ここはダンジョン最下層。

 最初に案内されるときに聞いた門番の言葉を信じるなら、全30階層のダンジョンだ。上層階の25階より上には魔物はいなかったので、実質は24階層のダンジョンか。

 

 俺たちはこの24階層を追手から逃げるように探索して、ダンジョンを攻略しなければならない。もちろん25階の手前でも誰かが待ち構えているだろうから、前後の敵を倒しながら進むことが唯一の脱出手段だ。

 それゆえサトゥルヌはシンプルな手段として部下を使ってきた。鬼ごっこみたいな状況をつくるつもりだったんだろう。俺たちが脱出する前に殺せばゲームセットだ。


 サトゥルヌがダンジョンマスターだからといって、内部構造を無理やり変えて圧死させたりはできないとみていいだろう。俺たちの位置を細かくは把握してなさそうだし、ここで待ち構えているのに追手を送り込んできたことが何よりの証拠だ。

 

「サトゥルヌからもらってるんだよね? ダンジョンの地図」

「そっ、それは……」


 ミイラ取りがミイラになっては意味がない。そう確信しての地図強奪作戦だった。あてもなく逃げ回るよりよっぽど効率的な方法だろ?

 地図さえあればこの規模の24階層くらいは数日で攻略できる。魔物を倒して歩くだけだからな。


 お兄さんは顔を歪めて視線を逸らした。


「……貴様に教えることなどない」

「おや、手が滑りそうだなぁ」

「ひっ」

 

 内ももをくっつけて乙女のポーズをとるお兄さん。

 俺は指先をブンブン素振りしている。ステータスのおかげで指力も強いのだ。


「あるじ楽しそう」

「いやいや、これは必要なことだから。俺も心を鬼にしてるんだよ?」


 だいたい男の急所(てぃんてぃん)をピンピンするなんて、好きでやってたらただの変態じゃないか?

 セオリーの視線に憤慨しておく。


「ほらお兄さん、俺に風評被害が出る前に正直に話したほうがいいんじゃない? デコピンどころか鞭が飛んでいくことになる前にさ……ニヤリ」

「お、鬼か貴様! 人族はみんなこうなのか!?」

「うん。人族はみんなこうだよ」


 堂々と嘘をついて種族を巻き込む男、それが俺なのである。

 サーヤがいたら後頭部を叩かれているところだっただろうけど、いまはいないのでセーフ。言いたい放題なのだ。


『ご主人様~地図みつけたなの~』


 俺が悪い顔をしていると、プニスケが気絶している魔族の懐から地図を探し出してきた。

 おお、さすがだな。

 俺はアイテムボックスから短槍をとりだして、お兄さんに切っ先を向ける。


「ってことでお兄さんはもう用済みみたい。ごめんね」

「なっ、まさか始末するつもりか……ひ、卑劣な種族め! 憶えていろ人族よ! 我らが魔族、貴様のような非道で冷酷な種族にいくら蹂躙されようが、魂に備わる誇りまで失うことはない! 正義たる我らが魔族の想いはいずれ貴様を苦しめ、貴様は死ぬ間際に我らに楯突いたことを後悔するであ――」

「えい」

「ぐっ……すぴー」


 アイテムボックスから取り出したのは、いつぞやの盗賊たちがもっていた催眠効果の短槍。

 俺、殺すだなんて一言も言ってないからね?


「あるじ……」

「さて! 地図も手に入れたし先を急ごう!」


 ジト目で見てくるセオリーはスルーしておいた。

 気絶している魔族たちと、ぐっすり夢の中に招待されたお兄さんを放置してふたたび部屋を出る。そのまま進もうとして、ふと足を止めた。


 このままじゃ身動き取れないし魔物に食べられても可哀想だから、一応対処しておこう。

 俺はアイテムボックスから大きめの岩を取り出して、入り口をドンと塞いだ。入り口というか通路ごと塞がったな。


 なんでこんな巨岩持ってるかって? メーヴのゴーレムと戦った時、切り取った岩をいくつか回収してたんだよ。ちょっとした実験のためにね。

 兎に角、岩で蓋をしておいたので部屋には魔物は入れないだろう。もし岩をすり抜けるような死霊系が来たら、その時は運が悪かったと思って欲しい。恨まないでおくれ。


『ご主人様~つぎはたたかいたいの~』

「おう。出てくる魔物、たくさん倒すんだぞ」

『わーいなの!』


 俺たちは地図の通りに進んでいく。

 このダンジョンはいままでのダンジョンと違い、進むごとに狭くなっていく構造だ。第1階層がもっとも広く、迷わず進んでも数時間かかった。

 もちろん道中、魔物がたくさん出たのでプニスケが張り切って倒していた。


 十数体ほど魔物を倒して、プニスケオンリーの鞭モードの戦闘にも、スライムアーマー時の戦闘にもそれなりに慣れてきた。

 スライムアーマーは問題点がないわけじゃないけど、おおむねメリットが多い所感だった。一番のデメリットは見た目がプニプニしてて可愛いってところだな。


 いや、この場合はメリットなのか? 俺が着ても需要はないだろうけど、美少女戦士なら似合うだろうからな……うん、どうでもいいか。


「じゃあ次はセオリーな。例の超強化セオリーみせて」

「わ、我の雄姿をみるがよい!」


 改めて頼んだら、少し緊張するセオリーだった。


 とはいえ、超強化セオリーは俺の予想を超えるくらいステータスが向上していた。

 Bランク魔物程度なら拳数発で仕留められるし、Aランク魔物にすら余裕で勝てるステータスになっている。セオリーの戦い方がまだ素人同然だから傷も負うけど、これで経験を積めばSランク魔物すら一対一(タイマン)で勝てるかもしれない。


 しかも消耗もさほど激しくなさそうで、奥の手って感じでもないから連続使用も可能。

 ステータスの高い俺やサーヤと比べても、シンプルに速くて強かった。


「……エルニに見せたら絶対戦いたがるよなあ」

「ひいっ」


 いくら強くなっても、相変わらずビビりのセオリーだった。

 これならエルニといい勝負できそうなんだけどな。


「でもま、頼りにしてるぞ」

「わ、我に任せよ」


 こうして実験をしつつ魔物を屠りながら、ダンジョン攻略を進めていく。

 もちろん俺も神秘術なしの戦闘を練習するために、何度か戦っておいた。実家でヴェルガナにしごかれていたときは神秘術に頼らない訓練だったので、懐かしい気分になりながら勘を取り戻していくのだった。






 ソレを見つけたのは、13階層だった。


 ダンジョンを進んで3日目に突入していた。

 最短で進んできたので、後ろからの追手はまだ大丈夫だろう。ただし前から刺客がくれば、そろそろぶつかるかもしれないと警戒していたときだった。

 13階の地図の中央に大きな空白があって、そこを迂回するように道順が記されていた。

 

 メインルートのすぐ隣――というか正面にその空白があったため何かと思っていたら、そこにあったのは巨大な部屋だった。

 なぜ地図がそこを避けていたかというと、部屋を覗いたら一目でわかった。


 中にSランク魔物がいたのだ。


 おそらく本来はダンジョンボスなんだろう。30階にいるべきこのダンジョンの主。

 〝毒蛇王〟ヨルムンガンドだった。


 砂の中のダンジョンだからか蛇の魔物が多いなぁと思っていたら、ボスも蛇だったようだ。ブラッディサーペントが可愛く見えてくるサイズと威圧感。触れただけで溶ける猛毒も厄介って、たしか図鑑に書いてあったっけな。


「ひえぇ」


 入り口からこっそり覗いていると、セオリーが腰を抜かしていた。

 いやいや、何ビビってるんですか。


「セオリーが先陣切るんだぞ?」

「ふえ! たたかうの!?」

「そりゃ戦うだろ。地図見ろよ、ここ進めばだいぶショートカットだぞ」


 魔族たちは避けて通る前提の地図だ。ここを通ればかなり短縮できる。


「で、でもあるじ……あの魔物強そうだもん」

「まあめっちゃ強いだろうけど、ブレス使えばいけるいける」


 さすがにボス部屋仕様の天井の高い大部屋だ。ここなら竜化もできるし少し手加減すればブレスも撃てるから、使わない手はない。

 腰が引けているセオリー。ついでに竜の姿が見てみたいってのも本音だったので、軽く戦って無理そうならすぐに逃げてもいいと思っていた。


「とりあえずブレス一発撃って、あまりダメージ入らないようなら逃げようか。俺とプニスケもフォローするから。な?」

「……が、がんばる」


 セオリーは震えながら、見つからないようにゆっくりと部屋に入る。

 俺はプニスケを纏い、いつでも援護できるように銃モードですぐ後ろに待機。

 ヨルムンガンドは部屋の中央で寝ているのか、まだ俺たちには気づいていなかった。


 セオリーは大きく息を吸って、呟いた。


「『変化』」


 黒い狩衣が外れて落ちた。

 眩い光とともに姿を現したのは、純白の鱗にピンクのメッシュが入った美しい竜だった。微塵も闇の眷属っぽくはないけど、つい見惚れてしまうほど綺麗な姿だった。


 神々しい姿になったセオリーは、間髪入れずにブレスを発動した。

 光がセオリーの口元に収束していく。


 そこでようやくヨルムンガンドが飛び起きた。唐突に現れた竜種という脅威を認識し、即座に毒の霧を周囲に吐き始めて――


 ピュン!

 ブレス(レーザービーム)が直撃した。

 

 相変わらずのその凄まじさ、離れているはずなのに飛ばされそうになるくらい衝撃と爆風がここまで届く。部屋もグラグラ揺れる。


 当然、いくらSランク魔物とはいえヨルムンガンドも無事ではなかった。上半身が焼け爛れ、至るところから血を流している。

 それでもこっちを睨みつけているところは、さすがというべきか。


『あるじ、どうしよう!』

「慌てるな。次は俺とプニスケの番だな」


 俺は銃を構えて引鉄(トリガー)を引いた。

 ブラッディサーペントを貫いた弾丸も、さすがにヨルムンガンドの体を貫くまではいかなかった。とはいえ傷を刻み、痛みを与えることはできている。身をよじらせる程度だけどな。 


『むぅ。もっと強くなりたいの~』

「まあまあ。相手はSランク魔物だからな」


 ホタルに負けてからのプニスケは、見るからに強さに貪欲になっている。悪いことではないと思うけど、強さってのは単純なものじゃないからな。


「大事なのは力の使い方だ。ホタルもそうだっただろ?」

『わかったなの。どうすればいいの?』

「そうだな……例えば弾丸の威力が足りないならどうすればいい? スキルをもっと上手に使えばできるかもしれないぞ」

『むむむ……あっ、わかったなの!』


 プニスケはスキルを操作して、短銃程度だった形を変化させる。

 銃身は太く武骨になり、大型の軍用銃のような形態になった。もちろんそれだけじゃなく、


『ご主人様、いまなの! 〝灼弾(ヒート)〟なの!』

「はいよ」


 ドパン!

 撃った瞬間、空気が膨張し本物の銃声のような音が響き、反動で銃身が上に弾かれた。


 鞭モードの応用で高熱を帯びた銃弾は、まるでレールガンのように黄色い軌跡を残しながらヨルムンガンドの分厚い皮膚をぶち抜いた。


『ギャォオオオオ!』


 叫び、痛みにのたうち回るヨルムンガンド。


『やったなの! せいこうなの~!』

「想像以上にすげえな……ってか肘痛ぇ」


 反動が強くて、片手撃ちじゃ肘が壊れそうだった。

 というかプニスケが強くなりすぎて、もはやスライムって呼んでもいいのか些か疑問だよ。使ってるのただのスライムの初期スキルだぜ? 普通のスライムすら持ってるスキルを組み合わせただけだ。

 さすがプニスケ、ポテンシャルが高すぎる。


「現代兵器スライムか……戦争に革命が起こりそうだ」


 冗談はともかく、ヨルムンガンドは遠距離からの高威力攻撃に苦しみながらも、黒々とした毒霧をまき散らしてその中に姿を消してしまった。かなりダメージを与えたとはいえ討伐にはまだほど遠い。

 さすがに猛毒があるから、俺たちも接近する気はないしなあ。


「セオリー、ブレス以外に攻撃手段は増えた?」

『ふっ、我が極致は一にして全、全にして一なり』

「……よしわかったブレス撃って。天井ちょっとヒビ入ってるから、さっきの半分くらいの力で」

『喰らえ! 滅びのバーストス〇リーム!』


 その口上はあかん!


 たしかにホワイトなドラゴンだから間違ってはないけどな?

 教えたであろうサーヤには説教が必要だな。


 とはいえ、ふざけて撃ってもブレスはブレスだ。

 大爆発を巻き起こして毒霧は霧散する。


「ダメージは……まあ、そう上手くはいかないか」


 ヨルムンガンドもただやられてばかりの魔物ではなかった。

 とぐろを巻き、毒液を鎧のように纏わせることでダメージを抑えたらしい。今度は苦しむ様子もなく、そのまますぐにこっちへ突っ込んできた。


『ひいっ』

「セオリー、人化しておけ。的になっちまう」

『『変化』!』


 人に戻って、慌てて狩衣を着たセオリーだった。

 竜並みに大きな毒蛇だ。さすがにそのまま突っ込まれたらタダじゃ済まない。毒液に触れるのも危ないしな。

 しゃーない。


「プニスケ、アレやるぞ」

『わかったなの!』


 セオリーを部屋の外まで退避させた俺は、プニスケを小さなボールのように変化させる。

 鎧も、銃も、鞭もない。ただの野球ボールみたいなサイズのスライムだ。

 それを片手に持ち、牙を剥いて突撃してくるヨルムンガンドと目を合わせて挑発した。


「さあ来いマムシ野郎。その毒で腐った脳みそでも理解できるように、誰が強者か教えてやるよ」

『ギャオオオオ!』


 人語が理解できるのか、怒り狂うように吠えたヨルムンガンド。

 

「ピッチャー、大きく振りかぶって――投げた!」


 俺はプニスケを全力投球した。

 筋力値が4000近い俺がボールを本気で投げたら、プロ野球選手なんて目じゃない速度で飛んでいく。当然、相手は巨大な蛇だし狙いを外すことはない。

 プニスケはあっというまにヨルムンガンドの口の中(・・・)へ飛び込んでいった。


「ぷ、ぷにすけっ!」


 セオリーが悲鳴を上げる。

 ……食べられた?

 いいや、違うな。




「必殺、プニスケ爆弾(・・・・・・)




 次の瞬間、ヨルムンガンドの体が破裂した。

『巨大化』『変形』『弾力操作』『体温操作』を同時に瞬発的に使用することで、小さなボールから超巨大なトゲ付き熱球に膨張したプニスケ。

 その勢いは軽々とヨルムンガンドを内側から破壊していた。


『大成功なの~!』


 最大サイズのトゲボールになったプニスケは、嬉しそうにポンポン跳ねていた。ヨルムンガンドの姿は一瞬で消えており、その足元には宝箱が出現していた。


 高ランクの魔物は確かに外皮が硬かったり分厚かったりで強いけど、生物である以上たいてい体の内側は弱いんだよ。プニスケ爆弾はその弱点を突いた最強の技だ。

 魔物がプニスケを食う。破裂する。死ぬ。以上。

 エグすぎる技だ。


「あるじ……我はこの技、やめた方がいいと思う」

「俺もそう思う」


 ダンジョンだからすぐに素材に変わるけど、外ならヤバい絵面になるからな。

 ただ巨大な相手ほど有効的な手段なのだ。


「まあ最終手段だから多用はしないようにする……それより報酬だ報酬。久々にSランク魔物倒したぞ~」

「ふっ、また伝説を残してしまった……」


 通常サイズに戻ったプニスケを頭に乗せて、出てきた素材と報酬を回収する。

 素材は皮と牙、それと毒袋だな。蛇系魔物の基本セットでレアドロップはなし。アイテムボックスに収納っと。


 他にあったのは黒い髪留めみたいな紐と、小瓶に入った紫色のポーション。毒みたいな色だけど……なんだこれ。鑑定できないから謎アイテムにしか見えないな。

 紫ポーションを眺めていると、プニスケが嫌そうな声を出した。


『あるじ~ボク、その薬キライなの~』

「プニスケはこれ、なんだかわかるのか?」

『うーんとね……たぶんボクが飲んだら、ご主人様といっしょじゃなくなるかもなの』

「……うん? どういうことだ」

『えっと~たぶん~その薬飲んだら、ボク、ご主人様の眷属じゃなくなっちゃうの~』


 プニスケが俺から離れていく。

 え?

 つまりこの薬って……。


「例の解呪効果のアイテムか!?」


 ポーションタイプだから解呪薬。

 ケムナから聞いた説話では『解呪』は魔族が使ってくるスキルだった。ただ魔族の種族スキルは属性付与のはずだから、もしかしたらスキルではない可能性も考えてたんだけど……。

 そうか。魔族領のダンジョンで手に入るアイテムだからか。


 俺は解呪薬を握りしめて、セオリーに振り返った。


「セオリー! これ使えば眷属化解除できるぞ! 最強のテイムスキルが戻るぞ! そして俺は竜王に殺されなくて済むぞ~やったー!」


 万歳三唱する俺。

 俺は解呪薬をセオリーの手に握らせて小躍りする。ルンタッタ~♪ ルンタッタ~♪

 ヨルムンガンドありがとう。ちょっとグロいトドメの刺し方してゴメンね。次からはちゃんと倒すから許して。


「……あるじ……」


 セオリーは複雑そうな表情で、解呪薬を握りしめていた。

 言いたいことはわかる。


「さすがにこの状況で眷属化を解除するメリットは少ないか。無理やりサトゥルヌを眷属にしてもいいかもしれないけど……それは最終手段にしておいた方がいいかもな」

「……。」

「まあサトゥルヌを倒したら使えばいいよ。もちろんテイムスキル使いたかったらいつでも飲んでくれていいからさ、タイミングは任せるぞ。だからセオリーが持っててくれ。いやあ棚から牡丹餅な気分だぜ。前も思ったけどSランク魔物は報酬が別格だなあ」

「…………。」


 上機嫌な俺。

 セオリーに解呪薬を預けたことで、プニスケも俺の頭の上に戻って来た。


 セオリーはしばらく解呪薬をじっと見つめていたが、俺が歩き出すと慌ててアイテムボックスに仕舞っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ