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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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激突編・15『ライドオン』

 

「あつい……あついよあるじぃ……」

「暑いって言うから暑くなるんだ。こういう時は全力で寒いと言っとけば、寒く感じてくるもんだ」

「さむい、さむい、さむい、さむい、さむ――」

「うるさい」

「ふえぇ」


 砂漠を歩いて4日目。

 無駄口を叩いて余計な体力を消費しつつ、気楽に歩いている俺たち。


 そろそろサトゥルヌの居城が見えてもいい頃だろう。進むにつれ、目に見えて魔物の生息数も減っていた。魔物も上位魔族には近寄りたくないのかもしれない。


「歩くのは楽になったけど、魔物がいないぶん暑さを意識しちゃうよな」

「魔物がいないとルルクもうるさいです」

「いてもうるさいぞ?」

「……そうだったです」


 今日もナギの毒舌が鋭いけど、今回は俺の勝ち……え、勝ちかコレ?


「それでどう? ナギの記憶ではそろそろ着きそう?」

「景色が変わらないのでハッキリとは言えないですが……そろそろ〝死砂域〟に差し掛かってもおかしくないです」

「え、なにその不吉な単語は」

「サトゥルヌの力が及ぶ範囲です。警備も巡回してるです」


 仲間もいるのか。

 冷静に考えたら、そりゃあいるよな。人間領にすら部下が大勢いるくらいなんだもん。そりゃあ魔族領の覇権を争ってる上位魔族なんだから、ひとりで住んでるわけもないか。


「ちなみにサトゥルヌの城に何人くらいいると思う?」

「100はくだらないかと」

「多いな~」


 そんなところに1人で乗り込んでいくつもりだったなんて、ナギってばおバカさん?

 俺たちも馬鹿正直に正面から殴り込みする必要はない。人族だから警戒はされるだろうけど、話し合いに来たから面会を頼んでみるつもりだ。

 ナギも真正面からの戦いを挑む気はないみたいだし。


「ナギはサトゥルヌの顔を見るまではガマンするです。ルルクもお願いするです」

「任せろ」

「少し……わりと……かなり不安だけど頼むです」

「なんで2回も言い直した?」

「……今日もいい天気です」


 目を逸らされた。

 

「なあナギ、俺がそんなに堪え性ない男に見える? これでも5日も一緒に旅してきただろ?」

「むしろ一緒に旅したからこそです」

「おいおい魔物相手の時と一緒にしないでくれよ。……あ、アレだろ巡回の警備って。見てろよナギ、俺がいかに信用に足る男か見せてやる。おーい! そこのお兄さんたち~」


 俺は自信満々に胸を張って、こっちに近づいてくる影に手を振った。


 魔族が3組、乗り物のようなものを運転しながら近づいてきていた。

 なんだアレは……電動キックボードみたいな乗り物だな?

 後ろについた2つの外輪(パドル)が砂を巻き上げて推進力を生み出している。ハンドルを握っている魔族の後ろに、もうひとり搭乗している2人1組だ。


 警備兵は俺たちに気づいて真っすぐ向かってきた。

 俺たちを囲むようにボードを停止させると、その中で一番偉そうな男がボードに乗ったまま口を開いた。

 

「人族がこんなところまで何用だ? 殺されに来たのか?」

「サトゥルヌに会いに来ました。面会希望の迷える子羊です!」

「サトゥルヌ様に? 冗談にしてはくだらない」


 その魔族は鼻で笑うと、俺たちを観察して言った。


「人族のガキふたりに、下位魔族の……くくく、貴様欠陥品だな。それに人族のオスも欠陥品だな? 滅多に見かけぬ生まれながらの落第者が、魔族と人族で連れ立ってやってくるとは珍しい。今日は仮装パーティにでもきたのか? 笑わせてくれるじゃないか。どうやってここまでたどり着けたかは知らんが、世間知らずの無能者が来るところではないぞ。しかもサトゥルヌ様に面会だと? 運はいいかもしれんが知性は足らんようだな。もっとも欠陥品に何かを望むような期待はするべきじゃないが……それにしてもなんだその服は、みすぼらしいにも程があるだろう。下位魔族は服も調達できないとは知らんかったわ。それに人族のオス、貴様は自分が強いと勘違いしていないか? ただ繁殖するだけしか能のない下等生物のくせに、その生意気そうな目はなんだ。くり抜いて魔獣のエサにしてやろうか? ふん、後ろのメスも大したこともなさそうだな。貧相な体に弱々しい気配、所詮はハンパな種族らしい子を産むことしかできんような売女――」

「おらあ!」

「ぶばっ!?」


 ついつい殴っちゃいました。

 気を失って倒れる魔族と、武器を取り出す仲間たち。ここの魔族たちは武装してるんだな、意外だ。

 ナギが頭を痛そうに押さえていた。


「ルルクに聞きたいです。信用って知ってるです?」

「反省はしてる。でも後悔はしてない」


 それに大人しくしてても、こいつらがサトゥルヌのところに案内してくれるとは思えなかったしな。

 残り5人の魔族たちは武器を構えつつ魔術を放ってきた。


「鬼想流――『蜻蜓切(やんまぎり)』」


 飛んできた魔術は、ナギが体をくるりと回しながらすべて斬る。どれだけ強力な魔術もナギの前では無力だ。

 まさか攻撃を太刀で防がれるとは思わなかったのか、彼らの動きに隙が生まれた。

 その隙を逃さず、後ろにいた魔族2人を同時に斬り捨てたナギ。


 ……手際の良さはさすがだけど、問答無用すぎない?


「連絡される前に倒せば、問題ないです」

「あーなるほど」


 ナギが別の2人組に飛びかかっていく。

 慌てて後退しながら魔術を放つ魔族たちだったが、そんなものでナギの前進は止められず、一人は抵抗する間もなく心臓を貫かれ、もう一人は抜いた剣ごと真っ二つにされていた。


「あとひとり――ルルク、頼むです」


 若そうな兵士が、いつの間にかパドルボードに乗って逃げていた。

 俺なら走っても追いつけるだろうけど、そんな面倒なことはするつもりはない。


「『拳転』」


 遠距離から殴った。パドルボードごと転倒して砂にまみれた若い魔族は、白目を剥いて気絶していた。

 ひとまずこんなもんだな。

 相手も油断していたから、迅速に対応できた気はする。


 俺は近くに転がる死体を眺めた。


「容赦ないなぁ」

「サトゥルヌに与する者は全員復讐対象です」


 ナギは暗い表情でそう言いながら、最初に気絶させた魔族に近づいて、躊躇うことなく首を刎ねた。

 セオリーがギュッと目を閉じる。


「ひっ」

「目覚めてから連絡されたら困るです」

 

 そう言いながら最後に殴ったもうひとりの魔族へと歩いていき、同じように息の根を止めていた。

 やはり復讐に憑かれているんだと、改めて知らされた俺だった。


 とはいえナギを責める気はないし、そもそもコレも想定してついてきたから文句を言う理由もない。一応確認だけはしておく。


「ナギ、大丈夫か?」

「……問題ありません」


 太刀の血をぬぐいながら、淡々と答えたナギ。

 そういう様子が心配なんだけど、問答するような時間はなかったしする気もなかった。ただ確認したかっただけだ。

 巡回ってことは時間が決まっているだろうから、他の警備に異変に気付かれる前にここを離れないと。


 顔を青くしているセオリーの背中を撫でながら、彼らが来た方向を確認する。

 ここからだと見慣れた砂漠しか見えないけど、警備がいるってことはそろそろ城に着くだろう。砂丘がいくつかあるから、それを越えたら見えてくるかもな。

 ナギも頷いた。


「はい。かなり近いかと。サトゥルヌの城は遠目だと砂丘に見えるように造られてるです。あのあたりのどれかだと思うです」

「わかった。じゃあ移動しよう」


 とりあえず、前方の砂丘を目指して進む。

 もう見える距離なのでそれほど遠くはないし、歩いて数時間ってところだろう。

 つっても徒歩も飽きてきたな……そうだ!


「ナギ、これって俺たちにも乗れるかな」

「わからないですが……他に動力がなさそうなので、運転者の魔力で動くように見えるです」


 俺が拾い上げたのは兵士たちのボードだ。

 ハンドルがついていて、キックボードみたいになっている。軽さを重視してそうな無駄のない形状で、確かに他に動力源はなさそうだった。

 鑑定してみる。


【 『砂上艇』:魔力で動く。砂の上以外は走れない。魔力はハンドルから供給する。 】


 予想通りだな。

 俺は試しにハンドルを握ってみる。一瞬、1しかない俺の貴重な魔力が吸われた気がしたけど、うんともすんとも言わなかった。


「……ま、当然動かないよな」

「ナギたちが使えるようなものじゃないです」


 ナギは砂上艇に興味がないようで、先に歩き始めていた。

 魔力値が1しかないとスイッチで切り替えるタイプの魔術器は動かせるけど、継続的に魔力を与える必要があるものは動かせないんだよな。

 ってことは、これを動かせるのはひとりしかいないわけで。


「……わ、我には下賤な乗り物など不要!」

「おい目を逸らすな。せっかくだし、ちょっと試してみようぜ。もし転んでも砂だからちょっと痛いくらいで済むだろうし」

「ふえぇ」


 ビビるセオリーを、砂上艇のハンドルの前に立たせた。俺は後ろでセオリーの肩を掴んでおく。

 後ろの席は乗りながら戦えるようにそれなりに広いので、詰めれば全員乗れるな。俺も含めてそれなりに小柄だから、体重制限も大丈夫だろうし。


「あるじぃ……どうすればいいのぉ」

「そのハンドルを握ってみて。で、魔術器使うみたいに魔力を流す」

「こ、こう……? っふにゃあああ!」


 急加速しました。

 セオリーはハンドルを離してしまい、俺と一緒にゴロゴロ後ろに転がる。パドルボードはそのまましばらく進んで転倒。

 うぺぺ、砂が口に入ったぜ。


「まあでも砂だから痛くはないな。大丈夫かセオリー」

「び、びっくりしたもん……」

「もうちょっとしっかりハンドル握らないとな。それと魔力も強く流しすぎた感じだったな。よし、もう一度チャレンジだ」


 俺は砂上艇を拾って戻ってくる。

 セオリーは緊張した面持ちでもう一度ハンドルを握ると、今度はゆっくりと魔力を流し始めた。


「おっ、遅いけど進んでる。うまいじゃん」

「わ、我にかかればこれくらい――あわ、あわわわわ!」


 今度は砂の起伏でハンドルがブレるのか、左右に揺れ始めた。

 しばらく耐えていたセオリーだったが、バランスを崩して転倒した。

 また砂にまみれる。


「いまのは惜しかったな。ある程度スピードが出たら安定しそうだけど。セオリー、まだやれるか?」

「ふっ、愚問。この程度、我にかかれば造作もない!」


 転んでも痛くないことを学んだセオリーは、途端に余裕を見せ始めた。

 わかりやすいやつだ。


「じゃあもう一回」


 こうしてセオリーはチャレンジすること十数回。

 見事に乗りこなせ……なかった。


「ありゅじぃ、くひにしゅにゃが~」

「ほら、水でゆすいで」


 娘の自転車練習に付き合うパパになった気分だぜ。

 砂上艇の運転は意外に難しそうだった。土とは違って砂は安定しないし、そもそもハンドルを握って運転することに慣れていなければすぐに乗れないだろう。それこそ自転車に慣れていたら運転もできるだろうけど……。

 と、俺はそこで思いつく。


「もういいです? 遊んでないでそろそろ行くです」

「ちょっと待ってナギ。最後に試させて」


 いままで眺めていたナギが急かしてくる。

 俺はもう一度セオリーを運転席に乗せて、後ろからハンドルを握るセオリーの手に、俺の手を重ねる。

 セオリーが目を丸くする。


「あるじ……」

「ハンドルのバランスは俺が取るから、セオリーは魔力を流すことに集中して。減速してほしいときだけ言うから」

「ふっ、共同作業か。うけたまわった」


 セオリーは真剣な表情で、魔力を流すことに集中した。

 ゆっくりと走り出す砂上艇。独特な砂を走る感覚がハンドルに伝わってくるけど、後ろが二輪なので自転車と変わらないくらいの調整で大丈夫そうだ。

 すぐにスイスイと走り出した。


「おお! これは楽だな!」

「世界よ、我らの競演をしかとその記憶に刻むがよい!」


 しばらく試運転をして、問題がなさそうだったのでそのまま先を目指す。

 おっとその前に。

 冷ややかな目のナギの周りをぐるぐると回る。


「さっきから何か言いたそうだなナギ? 乗せて欲しい? 乗せて欲しいんだろ? 素直にそう言えば乗せてやらんことも――」

「ふんっ」


 ナギが飛び乗って来た。

 危うくバランスを崩しそうになったが、なんとか持ちこたえる。

 俺がセオリーにくっついているのでスペースは開いているとはいえ、走っている乗り物に飛び乗るとか危ないことするなよな。


「ひとりで置いていかれると思って寂しかったか?」

「むんっ!」


 ガキン!

 ナギは肘打ちを『領域調停(マルチレギオン)』の壁に阻まれて、また痛そうに肘を押さえていた。


「ルルクの体、意味不明です」

「俺の皮膚は鋼鉄だから」


 そんな軽口をたたきつつ、砂上艇を運転してまっすぐ進む。

 泳ぐように進んでいく快適さ、これは一度体験したらクセになりそうだな。もう歩きじゃ砂漠の旅はできないぞ。あとで一隻もらってもいいかな?


「確かにこれはいいですね。暑さも幾分マシです」

「だろ? 試してよかったぜ」


 セオリーの魔力を使う以外に、デメリットもない。

 しいていうなら俺の腰を掴んでいるナギはともかく、前にいるセオリーと体が密着していることくらいか。


 ……。

 ……柔らかいな、セオリー。


 俺は少し小柄なセオリーを抱きしめるようにして腕を伸ばして、重ねるように手を合わせている。当たっている尻が気持ちいいくらいに柔らかい。当たっているというか、もはや完全に密着している。


 魔力供給に集中して黙ってるから、セオリーもいまはただの美少女だ。美少女とこんなにくっついたことなんて今まであったっけ?


 ……やべ、意識したらムズムズしてきた。


 素数だ! 素数を数えて落ち着くんだ俺!

 確かにセオリーの成長期の体は魅力的だ。成人の概念がない竜種からすると、セオリーの年齢なら同意さえあれば手を出しても犯罪にはならないとはいうが……しかし落ち着け俺、相手はセオリーだぞ? 幼稚園児並みの性知識しか持たないであろう、そんな無垢なやつに興奮するなんて、心がロリコンじゃないか?普段からエルニにサーヤと幼女に挟まれてロリコン疑惑を向けられる危険が高いと言うのに、精神的ロリに手を出したら言い逃れが出来なくない? そうだ俺はノーマルだ。俺の好みは包容力のあるお姉さん。ノットロリ、イエスオネエサン!


「んっ……」


 セオリーが小さく声を漏らした。もぞり、と腰が動いて……なぜかさらに密着してくる。

 

 よく見たらセオリーの耳が真っ赤だな。暑いのかな。いやでも腰を押し付けるように動かしたってことは、恥ずかしながら元気になりつつある俺の俺に気づいてるってことだよな? なのに逃げることなくむしろ意識してる? あれ、セオリーってそんな知識あるの? 嘘、マジで? ただの偶然じゃないか?


「あるじ……」


 セオリーは、右手の指を動かした。

 ハンドルと俺の手に挟まれたまま、その小指だけを動かして俺の小指に絡めてくる。撫でるように、慈しむように優しく、それでいて情熱的に。


 俺がゴクリと息を呑むと、セオリーは首だけ振り返った。

 その目はトロンと蕩けていた。息は熱く、唇は湿っている。


 こ、これは据え膳……!

 据え膳食わぬは男の恥っていいますよね!?


「コホン。ナギもいることを忘れないでほしいです」


 はい、『冷静沈着』センパイが発動しました。スンッ。

 危ない危ない。こんな状況で危うく手を出すところだったぜ。


「助かったぜナギ」

「その割には残念そうですが」


 そんなことはない……そんなことはないぞ?

 俺たちはしばらく無言で砂上艇を進めるのだった。

 ちなみに茹でダコのように真っ赤になっているセオリーは、めちゃくちゃ甘くて良い匂いがしました。


 ふう。

 俺が理性の塊でよかったぜ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 普通に眷属と感情が共有されるの忘れてムラムラし下半身を押し付けていて、新手のセクハラですね……
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