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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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激突編・9『なんだかんだ卑劣な罠』

■ ■ ■ ■ ■



 エルフの子たちを人質にとったのは、中位魔族ゼンドゥ。

 

 エルフの子どもたちを攫い、セオリーを利用して竜種とエルフの対立を企てていた男だ。今回も卑劣な手段でサーヤたちに同士討ちを迫って来た。


「卑怯なことを……」

「ハッ、狡猾って言えよガキ」


 鼻で笑ったゼンドゥ。

 この人数に状態異常を付与できる罠なんて、ふつうの魔術士じゃ作ることはできない。罠や絡め手が得意な魔族なんだろう。

 本当なら多勢に無勢だったはずなのに、そのせいで戦える者はサーヤたちしか残っていない。

 

「さあ早く殺し合えガキども。無垢な子どもが死んでもいいのか?」

『むぅ。ボク、お姉ちゃんたちに攻撃したくないなの~』


 プニスケは正直だ。

 サーヤも同じセリフを吐きたかったが、ゼンドゥの指先ひとつでエルフたちが死ぬのだ。迂闊な行動はとれなかった。

 悔しがるサーヤとプニスケの表情を眺めるゼンドゥは肩を揺らして笑っていた。


「いい顔するじゃねぇか。でもよ、じっとしてて良いっていつオレが言った? ほらメスガキ、そこにいる従魔をさっさと殺して――」

「『フレアパージ』」

「どぅえええっ!?」


 問答無用で魔術が撃たれた。言うまでもなくエルニネールだ。

 とっさに体を投げ出して避けたゼンドゥ。顔面から地面に飛び込んだから、ゴロゴロ転がって起き上がる時には鼻血が出てた。


「おしい」

「ちょっとまてえぇぇぇ! てめぇ魔王の種! 人質がいるの見えてねえのか!?」

「ん? みえてる」


 それがどうした、と言わんばかりのエルニネール。

 ゼンドゥはちょっとでも反応が遅れていたら即死していたことに戦慄しながら、


「手ぇ出すんじゃねぇよ! てめぇらコイツらを助けに来たんだろうがよ! 我が身かわいさに犠牲にするつもりか頭オカシイんじゃねえのか!?」


 ごもっともな意見だった。

 当然、サーヤも唖然としていた。

 しかしエルニは首をかしげた。


「わたしがしんだら、ぜんめつ」

「い、いやまあそうするつもりだけどよ……ってそうじゃねぇよ! 人質はガキだぞ! 心が痛まねえのかよ!」

「ん? わるいのはそっち」

「そうだけど!」

「わるものはたおす」


 ダメだこりゃ。

 たしかにゼンドゥの手段は卑怯で、良心や常識のあるまともな相手には絶大な効果を発揮するだろう。


 でもちょっとネジの外れてる戦闘狂相手には、むしろ攻撃の口実を与えただけだった。


「サイコパスかよ……」


 頬がひきつっているゼンドゥ。

 とはいえ、エルニネールが人質の安全をちゃんと考えてることには気づいていた。フレアパージを撃った直後、ゼンドゥに気づかれないように『エアズロック』の高速詠唱を一瞬で終えていたからだ。

 ゼンドゥが人質へ指示をどう出すのかは不明だけど、エルニネールは子どもたちの動きを制限すれば問題ないと判断したんだろう。


 ただし次の魔術が『エアズロック』に限定されてしまっているので、直接的な攻撃はできないはずだけど……。

 サーヤがそう思っていると、エルニネールがサーヤをチラリと見た。


 なるほど。

 そういうことなら任せなさい!


「聖と成れ――『ホーリーエンチャント』」

「なっ!? てめえも見捨てるつもりかクソガキ!」


 サーヤが剣に魔術をかけ直したら声を裏返したゼンドゥ。

 見捨てる? そんなつもりは毛頭ない。


 エルニネールはいつも食い意地が張ってて、寝起きが悪くて、普段から喧嘩ばかりしているライバルみたいな存在だけど、戦闘においてはルルクと同じくらい信頼できる大事な仲間だ。

 そんな仲間から攻撃を任されたその意味を、その判断を、信じられないワケがない!


「こ、コケ脅しのつもりだろ! いいだろう見せしめに――」

「えいやあっ!」


 サーヤは全力でゼンドゥに突貫した。

 見た目からは想像できない身体能力に目を見開いたゼンドゥは、すぐにその場から飛びのいた。剣が腕をかすめ、小さな切傷から煙のようなものが立ち上っていく。

 聖魔術が弱点とみた! いける!


 サーヤはすかさず追撃をしようと地面を蹴った。

 が、今度はゼンドゥもサーヤに手を向けていた。


「『狂戦士化』!」

「ぐっ」


 ドクン、とサーヤの心臓が大きく脈打つ。たたらを踏んでよろめくサーヤ。

 ゼンドゥの持っている種族スキルは『狂乱付与』。精神系の異常付与スキルなのでエルニネールとは相性最悪だったが、無効スキルを持たないサーヤには効果的だ。


 サーヤにスキルが通ったことを確信したゼンドゥは笑みを浮かべた。

 しかし。


「甘いっ!」

「んだとっ!?」


 サーヤはさっき飲んだ時に同時に口の中に含んでいた二粒目(・・・)のスゴ玉を飲み込んでいた。

 相手が状態異常系の術を持っていることは初手でわかっていたから、対策はすでに済ませておいたのだ。そのまま剣を振り抜き、ゼンドゥの太ももを深く斬りつけた。


「ぐううっ!」

「まだまだ! 『ウィンドボム』!」

「ガハッ!」


 後ろに下がったゼンドゥの背後で、風を爆発させる。もちろんゼンドゥは気付いていたが、避ける余裕はなく直撃する。

 前につんのめったその胸めがけ、サーヤは剣を横に振り払った。


「とどめ!」

「せ、『セルフディストラクション』――ぐああああっ」


 剣は胸を切り裂き、聖属性の魔力がゼンドゥにかかっていた強化術式を崩壊させていく。

 あきらかな致命傷だった。膝をついたゼンドゥは白目を剥くと、その体をゆっくりと倒れかけて……ビクンと跳ねた。


 とめどなく血が流れ、全身から煙があがっていたゼンドゥは、ムクリと無理やり立ち上がった。

 もはや意識はないのは明白だったが、最後に発動したスキルの効果だろう。

 その体はどんどん肥大してゆき、ふたまわり程大きな体格へと変貌していく。狂戦士化の状態異常を自分にかけたのか。


「グ、グウぅァアアア」

 

 口の端から涎を垂らし、白目を剥いたままのその瞳がグルリを回ってサーヤを捉えた。

 さすがに理性を失って巨大化した相手だと、ちょっぴり恐怖が芽生えてしまう。

 無意識に後ずさったサーヤだったが、ゼンドゥが攻撃してくることはなかった。


「『エアズロック』」


 どんなに肉体を強化していようとも、こうなれば動きを止めるだけで勝つ。

 的確にそう判断したエルニネールがゼンドゥを拘束してしまうと、体力も魔力もただ垂れ流すだけの体を動かすことはできず、みるみる生命力を失っていく。


「グゥゥウ……」


 なす術もなかったゼンドゥは、最後にチラリと倒れたフラッツを見た。

 かすかな魔力がフラッツへと飛んだ気がした……が、特に何かが起こるわけでもなく、そのままゼンドゥは力尽きてしまった。


「……あれ、ここは?」

「ふあぁ。よく寝た……寝た?」

「あん? なにしてたんだ俺」

「主様、もっと……コホン」

「うん? 夢か?」


 ゼンドゥの魔術が切れて、暴走も麻痺も解けたみんなが起き上がってきた。記憶が混濁しているのか、何があったのか憶えていないようだ。

 サーヤはひと息ついてから剣を納めた。


「ふう。助かったわ」

「ん」


 今回の黒幕だった魔族を倒せたことは収穫だろう。

 それに、目的だったエルフの子たちも無事みたいだ。


「ポーション出せ!」

「了解です!」


 ディスターニアがエルフの子たちに駆け寄り、急いで治療を始めていた。


 ゼンドゥにはある程度相手を操れるスキルか術式があったんだろう。サーヤたちに直接使ってこなかったのは、たぶん抵抗力の高い相手には効果が無かったんだと思う。もともと衰弱しているみたいだったし、抵抗できなかったんだろう。

 まさかの黒幕登場だったけど、予定どおりエルフの子たちは救出できたからヨシとしよう。


「おいフラッツ、なんだこの重傷は! リーリン、ハイポーションだ」

「う、うん!」

「ふむ。きっとこの魔族が襲ったんだろう。ぼんやりとだがサーヤ嬢が倒したのを見た憶えがある。助かった。フラッツも起きたら感謝するに違いない」

「えっと……うん」

 

 まあ怪我させたのはうちの子なんですけど。

 もちろん真実は言わないでおく。必要なことだったし。


「ぐへへへ、ルルク様ぁそこはダメですってばぁ」


 そんな風にみんなが大慌てで対応するなか、カルマーリキはひとりだけ寝言を漏らしていた。ヨダレを垂らしてにやけながら、煩悩全開の夢を見ている。


 その場にいる全員がカルマーリキの醜態を目撃していたけど、誰もが見ないフリをしていた。みんな半笑いだったから、きっと飲み会とかでイジるつもりだな。

 サーヤは現在進行形で黒歴史をつくっているカルマーリキに憐みの目を向けながら、一言だけつぶやいておく。


「なんだかんだ卑劣な罠だったわね」


 こうして、ダンジョン攻略組の任務は完了したのだった。



□ □ □ □ □



「そっか。それでお兄さんの仇を討つために、サトゥルヌに復讐しに行くと」

「です」


 中位魔族の城。


 その宝物庫らしき部屋をゴソゴソと漁りながら、俺は小柄な魔族・ナギと会話していた。メレスーロスとラキララ、セオリーは空き部屋でエルフの子を介抱しているのでここにはいない。


 そもそも3人とも魔族と穏便に会話できることに驚いていたからな。魔族=敵って認識が常識だから、ナギみたいな存在は信じられないらしい。


 俺もそれゆえ、ナギを連れ出して話を聞いていたところだった。


「大変だな。辛かっただろうし」

「同情はいらないです。他人にナギの苦しみは理解できないです……」


 そりゃそうだろう。

 魔素欠乏症で生まれた魔族なんて、不憫すぎて目も当てられない。唯一無二の種族特性である魔術の才能がまったくない状態で生まれたんだからな。


 けど、同情もするだろうよ。そんな暗い目をしていたらな。


「それより貴方はどうしてナギと普通に話せているです? あちらの御三方は、ナギに対して敵意を持っていたようですが。ヒト種は魔族を憎むものだと聞いているです」

「まあ、魔族にも色々いるだろ? 少なくとも俺がナギさんを憎む理由はないからな」

「……そうですか。変なひとですね」

「俺にとっちゃそれは誉め言葉だよナギさん」

「……ナギでいいです。貴方の名前は?」

「ルルクだ。よろしく、ナギ」


 とくに握手を交わしたりはしなかったが、まともな関係が結べそうだった。

 良い魔族もいれば悪い魔族もいる。それは人間と同じだ。

 もとより敵対しない限り、ナギに何かするつもりもなかった。それはべつに魔族に限った話じゃないけどな。


「それで、さっきから何をしてるです?」

「そりゃせっかくナギが城主を倒してくれたんだし、戦利品でも漁っておこうかと」

「……火事場泥棒です」

「そうともいう。ナギは欲しいものとかないのか? 魔族社会って金とかあるの?」

「ないです。ヒト種でいう貨幣はもとより、商店や商人もいないです。宝石は綺麗だという価値以上にはならないですし、欲しい物は同族でも奪い取る……つまらない社会です」


 本当につまらなさそうに言うな。


 それから聞いた話、2日前に見つけた集落でナギは生まれ育ったそうだ。ちなみに切り刻まれた死体は、ナギを虐げていた村の者たちだったようだ。

 あんなふうに下位魔族を十数体まとめて斬り捨てられるんだから、ここの中位魔族にも勝ったのも実力なんだろうな。


 ま、個人の復讐にとやかく言うつもりはない。相当ヒドイ扱いを受けて育ったらしいからな。


 兎に角、ナギの故郷は魔族領でもかなりルネーラ大森林寄りにあった集落だ。人間社会の話もよく聞いていたのかもしれない。他種族との文化的なギャップを卑下することもあるだろう。

 賢そうなやつだしな。


「でさ、ここにある物で欲しいものがあったらもらってもいい?」

「構わないです……でも、なぜナギに聞くです? ナギのものではないです」

「だって魔族って弱肉強食なんだろ? なら城の主を倒したナギが、この城の新しい主ってことになるんじゃない?」

「……失念していたです。でもナギはサトゥルヌを殺すために世を捨てた身です。知らない場所やモノに興味も未練もないです」

「そっか。じゃあもらってくよ」

「はい」


 とはいっても、特に価値のありそうなものも珍しいものもなさそうだった。

 俺が探しているのはケムナから聞いた『解呪』に関する情報やアイテムだ。そういうスキルを持った相手でもいい。せっかく魔族領に来たんだし、噂程度でもいいから手がかりを得ておきたいところだった。

 じゃないといずれ竜王に殺される。それだけはゴメンだ。


「ナギは『解呪』ってスキルかアイテムに憶えはない?」

「ないです。どういう効果があるものです?」

「隷属紋を契約ごと消せるらしいんだけど」

「……そんなものがあったら、ナギが欲しいです」


 深く沈んだ声。

 手を止めて振り向いてしまうくらいには、覇気のない弱々しい声だった。


「……理由は聞いても?」

「コレです」


 ナギはいきなり上半身をはだけた。

 彼女が着ていたのはボロ布みたいなシャツと、ホットパンツみたいな短いズボンだけだ。かなりみすぼらしい恰好だったし、当然ブラジャーなんてものは付けていなかった。

 シャツをはだけたら、そこにあるのは剥き出しの素肌だ。


 小柄で起伏には乏しいが、とはいっても女性の裸。健康的な褐色の胸が丸見えだった。

 ナギはその微かなふくらみの下――へその上にある隷属紋を指さしていた。


「これがナギに刻まれているサトゥルヌの隷属紋で――」

「ちょ、ま、なにしてんのっ」

「……なぜ慌てているです? なぜ顔を隠すです」


 首をかしげるナギ。

 いやいや、おかしいだろ。


「オレ、オトコ、オマエ、オンナ」


 焦りすぎてカタコトになってしまった。

 ナギはしばらく怪訝な表情だったが、しばらくすると目を見開いて慌てて服を着直した。


「わ、忘れてたです。人族の特性は、他種族にも興奮できることです……」

「待て待て! そうじゃねえから! マナーの問題だから!」


 なんで俺のせいみたいになってんの?

 ナギはそれほど恥ずかしく思ってなかったのか、特に細かく言及してくることはなかった。魔族に警察がなくてよかったぜ。あやうく逮捕案件だった。


「それで見たです? ナギの隷属紋」

「見てない」

「見てたです」

「見てない!」

「見てたです。なぜ強情に否定するです?」

「見てない! だって見たって言ったら裸見ただろって言うつもりなんだ!」

「そんなことしないです。したところで何になるです」

「そりゃあ慰謝料とか請求されたら勝てないもん」


 異世界でも美人局(つつもたせ)はいる。むしろ多いと言ってもいいくらいだ。


 実際ストアニアで生活してるとき【発泡酒(エール)】の三人組が何度引っかかりかけたことか。そのたびに俺が何度助けてやったことか。あの苦労は忘れない。死ぬまでグチグチ言ってやるって決めてんだ。

 俺が本気で警戒していると、ナギはため息をついた。


「そんなことしないです。そもそもナギの体に魅力なんてこれっぽっちもないですから、その理論は成り立たないです」

「成り立つから言ってんの。それにナギ可愛いし、未発達ながらつつましい魅力も……待て、今のナシ!」


 いまのは誘い受けだろ。自虐してそれを俺に否定させて、やっぱり魅力感じて見てたんだ痴漢変態犯罪者! ってやつ! いまのはギリギリ認めなかったからセーフだよな。危ない危ない。

 俺が九死に一生を得ていると、ナギはそっちじゃなくて容姿への評価が気になったらしい。


「……ナギが可愛い、です?」

「まあな。魔族の中でどうかは知らないけど」

「そう、です……」


 顔を伏せるナギ。

 お、もしかして照れたのかな?

 そう冗談半分に思っていると、顔を上げたナギはどこか物悲しそうな表情だった。


「ルルクは兄様と同じことを言う、です……」


 ……あ、違ったわ。

 魔素欠乏症で虐げられてきたナギ。他人から異性としてどころか仲間として見られることもなかったナギが、可愛いなんて容姿を褒めてくれたのは、いまは亡き兄だけだった。


 その兄と同じ言葉を、初対面の他種族が吐いたのだから――そりゃあ泣きたくもなるか。


「……悪い。そんなつもりはなかった」

「気にしないで欲しいです。ナギも、少々大袈裟すぎたです」


 かすかに感情が見えたナギだったが、すぐにまた死んだ目に戻っていた。


「それでめぼしい物は見つかったです?」

「いや、正直欲しい物はなかったよ。ガラクタばっかりだ」

「ではルルクたちはもう人間領に戻るです? 目的のエルフの子を助けられたみたいです」

「……そうだなあ」


 いまごろ、サーヤたちもダンジョンでエルフの子を見つけてる頃だろう。そしたら魔族領に連れて来られたエルフの子はこれで全員救出したから、正直そのまま帰る予定だった。

 そう思っていたら、ナギから意外な提案があった。


「そろそろ外は夕暮れです。夜の森は危険なので、ここで一泊していったほうがよいのでは?」

「いや、その必要はないんだ。移動手段はあるから」

「……そうですか」


 なぜか、ほんのわずかにガッカリしたような反応だった。

 まるで散歩が雨で中止になった小型犬みたいな、そんな雰囲気がある。ちょっと寂しそうで、でも仕方なさそうな反応だ。


 もしかしたらナギは、本当は誰かの話すのが好きなのかもしれない。人族の俺に対しても最初から偏見も敵意もなく接してくるような珍しいタイプみたいだし、復讐に囚われているとはいえ、たった一人でいるのは純粋に寂しいのかもしれないな。自覚がなくても、まだ少女の年頃だろうからあり得るだろう。


 俺はポリポリと頭をかいてから、


「なあナギ、聞いても良いか?」

「なんです?」

「サトゥルヌの居場所って知ってる?」

「はい。ここより一ヶ月ほど歩いて先にある、砂漠地帯です。それがどうかしたです?」

「……そこまで一人で行くのか?」

「そのつもりです。それになにか?」


 うーん。

 俺は唸りながら悩んだ。

 即決するには気軽には決められない問題だし、やるとしたら時間もかかるだろう。


 でもこれは俺たち【王の未来(ロズウィル)】としても重要なことだった。

 そんなつもりで来た魔族領ではなかったけど、これも何かの縁だと思う。もちろんあとで仲間たちに相談するけど……たぶん、賛同してくれるだろう。


 何より、奇襲を恐れてコソコソ隠れるように薬花を服用させるのは、正直いえば腹が立ってたからな。こちとら悪いことは何もしてないのに。


 俺は少し言いづらいその言葉を、コミュ障なりに気を遣って言った。


「その復讐、俺が手伝ってもいい?」



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