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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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激突編・5『アンデッドの巣窟』


 魔族領を進んで五日目、ようやく最初の目的地のダンジョンについた。


 地図のとおりやってきた岩場には大穴が空いていて、地下に向かうゴツゴツとした天然の階段ができていた。

 まさに手つかずのダンジョンって雰囲気だ。


 ルニー商会によると、ここの最深部にエルフの子たちが3人閉じ込められているらしい。魔族がやったとして手段も目的も不明だけど、ここまで完璧な地図を作れるルニー商会だ。いまさらその情報を疑ったりはしない。


「さてさっそく入るんだけど……その前に隊列を変えないとね」


 メレスーロスはそう言って俺たちの顔を眺める。おとなしくリーダーの指示を待つ冒険者たち。

 さすがに10人規模でダンジョンに潜った経験は誰もなさそうだな。もちろん俺もない。気を付けないとフレンドリーファイアで火祭りだぜ。


「チームを分けよう。攻略情報はないダンジョンだし時間効率を優先にしたいよね。効率重視で分けるから元のパーティとは別メンバーにするけど、みんな構わないかな?」

「「「はい」」」


 まあ上階層ならさして問題ないだろう。ここから『虚構之瞳(みとおすもの)』で見た感じ、目が届く範囲には雑魚しかいない。


「じゃあルルクチームとフラッツチームに分けるよ。まずルルクチームには、斥候リーリンちゃん、前衛ルルクくん、中衛ケムナくん、後衛ラキララちゃん。それとセオリーちゃんはルルクくんとセットになっててね」

「ほっ」


 安堵の息をついたのはセオリー。

 さすがに昨日のポカのせいで俺と離す選択肢は取れないだろうな。というかこのポンコツ姫、攻撃手段があのブレススキルだけならダンジョンじゃまったく戦力にならないぞ。


「チームフラッツは残りの面子で、前衛があたしとベズモンドくん、中衛にサーヤちゃんとフラッツくん、後衛にエルニネールちゃんとプニスケくんね」

「ちょっといいかメレスーロス。パーティ混合で分けた理由はなんだ?」

「まず罠感知と解除ができるのは、斥候スキルがあるリーリンちゃんとあたしの二人だけ。不意打ちの魔術に対処するには、魔素感知ができるエルニネールちゃんとラキララちゃん、それとサーヤちゃんにホタルちゃん。それと万が一魔族が出てくることを想定して、経験があるルルクくんとエルニネールちゃんは分けておきたい。聖魔術が使えるエルニネールちゃんとラキララちゃんはもちろん別パーティにして、あと魔術以外の遠距離攻撃ができるのは、あたしとルルクくん。最後に、各リーダーのフラッツくんとルルクくんも含めて全員別々にするって考えたら、この組み合わせが一番バランスいいかなって」


 脳トレのパズルみたいなこと考えてるなぁ。

 複雑なので早々に考えることを放棄した俺とは違い、フラッツは真剣にその言葉を検討してから頷いていた。


「なるほど。納得だ」

「ってことでルルクくん、そっちはよろしくね」

「お任せを」


 すでに三階層までの正解ルートはここから視えてるんだけどね。

 小規模って言われてたとおり、浅い階層はそこまで広くなさそうだ。とはいえ下に進むごとに迷路も複雑になっていくから、油断は禁物。


「じゃあ最初の分岐点まで行って、そこで二手に別れよう。マッピングしながら進んで階段を見つけたら、最初の分岐点まで戻って待つように。それと5回行き止まりに行き当たったら、そのときも最初の分岐点まで戻るように決めておこう。ルルクくん、わかった?」

「はい」


 なんだろう、息子を遠足に送り出す母親のような視線を浴びている。

 俺、そんなに信用無いかな? 日頃の行いは別に悪くないと思うんだけど……一応、胸に手を当てて考えてみよう。

 

 2秒後、俺は考えるのをやめた。


「よしみなさん、行きましょう!」

「先頭はアタシ! ルルっちは危ないから後ろ!」

「はーい」


 リーリンが意気込んでいる。

 普段からダンジョンに籠っているSランク冒険者だし、力量の心配はしていない。ここまででも信頼できるのはわかっているしな。


 魔術器のライトを取り出し、掲げながら進んでいくリーリン。地面や壁は剥き出しの土や岩で、整地されていたストアニアやバルギアのダンジョンとは大違いだ。


 ちなみにダンジョンは大規模になるほどリソースをつぎこんで快適な環境になっていくらしい。特定の魔物に適合しているフィールド階層がその最たる例だな。

 ダンジョンに詳しい人なら、入り口の環境を見るだけでもダンジョンの規模を予想できるようになるんだとか。ベテランのダンジョン管理課のお姉さんが前に言ってた。


 兎に角、先に進んだ俺たちから少し開けて、フラッツチームもダンジョンに入ってくる。

 すぐに最初の分岐点があった。


「どっちにします?」

「ルルクくんチームが選んで」

「じゃあ俺たちは右で」


 迷ったら右ってクラピカも言ってたからな。そう言えば死ぬ前に連載終わらなかったな……心残りをひとつ思い出したぜ。

 ま、ぶっちゃけ言うとすでに右が正解なんだよ。さすがに答えがわかってて無駄に時間をかける必要はない。後で誤魔化せばいいだけだしな。


「じゃあ気を付けて。また後でね」

「はい、そっちも気を付けて」


 手を振って別れる。


「あ、あるじ……」

「大丈夫だって。危険はないから」


 セオリーはダンジョンがトラウマになってるので、不安になって俺にしがみついてくる。そのうち慣れるだろうから、歩きづらいのはしばらくガマンしておこう。

 第一階層なので罠はなく、リーリンはサクサク進んでいく。上階層は魔素が薄くてエサもないので魔物もいないようだ。安心安全のダンジョン旅だぜ。

 ヒマそうなリーリンが振り返りながら、


「あのぉ竜姫様、ずっと気になってたんですけど、どうしてルルっちのこと『あるじ』って呼んでるんですか? もしかしてそういう関係なんです?」

「え、あ、あぅ……」

「ほら焦るな。闇の眷属の威厳どこいった」

「わ、我と主は、いにしえの盟約により紡がれた縁を持つ者である! ……あるじ、そういう関係って?」


 こっそり耳打ちしてくるお子ちゃま竜姫。箱入り娘だからしゃーない。

 そういう方面の教育はサーヤに任せておこう(丸投げ)。


「パーティリーダーとそのメンバーってことだろ」

「わかったもん……ふっ、リーリンとやら、蒙昧な其方の疑念には我が直々に答えてやろう! 我らは世界が定めた永劫に解けぬ呪いの共有者なり。しかし無知を恥じずともよい、闇の呪印は光の者には観測できぬのだ……」

「えっと……ごめんルルっち、解説お願い」

「パーティ内での愛称だから気にしないで、だそうです」

「か、かしこまりました竜姫様」


 さすがにリーリンも中二病ワードは理解できないらしい。

 いいな正常な思考回路で。俺なんかもう染まっちまったよ。


 リーリンは物怖じしない性格だからか、その後も何度かセオリーに話しかけていた。人見知りで人間不信のセオリーはそのたびに泣きそうになっていたけど、中二病を発症させてなんとか乗り越えていたのだった。なお通訳は最後まで必要だった。


「また分かれ道だよ。ルルっち、どっち?」

「左で」

「さっきから迷わないね……あ、階段だ」


 歩くこと20分ほどで、もう第2階層の入り口についた。

 マッピング作業は真面目ヤンキーのケムナに任せてるから地図は見てないけど、間違いなくストレートでたどり着いたはずだ。まだ地図が地図になっていないだろうな。


「すごいねルルっち。もしかして神秘術?」

「運です」


 術式を使ってないことは神秘術士が見たら一目瞭然なので、ちゃんと誤魔化しておく。


「……さっさと戻るわよ」

「おいラキララ、帰りも先頭はリーリンだ。勝手に動くな」


 ラキララがすぐに踵を返して歩いていき、それをケムナが止める。

 来た道に罠がなかったので安全なんだけど、決めたことはきちっと従うケムナだった。ラキララもケムナに言われたから素直に「ごめんなさいお兄ちゃん」とうなずいていた。このブラコンめ。


 分岐点まで帰ってきても、当然フラッツチームはまだ戻っていなかった。

 本当ならダンジョンの攻略はかなり時間がかかるからな。エルニや俺みたいな索敵術がなければ、小規模ダンジョンでも順調にいって攻略に数か月後かかる。

 

 このダンジョンが30階層くらいだとしても、同じくらいはかかるだろう。


 でもまてよ。ならどうしてダンジョン内のエルフの救出をクエストにしたんだろう? 冷静に考えたらちょっと変だよな。数か月かかったら、エルフの子たちを助けられるとは思えないし。

 ルニー商会がそれを想定してないとは思えない。

 

 まあ、俺たちに可能と考えたからこそ、そのまま指名依頼として履行されたんだろう。ならきっと抜け道的な要素がどこかにあるはずだ。

 そもそも魔族たちもエルフの子たちを連れて、普通のルートで最下層まで行けるか? 行けたとしてもそんな面倒なことするだろうか。


「……ま、答え合わせは後だな」


 正直ここまで来たら、あとは夜になってラキララやホタルが寝るまで待つだけでいい。

 そしたらエルニの『全探査』で、このダンジョンの内部構造をすべて把握できるはずだ。小規模なんだからバルギアより広いってことはないだろう。それに『全探査』ならエルフの子たちの居場所もすぐにわかるしな。

 フラッツチームをただ待っているのもヒマなので、アイテムボックスから木材を取り出して削って時間を潰す。


 何を作ってるかというと、新しい玩具だ。

 俺が作った〝従魔大戦〟が【白金虎(バイフー)】の面々にも人気だったので、せっかくなら他にも何か作って試してもらおうと思ってヒマなときに製作していたのだ。


「ルルっち何ソレ?」

「手作りの玩具です」

「へぇ。もう遊べるの?」

「もうすぐ完成するので、少々お待ちを……よし、『変色』」

「わ! 色が変わった! 神秘術ってスゴイね」


 俺が作ったのはルービックキューブだった。

 現代社会では世界的に有名な、6色の6面体をつくるスポーツ競技でもある。

 ちなみに界隈には謎の天才たちが魍魎跋扈していて、俺が見た中で一番驚いたのはジャグリングしながら3つのキューブを数分で完成させる超人だ。きっと彼もチート転生者だったんだろうなぁ。


「これどうするの?」

「回してみてください。列ごとに回転しますから」

「わっスゴイ! どうなってんのコレ!」


 驚く気持ちはわかる。

 かつて小学生だった俺も、構造が気になって自分で分解したことがあったんだよな。その記憶がうっすらと残ってたから作ろうと思ったんだ。

 ちなみにこの世界には軽量プラスチックなんかないので、素材をいくつか試してみたけどしっくり来たのは木材だった。

 くるくる回して遊んでいるリーリンに、正しい遊び方を教える。


「同じ色のパーツを9個、同じ面に揃えるんですよ。うまくいけば、6面それぞれが同時に綺麗に揃いますから」

「嘘だあ! 絶対ムリでしょ」

「まてリーリン、俺がやってみる」

「……興味あるわね」


 ケムナとラキララはむしろ挑戦したいみたいだった。

 それからフラッツチームが戻ってくるまで、夢中になって遊んでいたケムナとラキララだった。ああでもないこうでもないと言いながら、1面だけ揃えては崩してを繰り返していた。

 コツがいるからな。最初は相当難しいだろう。


 リーリンは性に合わないようで、奮闘するふたりを眺めながら俺に言った。


「ねえ、あの玩具売れるんじゃない? ふたりがあそこまで玩具に熱中するのなんて初めてみたんだケド」

「人気になる理由はわかりますけど、量産が面倒なので……」

「商会に持ち込んだら? それこそルニー商会とか」

「……うーん」


 確かに、さすがにルービックキューブはルニー商会でも売ってないと思う。

 俺も好きな玩具だったし、好きなものを流行らせたい気持ちはある……でも、いかんせん持ち込んだ時点で転生者だとバレるだろう。

 それが良いか悪いか判断がつくまでは、慎重になっておきたいところだ。


 そうこうしていると、フラッツチームが戻って来た。


「こっちはダメだったよ。そっちはどう?」

「階段を見つけましたよ。すぐに案内できます」

「さすがだね。じゃあ早速……ってケムナくんたち、何してるの?」


 メレスーロスが首をひねっていた。

 こっそりサーヤが服を引っ張ってくる。


「ルービックキューブじゃない。作ったの?」

「まあな。サーヤも遊ぶか?」

「……遠慮しとく」


 数学的なパズルだもんな。苦手なんだろう。

 でも神秘術は数学みたいなもんだし、練習にも脳トレにもちょうどいいと思うんだよな。ちらりと見てみると、脳筋幼女もポンコツ竜姫も興味はないようだ。

 俺の好きな玩具、身内には不評な件について。


『くるくる楽しそうなの~! ボクもやる~』

「おお、そうだろプニスケ。あとでプニスケ専用の作ってやるからな」

『わーいなの!』


 可愛い我が子を撫でて愛でる。

 ああ、癒されるぜ。

 メレスーロスが呆れていた。


「ほら出発するよ。いくら楽しくても切り替えはちゃんとして。遊びに来たんじゃないんだから」

「「すみません」」


 ケムナとラキララがバツが悪そうにしていた。

 こうして俺たちは、第2階層、第3階層と順調に進んでいった。ちなみに全部一発で正解ルートを当ててたら怪訝な顔で見られたけど、すべて「運です」の一言で済ませておいた。

 運のせいにするのって、結構使えるな。







 違和感を憶え始めたのは7階層目だった。


「邪を清めたまえ、『プリフィケーション』」


 ラキララの聖魔術が、立ちふさがっていた動く死体(リビングデッド)の群れを浄化していく。

 この階層についてから何度目だろう。両手じゃ数えきれないくらい、ラキララが聖魔術を連発していた。


 敵はまだDランク相当の魔物だけど、出てきた魔物はすべて死霊(アンデッド)系だ。

 低位のアンデッドは初級聖魔術でも一撃で葬れるのでラキララに任せていたけど、さすがに魔力が減ってきて、額に汗が滲み始めていた。


「大丈夫ですか? しばらく休んでてください」

「……気を遣わないで。これくらい平気。急いでるんでしょ」


 とはいっても回復魔術はいざってときに使えたほうがいい。離れてる相手はポーションじゃ回復できないんだし。

 仕方ない。


「ケムナさん、しばらくラキララさんを背負えますか? 休ませてあげたいんですけど、確かに急いでますし」

「ああ。それくらいなら」

「ラキララさんもそれならいいですか?」

「……し、仕方ないわね」


 視線を逸らしながら頷いたラキララだった。口元ニヤけてるから隠したほうがいいぞ?

 すぐにケムナが軽々とラキララを背負った。

 

「それにしても死霊(アンデッド)ばかりですね。ここまで偏るのって変じゃないですか?」

「確かにな。ここまで多いと聖魔術が使えなきゃ相当大変だぞ」

「ですね。ラキララさんが聖魔術士でよかったですよ」


 聖水ぶっかけても倒せるけど、コスパは悪い。聖水って高いんだよな。


「向こうもエルニネールの嬢ちゃんがいるから大丈夫なんだろ?」

「そうですね。まあ聖魔術士といっても、エルニはラキララさんみたいに状態異常を回復する魔術は憶えてませんけど」


 俺にもエルニにも必要ないからな。昔から無駄な努力はしなかったから、そのまま憶えずに来てしまったともいう。

 そもそも攻撃魔術を憶える方が大好きだったし、ロズも教えようとしなかった。


「それって大丈夫なのか? エルニネール嬢じゃなくて、他のメンツの話だけど」

「問題ないはずです。一応、ハイポーションとキュアポーションと聖水の効果がある丸薬を百個くらい持ってますから」

「なんだそれ。そんなアイテム聞いた事ねぇよ」

「俺の自作です」

「……そうだった。見かけは常識人だから、おまえがぶっ飛んでるってことときどき忘れそうになるぜ」

 

 人を常識知らずみたいに言わないで欲しい。

 話は逸れたけど、もしかしたらこのダンジョンは死霊系が巣くっているのかもしれない。ダンジョンごとにそういう特徴があるとは聞いたことはないけど、ここは魔族領のダンジョンだ。俺たちの知らない法則があるのかもしれなかった。


「罠もまだ平凡なものですけど、念のためみなさんにもコレ渡しときますね」

「なにコレ?」

「さっき言った丸薬です。異常を感じたら迷わず一粒飲んでください。とくにリーリンさんは危ないので」

「わかった……でもちょっと臭くない?」

「無臭で危険なのと、安全で臭いのなら、冒険者としてどっちを選ぶのが正解でしょうか」

「アタシ、これでもまだ乙女なんだケド……」


 理屈で押したけど納得はできなさそうだった。

 それでもリーリンは素直に受け取ってくれた。


「はい、ケムナさんとラキララさんもどうぞ」

「おう」

「……いらない」


 ラキララは顔をしかめた。

 ケムナが背中のラキララを諫める。


「おい、高性能な回復薬なんだろ? もらってて損はねぇだろ」

「……で、でもこんなの飲んだら……息が……」

「別にいいだろ、それくらい。デート前のガキじゃあるまいし」

「……バカ!」

「いでぇ!」


 ケムナの首に噛みついたラキララだった。

 いちゃつくのは後でしてくれ。


「リーリンさん、ラキララさんが回復するまでは魔物は俺が倒します。罠感知と解除にだけ専念してください」

「わかったわ。でもルルっち、索敵できるの?」

「スキルがなくても壁一枚程度ならわかりますよ。もちろんリーリンさんには劣りますけど」

「このあたりならそれで大丈夫ね。任せるわ」

「おいルルク、無理はしなくていいぞ。ホタルも索敵はそれなりに得意だしな。ホタル、ルルクにも協力してやってくれよ」

「主様が命じるのであれば」


 それまでケムナの傍に控えていたホタルも、俺の隣に来る。

 横に並んだら改めてわかるけど、狐のお姉さんの存在感がすごい。何の存在感かはご想像にお任せします。


 少し隊列を変えた俺たちは、アンデッドが湧いてくる7階層を進んだ。

 7階層自体はそれなりに広く、階段に辿り着くまで1時間ほどかかった。フラッツチームと合流して階段まで来た頃には、地上は夜になっている時間だったので、今日の探索はここまでにすることにしたのだった。


 魔物を掃討した部屋の入口と出口に、フタを開けた聖水を置いておく。こうすれば殆どの死霊系魔物は近寄ってこないからわりと安全圏になるのだ。もちろん見張りは必要だけどね。

 ちょうど夜番の前半はエルニとサーヤだったので、俺はみんなが寝静まるまで待ってからエルニに頼んだ。


「よし、ラキララさんもホタルさんも熟睡中だ。よろしくエルニ」

「ん。『全探査(フルサーチ)』」


 万能索敵が発動。

 さてさて、このダンジョンの構造はどうなっているのやら。


「ん……えるふ、いた」

「最下層か?」

「ん。ねてる」


 ひとまずルニー商会の情報は正しいことが証明されたな。

 あとはそこまでどうやって行くのか、だが。


「通常ルート以外に何かありそうか? この前の落とし穴みたいなのとか」

「ん……おとしあな、ない」

「ない? 魔族がエルフの子たちを連れて真面目に移動したのか?」

「もしかして転移罠じゃない?」


 サーヤが口を挟んだ。


「ほら、この前ルルクたちが飛ばされたやつみたいな。どこかで罠を踏んだら、最下層のボス部屋まで飛ばされて強制戦闘とか」

「なるほど、あり得そうだな」

「ん。もういっかい……『全探査(フルサーチ)』」


 今度は罠を調べてくれた。

 意識すれば罠まで感知できるのな。さすが万能索敵魔術。


「ん、あった。わなべや」

「ビンゴね」

「どこに繋がってるか、それもわかるか?」

「ん……たぶん、えるふのへやのとなり」


 ってことは、そこまで行けばエルフの子たちは確保できるんだな。

 最短で進んであと2日くらいだろう。索敵方法を隠せば3日って所か。たしかにそれを使える前提なら、このクエストも達成できるだろうけど。


 ルニー商会、転移罠のことまで知ってたんじゃないだろうな? 行ったことのないダンジョンの隠し罠すら知ってたら、もう驚きを通り越して呆れだけどな。

 最悪の場合、裏で魔族と繋がってる想定もしておかないとダメかもしれんぞ……。


「というか、このエルフの子たちを助けられるのは2、3日後で、それから中位魔族の城に向かって4日かけるとして……城にいるエルフの子は大丈夫なのか?」

「確かにそうね。ギルドマスターもチームを分けて動いてほしそうだったから、本当なら別行動で城まで向かった方がいいかもしれないわね」 


 だから俺とエルニには別行動を頼みたいってことだったのかな。

 どっちかは確実に魔族との戦闘が不可避なんだとしたら、確かにそう頼むだろうけどさ。


「どうする? メレスーロスさんに相談する?」

「そうだな……そろそろ索敵魔術のことも伝えるべきかなぁ」


 最初から教えてくれ、と怒られるかもしれないけど……いや、彼女の性格上それはないか。奥の手をひとつバラすことになるんだし。


「起きたら相談しよう。じゃあ俺は寝る」

「うん、おやすみルルク」

「ん、おやすみ」


 あとは見張り番のサーヤとエルニに任せて、俺も寝転がるのだった。

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