激突編・4『ふつうにテロ行為』
「右からブラックビードル! ルルっちやっちゃって!」
「はい!」
「それと前方からサーベルタイガー3匹! メレスーロスの姉御、お願い!」
「まかせて」
「上空からエッジファルコン! ケムナっち対処お願い!」
「おう、いくぜホタル」
「はい」
魔族領を進むにつれ、出会う魔物が多くなってきた。
いままでと見た目や特徴は変わらないけど、いかんせん密度と数が多い。それに心なしか魔物のレベルも高い気がする。生存競争が激しいのは魔素が多い影響なんだろうな。
とはいえリーリンの索敵能力が高いので、出会う前に指示が飛んでくるから余裕をもって迎撃できている。まだ慌てるような時間じゃないぜ。
「う、うそ……前にめちゃくちゃデカいのがいるんだケド! たぶんAランク魔物!」
そう言いながらベズモンドの後ろに隠れたリーリン。
木々をなぎ倒しながら現れたのは、氷の巨人ヨトゥン。触れたもの全てを凍らせるその圧倒的存在感には、まさにAランク魔物の威厳を感じる。
「みんな、一度距離を取って分散す――」
「『バスターストーム』」
Aランク魔物?
エルニからしたら良い経験値ですね。
凄まじい炎雷の竜巻に包み込まれ、絶叫する氷の巨人。出合い頭に上級魔術を撃ちこまれるなんて同情するけど、エルニの前に出てきたのが運の尽きだ。
あっという間に体力を削り取られて倒れたヨトゥン。南無。
ポカンとしている一同をよそに、エルニはふんすと満足げに言った。
「ん。すっきり」
10人規模のパーティだからいつもより出番は少ないもんな。戦闘大好き幼女にはストレスが溜まっていたんだろう。
「……そりゃ勝てるはずもなかったわね」
ラキララが色々と諦めた目でつぶやいていた。
いまのAランク魔物でひとまず潮目だったのか追加の魔物は来なかった。しばらくは安心していいだろう。
リーリンも息をついていた。
「ふぅ。みんなスゴイわね。アタシなんか魔物見つけるダケじゃない」
「それが一番重要ですよリーリンさん」
「そ、そう? でもルルっちもすごいワケよ。全部一撃でしょ?」
「武器性能がいいですから」
「ミスリルだもんね……ね、もっかい見せてよ」
近寄ってきて目を輝かせるリーリン。同じやりとりを何度したことか。
まあ減る物じゃないし、見せる度に仲良くなる気がするので悪い気分じゃない。いまや友達みたいな呼び方になってきたしな。
「相変わらずエルニネールちゃんは凄いね。伝説の魔王みたいだよ」
「……言えてる。魔王なら納得」
メレスーロスとラキララが、黒コゲになって倒れた巨人を眺めながら苦笑していた。
「おいおまえら、サボってないで回収しろよ」
「そうよ。ルルクもいつまでも武器見せびらかしてないの。次の魔物が来ちゃうわよ」
「「はーい」」
真面目枠のケムナとサーヤに諭されて、仕方なく回収作業にいそしむその他大勢だった。
倒した魔物の素材は倒した者に所有権があるから、それぞれ必要な部分だけ解体して回収していった。
俺たちは全員アイテムボックスがあるから全素材を回収できるけど、メレスーロスと【白金虎】のメンバーは鞄にも限りがあるのでその限りではない。しっかりと厳選して持ち帰り、残りは焼いておく。他の魔物に食べられないように後処理は必須だ。
「ねえ姉御。結構来たワケだけど、いまどのあたりかわかる?」
「だいたいこの辺りだね」
メレスーロスが地図を指さした。ダンジョンにかなり近づいている。
それもそのはず、魔族領を進んですでに4日目に突入していた。
ダンジョンまでは5日かかる計算だったので、いまのとこ予定通りの行軍だと言えるだろう。
野営にも慣れたし合同パーティとしての連携も取れてきた。良い感じだ。
メレスーロスはコンパスを手に地図とにらめっこしつつ、太陽の位置を確認していた。
「もうすぐ日暮れだけど……みんなもう少し進める? この先に良い感じの小山があるみたいなんだよね。見晴らしもよさそうだし、野営するにはうってつけだと思うんだ」
「それって夜番も減るワケ?」
「そうだね。岩棚なら後ろを気にする必要がないから、一人だけで良いかな」
「じゃあ賛成」
「私も賛成~」
「ん、さんせい」
「……賛成」
女性陣が全員賛成した。
夜更かしは美容の敵だからな。メレスーロスも苦笑している。
「じゃあそこまで行こうか」
そういうわけで歩みを再開する一行。
メレスーロスの読みは見事に当たっており、低い山の上部には広めの岩棚がせり出していた。野生のヤギが住み着いているみたいで、のんびり過ごしている姿がちらほらと見える。
「いいね。ヤギがいるってことは魔物も少ないエリアだよ。野営も水辺から遠いし植物が乏しくて木の実やキノコは生えてないだろうから食事には困るんだけど……普通ならね」
「俺たちの出番ですね」
「今夜の食事当番はルルクくんだよね。期待してるよ?」
「まっかせてください」
力こぶをつくってアピールしておく。
特に苦労することもなく山を登り、岩棚に到着。近くにいたヤギが遠巻きに見てくるが、手を出す気はない。魔物の肉はたくさん手に入れたし、それにヤギが警報装置代わりになるからな。
もちろん野営中は準精霊で警戒しているけど、念のため。
焚火を作って明かりと熱源を確保し、布と木枠で簡易的なテントを建てる。テントは女性陣のプライベート空間なので俺たちには関係ない。俺たち男どもは空の下で雑魚寝が基本。
焚火のそばで料理の下ごしらえをしていると、ケムナが近寄って来た。
「ルルクは料理得意なんだって?」
「味付けだけは。料理技術のほうは普通ですよ」
「ふうん。ま、俺たちよか出来るだろ」
「ケムナさんたちは料理しないんですか?」
「ダンジョンじゃ全部ラキララがやってるからな。あいつ、家事は得意なんだよ」
意外だな。
でもそういえば、初日の料理当番クジはラキララだったな。市場で買い込んだ材料出したら、当たり前にホワイトシチューを作ってたっけ。味も家庭的な味でウマかった気がする。
初日だったから他のことに気を取られ過ぎて、料理のことは気にしてなかったけど。
「家庭的な女性はいいですよね~」
「ラキララに手を出すつもりか? おまえなら構わねえが、ちょっと年上すぎるだろ。見た目は若いけどおまえの倍生きてるぞ?」
「俺は年齢気にしない派ですよ。まあでもラキララさんはちょっと好みから外れます」
「へえ。ルルクの好みはどの子だ? 竜姫様か? それともエルニネール嬢かサーヤ嬢か」
「メレスーロスさんですね」
「……悪いことは言わねぇ。エルフはやめとけ」
渋い顔で言われた。
「それまたどうして?」
「まず寿命が違いすぎる。俺たちが老衰してもエルフはまだ若い。これは俺たちのためっていうより、エルフのためだ。エルフの女性は貞節を重んじるからな。200歳そこらのエルフを、死んだ旦那のために縛るのは良くない」
なるほど、それは考えてなかった。
こう言ってはなんだけど、ケムナは見た目よりかなり大人だな。ただの金髪ヤンキーにしか見えないのに。
「それに価値観の違いだな。エルフにとって10年は一瞬だし、時間に対する捉え方が違いすぎる。軽い関係ならまだしも、一緒に暮らすとなるとそれが致命的なズレになっていくぞ。せめて半分の寿命……それこそ羊人族くらいでも感覚差がギリギリだと思うけどな」
「たしかにエルニも時間にルーズですね」
ただの寝坊助の可能性もあるけど。
「他には?」
「あとは、まだガキのおまえには早いかもしれないが体の相性だな。エルフは女も背が高いだろ? つまり長いのを好む。俺たち人族は背が低いしアレも短いからな」
「確かに俺も小柄ですからね」
ちょうど肉の腸詰を切っているタイミングだったので、下腹部がヒュンとなった。
「つっても情熱的な気持ちがあるなら、諦めるのはおススメはしねぇよ。なんだかんだ言っても過ごしたい相手と過ごすことが一番の幸せだからな」
「……ケムナさん、なんだか達観してませんか? 結婚してましたっけ?」
「言ってなかったか? 嫁は死んだが、子どもはいるぞ。実家に取られたけどな」
「そ、そうでしたか。お悔やみ申し上げます……」
「気にすんな。俺も貴族だから政略結婚で子どもは作らされたが、嫁は子ども産んだらすぐどこぞの平民と駆け落ちして、落ちぶれて盗賊行為したあげく返り討ちになって死んだ、ってだけのよくある話だ」
い、意外と壮絶な人生を送ってらっしゃる。
でも政略結婚か。ふつうの貴族ってそういうもんなんだな。俺やサーヤが特殊なだけで忘れがちになるけど。
「でも子どもはいるんですよね?」
「いるにはいるが、会ったこともねぇよ。兄貴の子どもとして育てられてるからな。一応、金だけは仕送りしてるけど」
「会いたいと思ったことは?」
「ハッ。もう10歳にもなるし、いまさらどんな顔して会えっつうんだよ。おまえみたいなガキはそんな心配しなくていいつぅの」
ぐりぐりと頭を押さえられる。
ケムナが父親だってことにも、その子どもが俺とさほど歳が離れてないってことも驚いた。
平気な顔をしてるけど、寂しくないんだろうか。
……よし、こういう時は優しくするといいってギャルゲで言ってたな。
「俺のことを息子と思ってもいいんですよ?」
「アホか。こんな生意気な息子はいらねぇ」
鼻で笑われてしまった。
そうこう話しているうちに下ごしらえも終わり、あとは焼いていくだけだ。
切った野菜とソーセージを味付けして焼いて、そこに茹でていたパスタモドキを投入。ペーストしたトマトとニンニク、塩と胡椒を加えて強火で炒め、マタイサ伝統ソースを少しだけ加える。最後に隠し味に乾燥させて粉末にしたオークの肝を加えて熱を通したら、あっというまに異世界風ナポリタンのできあがりだ。
「……なんだこれ? 辛くはなさそうだな」
「トマトベースですからね。みなさん、夕食ができましたよ!」
声をかけたら、ケムナ以外の面子も集まってきた。
パスタモドキはマタイサやストアニアでは主流だけど、バルギアではあまり見ない。バルギアは煮込み料理の文化なので、主食はパンがほとんどだ。当然ナポリタンも見たことがないだろう。
「わっ、ナポリタン! さすがルルクね!」
嬉しそうに声を弾ませたのはサーヤだけだった。
大人数の野営なので時短料理は基本だから、こういうササっと大量に作れる料理は重宝する。合同パーティじゃなけりゃ候補にあがらなかったからな、たまにはこういうのも良い。
「まろやかなトマト味だけどパンチも効いてるね。美味しいよ」
「ん、おいしい」
「我が主、天才」
『おいしいなの~!』
俺の料理になれたメンツには満足してもらえたようだ。
「……複雑な味ね。隠し味はなに?」
無言でガツガツ食べている【白金虎】の面々だったが、ラキララだけはレシピに興味があるようだった。
もちろん俺は料理人じゃないから、隠し味を隠す必要はない。
「オークの肝の粉末ですよ」
「……それって強壮剤じゃないの?」
「はい。でもマタイサ王国ではよく料理にも使われてますよ。基本は肉料理に合わせて食べるんです」
「貴重品じゃないの?」
「まあ多くは取れませんけどね。よろしければひと瓶いりますか?」
「……いいの?」
「この前100体ほどオークを討伐しまして、腐るほど持ってますから」
「ひゃ、ひゃく……」
オークの肝、乾燥させて粉末にする以外に使用法はないからね。
売ればそれなりに儲けられるけど、貴重な料理素材なので簡単に手放すつもりはない。今回みたいな機会なら別だけどね。
アイテムボックスから瓶を取り出してラキララに渡した。
「どうぞ」
「悪いわね。でもこれがあればお兄ちゃんも……」
不穏な言葉をつぶやいた気がしたけど、聞かなかったことにしよう。
「それよりラキララさん、この前のホワイトシチューは少しピリっとした気がするんですけど、何か入れてましたか? 見た目は普通のホワイトシチューだったのに」
「……ホワイトペッパーよ。気付いたのね」
「なるほど香辛料でしたか。どこで売ってますか?」
「ギルド近くならルニー商会よ。高いけどね」
なんでも売ってるルニー商会は伊達じゃないってことか。
でも香辛料は確かに高価だから、野営で使うにはもったいない気もする。オークの肝を使った俺が言うのもなんだけど。
「……魔族領に来て初日だったからね。ホワイトペッパーは免疫力を高める効果があるみたいだし、みんな疲れてたでしょうから使ったのよ」
「そうでしたか。お気遣いありがとうございます」
「……あんたのためじゃないわよ。みんなのためよ」
礼を言ったら不快そうな顔をされた。
かなり気を遣ってくれていたんだな。
そういう素振りを見せないから分かりづらいけど、ダンジョンでもずっと仲間を支えてきたってことは、身内にはかなり優しいひとなのかもしれない。
いつも悪態をついたり自嘲したりと、言動からはそうは見えないから少し勘違いしていた。
「ラキララさん」
「……なによ」
「お近づきの印に、これを」
俺はアイテムボックスから小瓶をもう一つ取り出して、こっそり渡しておく。
粘度の高い液体が入っている。
「……これなに?」
「アップルラウネの純蜜です……しかも未加熱」
「っ!?」
カッ! と目を見開いたラキララ。
そうとも! これぞ世に出回ることの少ない貴重なホニャララ! 悪用しちゃイケないよ!
「……ルルク」
「……ラキララさん」
俺たちはガッチリと握手を交わした。
後のこと? しーらないっ。
こうしてパーティ内の料理担当同士で親交を深めたのだった。
それから食事を終えて、岩棚から沈んでいく夕日を眺めて紅茶を飲むという優雅な時間を過ごしていた。
地平線に呑み込まれていく赤い太陽は、地球でも異世界でも変わらない。壮大な景色というものはどこでだって心を洗ってくれる。
そんな風にカッコつけて黄昏れていると、肩をちょんちょんとつつかれた。
セオリーか。
「我が主よ。時の狭間をたゆたう至福に踏み入る無礼を許したまえ」
「ヒマだからいいぞ。どうしたんだ?」
「我が力、この魔の地にていまだ封じられている。しかし我が邪神の封印がざわめく……くっ、鎮まれ右腕……!」
「もしかして戦いの出番がなくてちょっと疎外感なの?」
「……そ、そうともいう」
恥ずかしそうに目を逸らしたセオリーだった。
パーティでは中衛の真ん中にいるし、とくに【白金虎】のメンバーは竜姫を危険にさらす気がないようで、過保護なくらい守ろうとしていた。
もうクエストも4日目を終えたところなのに、いまだセオリーは攻撃も防御も何一つしていないのである。
俺もセオリーの戦い方はまだ知らなかった。サーヤと遊んでいたダンジョンで小さな魔物(Fランク)を蹴ったりしていたのは見たけど、あれはノーカンでいいだろう。
「うーん。そもそも人型のときの攻撃手段は何がある? 光魔術は使えるか?」
「ま、まじゅつは……ふっ、我は闇の眷属。光の力など必要ない!」
「使えないのな。じゃああとは……この『滅竜破弾』っていうスキルくらいか? これ、使えるのか?」
「我が主よ! これこそ我が膨大な力の奔流を解き放つ、至高にして超克せし蠢動なり!」
やけに自信満々に言い放ったセオリー。
まあ攻撃スキルがこれくらいなら、一度試してみてもいいかもしれない。
あんまり期待はしてないけどね。
「じゃ、あそこらへんに撃ってみて」
遠くの適当な場所を指示してみる。森が開けたところにちょうどいい感じの岩山が見えるからな。どれだけ壊せるか……いや、そもそも届くかどうかって距離だ。
するとセオリーは香ばしいポーズをとって、眼帯をズラした。
手を遠くの岩山に向けて叫びをあげる。
「ふっ……主よ我が力見るがよい。これぞ封印されし邪神の一端、あらゆる頂きに立つ竜をも破滅に導く邪法なり! くらえ、『滅竜破弾』っ!」
スキルだから口上はいらないよな?
というか竜なのに竜を殺すスキルってなんだよ――と、冗談交じりに注意してやろうと思った時だった。
俺は、セオリーの手に収束していく光の奔流を見た。
そう……まるで竜種が使うブレスの前兆である。
そういえば真祖竜の竜王は、ブレス一撃でゴーレム数万体を屠ったことがあるんだよな。
もしかして真祖のブレスって特別製なの?
いまさらそんな疑問を浮かべた俺だったが、すべては遅すぎた。
セオリーの手に圧縮された光は、まるでレーザー兵器のような速度で解き放たれた。
俺の動体視力や『虚構之瞳』をもってしても、その軌道を目で追うことはできず――
ちゅどおおおおん!
まるでアニメの一場面だった。
冗談みたいな速度で岩を貫いたレーザービームは、その後ろの森に突き刺さって大爆発を巻き起こした。
驚くべきはその威力と範囲。
……結論から言うと、森がひと区画消し飛びました。
砂塵が巻き起こり、ここまで爆風が戻ってくる。そこに住んでいた魔物も動物も一緒くたに巻き込んで吹き飛ばしたセオリーはもともと低レベルだったこともありレベルが2上がっており、ドヤ顔でキメポーズ。
「ふっ、我が力を止められる者などいない!」
「ふ・ざ・け・ん・な」
「ふにゃぁぁぁあ」
迷わずセオリーの顔をアイアンクロー。
俺はただスキルが使えるか確認したかっただけなんだよ。それがなんで森ひとつ吹き飛ばしてるんだよ。魔族領っていったって他人の領土だぞ? ふつうにテロ行為なんだけど?? 指名手配されても文句言えないぞコレ???
「い、痛いよあるじぃ」
「黙れ。おまえな、ここまで威力高いならさすがに手加減しろよ。俺たちを困らせたいの? そうなの?」
「ち、ちがうもん! 我もびっくりしたもん!」
本気で痛そうだったから手を離してやる。
セオリーは涙目で俺の腕にしがみついて、べそをかいた。
「前はここまで凄くなかったもん……せいぜいあの岩を壊すくらいだったもん」
「いやいや。でもそれどころじゃないくらい……あっ」
思い出した。
そうだ、セオリーの隷属化スキルにアレがあったな。主人の力によって眷属の能力を格上げする副作用が。
じゃあもしかして、あの威力って俺が主人なせい??
「あるじぃ、ゆるしてぇ」
「セオリー顔を上げろ。いいかよく聞け」
「……はい」
「あそこは元から荒野だった。いいな?」
必殺、何もなかった神拳!
見事に決まった!
よしこれで俺とセオリーの罪はなくなったぜ。
「めでたしめでた――あいだっ!?」
「何バカなことしてるのよ!」
サーヤに後頭部を叩かれた。
振り返ると、俺とセオリー以外の全員がもの凄い視線でこっちを見ていた。
おいおい、みんなセオリーを責めるんじゃないよ。やろうとしてやったことじゃないんだから大目に見てやって……あれ? ちがう。セオリーじゃなくて俺を見てる!?
違うんです!
やったのはセオリーなんです! 俺は無罪です!
「ルルクくん。ちょっと、いいかな?」
低い声でニッコリ笑ったメレスーロス。
俺の喉から出たのは、絞りだすような声だった。
「……はい」
自然と正座してしまいました。
このあと俺は、全員から厳しい説教を受けました。
足が痺れました。




