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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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竜姫編・32『杖持ち』

 

「いや~! 良い啖呵だったぜ姫さん!」


 上機嫌なアフロが腹を抱えて笑っていた。

 

 会合を終えて、冒険者ギルドに戻って来た俺たち。

 すでに夜も更けてきたが、用事があるからとギルドマスターであるカムロックに連れてこられていた。


「見たか? あんときの貴族共の顔。傑作だったよな!」

「あ~見逃しちゃいましたね。セオリーが立派だったので見惚れてました」

「ふえぇ」


 褒めたら照れて顔を隠したセオリーだった。

 さっきの勢いはとっくに消えている。むしろ勢いよく宣言したことが、中二病ムーブより黒歴史になってしまったようだ。


「本当にカッコよかったわよ? 私が男なら惚れてたかも」

「う、え、あ……あるじぃ」


 反応に困って助けを求めてきた。サーヤなりの冗談だよ。

 サーヤもさっきは仲間と呼んでくれて嬉しかったんだろうな。

 ただ、本当の意味でセオリーの心を溶かすのにはまだまだ時間がかかりそうだけど。


「それでカムロックさん、俺たちに用事って何ですか? プニスケがオネムの時間なので、あまり長居はできませんが」

「模擬戦の予定のすり合わせをしたいんだが、その前にちょっと腕試しさせてもらえねえか?」

「腕試し? 戦うんですか?」

「おう。おまえさんらの実力、この身で味わってみたいんだよ」


 目がギラギラしてる。戦闘狂なのかな?

 エルニがやる気満々で「ん。まかせて」と即答していたので、きっと同類なんだろう。


「まあ、それくらいならいいですよ。場所はどこで?」

「地下に訓練場があるから、そこで頼む」

「わかりました。では早速」


 急遽、カムロックの頼みで模擬戦をすることになった俺たち。

 地下の訓練場は思ったより広かった。円形の闘技場のようなところに直径20メートルほどの土の舞台が盛られていた。高さは1メートルほど。

 そしてなぜか闘技場の周囲に観客席みたいなものが設営されてあり、しかもかなり高い場所にある。もちろん天井も高い。


「ここは個人戦以外の修練でも使うからな。パーティ戦闘の見学だったら少しでも俯瞰したほうがわかりやすいだろ?」

「たしかにそうですね。すみません、違法賭博の会場みたいだなと思ってしまいました」

「ギクッ」


 目を逸らしたカムロックだった。

 ……知らんぷりしておこう。


「じゃあ、早速だが始めるぞ。とりあえずルルクよ、おまえさんと戦わせてくれ」

「わかりました」


 上着を脱ぎ捨て、その場で軽くステップを踏み出したカムロック。逆手に短剣を持って拳を構えた、拳士(ファイター)風の剣士(セイバー)だ。珍しい戦闘スタイルだな。

 俺とカムロックが距離を取って対峙すると、サーヤが手を挙げて振り下ろした。


「それでは、はじめ!」


 そうして始まった模擬戦のための模擬戦。


 俺、エルニ、サーヤ、セオリーの順にカムロックと個人戦を行った。セオリーはSランク冒険者と戦う予定はないけど、経験を積ませるためにもやってもらった。

 結果や過程は割愛するが、カムロックはかなり強かった。今まで戦った冒険者では一番強かっただろう。ストアニアにいたSランク冒険者たちよりも単純な戦闘能力が高かった。

 アフロ魂は……間違えた。ギルドマスターは伊達じゃなかったってことか。


「いや~うん、おまえさんら全員スゲェな!」


 4連戦してさすがにバテたカムロックは、寝っ転がったまま俺たちを褒めた。


「でもま、これならあいつらにもいい薬になるんじゃねえか。早速、明日にでも模擬戦してやってくれねぇか?」

「ええ、構いませんよ」

「頼むぜ。Sランクの鼻っぱしら、へし折ってやってくれ」






 

 というわけで翌日、午後一番にギルドの地下訓練場に呼び出された俺たち。


 地下に降りてきたときには、すでに観客席に大勢の冒険者たちが座っていた。一階の酒場がなぜか閉鎖されていておかしいと思ったら、店員たちが客席のあいだでエールやつまみを売り歩いてやがる。


 なんだこれ。

 ただの模擬戦なのに、まるでスポーツ観戦みたいになってる。


「エールにハチミツ酒、各種果実酒もあるよ!」

「パーティ戦の現在のオッズは8:2だぜ! 賭けるなら大穴の【王の未来(ロズウィル)】にどんとこいだ!」

「「フラッツ様~! こっち向いて~!」」

「「「ラキララちゃーん!」」」


「お、来たな。おまえさんらの待機席はこっちだ」


 俺たちを見つけたカムロックが手招きしていた。

 指示されるがまま待機席――舞台袖の椅子に腰かけたら、カムロックが顎で舞台の逆側を示した。


「あいつらが【白金虎(バイフー)】の面子だ。リーダーで剣士(セイバー)のフラッツ=ザンバルダール、盾職(タンク)のベスモンド、斥候(スカウト)のリーリン、従魔士(テイマー)のケムナ=ケモノスキ、純魔術士(マジシャン)のラキララ。見ての通り、ふんぞり返って偉そうだろ?」


 部隊の反対側には、客席に手を振る金髪のイケメン剣士、ハゲでマッチョな盾男、小柄で目つきの悪い三つ編み女、不快そうな顔でこっちを睨んでいる〝杖持ち〟の美少女がいた。


 その4人から少し離れたところで、ケムナが霊狐のホタルと話している。

 あれがSランク冒険者パーティか。


「いいんですか? 勝手に情報教えて」

「これくらいは誰でも知ってるからな。それよりおまえさんらも賭けたらどうだ? 対戦相手には賭けられねぇが、自分にならいくら賭けても構わないぞ」

「それって違法賭博の斡旋ですか?」

「バカ野郎。模擬戦の賭けはルール内だよ。ちなみに俺はおまえさんらに賭けたからな。間違っても勝てよ?」

「ギルドマスター、昨日俺たちと戦ったのって、もしやこのためですか? ズルくないですか?」

「か~、これだから素人は。ギャンブルってのは始める前から始まってんのよ」


 いや、むしろ主催側だろあんた。

 まあ俺がどうこう言える立場でもないし、ルール違反してるわけでもないなら放っておこう。

 

「それにしても、なんでこんなに観客がいるんですか」

「そりゃあバルギアの英雄たるSランクパーティと、話題の〝神秘の子〟率いるルーキーたちの模擬戦だからな。欲を言えば一か月前から告知して、観光客まで引き入れて大々的に催すべきなんだがなあ」

「俺たちは客寄せパンダか何かですか」

「パンダっつうのが何かは知らんが、冒険者ってのは似たようなもんだろ? バルギアじゃ定期的な模擬戦で客を集めるのも高ランク冒険者の仕事のうちだからな」

「なんですかソレ。他の国ではそんな催しありませんよ」

「ま、そうだろうな。バルギアは強い魔物が出ないし、こうでもしなけりゃ冒険者ギルドに人が集まらねえんだよ。そもそもうちはダンジョン管理しかすることないし、ダンジョン探索ばっかりだと若い冒険者に刺激がねえし……色々あんのよ、色々」

「はぁ。そうですか」


 ギルドの経営事情なんて興味はないし、別に怒ってるワケじゃないから軽く流しておく。

 それよりも、いまは対戦相手に意識を向けておこう。ギルドマスターは灸を据えろと言っているが、そもそも簡単に勝てる相手だとは考えていない。

 正真正銘のSランク冒険者たちだ。たとえステータスで勝っていたとしても油断は禁物だ。


「相手は経験を積んだ冒険者だ。気を緩めるなよ」

「わかったわ」

「ん」

『はいなのー!』


 仲間たちはやる気満々だ。

 ちなみに出番のないセオリーは椅子に座って大人しくしている。竜姫の顔を知っているやつもいるのか、客席からもチラチラ視線が飛んでくるからちょっと緊張気味だ。


 俺たちが意気込んでいると、【白金虎(バイフー)】の面々がこっちを向いて言った。


「おいルーキーども! 先輩に挨拶もないとは、世間知らずもいいとこだな!」

「まったくだ。里が知れるというもの」

「ほんとね! 小国で名が売れたからって調子に乗ってるワケ?」

「……〝杖持ち〟の価値が下がるわ」


 嘲るように見下している。

 わざわざ先輩に挨拶しなくていいって言ったの、そっちの従魔士(テイマー)なんだが?


 そう言い返してやろうかと思ったが、そのケムナだけ少し離れて4人に関わろうとはしていなかった。

 仲が悪いのかな?


「おいチビっ子ども! 言い返して来いよ! それともビビッてお漏らしでもしましたかー? ママを呼んでくればどうでちゅかー?」


 フラッツがそう挑発すると、品のない笑い声が客席からたくさん飛んだ。

 久々の粗野な冒険者の味だな。これこれ、ギルドならこれがないとね。


 まあ、俺たちがチビなのは百も承知だから挑発に乗ることはない。見た目は子どもだけど、中身は全員大人なのだ。大人なんだからエルニさんや、すぐに魔術を放とうとしないの。めっ!

 まったくまだまだ幼いなエルニは。俺なんか、模擬戦終わったらあいつら全員ひん剝いて大通りに吊るしてやろうかなと思ってるだけだから。ほんと大人だよな、俺。


「ねえルルク、相手のステータスは私たちに共有するの? しなくても戦術の相談はしたいんだけど」


 サーヤは挑発をまったく気にせず、すでに作戦会議を始めようとする。大人力(おとなちから)で天と地のさほどの差を見せつけられた俺とエルニだった。完敗。

 気を取り直して、俺はうなずいた。


「せっかくの訓練だしな。実戦想定で、情報共有は最小限でやるつもりだ」

「わかったわ。じゃあフォーメーションは? いつもの?」

「ああ。前衛が俺、中衛がサーヤ、後衛がエルニだ。プニスケはエルニの護衛とサーヤのフォローを頼む。魔物とは違って、相手には回復魔術もあるから長期戦になるかもしれん。最初から全力で魔力切れ、なんて展開にならないように注意すること。それとエルニは、絶対に殺さないこと」

「わかったわ」

『はいなの!』

「ん」

「よし、それじゃあ気合入れていくぞ!」

「「『おー(なの)』」」


 円陣を組んで一体感。

 セオリーが物欲しげに見つめていたけど、また今度な。


「なんだそれ。作戦会議に掛け声とかダサすぎるだろ」

「実力不足」

「恥ずかしくないワケ?」

「……〝杖持ち〟の威厳が下がるわ」


 そんな俺たちを見て鼻で笑った【白金虎(バイフー)】の面子は、すでに舞台に上がっていた。

 パーティ戦闘なのに事前共有のひとつなくて大丈夫なのか? 少々不安になるが、でも相手は同じメンバーで長年活動してきたから、そういう確認事項は不要なくらいの連携なのかもしれないな。

 仮にもSランク冒険者なんだし、あるいはこの態度も作戦のうちかもしれない。


 相手を舐めると痛い目に合う。特に、安心した直後は最も隙が生まれるのだ。

 俺たちはそれを身をもって実感したからな。

 

「ったく、ガキはどっちだっつうの……」


 カムロックが小声で唸っていた。


 俺たちも舞台に上がると、客席から大きな歓声が。大半はあっちへの声援で、俺たちへの声援わずかで搔き消えてしまっていた。そのまま賭けの倍率だと思うので、いかに俺たちより【白金虎(バイフー)】の面々が期待されているのかがわかる。まあ別に? 俺は大人だから? 不人気なことなんて気にしてないけど?

 するとサーヤが俺の袖を引っ張った。


「ルルク、拗ねてるでしょ」

「べつに拗ねてなんかないし」

「いいじゃない、言わせておけば。それに私たちが勝った時の驚くみんなの顔……見たくない?」


 にひひ、と笑ってツインテールを揺らしたサーヤだった。

 ……確かにそれもそうだ。

 サーヤ、おまえ天才か。


「絶対に負けられない戦いが、そこにはある……」

「ん。全力」

『ぜったいかつなの!』


 さっきより意気込んだ俺とエルニ、プニスケ。それを眺めて微笑むサーヤだった。

 そうこうしているうちにカムロックも舞台の中央まで歩いてきて、両手を広げて声を張った。


「では諸君! ギルドマスターの名に於いて、【白金虎(バイフー)】と【王の未来(ロズウィル)】の模擬戦の開催を宣言する!」

「「「「オオオオ!」」」」


 観客、大盛り上がりである。

 祭りみたいだな。


「形式はパーティ戦闘、個人戦の二種類を行う! まずはパーティ戦闘、つぎに個人戦だ! 賭けはそれぞれ別途開催するが、締め切りはパーティ戦開始までの残り数分だから、まだのやつは急いでやっとけよ!」

「「「「イエエエエイ!」」」」

「個人戦はリーダー対決、純魔術士対決、従魔対決の三試合を行う! 賭けも四試合あるから、じゃんじゃん賭けておけよ!」

「「「「フゥウウウウ!」」」」

「そんでルール確認だ! これは模擬戦である! どちらか全員の戦闘不能、行動不能、リタイア宣言を持って試合は終了とする! なお、即死に繋がる攻撃、過剰な急所への攻撃、リタイア後の攻撃は反則とみなして負けとする!」

「「「「ブゥゥウウウ!」」」」


 ギルドマスターと観客の一体感がハンパないんだが?

 これがバルギアの冒険者ギルドの実力なのか……はて、俺たちはいったい何を見せられているのだろう。


「第一試合は最初から大目玉! SランクVS大型ルーキーのパーティ戦だ! 野郎ども、投票は済んだか? 酒は持ったか? お気に入りの選手は見つけたか? さあ、運命の試合が始まるぜ!」


 カムロックが手馴れた風に言いながら、舞台の端へと寄っていく。さっきとは打って変わって、観客たちが静かになった。

白金虎(バイフー)】の面子も視線を鋭くして構えた。

 

「それでは――開始!」


「翼よ我が背に恩恵を、『ウィンドブース――

「大地の力よ我が盾に宿れ、『ロックガー――

「深淵の澱みよ礫となれ、『ポイズンバレ――

「怒りよ囁け、『ライトニングスト――


 ケムナ以外のメンバーたちが魔術を発動しようとした瞬間だった。

 俺の後ろから、強烈な魔力が迸った。




「『グラビディレイン』」




 魔術練度9000オーバーによる無詠唱の高速発動。

 膨大な魔力による圧倒的な魔術の威力と範囲。


 我らが羊人族の放った魔術は、無慈悲に相手を圧し潰した。


「ぐっ」

「なっ」

「いっ」

「きゃっ」


 以前は体重が倍になる効果を持っていた闇属性中級魔術だが、いまでは3倍近い威力になっている。

 当然、ふつうの人間が立てるような重力圏じゃない。それが不意打ちならなおさらだ。


 魔術を発動しようとしていた4人は、自らの体重に引っ張られるように地面に倒れる。

 そしてすでに、エルニは次の魔術を準備していた。


「『アーススプラウト』」

 

 地面から土の大樹(・・・・)が生えてきた。

 そのデカさ、先端が地下訓練場の高い天井まで届きそうなほどだった。その大樹の幹に全身を吞み込まれた4人は、顔だけ出した状態で完全に拘束されていた。


 唯一、ケムナだけが効果範囲から逃れていた。魔力を感知したホタルがケムナの手を引っ張って、素早く射程外へ離脱していたのだ。


 一瞬で4人を無力化させたエルニ。

 さっきまで騒がしかった場内が静寂に包まれていた。


「……降参だ」


 すぐにケムナが両手を上げた。

 審判のカムロックが、苦笑しながら宣言する。


「勝者、【王の未来(ロズウィル)】!」


 あまりにあっけない決着に、観客も呆然としていた。

 凍り付くような場内の空気もなんのその、エルニは容赦なく魔術を解除して大樹をただの土くれに戻していた。地面に落ちた【白金虎(バイフー)】のメンバーに、待機していた救護班がポーション片手に駆け寄っていく。


「なあエルニ、手加減って知ってる?」

「ころさなかった。えらい」


 えっへんと胸を張ったエルニだった。


「てめぇラキララ! サボってんじゃねぇぞ!」


 舞台の上ではイケメンリーダーがなぜか〝杖持ち〟の美少女に詰め寄っていた。 


「……なによ? 私に責任があるって言うの?」

「範囲魔術の防御はてめぇの仕事だろうが! 後衛のくせに使えねえな!」

「……防げるわけないでしょあんなの」

「てめぇいつも魔力見えるって自慢してるだろうが! 事前に見えるなら防げよ」

「……そっちこそ、前衛のくせにろくに動けなかったのは怠慢なんじゃないの?」

「んだとてめぇ」


 喧嘩を始めたフラッツとラキララだった。

 そういえばザンバルダール子爵の息子って彼のことだよな。親に似てイケメンだけど、性格も残念ながら似てるみたいだ。


 責任のなすり合いをしている彼らを無視して、こっちに歩いてきたのはケムナだった。もちろん隣にはホタルもいる。


「ようルルク」

「どうも。何か御用ですか?」

「ウチのバカどもがすまねぇな。まだ現実逃避してるらしい」


 仲間を嘲るように言うケムナだった。


「いまの魔術、そっちの羊人族の嬢ちゃんだろ? ホタルがビビッて逃げたのなんか久々だったぜ」

「ご主人、申し訳ございませぬ」


 ぺこりと頭を下げたホタルだった。

 初めて声を聞いたな。知性が高そうだったから喋れると思ってはいたが、やっぱり理知的な言動をする従魔だった。少なくともうちの中二病従魔よりは賢そうだしな。え、なんで蹴るんだセオリー。まだ何も言ってないのに。

 ケムナはホタルの言葉に肩をすくめた。


「いやいや、アレは避けて正解だぜ。ホタルが相殺できたとして片方だけだっただろ? ラキララが調子に乗って先手を取ろうとしてなけりゃ、ふたりで片方ずつ対応できたかもしれねえけどな。それはこっちの連携ミスだ」


 かなり冷静に分析していた。

 ケムナの見た目はコンビニ前にたむろしているヤンキーなんだけど、中身はパーティメンバーの中でも一番大人だった。


「それでケムナさん、それを言いにわざわざ?」

「いや、それもあるが……なあルルク、後ろのヒラヒラ着てるのって竜姫様だろ?」


 こっそり耳打ちしてきた。

 さすがにバレてるらしい。

 

「ええまあ。そのうち情報も広まると思いますが、俺たちのパーティに加入した新人冒険者のセオリーです」

「呼び捨てかよ。いや、まあ、そうだろうな。おまえ竜姫様をテイムしやがったな?」


 え、なんでバレてるの?

 さすがに動揺する俺だった。


「……なんのことですか?」

「隠さなくていいつぅの。安心しろ、さすがに普通のやつじゃわからねぇよ。こう見えても俺は3歳の頃からテイマーだったんだ。従魔の〝絆〟があるやつらを見分けるのは得意なんだよ」

「そうですか……誰にも言わないで下さいよ?」

「当り前だろ。もしバレて噂が広がってみろ、竜王様が聞いたら国ごと滅ぼし兼ねねぇからな。おまえこそ誰にも言うんじゃねえぞって忠告しに来たんだよ」

「そうでしたか。ありがとうございます」


 心配していたらしい。

 そりゃそうか。従魔士としても国民としても見過ごせるもんじゃないだろうから。


「ってことは、前に言ってた2体の従魔は姫様のことか。で、もう1体はそこのスライムだな?」

「そうですね」

「なら前言った約束は忘れろ。さすがにホタルを姫様と戦わせるわけにいかねぇ。今回の模擬戦は、従魔戦を抜きにしてもらえるようギルドマスターに頼んでおく」

「いえいえ、そもそも約束は従魔の強いほうを戦わせるってことですよね? だったら予定通りプニスケで行きますよ」

「……あん?」


 ギロリ、と睨まれた。


「おまえ、スライムをホタルと戦わせる気か?」

「ええ。うちのプニスケは強いですよ。なあプニスケ?」

『はいなの! ボク、がんばるの!』


 元気よく返事をしたプニスケ。

 言葉を話すスライムに一瞬目を見開いたケムナだったが、少しして低い声で笑い始めた。


「くくく、本当におまえは規格外なやつだな! 間違って核を潰しても文句は言うなよ?」

「最低限、そこだけはガッチリ守ってますから全力で大丈夫です。お互い全力で戦いましょうね」

「ああ、楽しみだ。そんじゃまた後で、邪魔したな」


 ケムナは上機嫌になって、自分の仲間のもとへ戻っていった。

 本当に従魔同士で戦うのが好きなんだろうな。


『ご主人様、あのきつねさん、つよいなの?』

「ああ。魔力が視えて俊敏で、魔術も多彩に使えるらしいからな。プニスケでも勝てないかもしれないから、油断はするなよ?」

『わかったなの! しんわざ、つかうなの!』


 プニスケも意気込むようにそう言うのだった。

 まあ、その前に俺はリーダー戦があるんだけどな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 頑張ってルルクに一撃加えても領域調停で無効化されるのほんとクソゲーすぎて()
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