竜姫編・28『豆腐メンタル中二病ポンコツ人間不信メンヘラ竜姫』
ハッキリ言って、俺は驚いていた。
ベーランダーの不正を糾弾してセオリーの恨みを晴らしてやろう。そう意気込んでいたのに、まさか【ルニー商会】という者たちが先んじてその事実を突き止め、貴族たちにも根回しを済ませて、あとは逮捕するだけという状況にまで持っていっていたとは。
世の中、予想外のことだらけだぜ。
兎に角、さっき屋敷を訪れた俺はルニー商会を名乗るお姉さんの後に続いて、ベーランダーの屋敷に堂々と侵入したのである。
もちろん認識阻害で姿を隠していたから、誰にもバレてないはずだ。
ヘプタンと名乗った商会のお姉さんはレベルが47もあり、スキルも豊富だった。貴族のような立ち振る舞いを見せるので育ちは良いんだろうが、実名に家名はなかった。
女性騎士か、あるいは元貴族の冒険者か……とにかく立ち姿にも隙が無くて、普通に強そうだった。
マスクしていたから顔はよくわからなかったが、キビキビしていて頼りになりそうだったので、俺がもうちょっと大人だったら口説いていたかもしれない。
そんなルニー商会のヘプタンは、ベーランダーが兵士に連れられて部屋を出ていくのを見送ってから退散していった。
「ルニー商会か。タバスコ商会も警戒してたっけな」
なんとなくルニーって人を心酔――あるいは信仰しているような感じだったな。
確か商会のトップがマタイサ王国の若い女性、という話だったっけ。わずか一年で大規模商会を展開さる経営力と、他国でもこんな重要局面すら作り出せる情報収集力と交渉力……うん、憶えておこう。
使用人も兵士たちに連行されたので、俺がいる応接室は無人になっていた。
他の部屋では大勢の兵士たちが不正や取引の証拠を探しているので、そろそろ退散しようかな。
目的の半分はルニー商会のおかげで達成できたと言っても過言じゃないから感謝しておくとして、もうひとつ――黒幕の存在に関しては、話にもまったく出てこなかったな。リセットの話ではベーランダーの上にひとり誰かがいる、ってことなんだけど。
俺も兵士たちにまじって家探しに参加するか?
「ん? なんだコレ」
そう思っていると、テーブルの上にメモを見つけた。
さっきまで何も置かれてなかったのに。
『屋上へ』
そう書かれていたメモ。
最後に退室したのは、テーブルの横にいたヘプタンだ。明らかにこの部屋にいる誰かに向けて宛てたメッセージとしてか思えないけど……残っているは俺だけ。
「いやいや、まさか」
俺は完璧な認識阻害で、誰からも認識されていなかった透明人間だったはずだ。ヘプタンもまったく気づいていない様子だった。
一応、天井を見上げて透視してみたら……いるわ屋上に。
ヘプタンと仲間たちが誰かを待っている。
間違いない。俺へのメッセージだ。
ってことはずっとバレていたってことだろう。見えないのをいいことに変顔していたのも見られていたかもしれない。
……やべ、恥ずかしいから行かなくていいかな?
「ま、冗談はほどほどにして――『相対転移』」
俺は素直に転移で屋上へ出現。
認識阻害を見破る相手に、実力を隠す必要はないだろう。
ヘプタンたちも、俺がいきなり現れたことに特に驚きはないようだった。
「お待ちしておりました、冒険者ルルクさま」
「おお、俺の素性まで知ってたのか」
なんだよ、冒険者カード書き換えてきた意味ないじゃないか。
すぐ戻しておこう。
ヘプタンは口元に笑みを浮かべた。
「もちろんです。冒険者パーティ【王の未来】のリーダーでBランク冒険者、ストアニアダンジョン100階層を突破した注目の新人〝神秘の子〟ですもの。そして竜姫様を害そうとした竜種を打ち倒し、竜姫様を保護しているとも」
「……耳が早いね」
どこから漏れた? 誰にもバレてなかったはずなんだけど。
俺がかすかに警戒したのを察したヘプタンは、手のひらを向けて敵意がないことを示した。
「我が商会は、早く、安く、高品質をモットーに商品を扱っております。もちろん情報も我が商会で人気の商品のひとつです。気分を害したのなら謝罪します」
「そういうわけじゃないからいいよ。それで俺を呼び出した理由は? よく認識阻害を見破ったね」
「術式看破のすべは黙秘させていただきます。お呼びした用件は、ベーランダーのもとにいた男の所在についてです」
「知ってたのか?」
意外だった。
ベーランダーを問い詰めるときには、一言も言及してなかったから。
「はい。先ほどルルクさんが竜種リセットを追い詰めた際、竜核が暴走しましたね。その直前の会話から、黒幕の男が盗聴しており遠隔から攻撃した可能性を考慮して、ベーランダーの身柄を安全に確保するため知らないフリをしていました」
「ちょっとまて。……おたくらの誰かが、あの戦いを見てたり聞いてたのか?」
「いえ、あくまで情報として手に入れたものです。情報収集手段は黙秘します」
あの場にいなかったのに知ってるのか?
この商会、シャレにならないくらい情報収集力が高いぞ。
もしかしたらそういうスキルもあるのかもしれない。敵に回したら相当厄介だ。
「で、いまは大丈夫だと?」
「盗聴されている可能性はありますが、我々には攻撃手段がないと判断します。もしあれば、屋敷に踏み込んだ時点で攻撃されるかと」
「ま、確かに。それで黒幕の男だっけ? 性別までは把握済みなんだね」
「はい。外見は20代前半の人族の青年で、短い金髪に青い瞳。口調は砕けたものですが、ベーランダーが委縮するような存在です。どうやら本日の夕方、ルルクさんがリセットを倒した直後にこの屋敷から去ったようです。その行方もある程度は掴んでおります」
「そこまでわかってるんだ。でも、なんでその情報を俺に教えたんだ? けっこうな価値のある情報だと思うけど」
「総支配人からの指示です。ルルクさまは有望な冒険者でいらっしゃいますから」
なるほど、今回は俺が欲しがっている情報を手に入れたから、初回無料限定の情報提供ってやつか。よくある商売方法だな。
たしかに商売目的ならうなずける。
「じゃあお言葉に甘えてもらっておくよ。男の行方は?」
「ルネーラ大森林――エルフの里方面へと向かいました。馬を盗んでいくのが目撃されましたので、まだそう遠くへは行っていないかと」
「それならすぐ捕まえられそうだ」
馬なら次の街まで二日程度。
明日探しに出ても道中で見つけられるだろう。
「情報提供ありがとう。麗しいお姉さん」
「も、勿体ないお言葉!」
容姿を褒めたら、なぜか膝をついて首を垂れたヘプタン。
褒められ慣れてないんだろうな。というか貴族社会くらいだよな、迷わず相手を褒めるのって。
そう考えたら俺も相手を褒めるのを自重したほうがいいのか? いやでも、女性を褒めるのは口癖みたいになってるから無理だろうな。それもこれも全部ムーテル家の家庭教師のせいだ。俺は悪くない。
「ちなみに竜都にもルニー商会の店はあるよね? せっかくの縁だし、買い物にいくよ」
「ありがとうございます。ルルクさまが宿をとられている第5中央区であれば、冒険者ギルドの裏手にありますので、ぜひともお越しくださいませ。従業員一同、心よりお待ちしております」
「「「お待ちしております」」」
揃って綺麗なお辞儀をする商会員のお姉さんたちだった。百貨店かな。
……どう見ても現代風の接客作法なんだが。
これ、アウトでいいよな?
「じゃあ用事はそれだけかな。俺もあんまり遅くなると仲間が心配するから、そろそろ行くけど」
「はい。申し遅れましたが、わたくしヘプタンと申します。バルギアエリアの代表を務めておりますので、有事の際にはわたくしにご用命を」
そう言って名刺を渡してくるヘプタン。
しかもただの名刺じゃない。冒険者カードみたいな書き換え不能の認証機能がついたものだ。
「こちらを我が商会でご提示ください。すぐに私との連絡をお繋ぎします」
「え、連絡を繋ぐってどういう――」
「それでは、またいずれ」
俺の疑問に答えることはなく、ヘプタンたちは何も言わずに消えた。
そう、消えたのだ。
霊素の揺らぎも、魔術の詠唱もなかった。
まるで最初からそこにいなかったように消えてしまった。
おそらく転移系のスキルか、隠し持っていた魔術器のどちらかだろう。それ以外に俺の眼に察知されないように術式を発動するのは不可能なはず。
それを当たり前のように使って移動するとは。
「やべぇやつらだな」
そのトップだという未成年女性、もしかしたら師匠レベルの相手の可能性がある。
あらゆる面で警戒しておく必要がある商会だな。
まだまだ世界には、俺の知らない強者が溢れている。
俺は油断しないよう肝に銘じて、宿に戻るのだった。
結論から言うと、逃げた男の行方は分からなかった。
翌朝早朝、まだ夢の中の仲間たちを残して転移をくり返し、馬で3日の場所にある街までを捜索した。
変装なども見越して『虚構之瞳』を使っていたが、残念ながら該当しそうな男はいなかった。目撃証言で欺くために北に向かったのは最初だけで、途中から別経路へ逃げた可能性が高かった。この広いバルギアで無作為に逃げられたら、さすがに追いかけることは不可能だ。
そんな肩透かしで帰って来た俺を出迎えたのは、修羅場だった。
「死んでやるもんっ!」
「落ち着いてセオリー!」
「ん。くちだけ」
包丁を振り回して死んでやると叫ぶセオリーに、それを羽交い絞めで止めるサーヤ、エルニが鼻で笑ってセオリーを煽り、その横でプニスケはのんびり朝食を作っていた。
俺はその混沌とした室内を見渡して、ゆっくり扉を閉めた。
「……すみません、部屋を間違えました」
「合ってる! 合ってるから逃げないでルルク!」
サーヤの泣きべそに仕方なく部屋に入った。
「我があるじ!」
飛びついてきたのはセオリー。
俺はとっさに避けた。
「な、なんで避けるの……?」
「アホか? 右手に何持ってんだよ」
包丁握ったまま抱き着こうとするな。事故るぞ?
冷静に注意するとセオリーは自分の手の包丁をハッと見つめてから、何食わぬ顔をしてキッチンの戸棚に収納し、
「ふっ。さすが我が主、邪神の瘴気により喪失していた我が感覚をも掌握しているとは……」
「してないから。で、何があったんだサーヤ?」
「……その子、目が覚めてルルクがいないってわかった途端、パニックになっちゃってさ。遠くを移動してることはわかったみたいなんだけど、そしたらいきなり包丁持ちだしてね。自分が傷つけば心配して戻ってきてくれるだろうって」
ため息と共に疲れた声を漏らしたサーヤだった。
「なるほど。で、なんでエルニは煽ってたんだ」
「ん。みのほどをわからせた」
「最初に止めたのはエルニだったのよ。いつもの『エアズロック』でガチガチにね。そしたらセオリーが最強の竜種になにをする~って怒って、エルニが誰が最強か教えてやるって口喧嘩始めたのよ。この腹黒羊、セオリーの動き止めて、すぐ解除して、またすぐ止めて、解除して、を繰り返して遊び始めたのよ。セオリーが意地でも死んでやるって言ったら、今度はエルニが止めなくてね、しょうがなく私が抑えてたわけ。ほんと、無駄に疲れた……ねぎらって……」
「よしよし」
とりあえず苦労人のサーヤを撫でておく。
物欲しそうに見てくるセオリーだけど、さすがに今回は構わないでおく。気にかけて欲しくて自傷することはさすがに許容してはいけない。癖になると大変だからな。
というか、セオリー属性盛り過ぎだろ。
ピンク髪の豆腐メンタル中二病ポンコツ人間不信メンヘラ竜姫って、小学生が考えた最弱キャラ! みたいになってやがる。
「ていうか、俺がいないとそんなことになるのか……」
「今朝は不意打ちだったからじゃない? エルニに遊ばれてるうちに目的がルルクを呼び戻すより、エルニに勝ちたいって感じになったし。まあ寂しかったのは本当みたいだけど」
「ふっ、我は主の眷属なり。主のマナが供給されなければ、我が体は崩壊するのだ」
「セオリー、俺、魔素欠乏症だからマナ持ってないぞ」
「えっ! じゃあ、えっと、その……主の成分を呼気から吸収しなければ……」
「ルルクの吐息吸わないとダメって、控えめに言って変態よね?」
「変態だな」
「ん、へんたい」
「ふえぇ」
さらに変態属性が追加されたぞ。属性銀行セオリー支店は債務超過で破綻しそうな勢いだ。
さすがに変態扱いはイヤだったのか、困ったように悲鳴を漏らすセオリーだった。
そんな風にセオリーを弄っていると、キッチンから香ばしい匂いが。
『ご主人様! みてみて、ボクがつくったの!』
プニスケが自慢したのは、皿に盛られた具だくさんのシチュー。
いままでは俺のサポートで料理をしていたが、今日は一人で全て作っていた。
『あじみしてほしいなの~』
「どれどれ……おお、ウマいな。いいんじゃないか?」
『わーいなの! お姉ちゃんたちも、朝ごはんできたからたべるの~』
コック帽をゆらして嬉しそうに跳ねるプニスケだった。
ポンコツ竜娘を弄るのはほどほどにして、みんなで食卓を囲んで頂いた。
プニスケの料理を賑やかに食べていると、寝室の扉がゆっくりと開いた。
遠慮がちに顔を覗かせたのは、小さなエルフの幼児だった。
いい匂いに釣られたのかお腹を鳴らしていた。
サーヤがすぐに椅子から飛び降りて、エルフの子に近づく。
「おはよう。よく眠れた?」
「えっと……あの……」
明らかに困惑している。
森の中で気絶して、目が覚めたら知らない人たちに囲まれてるんだから当然だろう。
「安心して。メレスーロスさんのことは知ってる? 私たち、彼女に頼まれて君を探してたの。助けが間に合って良かったわ」
サーヤは屈んで目線を合わせて、エルフの子の頭をくしゃりと撫でた。
「とにかくここは安全だからね。それよりお腹空いたでしょ?」
「は、はい」
「じゃあ一緒にごはん食べましょ。ひとりで食べても美味しいけど、みんなで食べるともっと美味しいわよ」
サーヤがエルフの子の手を引いて、テーブルまで連れてくる。
もちろん想定していたので、すでにエルフの子の席は準備してあった。プニスケがシチューを鍋からよそってエルフの子の前に置いた。
「わっ! 魔物!」
「従魔だから安心して。プニスケっていうのよ。料理上手なスライムよ」
「りょ、料理上手……?」
目をパチクリさせていたエルフの子だった。
しかし腹の虫がアピールすると、恥ずかしそうに腹を押さえて目の前のシチューをじっと見つめる。
「食べていいわよ。遠慮しないでね」
「い、いただきます」
相当腹が空いていたのか、夢中になって食べ始めたエルフの子。
それから鍋が空になるまで全員でおかわりをして、団欒を楽しんだ。
プニスケが食器を片付けているのを興味深そうに眺めているエルフの子に、俺は話しかけた。
「美味しかったか?」
「は、はい……ごちそうさまでした」
ぺこりと頭を下げるエルフの子。
まだ幼いのに礼儀正しいな。俺の義兄もこれくらい可愛げがあれば良かったのに。
「それはよかった。料理を作ってくれたプニスケは俺の従魔で、俺はこのパーティのリーダー、ルルクだ。ランクはメレスーロスさんと一緒のBランク。君の名前は?」
「ネ、ネサーラインです。ジュマンの森、ラキラーヴィアの息子のネサーラインです。あの、助けてくれてありがとうございました」
「どういたしまして。あの悪い竜種は退治しておいたから安心してくれ」
「た、倒しちゃったんですか?」
「ああ」
「すごいっ!」
目をキラキラさせて俺を見上げてくるネサーラインくん。
いやほんと、幼いエルフって可愛すぎるんだよな。お持ち帰りしていい? このままエルフの里に返さなくてもいいかな~許してくれないかな~。
「ルルク、顔、だらしないわよ」
「キリッ。それでネサーラインくん、すぐにエルフの里に送ってあげるけど、その前にちょっと話を聞いてもいいかな?」
「はいルルクさん!」
「エルフの里からバルギアに来るまでのこと、憶えてる限り詳しく教えてほしい」
「わかりました。僕たちがエルフの里を出てから――」
ネサーラインくんが説明する。
パライソに連れられて魔樹の森を抜けるのに7日。国境近くまで来たところで、人族が数人待っていた。そのなかにはリセットもいたらしい。
ネサーラインくんはリセットに連れられて空を飛んだので、他の子たちとはそこで離れ離れになった。ネサーラインくん以外は馬車に乗せられて、別の場所へと連れていかれたようだ。
それから一日半、リセットの背中にくくりつけられて竜都まで飛んだ。その間、食事を与えられることもなく凍える上空で耐えていた。かなり辛かったようだ。
森に連れていかれたネサーラインくんは、鎖で繋がれて放置。魔物避けにリセットが細工をしていたらしいけど、ひとりで森に置かれて気が休まることはなく、肉体的にも精神的にもかなり弱っていたところで、俺たちがやってきた。
話を聞いた俺は、ネサーラインくんを撫でておいた。
「よくがんばったな」
「は、はい。僕は男の子ですから……でも、他のみんなは……」
「他の子たちは、いまメレスーロスさんや渉外部隊たちが探してくれてる。まだ安心はできないかもしれないけど、信じて待っていよう」
「……はい」
色々と言いたそうにしていたが、ぐっと堪えたネサーラインくんだった。
見た目よりしっかりしているし、おそらく連れ去られた他の子たちよりは年上なんだろう。しかも残りの子は全員女の子みたいだし、責任を感じているのかもしれない。
知らない土地でゆっくりさせるより早く里に連れて行ってやろう。親も心配してるだろうしな。
「サーヤ、俺はエルニと一緒にネサーラインくんをエルフの里に連れてくから、プニスケとセオリーを頼めるか?」
「任せて。とりあえず宿にいていいでしょ?」
「ああ。そんなに遅くはならないと思うし」
送って戻ってくるだけだからな。
もちろん転移で行き来するから、移動時間は一瞬だ。さすがに森長たちに報告はしないといけないから、向こうで多少の時間はかかるだろうけど。
エルニは俺の言葉を聞いてすぐに杖を抱き、あとはいつでも良さそうにぼーっと無表情のまま待っていた。俺だけでも良かったんだけど、エルニを連れて行くのは守護部隊への牽制も兼ねている。ディスターニアが俺のことあまり好きじゃなさそうだしな。
居残りを命じられて寂しそうな顔でこっちを見るセオリー。その背中をサーヤが撫でている。
「セオリーと私は留守番だからね。ゲームでもして待ってましょ?」
「……げーむ?」
「そうよ。ルルクが作ってくれたカードゲームがあるの。魔物を召喚して戦わせるのよ」
「!? 我が同胞よ、我にもそのげーむとやらを教えるのだ!」
興味津々になったセオリーだった。
サーヤとセオリーが遊び道具を取りに寝室へ向かったのを横目に、俺はエルニとネサーラインくんを近くに呼んだ。
ネサーラインくんが心配そうに俺を見上げる。
「あの、ルルクさん」
「なんだ?」
「いまから3人で旅するんですか? 子どもだけで?」
竜都から国境までだと馬車で1ヶ月ほど。最速の竜種の背中に乗ると1日半。いくら魔物が少ないからといって子どもだけで旅をするのは危険だと理解しているんだろう。
不安そうなネサーラインくんだが、もちろん、俺はエルフの里をすでにマーキングしている。
「ネサーラインくんには先に言っておくぞ。もし神秘術をがんばって勉強して里の誰よりも得意になったら、俺と同じことができるかもしれない。人族の俺にできたんだからな。それと、一瞬だからよく霊素を視ておくんだぞ。準備はいいか?」
「えっ?」
「『空間転移』」
俺はエルニとネサーラインくんを連れて、エルフの里へ転移した。
宿のリビングから聖樹の森の入口へ。
「う、うそ……」
周囲を見渡しているネサーラインくん。
驚いて二の句が継げない様子だったが……かまってやっている余裕はなさそうだった。
あきらかな異変を感じていた。
俺はすぐに『虚構之瞳』で索敵。
エルニも同時に魔術を発動。
「『全探査』」
「何か分かったか? 俺が見える範囲には何もないけど」
「ん、きたがわ。まものたくさん」
「北側って――魔族領側か!」
俺たちが警戒した理由は、聖樹の森特有の賑やかな音がまったく聞こえなかったのだ。
まるで息を殺しているような静寂。
エルフの里をまた魔物が襲っているらしい。
「ネサーラインくん、ここからなら一人で帰れるか?」
「え、は、はい。家も近いので大丈夫ですけど……?」
「すまんが、ちょっと急用ができた。じゃあ気を付けて帰るんだぞ――『相対転移』」
俺はエルニを連れて上空へ。
そこから森の北側へ向けてまた転移する。
そこは、波のように押し寄せる魔物と守護部隊たちの戦場になっていたのだった。




