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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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竜姫編・22『背後で蠢くもの』


 メレスーロスと合流したあとは、宿近くの酒場で夕飯をとった。


 エルフの渉外部隊は薬屋や商店でキュアポーションを探していたらしい。予想通りの行動だったので、メレスーロスもすぐに見つけられたようだ。


 里のことを報告したら、渉外部隊もキュアポーション探しは一旦中止にして、子どもたちの捜索にシフトしていくことにしたようだ。

 とはいっても情報屋ギルドにもエルフの子たちの情報はなかったらしい。魔樹の森からこの街のあいだには集落はないので、パライソか別の人間か、どちらにせよ街には寄らずそのまま連れ去っていったと思われる。


 俺がパライソが竜都方面に向かった旨と、明日の朝から俺たちもパライソを追いかけることにしたとメレスーロスに伝えると、彼女はまた渉外部隊の拠点へと戻っていった。かなり忙しそうだったので、俺たちは先に宿へ向かって休むことにした。

 メレスーロスが宿に戻ってきたのは夜も遅くなってからだった。

 ほんと、お疲れ様です。


 翌朝、俺は夜が明けると共に目を覚ました。


 顔を洗ってストレッチをし、朝食のオーダーをしようと宿屋の一階に降りていったら、すでにメレスーロスが準備を整えていた。


「おはようございます。お早いですね」

「おはよ。さすがにゆっくりは寝ていられないからね」


 どことなくソワソワしているメレスーロス。

 パライソはおそらく馬車で竜都を目指している。ここから次の街まで馬車でおおよそ3、4日ってところだろうから、転移でサクサク進む俺たちとはどう考えても道中で出くわすはずだ。気持ちはわかるけど、あまり焦っても意味はない。


「ちゃんとご飯は食べててくださいね」

「うん。ほんと、ルルクくんたちがいてよかったよ」


 声をかけると若干落ち着けたみたいで、メレスーロスも装備品を置いて朝食を注文していた。

 俺も全員分の朝食を注文してから、部屋に引き返して安眠中の幼女たちを叩き起こす。ふたりともしばらく寝ぼけていたので、背中にプニスケを突っ込んだら悲鳴を上げて目を覚ましていた。


 みんなでしっかり朝食を取って、準備を整えてから出発した。

 やる気のない門番に挨拶をしてから、ひと気のない街道をまっすぐ南下する。


「そういえば渉外部隊の方々はどうしたんですか?」

「昨日の夜には街を出て、竜都以外への道に分散してるよ。こっちはあたしたちに任せて、手分けして探すんだって」

「そうですか。たしかに他の街や国に向かった可能性はありますもんね」


 そもそもエルフの子たちをパライソが連れていない可能性は十分にある。


 もしカルデナスの言うとおりパライソが人身売買に手を染めているなら、この街に来る前に奴隷商に引き渡されている場合もある。エルフというだけで欲しがる人は多いだろう。

 何でも言うこと聞いてくれるエルフの美少女とか、男の夢だもんな。


『ルルク様呼んだ!?』


 脳内にカルマーリキが顔を出した気がする。気のせいってことにしておこう。

 兎に角、売買目的で子どもたちを連れ去ったなら、竜都方面に向かっているのはパライソだけの可能性もある。少しでも情報を集めるなら手分けするのは当然。

 それに。


「……魔物がエルフの里を襲った件も、原因が不明なんですよね」

「そうだね。魔樹の森をどうやって抜けたのか、Aランクすら混じった魔物の軍団をどうやって指揮したのかも謎だよね」


 調査すべき事柄は、なにも子どもたちの行方だけじゃないんだ。

 そっちは俺たちでは役に立たないだろうから、せめて子どもたちの安否は早く確認しておきたいところだ。


「じゃ、そろそろ転移していきましょうか。サーヤもそっちよろしく」

「はーい」


 門番から見えなくなったところで、俺たちは『相対転移』で道を進んでいった。






 彼らを見つけたのは、まだ正午にもなっていない頃だった。


 最初に気付いたのはサーヤだった。転移の練習も兼ねていたので、なるべくサーヤを先行させていたからだ。俺が後ろに転移してきたらサーヤはすぐに振り返って言った。


「大変! 誰か襲われてる!」


 かなり前方に、魔術の炎が見えた。

 数十人の集団のようだけど、二種類の人に分かれているように見える。襲っている側と、襲われている側だ。魔物の気配はない。


「盗賊か」

「どうする? 退治する?」

「そうだな……お、ビンゴだ。助けて恩を売る」


 この距離からでも『虚構之瞳(みとおすもの)』は機能する。襲われている側のひとりに、パライソの名前があった。

 円陣の中央で護衛に守られているため怪我はなさそうだが、このままだと殺されるのも時間の問題だろう。


「ん。やる?」

「エルニがやったら死人が出るからなぁ。捕まえるだけでいいんだよ」

「……私やろうか?」


 珍しくサーヤが挙手した。

 レベリングの甲斐もあって魔物退治はそろそろ慣れてきたと思うが、対人戦は未経験。そもそも戦うことが好きじゃなかったはず。


 この世界で初めて旅をして、何か心境の変化があったのかもしれない。

 せっかく自己申告したんだしやってもらうか。


「よし、じゃあ任せるよ。無理は禁物な」

「うん――『相対転移』」


 サーヤは盗賊たちの近くまで転移した。

 俺もすぐに残りのメンツを連れてつかず離れずの位置に転移しておく。万が一の場合は援護するつもりだ。


「『トルネード』!」


 パライソの馬車を囲む盗賊たちの一部に、サーヤの風魔術が直撃した。

 烈風に吹き飛ばされていく盗賊たち。いきなりの幼女の乱入に戸惑ったものの、すぐにサーヤに攻撃を仕掛けてきた。


 矢、魔術、投げナイフ。

 方法は様々だが、十近い数の攻撃がサーヤを襲った。

 しかしサーヤは慌てない。冷静にスキルを発動させた。


「『確率操作(フォーチュネス)』」


 1の数字を冠する数秘術。

 その効果はシンプルながら、


――――――――――


【 数秘術1:『確率操作(フォーチュネス)

 >乱数を絶対数に固定する王級スキル。

 >>意思の宿った対象には作用しないが、属性物を含む物質・術式・アイテム効果・因果律などに直接干渉できる。まさに幸運の女神。 】


――――――――――


 とまあ、数秘術らしいやや難解な言い回しだけど、じつはシンプルな能力だ。。

 ようはランダム的要素がある物は全て操れるのだ。対象外は生物だけ。


 つまり普通の遠距離攻撃なんてもってのほかで、サーヤには一切当たらないというチートスキルだ。


「な、矢が突風で!?」

「誰だ! 俺の火魔術に水魔術当てたやつ!」

「ちょっ射線上に立つなって言ったろー! 誰かポーション!」


 とまあギャグみたいな展開で遠距離攻撃が無効化されたり、フレンドリーファイアーになったりするのである。

 どれだけ攻撃の精度が高くても〝サーヤに当たらない確率〟が0.01%でもあるのなら、それを100%にしてしまうのがこの『確率操作(フォーチュネス)』だ。

 

 このスキルを見たとき、そこはかとないサーヤの怒りを感じた。

 遠距離攻撃絶対許さないマンだ……。


「『アイスロック』! 『アースバレッド』!」


 とまあ、敵の攻撃は届かなくてもサーヤの攻撃は届く。

 攻撃が届かず大混乱する盗賊たちを、サーヤは的確に一人ずつ気絶させていった。


「ちくしょう! 気味の悪いガキめ!」


 何人かが直接剣を構えて迫って来た。

 状況判断は正しいが、幼くてもサーヤのステータスは軒並み高数値。


「えいっ」


 ステータスにモノをいわせた速度と威力で、向かってくる盗賊たちの防具ごと叩き潰していく幼女。「てやっ」「とうっ」という軽い声がまったく合ってない光景だな。

 

 そうこうしているうちに、盗賊たちは全員気を失ってしまった。

 緊張したのかそれなりに動いたからか、少し汗をかきながら俺のもとへと戻ってくるサーヤ。ぴっとりと前髪をオデコに張りつけながらはにかんだ。


「ねえがんばったでしょ? どうだった?」

「練習通りだったな。よくやった」

「やった褒められた! えへへ」


 タオルを頭にかけて労っておく。

 さて、それじゃあ事後処理だ。

 俺は呆然とする商人とその護衛たちに向かって声を張った。


「そこの方々、俺たちは冒険者パーティ【王の未来(ロズウェル)】と言います。いまのうちに盗賊たちの捕縛をお願いします」


 我に返った護衛たちは慌てて縄を取り出して、盗賊たちを縛っていった。

 どの国でも盗賊は殺しても法的に問題はないんだけど、捕まえて連れて行ったら少なからず報奨金がもらえる。ここまで無力化しているからか、護衛たちも文句は言わなかった。


 盗賊たちを縛り終えて馬車に放り込んだら、濃い青髪の小太りの男――パライソが手を揉みながら近づいてきた。護衛のひとりがそばに控えているが……俺たちに恐縮していて意味はなさそうだった。


「この度は助けて頂いて誠にありがとうございます」

「通りがかったついでですよ。そちらは商人ですか?」

「はい。わたくし【タバスコ商会】所属のパライソと申します。お嬢さん、本当にありがとうございました。お若いのにお強いですね」

「いえいえ、それほどでも」


 そとゆきモードのサーヤが微笑みを返す。

 まだ10歳とはいえ、かなりの美少女だ。圧倒的な強さを魅せた後のその華麗な笑みを受けたパライソは、年甲斐もなく頬を赤くしていた。


 ……見なかったことにしてやろう。


 それと盗賊15人ほどを〝それほどでもない〟と評したサーヤに、護衛たちが気まずそうに地面を眺めていた。いやまあ、ふつうそうなるよな。

 こっちも見なかったことにしておこう。


「このあたりは盗賊がよく出るんですか?」

「いえ。珍しいことです。バルギアは野盗も少なく、平和な国なのが自慢なのですが……」

「そうですか。不運でしたね」

「ええまったくです。それで、そちらの冒険者の皆さんはどちらから? それほどの実力がありながら皆さんまだ十分に若い……名も売れてらっしゃるとお見受けしますが、ご出身はバルギアではありますまい?」


 かすかに眼光を鋭くしたパライソ。

 商人モードが顔を出してきたな。


「俺たちはマタイサから来ました。旅をしてまして、まだバルギアに来て日が浅いのでご存じないのも当然かと」

「そうでしたか。バルギアの旅はどうです? 竜都へはもう行きましたか?」

「観光がてら楽しんでますよ。竜都も一度だけ寄りました。いまもクエストからの戻る道ですが……とはいえ、旅の物資があまり潤沢とは言えないんですよね」

「おお! 左様でしたか。それではわたくしの商品をいくつかお譲りさせてくださいませんか。命の恩人に対するせめてもの礼として受け取ってください。無論、謝礼金は別途差し上げますよ」

「お気になさらず。ですが、せっかくですしいくつか見せて頂けませんか? パライソさんはどういう商品を扱ってますか」


 自然に誘導して在庫確認。

 狙い通りの流れだったが、重要なのはここからだ。

 パライソは馬車の中の箱をいくつか漁る。


 ……だが、俺は知っている。

 その箱はフェイクだ。中身は空。


 そもそも、盗賊を15人も載せられるようなスペースが馬車に空いているほうがおかしいだろう。商人は商品が命だ。街の移動ってだけでもリスクも金もかかるのに、そこに商品を積まずに移動する商人がいるはずもない。

 じゃあパライソの荷物は?


 もちろん、彼の首から下がっているアイテムボックスの中だ。


「ええと、これらはどうでしょう」


 手馴れているのか、箱から取り出すフリをしてアイテムボックスから幾つか取り出してきた。

 俺たち以外にアイテムボックスを持っている人を初めて見たが、やはり商人にとっては大きな武器になるのだろう。パライソが商会の稼ぎ頭な理由もうなずける。


「ハイポーションに毒消し草、聖水ですか」

「ええ。冒険者様もお得意様が多く、毒消し草は特に人気ですね」

「……状態異常にはキュアポーションのほうが便利ですよ?」

「あいにく、キュアポーションは切らしておりまして。申し訳ない」


 そりゃそうだろうな。エルフたちに全部売ったって話だし。

 ちなみにメレスーロスは遠くで待機している。エルフってバレたら面倒だしな。


「品切れでしたか。最近、どこも在庫が少ないみたいですね」

「そうなんですよ。材料のひとつ、アルミラージの角が根こそぎ竜都で占有されておりまして……いやはや、困ったものです」

「そうでしたか。それは仕方ありませんね」


 ん? というか、アルミラージの角?

 キュアポーションの欠品理由って、材料のアルミラージの角だったのか。

 ならこの事態の犯人に心当たりがあるぞ……気のせいじゃないだろうな。


 ま、それは兎に角。


「ではパライソさん、ハイポーションと聖水を10個ほど買います。それと、占いなどに使える珍しい薬草や花はありますか? うちの子たちも一応女の子でして……」

「ええ、ありますとも! 少々お待ちを!」


 パライソはまた空箱を漁るフリをする。

 ちなみに『一応』の部分に反応したサーヤとエルニに足を踏まれた。痛い。


「こちらなんかはどうでしょう? 風水術に有用な〝霊球根〟に、占星術の精度を高める〝星隠しの花〟、若い女の子たちで最近流行の色占いの水盆として人気の〝虹色貝〟です」


 来た!


 やはり持っていたな、星隠しの花。

 俺はポーカーフェイスを装って、どれも興味があるように眺める。


「そうですね、せっかくなら全て手に入れたいですが……ちなみに、在庫はどれほどありますか?」

「それなりにございますよ。も、もちろん、これらはかなりの貴重な品なので、すべてを無料でお譲りするのはご遠慮願いたいものですが」

「いえいえ、そもそも無料で頂こうなどと厚かましいことは思ってませんよ。そうですね……在庫の半分を、定価の1.5倍でお譲りして頂いても?」

「何をおっしゃいますか! 命を助けて頂いたお礼に、すべて定価の半値でお売りしますよ」

「いいんですか? では、謝礼金はいらないので売って頂ける数の半分をその値段で、残り半分は定価どおりに購入をお願いします」

「な、なんと心優しい……ではすぐに在庫の半分をお持ちします」


 さて、軽く商談が成立したな。

 話してみた感じ、パライソはそれほど悪徳商人でもなさそうだ。少なくとも、命の恩人たちに対して利益を無視して信用を得ようとするくらいの常識は持ち合わせているらしい。


 まあ堅実な商会の稼ぎ頭だっていうなら、人間的にも悪いやつじゃないってことだったんだろう。

 エルフたちの話だと悪の根源みたいな印象だったから、かなり肩透かしだった。


 上機嫌に商品を包んでいるパライソに、さりげなく話しかけてみる。


「それとパライソさん、つかぬことを伺いますがよろしいですか」

「はい、なんでしょう」

「最近、奴隷商と取引しませんでしたか?」


 ピタリ、と手が止まったパライソ。


「……何をおっしゃいますやら」

「さっき思い出したんですけど、先日大森林あたりでこの馬車を見かけた気がしたんですけど、そのとき荷車にエルフの子どもたちが乗っていたのを見たんですよ。もしエルフを市場に流すつもりなら、どこのオークションなのか知りたいなと思いまして」

「……。」


 俺に背中を向けたまま無言のパライソ。

 周囲の護衛たちが、かすかに殺気を漏らしている。

 その反応だけで間違いないことはわかるが、ここはもう一押し。


「……実は俺、エルフが好きなんですよね。それはもう結婚(・・)したいくらい」


 ニヤリと笑いながら悪い顔で言った。

 実のところ嘘じゃない。なので絶対に演技だと見破られないという高等技術だ。そう、これは情報を引き出すための技術であり、決して性癖を暴露しているワケではないのである。判決、無罪。


 パライソは、エルフに負けず劣らず整った顔のサーヤをチラリと見て、納得顔になった。


「なるほどなるほど。それは是非ともお手伝いしたい所存ですが……しかし、残念なことに先日のエルフたちはオークションには出品されません」

「おや。ではどちらにお売りに?」

「……恩人として信用します。ここだけの話にして頂きたいのですが」


 パライソは顔を近づけて耳打ちする。

 護衛にすら聞かれたくないらしい。


「エルフを購入するよう指示(・・)してきたのは竜都の貴族でして。なんでも、キュアポーションを買いだめてルネーラ大森林の近くにいれば、そのうちエルフが大量に買いに来ると言いましてな。細かな指示を受けて従うことを条件に、キュアポーションの代金と数週間の街での逗留費用を大盤振る舞いしてくださったため待機しておりましたところ、なんと本当にエルフたちが買いにまいりましてな。指示通り、足りない代金分として希望した子どもたちを身売りしていただく条件で契約しました」


 竜都の貴族?

 さすがに俺も訝しむ。


「貴族はどこの家の使者かわかりましたか?」

「そこまでは。ただ貴族しか使えない販売ルートを熟知しているようだったので、おそらく商家あがりの貴族かと」

「そうでしたか。でも妙ですよね。まるで予言したみたいに事が運ぶなんて」

「それはわたくしも不思議でしてな。半信半疑に指示通り動きましたが、子どもたちもなぜ従順についてきたのかわからずじまいでした。大人たちに力づくで止められないかと冷や冷やしましたが、助言通り最初の契約時に〝聖樹に誓った〟ことが大きかったみたいですな」

「そうでしたか。それで、エルフの子どもたちはどこに?」

「魔樹の森を出た時点で、最初とは別の使者の方へお渡ししました。その使者自身も奴隷商ではなさそうでしたし、わたくしも人身売買は初めてでしたので、あまり深くは踏み入らずにおりました。なので彼らがどこへ連れていかれたのかもわかりかねます」

「……そうでしたか。ありがとうございました」

「いえいえ。お役に立てず申し訳ない」


 商機を逃して悔しそうにするパライソだった。

 パライソに嘘を言っているような様子はなさそうだった。エルフの里の顛末がその言葉通りだとすれば、問題は予想以上に根が深そうだ。

 少なくとも、エルフの子どもたちの行方はまったく掴めそうにない。


「それでは、こちらお品物です」

「ありがとうございます」


 代金を払って、目的のモノを手に入れることができた。

 ひとまず待機しているメレスーロスに報告しようとした、その時だった。


「パライソの旦那! 大変だ!」


 護衛チームのリーダーの男が、慌てて駆け寄って来た。


「どうしましたか?」

「盗賊が目を覚ましたから尋問したら、あいつら、貴族の使い走りにそそのかされて俺たちを襲撃したって言ってやがる。しかも依頼金までもらって、確実に殺すように指示も受けてた」

「なんですと? それは、もしや……」

「ああ。おそらく口封じだろうぜ」


 護衛の男が怒りを抑えながら声を震わせた。

 パライソも大きくため息をついて、天を仰いだ。


「……やはり、身の丈に合わないことはすべきではなかったですな」

「どうする旦那? やっぱりこいつら、喋らせるだけ喋らせて始末しとくか?」

「いえ。一度引き返して、街で兵士に引き渡しましましょう。情報を引き出すのはプロにお任せしたほうがよいでしょう。それと、さすがに危険域に踏み入ったようなのでカルデナスさんに事情を詳しく話して協力を仰ぎます」


 そう言うと、パライソと護衛たちは急いで荷物をまとめ始めた。


「すみません。そういうわけで、我々はここで引き返します。慌ただしくてすみません」

「いえ。くれぐれもお気をつけて」

 

 急いで出発の準備を整えた商人一行は、そうして来た道を戻っていった。

 カルデナスにもらった紹介状を使わずに目的の花は手に入ったうえ、パライソ自身がカルデナスに報告するなら、俺たちがこれ以上タバスコ商会に関わる必要はなさそうだな。


 でも、流れでわけのわからない陰謀に巻き込まれつつあるような気がする。

 俺は内心げんなりしながら、離れて待っていたメレスーロスに聞いたことを報告するのだった。


~あとがきTips~


【パライソ】


 >人族。46歳。マグー帝国出身。

 >>若い頃はAランク冒険者の斥候だった。クエスト中にSランク魔物に遭遇し敗北。仲間は全滅、パライソ自身も足に障害を抱えて冒険者は引退。リーダーの遺品であるアイテムボックスを受け継ぎ、バルギアに渡り商人として再起した。

 >>>エルフの里で貴重な薬草や花を買い込んだのは、長年培った彼の直感であり商才。魔物の襲撃のことはいまも知らない。人族の国家では経済奴隷は一般的であるが、エルフの子達の同意がなければ買い受けなかったつもりだったので、実はパライソはかなり良心的な契約をしていた。なぜエルフの子達が従順だったのかは本編で明かされる予定。

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[良い点] パライソさんかなりまともそうでよかったわ、流石天国を表す名前なだけあるな。 てか元A級か...
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