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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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竜姫編・10『竜姫様の冒険』

 

 ダンジョン前の広場にいたのは、ゴスロリワンピースに身を包まれた14歳の少女。

 ステータスの簡易表示だけでも彼女が竜姫だとわかる。なんせ真祖竜だから。


 たしかにクエスト依頼書には、14歳の少女が人族だってことは書いてなかったけどさ……ふつう竜姫が来るって予想しないだろ。書いててくれよ。


 とはいえ竜姫の見た目は、完全に人の姿と同じだった。

 サーヤも護衛対象の奇抜な中二病ファッションに面食らっているが、パッと見て竜種だとは気づけないだろう。


「お待たせしましたぞ、ひめ……お嬢様。そしてこちらが、今回同行していただくサーヤ様です」

「サーヤと申します。本日はよろしくお願いします」


 ハッと自我を取り戻したサーヤは、優雅にスカートをつまんで挨拶していた。


 対する竜姫は、包帯を巻いた右腕を顔の前に掲げて香ばしいポーズを取った。眼帯と包帯にそのポーズ……うん、間違いなく中二病患者だ。


「サーヤよ、此度は我が眷属としての同行を認めよう。旋律のように美しいそなたの名が、我が怜悧たる頭脳に刻まれたことを誇るがよい。そして傾聴せよ、我が名がはシャドウ=ダークネス! 混沌たる闇を従えし者なり!」

「…………。」


 予想より重症だった。サーヤもぽかんとしている。


「ふっ、我がオーラを畏れて言葉を忘れたか……しかし、それも唯人(ただびと)には詮無きこと。蒙昧なるニンゲンでは高貴なる我が魂を直視できぬのは世界の摂理であろう。それもまた、強者ゆえの悲しき定めなのだ。我が眷属であれど、この絶大な闇の前では無力なのだから……」


 どこか哀愁漂う表情の中二病娘。

 サーヤが、なぜか目を輝かせて竜姫のそばでかしずいた。


「大変失礼しましたシャドウ様! このサーヤ、シャドウ様の尊大なお姿に見惚れておりました。眷属としてあるまじき振舞、お許しください」

「えっ」


 突然の見事な眷属ごっこ(ロールプレイ)に、目をぱちくりと瞬かせた竜姫。

 なぜかサーヤのほうが嬉しそうに緩んでいる。


「つきましてはシャドウ様、誠に恐縮ではありますが、本日は護衛として隣に立つことをお許しいただきたい」

「こ、こほん……よい心がけである。よし、許そうサーヤよ。我と肩を並べることを許可する」

「感謝いたします」


 そう言うとサーヤは頭を上げて、竜姫の近くに立った。


 竜姫は14歳の少女としては平均的な背丈だ。体つきも、まさに中学二年生っぽさそのままの成長途上。10歳のサーヤより頭ふたつ背が高く、並ぶと姉妹みたいだった。


 竜姫は小柄なサーヤが隣にくると、喜びを必死に押し隠そうとした表情でダンジョンを指さした。


「そ、それではサーヤよ。我と共に深淵の探究に赴こうではないか」

「はい。参りましょう!」

「いってらっしゃいませ」


 ベーランダーに見送られて意気揚々と出発するふたり。

 隠れて護衛っぽい兵士がひとり、つかず離れずの位置から竜姫を見守っていた。気配遮断のスキルを使ってるっぽいけど、さらに後ろにいる俺からは丸見えだった。

 ま、そりゃいくら危険が少ないとはいえダンジョンだもんな。隠れて見守りもするか。


 俺たちもさらにその後ろから、こっそりとついていくのだった。






 バルギアの地下ダンジョンも、上層階はストアニアのダンジョンと大して変わらなかった。


 石に囲まれた迷宮はジメジメとしていて暗いが、出てくる魔物は子どもでも倒せる雑魚ばかり。

 サーヤのAランク冒険者並みのステータスでは万に一つも危険はなく、そもそも竜姫自身もそれなりに強かった。本当に話し相手が欲しかっただけみたいだな。


 退屈な子守になりそうだ――とあくびを噛みしめていると、談笑していた竜姫たちの前に一匹の魔物が飛び出してきた。


『キュッキュウ!』


 Fランク魔物の擬態猫(ミミックキャット)だ。


 ミミックキャット自身は弱いけど、他の動物に変身できる珍しいスキルを持っている。現に、いまはネズミに擬態して飛び出してきた。

 サーヤが一歩前に出て小剣を構えた。


「シャドウ様、お下がりください」

「サーヤよ、我も試してみたいことがある。任せておくのだ」

「はっ! お気をつけください!」


 竜姫はサーヤの隣に並んだ。


 彼女は包帯でぐるぐる巻きの右腕をミミックキャットに向け、左手で眼帯をめくった。眼帯の下に隠されていたは邪神が封印された瞳――などではなく、ふつうの目だったけどな。


「我に従え――『強制隷属(スペルギッシュ)』」

『キャウゥ!』


 竜姫が言い放った瞬間、ミミックキャットの擬態が解けた。

 ネズミから猫の姿に変化すると、その額に丸い紋章が浮かび上がった。いわゆる奴隷が刻まれる隷属紋だ。


「わっ! ネズミが猫になった!」

「ふっ、我との契約で真の姿に進化したか……」


 強者のポーズをキメる竜姫。

 元の姿にもどっただけなんだけどな。


「さあ、我が元に来るのだ眷属よ」

『キュウゥ~』

「わ! かわいい~。シャドウ様、テイムしたんですか?」

「うむ。かの猛獣は、我が契約により闇の眷属となったのだ。そなたの名は……マンティと名付けよう」

『キュ~』


 ミミックキャットは甘えるように竜姫の足元にすり寄っていた。まるで生まれたときから飼っていたペットのような反応だな。さっきまでの敵意など微塵も感じなくなっていた。


 いまのはテイマー系統のスキルだろう。弱い魔物とはいえここまでアッサリ従順になるとは、かなり高性能なスキルなんだろうな。

 竜姫の所有スキルを詳しく見てみたい気持ちになったけど、なんとか自重した。


 俺は相手が犯罪者や敵対者でもない限り、他人のステータス詳細を勝手に覗き見るようなことはしないと決めている。たしかに『虚構之瞳(みとおすもの)』は便利だけど、ステータス情報は完全にプライバシーだ。


 視えることと、視ることは違うのだ。

 情報化社会で育った俺としては、最低限のリテラシーは守る者と決めている。誘惑に駆られて何度メレスーロスさんのステータスを覗きたくなったことか……よく耐えたぞ、俺。


 ま、緊急時や仲間の危機を感じたら自重する気はないけどね。


「でもシャドウ様すごいですね。魔物も従えるなんて」

「ふっ、我が邪眼はあらゆる生命を闇へと誘う……よって普段は封印せねばらなぬのだ」


 さっき一瞬だけ眼帯外してたのはそういう設定だったからか。

 しかし闇に誘うって……どうみてもミミックキャットは光堕ちしてるんだが。満面の笑顔でほっぺすりすりしてるし。


「眷属たちよ。深淵が我に囁きかけてくる……」

「はい。次が5階ですね。いきましょう!」


 サーヤがうなずいて先へ進んでいく。

 通訳いらないの、すごくね?

 

 パーティに従魔が追加されて、トリオになって進んでいくサーヤたち。

 つぎに出てきた魔物は、竜姫が指示を出してミミックキャットが倒していた。同じFランクの魔物相手なのに圧倒して倒していた。どう見てもDランクくらいの素早さになってないか?


 このダンジョンも、他の冒険者たちが進路を床や壁に描いてくれている。それゆえ進むのに道に迷うことはほとんどない。もちろん、案内がない場所もあるけどそれは稀だった。

 5階に着いたところで、またもや魔物が飛び出してきた。今度はゴブリンだ。


「ゆくのだ、マンティよ」

『キュッキュウ!』


 ミミックキャットはゴブリンに擬態した。

 ゴブリンが驚いて怯んだ隙に、ミミックキャットが体当たりをかます。倒れるゴブリンに、猫に戻ったミミックキャットが爪と牙を立てて一方的に攻撃していた。

 すぐにゴブリンは倒れ、素材に変化していた。


「すごいですね、シャドウ様。マンティちゃんも!」

『キュッキュ!』

「ふ。深淵の安寧を守るのも我がつとめ……」


 そんな感じで、5階も先へどんどん進んでいった。

 異変を感じたのは出口付近だった。


「次はこっちですね」


 先導するサーヤが十字路を左に曲がった。迷わず進んでいるのは、当然先達の攻略者たちが残した矢印があるからだ。

 サーヤと竜姫、そして従魔たちの10メートル後ろで護衛の兵士がこっそりとついて歩き、彼から数メートル離れて俺たちがいる。俺たちは認識阻害で誤魔化しているから、隠れずに堂々と歩いているけどな。


「……ん?」


 俺が違和感を受けたのは、地面に描かれた矢印だった。 

 なんかここだけ、ちょっと矢印が新しい気がした。塗料の色は同じなのに、風化がそれほど進んでいないというか。無理やり汚して薄れされさせたというか。


 念のため、サーヤたちが進む先の部屋を透視してみた。

 ふつうの行き止まりの小部屋だった。


「ん。たんさ?」

「いや、そこまではいいよ」


 エルニの申し出は断っておく。

 明らかに矢印は間違いだったが、ダンジョンには色んな性格のやつらがいる。イタズラで矢印を書き直したのか、それとも冒険者を誘い込んで金品を強奪する気なのかもしれなかった。こういう状況で警戒は必要だが、いまのところ道の先にある部屋は無人なので害はなさそうだ。


 サーヤたちはそのまま小部屋に入っていった。扉はついてないので、外からでも中の様子は見える。護衛の兵士も部屋の外から、首をかしげている竜姫をじっと覗き見していた。


「あれ? シャドウ様、行き止まりみたいです。おっかしいなぁ、さっきの矢印こっちを指してたはずなのに」

「……まさか、我の暗殺を企んだ光の者たちの陰謀か」


 光の者なのに暗殺してくるのか。

 竜姫は少し不安になったのか、足元にいたミミックキャットをぎゅっと抱え上げた。


「さ、サーヤよ。そなたももう少し我が庇護下に寄るがよい」

「かしこまりました」


 サーヤも竜姫の怯えに気づいたのか、竜姫の近くに寄ると小刻みに震える手を握った。


「ひゃっ」

「シャドウ様、私の恐怖心を取り除くためにお手を触れる事、しばしお許しください」

「う、うむ……コホン、許可しようではないか」


 そうやってサーヤは竜姫と手を繋ぎながら引き返してくる。竜姫も幾分、不安が和らいだようで頬を緩めている。こうしてみると、しっかり者の妹と頼りない姉みたいな感じだな。

 久々にお姉さんポイントを加点しておこう。チャリン。


 ……ん? ちょっと待て。


 俺はこの状況に違和感を感じ取った。

 部屋から出てこようとするサーヤたち。部屋のすぐ外でその様子をうかがう護衛の兵士。さらにその背後で隠れながら見ている俺たち。


 あきらかにオカシイ。いや、俺たちが堂々と通路の真ん中で見学しているのを〝隠れながら〟と言っていることがオカシイんじゃないぞ。まあオカシイかもしれないが。


 なんで、護衛の兵士くんが慌てないんだ?


 隠れながら警護するなら、戻ってくる竜姫に見つからないように動くはずだ。

 なのにそれをしないってことは――


「すみません、姫様」


 ぽつりとつぶやいた兵士が、壁の一部を押し込んだ。

 ガコン

 その瞬間、部屋の入り口に隔壁が落ちてきた。


「「えっ」」


 壁が入り口を塞ぐ。

 サーヤと竜姫は呆気に取られてしまった。その一瞬の意識の隙をついて、サーヤたちの背後で別の罠が作動したのが見えた。

 

 勢いよく漏れてきたのは白いガスだった。

 ガスの性質は【催眠効果】。サーヤは状態異常に耐性がないうえにレベルも高くない。竜姫もそれは同じらしく、ふたりは壁の向こう側でガスを吸い込んですぐにフラフラし始めた。


 さすがに助けに行くべきかな。魔物がいない部屋とはいえ、若い少女たちが寝るには良い環境とは言えないからな。


 ちなみに護衛の兵士くんは逃げ始めていて、俺たちの横を通り過ぎたところだった。どういうつもりで罠を発動させたのか知らないが、いま俺が手を出す必要はあまり感じられない。サーヤになにかあったらボコボコにするつもりだけど。


 さて、壁をどうやって抜けるか。転移を使ったら一発だけど、竜姫の意識が残っているうちはやめておくか。見られたら面倒だし。


 俺がそう思って待っていると、突然、床が消えた。

 俺たちがいる通路の床じゃない。サーヤたちがいる小部屋の床だ。


 当然、空中に身を投げ出されたサーヤたち。


「エルニ、プニスケ、掴まれ!」


 さすがに見ている場合じゃない。

 俺はとっさに転移して、小部屋に出る。


 床の下がいつのまにか空洞になっていた。それも、かなり深い穴だ。少なくとも見えるような場所に底はなく、遥か下から風の音が聞こえてくる。


 竜姫とミミックキャットはすでに意識を失い、サーヤもまた竜姫の頭を抱え込んで眠っていた。護衛としての判断は正しいが、どっちにしてもこのままじゃ確実に落下死だ。

 睡眠からの落とし穴って、初心者向けの階層にあるようなギミックじゃねえだろコレ。


「エルニ!」

「ん。わたしはだいじょうぶ」


 俺はエルニを放して『相対転移』で真下に移動。

 すぐに右腕にサーヤ、左腕に竜姫を抱え込んだ。そのまま転移で上に戻ることも考えたが、そんな余裕はなさそうだった。


『シュラァ!』


 縦穴の窪みから、蛇の魔物が飛び出してきた。

 落下しながら俺たちに喰らいついてくる。鑑定結果では猛毒持ち。俺はともかく、サーヤと中二病娘に噛みつかせるわけにはいかない。


「『蹴転』!」

 

 両手が塞がってるので、ケリを喰らわせました。

『刃転』系統の蹴りバージョンだ。原理は『拳転』とまったく同じなので、とっさに発動した。ちなみに別のスキル扱いになってスキルが増えました。


『ジュッ!?』


 Sランク冒険者より遥かに高いステータスの俺が蹴ったらどうなるか。正解は蛇の顔が弾け飛びました。毒と体液がバラ撒かれる。やべぇ。

 さすがに皮膚に付いただけで死ぬほどのものじゃないだろうけど、念のため――


「エルニ頼む!」

「ん。『ウィンドカーテン』」


 俺の数メートル上で同じく落下しているエルニが、俺たち全員に蛇液がかからないよう風の防護服を纏わせた。フリーフォール中にも関わらず繊細な魔術操作。さすがエルニ。


 さて、問題は着地だ。

 重力による速度加算は一定時点で止まるとはいえ、このまま普通に着地したら地面のシミになる。俺の神秘術でもエルニの魔術でも、どっちにせよ着地するにはタイミングは計らないと。さっきの小部屋ははるか上空で、もう目視できないので転移で戻ることはできない。


「そろそろ見えてくれるといいんだが」


 いま地下何階層くらいだろう。あきらかにショートカットだよな、コレ。

 これでいいのか地下ダンジョン――と冗談交じりに思っていると、うっすらと地面?が見えてきた。その着地点に、何か巨大な蠢くものが……。


「おいおい、どんだけ高レベルな罠だよ」


 植物の魔物、マンイーターだ。

 上から落ちてくる獲物を待ち構えたその食人植物は、数えきれないほどの牙が並んだ口をガバっと開いていた。催眠ガス、落とし穴、猛毒蛇、そしてマンイーター。殺意しか感じないコンボなんだが?


「えっ――や、え、ぅにゃああああああ!」


 あ、竜姫が意識を取り戻した。

 目が覚めたら落下中で、下には巨大な魔物。そりゃキャラも忘れて絶叫もするわな。


「おい姫さん、暴れるな」


 筋力値は俺の方が高いけど、暴れられたら邪魔なのは変わりない。

 だが竜姫は俺の言葉には耳を貸さず、泣きながら手に抱えたミミックキャットを――


「おねがいマンティ!」

『キュゥウ!』


 なんと、下にぶん投げた。

 ミミックキャットも「まかせてご主人様!」みたいな面でマンイーターに果敢に飛びかかってい落ちていくが……いかんせん、小型に対して相手は超大型。ほらみろ。パクリと食べられたじゃねえか。


「マンティ――!」


 絶望の表情を浮かべてなおも暴れる竜姫。アホなのかな?


 ま、さすがにそろそろ対処しないとな。

 あと数秒で接敵&着地だ。


「『蹴転』」


 俺は蹴り飛ばす。魔物をケリ飛ばすのと、ケリを飛ばすのをかけたんだけどウマくない? え、別に? そうか……すみません。

 兎に角、俺の遠距離サッカーキックを受けたマンイーターは、やはり耐久値が足らずに破裂した。木っ端微塵ってこういうことを言うんだな、くらいに見事なほどに汚い花火になった。


「ふえっ!?」

「着地は――よし、プニスケ任せた」

『わかったなの!』


 プニスケは元気よく返事して、エルニの腕から弾けるように飛び出した。

 俺たちを通り過ぎた瞬間、その体が一瞬で巨大化した。縦穴を埋め尽くすほどの大きさになったプニスケは、俺たちを受け止めると最高級のクッションよりも柔らかく衝撃を吸収しながら落下する。

 

『巨大化』スキルもかなり上達したな。

 スライムの体に沈んでいく俺たち。


「わぷ! わぷ!」


 プニスケを信頼している俺たちと違って、竜姫は必死に暴れ回っていた。

 溺れるとでも思ってるのかな。でも安心しろ、プニスケの身体操作はそろそろ箸を持てるレベルだぞ。ほら俺たちの口と鼻の周りだけ呼吸できる穴をあけてくれてるだろ。


 ぼにゅんっ


 おっと、地面に着地したみたいだな。

 全身がプニスケに包まれているから、ほとんど衝撃は感じなかった。弾力操作のスキルをここまで使いこなせるとは、我が従魔ながら天才なんじゃないか? 今度は親バカとは言わせない。


『だいじょうぶ~なの?』


 プニスケは、体から俺たちを吐き出して地面に下ろした。

 ちょっと粘液にまみれたが、被害はゼロだな。……ミミックキャット以外は。


「ひぃいっ」


 同じく粘液まみれの竜姫が、通常サイズに戻ったプニスケを見て腰を抜かしていた。食べられると思ったんだろうな。攻撃してくる様子はないので、ひとまず放置だ。

 俺はまだ眠ったままのサーヤを起こす。手段はもちろんキュアポーション。


「……あれ。ここは?」

「穴の底だな。痛むところはないか?」

「あ、ルルク。たぶん大丈夫……助けてくれてありがとね」


 何があったのか、とは聞いてこなかった。察する力が高い幼女だ。

 それにしても、随分高いところから落ちてきたな。『虚構之瞳(みとおすもの)』を使ってもさっきの小部屋がまったく見えない。地下50階くらいまで来たんじゃないだろうか。


 俺たちが着地したのは、マンイーターが巣くっていた大きな部屋。扉のない入り口がひとつだけあって、その向こうには暗い廊下が見える。透視してみたけど、迷路があるだけで他に人や魔物はいない。それと見える場所に転移装置もないので、迷宮のかなり奥の方なんだろう。

 あとでエルニに索敵してもらうとして、まずは。


「ひっ」

 

 粘液まみれで怯えている、このお姫様をどうにかしないとな。



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― 新着の感想 ―
[一言] マンティ……惜しいやつをなくした……
[一言] そういえばサーヤって元重度厨二病患者なんだったっけ……
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