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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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竜姫編・9『竜都フォースとFランク依頼』


「見えたよ。あれが竜都フォースだね」

「うおおお。でっか」

「す、すごい……」

「ん。ひろい」

『おおきいなの! ごはんもいっぱいなの!』


 林に囲まれた小高い丘を登りきると、視界が一気に開けた。


 竜都はまさに大陸最大という看板にふさわしい荘厳さだった。

 外壁が低いため、街の様子がハッキリと見える。というか街が広すぎて反対側がまったく見えない。地平線までずっと続く都市……しかも、真っ白な都市だった。


 家も道も、あらゆるものが白を基調としている。

 輝かんばかりの光景に、俺たちはつい息を呑んでしまった。


 ちなみにストアニア王都は家はレンガ建築が主流で、道はすべて合成石灰(コンクリート)で舗装されていた。

 マタイサ王都は灰色の石造りが主流で、道もほぼ石畳らしい。


 対してバルギアは白一色の街並み。景観の良さではバルギアのボロ勝ちだな。

 ここから見たら都市全体が太陽の光を浴びて、まばゆく輝いているのである。


「神秘的だよね。竜王の威光を表現してるらしいよ」

「なるほどな……ま、そりゃ観光地にもなるか」


 この丘、バルギア屈指の観光地なのである。

 景観スポットとして大人気で、いまも俺たちの周囲にはたくさんの人がいる。意外かもしれないが、バルギア竜公国は観光産業が盛んなのだ。強い魔物が出なくて安全な旅ができるっていうのも大きな理由のひとつだろう。

 

「にしても本当に人多いな。逸れるなよ」

「ん」

「はーい」


 まあ逸れても探知人形(レーダー)があるから、二人ともすぐに見つけられるんだけどね。それにここから竜都までは一直線に丘を下って行けば着くから、迷子になることもない。

 というか人口300万人とも言われる竜都に入ってからのほうが、迷子になりやすいだろうな。


「冷静に考えたら異世界で300万人の都市ってすごいよな……地元(ムーテラン)の300倍か」

「ね。京都府民より多いって考えたら怖いよね~」

「しかも見てみろよ。ここから見える建物、ほとんど2階建てだぜ。そりゃ途方もなく広くなるよな」


 マンションなんてないこの世界、人口密度が現代日本に比べてスカスカなのである。

 全部住宅街だとしても、300万人住むってなるととてつもない広さが必要だ。


 感心していたら、隣でサーヤが遠い目をし始めた。


「京都も懐かしいね。修学旅行で行ったよね」

「そうだったな。俺はずっとホテルでサボってたから楽しい記憶はないけど」

「そ、そうなんだ。でも帰りの新幹線は一緒に話せて楽しかったでしょ?」

「ああ、隣の席になったっけ……あれ? そういえば隣の席、最初は鬼塚だったような……」

「き、気のせいじゃない?」


 んんん? 記憶違いか。

 まあいいか。確かめる術もないのだ。


「ルルクくんたち、何してるんだい? はやく行くよ~」

「はーい」


 いつの間にか進んでいたのか、メレスーロスとエルニが前方で手を振っていた。俺たちが足を止めていただけなんだけどな。

 俺もサーヤとの昔話をやめて、ふたりに追いつく。

 そのまま観光客たちの流れに従って竜都に向かった。






 かなり混雑していたので入るのに数時間かかったけど、無事にトラブルもなく竜都へと入ることができた。しいて言うなら、オッサンの門兵にプニスケは従魔だと説明したら鼻で笑われたくらいだ。あいつ、いつか泣かす。


 俺たちが竜都に入って最初にしたのは馬車を借りたことだった。


 メレスーロス曰く、冒険者ギルドとダンジョンがある第5中央区までは半日かかるらしい。中央まで半日って……と呆れていたけど、第5中央区は中央街のなかでも一番近いらしい。中央区だけでも9区画あるんだってさ。


 ちなみに中央区全体の周りを囲むように内壁があり、その内壁の上には汽車が走っているらしい。しかもなんとストアニア製の理術汽車らしい。

 ぐるりと線路が囲んでいる中央区画……山手線を思い浮かべた俺は悪くないと思う。


 兎に角、街中で転移を使えるわけもないので、俺たちは大人しく馬車を借りてゆっくり第5中央区を目指した。

 夕方になると太陽が白い街に反射し、都市全体が幻想的な茜色になっていた。おかげで飽きることなく馬車に乗り続けられたので、お尻が痛くなった文句は言わないでおこう。当然だけど、昔乗った公爵家の馬車とは揺れ方が桁違いに激しい。


 中央区に着いたのは陽が沈んでからだった。

 酒場から酔っ払いたちの喧騒が聞こえてくるなか、冒険者ギルドの前で馬車を降りた俺たち。

 ひとまず宿屋を確保しないと――と考えていたとき、メレスーロスが俺の肩を叩いた。


「よかったら、あたしが泊まってる宿屋紹介しようか? 基本は冒険者パーティ用の宿屋だから、シェアルームみたいになってるし」

「それは助かります」


 こういう大きな都市だと、宿屋の質もピンキリだ。

 少なくともダンジョンにも潜るつもりなので、セキュリティはしっかりしているほうが望ましい。その点、メレスーロスのおススメなら信用できる。


「じゃあこっちだよ。ついておいで」


 俺たちはメレスーロスのあとに続いて街を歩いた。

 案内されたのは、ギルドから徒歩10分ほどの場所だった。すぐ隣が広い公園になっていて、ギルド周辺に比べるとかなり静かだ。


 宿屋も2階建てで、やはり白い壁。騎士の宿舎みたいな横に長い見た目だ。

 玄関から入ると、広いロビーがあって受付があった。受付には恰幅の良いおばちゃんが座っていた。

 ちなみに髪型がパンチパーマ。昭和の香りがする。


「おやメレスーロスじゃないか。おかえり……って、そういえば随分早いね? クエスト失敗したのかい?」

「あはは。ちょっと事情があってね。ただいまテッサさん」


 おばちゃんはテッサというらしい。


「それでアンタの後ろにいるガキンチョたちはなんだい? 弟子でも取ったのかい?」

「あたしの臨時パーティ仲間だよ。ここまで一緒に来たんだ」

「へぇ……アンタが組むなんて珍しいね」


 興味深そうにこっちを見てくるテッサ。

 値踏みされているような視線を浴びたら俺も黙ってはいられない。こういうときは先制パンチだ。


 俺はすっと前に出て、貴族風のお辞儀をした。


「初めましてミセステッサ、俺はルルクといいます。こちらにはメレスーロスさんの紹介で参りました。こんな素敵なお嬢さんに出会えたことを喜ばしく思います」

「あらヤダお嬢さんだなんて……うふふ、おばちゃん嬉しいわぁ」


 頬を赤らめて笑うテッサ。

 よし、俺の勝ち。


「……ルルクって時々タラシだよね」

「ん。わるいおとこ」


 おい黙れ幼女ども。宿屋との交渉はすでに始まっているのだ。


「それでテッサさん、空き部屋はある? ルルクくんたちも泊めて欲しいんだけど」

「もちろんあるけど……でもいいのかい? うちは小さい部屋でもリビングがついてるから、子どもには値が張るよ?」

「ああ、それは大丈夫だよ。こう見えてもルルクくんたち、冒険者ランクはあたしと同じだけど、あたしより優秀でよっぽど稼いでるから」

「ほんとかい」


 テッサが目を(しばた)かせた。

 メレスーロスより優秀かはさておき、宿代をケチるつもりはないよ。

 なんたって睡眠は大事だからね。


「坊や、泊まるなら冒険者カードを見せてもらうけど……確認していいかい?」

「はい。よろしくお願いします」


 俺はテッサにカードを見せる。


 裏面に書かれてるのはストアニアダンジョンの攻略情報だ。これを見せたとき、メレスーロスは驚きすぎて腰を抜かしてたな。可愛かったぜ。

 テッサも裏面を確認してから頭を抱えた。


「……確かに、これでBランクは詐欺だねえ」

「だよね? Sランク冒険者でも100階層までたどり着くのに10年かかるって言われてるのにさ……」


 それはエルニのおかげですけどね。


 俺たちがSランク冒険者たちを差し置いてダンジョン攻略でトップに立ってたのは、ひとえにエルニの『全探査』があったからだ。

 だって、迷宮(ダンジョン)だぜ?


 敵の強さよりも迷路のせいで、先に進むのが難しいのがダンジョンだ。


 そんなところで万能探知の魔術つかってみ。一発で正解ルートがわかるんだよね。

 とどのつまり、エルニはチートってことでQED。


「ま、そういうわけだからルルクくんたちに部屋貸してあげてよ。ルルクくん、どんな部屋がいい?」

「俺はベッドが3つあれば――」

「はい! おっきな寝室がいいです! みんなで寝れるようなベッドがいいです!」

「ん。さんせい」


 え~。

 寝るときはひとりがいいんだけど。


「テッサさん、幼女たちのことは気にしないでください」

「あら坊や。男は甲斐性がないとダメじゃない」

「いやいや、甲斐性(おかね)はありますから……」

「大事なのは甲斐性(ほうようりょく)だよ」


 結局、テッサが貸してくれたのは2LDKのシェアルームだった。

 ただしキングサイズのベッドがある寝室がひとつと、リビング、そして防音室の2LDKだ。


 防音の魔術器が設置された寝室の半分ほどの部屋には、様々な筋トレ器具が置いてあった……なんで筋トレ部屋が防音なの? どういうチョイス?

 俺にはさっぱり理解できなかったが、なぜかメレスーロスは感心していた。


「じゃ、これは鍵だよ。一ヶ月ごとの契約だから、連絡なしでひと月以上部屋に戻らなかったら解約扱いで荷物は捨てるからね。くれぐれもクエストで出掛ける前は気を付けるんだよ」

「はい。よろしくお願いします」


 さすがに無連絡で一ヶ月も戻らないのは、死んだときくらいだからな。

 ダンジョン周辺の宿屋はこういう経営形態のところが殆どだな。


「キッチンもひろーい!」

「ん。おなかすいた」

『ボクもおなかすいたなの!』


 キッズたちがはしゃいでる。


 たしかにリビングは18畳くらいでかなり広々としているし、キッチンもコンロが3口ある。そういえば、俺も心臓(ロズ)のおかげで簡単な魔術器なら使えるようになったし、そう考えたら普通の宿屋よりこういう場所のほうが嬉しいな。

 紹介してくれたメレスーロスに感謝だ。

 

「よし、ちょっと遅くなったけど晩飯作るか」


 せっかくだし、竜都に来た記念にご馳走にしよう。

 忘れていたスターグリズリーの肉を使うことにした俺。


 ちなみに霜降り肉は、悶絶するほどうまかった。



□ □ □ □ □



 翌朝。


 冒険者ギルドに来た俺たちは、ひとまずサーヤのクエストを受けることにした。

 ダンジョンもいいけど、サーヤの冒険者ランクもあげてやらないとな。


 レベルはまだ13だけど、ステータス的にはものすごく高いのだ。なんせ加算値がオール2600で、これはAランク冒険者レベルの平均値くらいになっている。

 10歳でその数値って考えると、改めて『万能成長』のヤバさがわかる。


 とはいえ経験と比例していないのが問題だ。ステータスだけ上がっていくのは冒険者としてもよろしくない。なのでしばらくはサーヤの冒険者としての活動をメインにしようと思っている。


「うーん。Fランククエストはっと……」


 サーヤは頬に指をあてながらクエストボードを眺める。


「ルルク、これはどう?」

「えっと……『ダンジョン上層階での少女の護衛』? 護衛なのにFランクなのか?」

「ほら、ここ見てよここ」


 サーヤが指さしたのは詳細記述の欄。


 なになに、依頼主は貴族で護衛対象は14歳の少女。

 護衛対象の〝ダンジョンに行ってみたい〟という要望に応えて危険のない上層階(5階まで)の護衛を頼みたいとのこと。


 ただし冒険者は女性の未成年指定で、護衛は名目で本当は誰かとパーティを組んで探索したいからだという。仲良くすることは達成判定には含まれないので、話し相手をするだけでもクエスト達成。5階までなので危険性は相当低いが、条件付きなのでFランク依頼として受注可能。


「お友達が欲しいってことかな。貴族の子かなあ?」

「友達欲しいからクエスト依頼するって、地雷臭しないか?」

「そう? 貴族だから、きっと友達つくるのが難しいんじゃないかしら」


 コミュ障の俺としては絶対避けたいシチュエーションだけど、サーヤはむしろ好感を持ったみたいだった。

 そういえばサーヤも似たような環境だったっけ。だったら感情移入してしまうのも否めない。

 あれ、でも俺も他人(ひと)のこと言えないのでは? よく考えたら友達ゼロなのは俺も同じ……。


「なんで泣いてるのよ」

「聞くな。辛い現実を知ってしまっただけだ……」

「ふうん。じゃ、これ受けてくるわね! 初のバルギアクエストよ!」


 サーヤが受付に飛んでいった。

 クエスト受注の手続きは問題なく進み、今朝から待機していたという依頼主が待合室から出てきた。ずっと待機していたのか……貴族なのに?


 受付嬢から紹介された依頼主は、随分と身なりのいいアゴ髭の長い男性だった。


「こんにちはお嬢さん。私はベーランダーと申しますぞ」

「ごきげんよう。私はサーヤと申しますわ。本日はよろしくお願いします」

「これはこれはご丁寧に。依頼を受けて頂いて誠に感謝したしますぞ」


 サーヤを見下ろして目を細めるナイスミドルのベーランダー。

 ちなみに俺たちは少し離れて見守っている。サーヤ個人のクエストだから口や手を出す気はない。依頼主にも気づかれないように、『閾値編纂』で認識すら誤魔化して隠れて同行するつもりだ。


「早速ですが、ダンジョンまでご同行願ってもよろしいですかな? お嬢様がお待ちですぞ」

「ええ! お嬢様とも話してみたいわ!」


 ベーランダーは髭を撫でつけながら、サーヤを連れてギルドを出て行った。

 俺たちもこっそりと後をつける。


 ベーランダーとサーヤは、ギルド前に待たせていた馬車に乗り込んだ。

 ここからダンジョンは馬車でも10分ほどだ。さほど離れた距離じゃないが、徒歩なら普通に見失ってしまう。俺たちは姿を隠しながら馬車をおいかけなければならない。

 ふふふ、イベントミッションだな。


「ん。てんい?」

「いや、せっかくだし『閾値編纂』をフルに使う。エルニ、プニスケ、ちょっと掴まってろよ」


 認識阻害の術式を本気で使えばどうなるか。

 ……そう、馬車の上に飛び乗ってもバレないのである。


 俺は貴族らしい豪華な装飾で彩られた馬車の上で仁王立ちをする。足の下ではサーヤとベーランダーが世間話をしている。もちろんバレてないので、調子に乗って両手なんかも広げてみたり。

 ああ、風が気持ちいいぜ……。


「ん……またへんなことしてる」


 ジト目のエルニだった。

 そんな風に遊びながらスニーキングミッションをしていると、馬車はダンジョンの入り口についた。


 入り口の受付は、ストアニア王国のダンジョンと大差ないシステムっぽい。まあ同じ冒険者ギルドが管理しているから当然か。

 ただしストアニアほどダンジョン前の広場が混雑していない。露店はたくさんあるけど、まだ秩序的だった。


 お嬢様とやらがいたのは、広場の中央だった。

 ベーランダーとは別の貴族っぽい男が、まるで護衛のように少女の隣に立っていた。

 サーヤとベーランダーが彼女に歩いていくのを見て……俺は驚愕した。


「え、うそだろ」


 少女は鮮やかな桃色の髪を、片側だけ結ったサイドテールにしていた。ふつうならピンク髪なんてアニメちっくな派手な色は、相当目を引くものだったが……。

 しかし少女はそれだけじゃなかった。

 片目を黒い眼帯で覆い、ゴスロリの黒ドレスファッションに身を包み、右腕には包帯が巻かれている。


 テンプレを極めたよう中二病ファッションに身を包んだ14歳の少女。

 ……しかし俺の目を奪ったのはそんな外見ではなく。


―――――――――


【名前】セオリー=バルギリア

【種族】竜種・真祖


―――――――――


 ……うそん。

 俺は大きくため息をついて、天を仰いだ。


 噂の竜姫じゃねぇか。


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