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竜姫編・6『そんなこと言ったら人族は全員年下』

 

 メレスーロスと夕飯を一緒にとることになった俺たち。


 せっかくならおススメの食事処を教えてもらおうとしたが、メレスーロスも旅の通り道で今日この街に着いたばかりらしい。結局、中央街の治安がよさそうな酒場に入って、空いていた個室を手配してもらった。


 あれ? メレスーロスが尻込みしている。


「ル、ルルクくん。個室って高いんだよね?」

「問題ありませんよ。だいたいの相場はストアニアで学びましたから」


 ふだんはポンコツなのに、酒や酒場のことになると一気に頼もしくなる友人たちがいるからな。

 個室は商人や貴族たちが利用する社交場のような役割を持っているらしい。ほとんどが飲食店の二階にあって、専用の給仕がついていることが多い。もちろん呼ばれるまで部屋の外で待機しているから、密談もできる。


 俺たちが案内されたのもスタンダードな個室だった。テーブルは広く、絨毯まで敷いてある。雰囲気は酒場というよりレストランだが、あくまでメニューは酒場と同じなのでご愛敬だ。


「でも、その……言いにくいんだけどあたし手持ちがそんなになくて……」

「俺が誘ったんですから、もちろん俺が出しますよ」

「いや悪いよ。年下の君に奢ってもらうなんて」

「何言ってるんですか。そんなこと言い始めたら人族は全員年下になっちゃいますよ? それにほら、うちの子たちは遠慮なんてしないですから、メレスーロスさんもじゃんじゃん頼んでください」


 給仕にメニューの端からどんどん注文してく幼女たちとスライム。

 全員食欲の権化なので、見てて気持ちいい頼み方をしていく。


「それはそうだけど……なんか釈然としないなぁ」


 不満そうなメレスーロス。そんな顔も麗しいぜ。


 そもそもストアニアではダンジョン攻略者筆頭だった俺たち。種族や年齢など関係なく実力がすべてのストアニア社会では、友人に酒や食事をご馳走することなんかしょっちゅうだった。

 むしろ年齢を理由に遠慮されることなんて随分と久しぶりな気がしてちょっと新鮮だった。


 俺も食べたいものを頼んでいった。メレスーロスが遠慮しないように、けっこう多めに注文しておく。その甲斐もあってメレスーロスは渋々といった様子で、いろいろと注文していた。


 しばらく雑談を続けていると、料理が運ばれてきてテーブルに溢れんばかりに並べられた。さすがに食べきれるか不安だったが、まあプニスケはスライムという性質上ほぼ無限に食べられるので、残すことはないだろう。

 ぐぅ~と誰かの腹が鳴る。

 それが合図だった。


「「いただきます」」

「ん、たべる」

「ごちそうになるよ」

『たべるなの~!』


 全員かなり腹が減っていたようで、わき目もふらずに料理に手を付け始めた。

 ちなみにメレスーロスだけが酒を頼んでおり、俺たち未成年者は果実水だ。サーヤやエルニはいつも酒を飲みたがるけど、そのあたりは厳しく徹底している。

 未成年飲酒ダメ、絶対。


「しかしルルクくん、スライムってああやって食べられるんだね。120年以上生きてきて初めて知ったよ」

「え? プニスケはちょっと特殊ですよ」


 なぜなら触手を伸ばして器用にナイフとフォークを持ち、肉を切り分けてから自分の体にずぼっと突っ込ませて溶かして食べているのである。

 これがスライムのふつうだと思ってしまうメレスーロスは、ちょっと天然かもしれない……。


 もちろん俺が指示した食べ方だ。変形スキルの練習になるから、微細な動作を普段から練習させているのだ。ゆくゆくは箸を使わせ、調理すら教える気なのでこんなものじゃ満足していない。


 目指せ、世界初のクッキングスライム。そんな進化先があるかは知らないけど。


「スライムが喋るって時点で特殊なのに食べ方まで特殊なんだね。……本当にスライム? 新種の魔物っていう可能性はないのかな?」

「ちゃんとスライムですよ。ただ知力がものすごく高いので、言葉も道具も使えるってだけです。それ以外は普通のスライムですから。なあプニスケ」

『そうなの! ふつうのスライムなの!』

「そうか。そう言うならそうなんだろうね」


 納得したのか、プニスケのことはそれ以上聞いてこなかった。まあ喋れている時点で普通のスライムではないけどな。

 それよりもメレスーロスにはちゃんと話しておかなければ。


「それとエルニのことなんですけど、薄々勘付いてるかもしれませんが、この子は人族じゃありませんよ」

「やっぱり。どう見ても人族にしか見えないんだけど……まさか、これって神秘術?」

「はい。エルニ」

「ん」


 食事の手を止めさせて申し訳ないが、給仕がいないうちに教えておこう。

 エルニがローブを脱ぐと、正しい認識としてその姿がメレスーロスの目に映った。


「おおっ! まさかの羊人族!」

「ありがとうエルニ」

「ん」


 再びローブを羽織るエルニ。一度正しく認識したので、これでもうメレスーロスからはちゃんと羊人族として見えるはずだ。

 そんなメレスーロスも羊人族を見るのは初めてだったのか、やや興奮した面持ちになっていた。


「噂には聞いていたけど、本当に愛らしいんだね。エルニネールちゃんは何歳なんだい? 羊人族はエルフの半分くらいの寿命って聞くけど」

「寿命はそれくらいみたいですよ。エルニはいま22歳なので、成年まであと3年です」

「まだ未成年なんだね。ああ、だからルルクくんが酒は飲ませないって言ってたんだ」

「そうです。うちのパーティには成人がいないので、そのあたりは徹底してます」

「真面目だね。そういえば君の師匠だっていう、あの正体不明の人物は……いや、これは聞かないほうが賢明かな。ごめんね」

「いいんですよ。先日、別れを済ませましたけど死んだわけじゃないですし。むしろ一心同体っていうかなんというか……」

「はは、君は師のことを尊敬してるんだね。いいことだよ」


 さすがに文字通りの一心同体になったとは思わなかったようだ。そりゃそうか。

 そこからメレスーロスの興味は、エルニと肉の取り合いをしている黒髪ツインテールに移った。


「それとサーヤちゃんだっけ。君は人族でいいのかな?」

「そうよ。サーヤ=シュレーヌ、人族の10歳。シュレーヌ子爵家の跡取りにして新人冒険者、肩書はそれくらいかしら……あっエルニネールそれ私が切ったやつ!」

「ん、しふく」

「もーほんとずるい! ルルク、ここに悪い子がいるわ! ちゃんと叱って!」

「こらエルニ、しっかり噛んでから飲み込みなさい」

「そうじゃないよね!?」


 同じような肉はまだまだ残ってるのに、めちゃくちゃ悔しそうにするサーヤ。自分が切った肉にそんなに愛着がわくものなのか……食欲っておそろしい。


「まあそんなわけで、俺とエルニ、サーヤとプニスケで【王の未来(ロズウィル)】って名前で活動を始めてます。パーティランクはBランクですけど、しばらくはサーヤとプニスケの育成って感じなので、あまりパーティでの活動はしないつもりですけどね」

「そっか。まあそれがいいね。先は長いんだし」

「メレスーロスさんはどうしてこの街に? たしか前は、故郷に戻るって言ってましたよね」


 以前はストアニア王国の手前で別れたはずだ。


 バルギア竜公国経由かマグー帝国経由かは知らないが、どっちにしても二大国家の北にあるルネーラ大森林に向かったのが4年前。ずっと旅をしてるならここにいるのも納得だが、たしか一緒に活動していた冒険者パーティを離れたって言ってたっけ。

 俺の素朴な疑問に、メレスーロスは苦笑して答えた。


「恥ずかしい話なんだけどね、里帰りしたはいいものの親と大喧嘩しちゃってさ。それでまた家を飛び出して冒険者稼業を再開したってわけ。バルギアを拠点に活動してて、ちょっとしたクエストでレスタミアまで来たのさ。いまは帰り道だけどね」

「バルギアが拠点なんですか。俺たちもバルギアに行くつもりなんですけど、バルギアのどのあたりですか?」


 大陸一の国家はものすごく広い。

 それなりの大国であるマタイサ王国の、さらにその5倍以上の国土を持っているので、一口にバルギアといっても北は大森林近くから南はこのレスタミアまでだ。

 西も東も同じくらいの距離があるので、横断するだけでもふつうは数か月かかるのだ。


「部屋を借りてるのは竜都フォースだよ。ドワーフの子と相部屋だけどね」

「フォースっていうと、バルギアの中心都市でしたっけ」

「うん。ものすごく広いよ」

「ストアニアの王都よりですか?」

「そうだね。広さだけなら10倍はくだらないかな」


 それはすごい。

 理術大国のストアニアでも汽車移動が必要な広さだったのに、その10倍とは。少なくとも東京23区以上はあるんじゃないか? まあ国土に比べたらちっぽけなもんだろうけど……。


 せっかくバルギアに滞在するつもりだし、寄ってみよう。俺たちも拠点にするのもいいかもな。

 そんな思い付きを敏感に察したのか、サーヤとエルニが食いついてきた。


「竜都に行くの? じゃあ本物の竜種(ドラゴン)に会えたりする?」

「ん、りゅうたいじ」

「いやさすがに会わないだろうし、退治はやめれ」


 バルギアは竜王を崇める国だぞ。

 いつものエルニの脳筋反応に、さすがにメレスーロスも冷や汗を流して苦笑した。


「まあエルニネールちゃんなら下位の竜種相手なら余裕で勝てそうだけど……いま聖地以外にいる竜種って言ったら、竜姫様くらいしか聞いたことはないかな。でもお姫様だから会えたりはしないと思うよ」

「ああ、そういえば噂で聞きましたよ。ずいぶんワガママなんだとか」

「そういう噂だね。あたしももちろん会ったことないけど、かなり変わった竜種だってよく聞くよ」


 馬鹿正直に噂を鵜呑みにするのもどうかと思うけど、以前のアルミラージ討伐で村人たちからかなりの反感を買っていたのは確かだ。


 さすがに街中で偶然会うようなことはないと思うけど、バルギアに着いたら普通の冒険者としてつつましく生活しておこう。

 変なフラグは立てたくないしね。


「じゃあルルクくんは、このままバルギアまで真っすぐ目指すつもり?」

「はい。国境手前の街にはサーヤの運搬クエストで寄るつもりですけど」

「うんうん、あのあたりは周囲に集落もないし、馬でいくにしても徒歩でいくにしても一度寄らないと野宿続きになっちゃうから、クエストがなくても寄った方がいいよ。あたしもソロなうえに徒歩だから、確実に休めるときに休んでおきたいし寄るつもりだから。ルルクくんたちも一緒に行くならあたしとしては安心だし……せっかくだから臨時パーティとして一緒にどうかな?」

「あ~……そのことなんですけど、メレスーロスさん」


 ちょっと言いにくいけど、いまのうちに言っておこう。

 ここまで状況が揃ってるので、バルギアまで旅の仲間として同行することは既定路線だしな。

 

「もちろん同行させて頂きたいんですけど、じつは俺たち、ふつうの冒険者より街から街への移動が早いんですよね。なのでむしろ一緒についてきて欲しいというか」

「そうなの? 馬でも借りてる?」

「転移です」

「……え?」


 目を点にしたメレスーロスに、もう一度言った。


「俺とサーヤは、転移の神秘術を使えるんですよ。一度で地平線とまでは行かないですけど、見晴らしのいい場所なら徒歩で半刻くらいの距離を一瞬で転移できますから、何回も使えば街から街へは半日で移動できるんです。ですからメレスーロスさんにも、一緒に転移で移動してもらいたいんですけど……」

「…………。」

「あれ? メレスーロスさん? メレスーロスさーん?」


 ……ダメだ、反応がない。ただのしかばねのようだ。

 するとサーヤが肩をすくめて呆れるように言った。


「あのねルルク、転移って魔術なら禁術指定でしょ。そりゃふつうはこんな反応になるわよ」

「でも相対転移は短距離用だぞ? 禁術は長距離転移の話だろ」

「そうなんだけど、一般論では距離の問題じゃなくて技術の問題なの。そりゃルルクはあの人の弟子の期間が長かったからそんな当たり前みたいな感覚かもしれないけど……ふつうはこうなるわよ」


 そこまでなのか?

 そりゃ転移は特別だってことくらいわかるけどさ。


 でもそんなこと言ったらエルニだって禁術いくつも使えるし、まだまだ憶えるつもりだもんな。

 なあエルニ。


「ん、まかせて」

「はぁ、まったくこの先輩弟子たちと来たら……」


 固まるメレスーロス、呆れるサーヤ、気合十分なエルニ、そして黙々と飯を食べ続けるプニスケ。

 こうして俺たちはメレスーロスを加えた臨時パーティを結成したのだった。

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