空軍士官学校の候補生④
計器類の概要は以上である。次にトリムコントロールについて説明してみよう。トリムコントロールとは、航空機を一定の速度や姿勢に保つ必要があるときに、トリムを使用すると、パイロットが操縦桿などの操縦装置に力をかけ続けなくても、これらを特定の位置に保持することができることを指す。機体が水平巡航飛行を維持できるように正しくトリムを取っている場合は、時折発生するバンプや針路の小さな修正のために操縦桿やペダルで微調整する以外は、手放しで飛行することができる。しかし、出力を上げると機体は加速し、より多くの空気が尾翼上を流れるため、機首上げ傾向が発生する。そのため、高度を維持するために操縦桿を向こうに倒し続けなければならない。また、逆に出力を下げると、機体は減速し、尾翼上を流れる空気が減少するため、機首下げ傾向が発生する。この場合は、高度を維持するに操縦桿を手前に引き続けなければならない。こうした姿勢を数分間以上続けるのは、パイロットの大きな負担になる。そこで、機首上げ傾向が発生した場合は、水平尾翼についている動翼=昇降舵エレベーター上を流れる空気が発生させる力の変化を補正するエレベータートリムを下げて尾翼にかかる負圧を補正し、逆に機首下げ傾向が発生した場合は、そこで、エレベータートリムを上げて尾翼にかかる負圧を補正してやるのである。トリムコントロールを行う場合、パイロットはトリム操作用のホイールを回転させてトリムタブを動かした。機首下げ方向にトリムを作動させるには、ホイールを前方または上方へ回転させる。逆に機首上げ方向にトリムを作動させるには、ホイールを後方または下方へ回転させる。トリムホイールを動かすと、トリムタブは操縦翼面と反対の方向に移動する。エレベーターを上昇位置に保つには、トリムタブを下に動かしてやればよいのである。
次にフラップを説明しよう。フラップは主翼を変形させ、揚力と抗力を増加させる装置である。この二つの力を増加させることによって、航空機を低い対気速度で飛行させたり、速度を上げずに急角度で降下させたりすることが可能になる。フラップは、主翼の後縁部から下方に向けて折り曲がるよう造られている。それによって主翼の湾曲率、つまりキャンバ(翼断面の反り)が増すため揚力が増加する。また、フラップが下がることで抗力も増加する。ほとんどの航空機では、フラップを五~十五度下げると、よりすばやく離陸させることができる。また、フラップを 二十度以上下げると、揚力よりも抗力の方が増加するので、着陸はフラップを 二十度以上下げて行うことになる。ただし、フラップを下げたり上げたりした場合、ピッチを調整する必要が生じる。たとえば、フラップを下げると、機首は上がる傾向があるので、機首を水平に保つためにヨークを向こうに倒し、さらに操縦桿の操作を補助するためにトリムコントロールを使用する。 同様に、フラップを元に戻すと機首は下がる傾向にあるので、操縦桿を手前に引き、機体が安定したらトリムを使用して操縦桿の操作を補助するのである。ちなみに、フラップはスピードブレーキとして使用するものではない。フラップを下げられる最大速度よりも速いときに操作すると、フラップに構造的な損傷をもたらすことがあるので注意しなければならない。
最後に、飛行中の機体の向を変えるには、どんな操作をしなければならないかを説明しよう。航空機が上空で曲線を描いて向きを変えることを“旋回”と言う。旋回を行うための手順を説明する。
まず、操縦席の足もとにペダルがある。これを“ラダーペダル”と言う。これは垂直尾翼についている方向舵ラダーを動かすためのもので、飛行中に機体の向きを変えるときに使用する。左側のペダルを踏んでラダーを進行方向に向かって左に振ると航空機の機首は左に、反対にラダーを右に振ると機首も右に向く。しかし、ラダーペダルを操作するだけでは、機体を旋回させることはできない。機首の向きをラダー操作によって変えたとしても、機体全体が方向転換するまでには必要以上に時間がかかってしまう。そこで主翼に装備されているエルロン(補助翼)を使う。操縦桿を操作すると、エルロンが作動する。エルロンは左右の主翼の後ろ縁に取り付けられている動翼で、上下方向にパタパタと動く。飛行中に右主翼のエルロンを下げると、逆に左主翼のエルロンは上に向く。このとき、エルロンを下げた右主翼は揚力が増加して翼は上に持ち上げられ、エルロンを上げた左主翼は揚力が減少して下に引っ張られる。その結果、機体は翼を下げた左側に傾き、空中を横滑りするような形で移動していく。このように、航空機はラダーによる機首の方向転換とエルロンによる横滑り移動を組み合わせることで、左右に旋回する。ちなみに機体を傾ける角度のことを“バンク角”と呼び、バンク角を大きくとればとるほど、小回りな旋回になる。
なお、前記した水平尾翼のエレベーター(昇降舵)は、飛行中に上に向ければ機首は上がり、下に向けると機首は下がる。機体の上昇・下降をコントロールするのがエレベーターの役割である。操縦桿を引き起こすとエレベーターは上を向き、引き倒せばエレベーターは下を向くようになっている。
このようにパイロットは、両手両足を使って主翼のエルロン、垂直尾翼のラダー、水平尾翼のエレベーターという三つの「舵」を操作して鳥のように自由自在に空を飛ぶ。そのため、常に厳しい訓練を重ねる必要があるのだ。