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カノーネンフォーゲル eins  作者: 田鶴瑞穂
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ベルゴルド決戦②

 補給を待つ間、例によってシャルロッテとエンゲルは温めたミルクを飲みながら寛いでいた。

 「早く!早く!」

 多くの搭乗員が整備兵を急かしていた。シャルロッテはゆらりと立ち上がり、彼らに歩み寄ると言った。

 「整備兵を急かすな。彼らは彼らで全力でやってくれている。失礼だぞ!」

 「しかし、司令。こうしてる間にも奴らが国境線を越えるんじゃないかと・・・。」

 「そうです。気が気ではありません。」

 「落ち着け。焦っても良いことは何もない。お前達も温かいミルクでも飲んで、まったりしろ。心を平穏に保つことこそ、命中率を上げ、生還率を上げる秘訣だぞ。」

 これを聞いて、搭乗員達は整備兵達に詫びを言い、シャルロッテ達とミルクを飲むことにした。椅子に座り、ミルクを美味しそうに飲むシャルロッテを見ている内に、搭乗兵達も落ち着いてきた。百戦錬磨、不死身の砲撃王シャルロッテのようになりたい。カノーネンフォーゲル乗りにとって、シャルロッテは目標であり、憧れの的、栄光のシンボルだった。その彼女が秘訣だと教えてくれたのだ。従わない訳にはいかない。しかし、カノーネンフォーゲルに乗っている時は鬼神のような彼女だが、こうしていると妙齢の美しい少女だ。そのことを思い出し、搭乗員達は思わず顔が赤らんでしまった。その様子を端から見ていたエンゲルは思わずクツクツと笑ってしまった。

 「何か面白いことでも?」

 「自覚がないの?シャル。皆、恥ずかしがっているわよ。」

 「誰しも経験が浅いと気が逸るものよ。私もそうだったもの。恥ずかしがることは無いわ。」

 「そこじゃ無いのよ!」

 エンゲルは再びクツクツと笑い、搭乗員達はますます赤くなっていった。

 やがて補給が終わったと整備兵が知らせに来た。それを聞くとシャルロッテの顔付きは一変し、いつもの鬼神に戻った。

 「さぁ!行くわよ、皆!」

                      ☆

 二度目の出撃は、先ほどとは異なり、法皇国軍からの反撃をかなり喰らうこととなった。対空戦闘に特化した四十mm機関砲搭載型中戦車が集まって、カノーネンフォーゲルに対し真っ向勝負を挑んできたのだ。

 「シャル!凄い対空砲火よ!」

 「奴らかなりのベテランね!曳光弾を使わないから、こちらにとってはどこを狙ってるのか分かり辛い。上昇すると撃ってこないし、下降すると撃って来る。実に見事だ!よし、私が囮になる!!私が突っ込んで敵が対空射撃を始めたら、各員、攻撃を対空火器に集中しろ!!」

 『『了解!!』』

 シャルロッテは、上昇と下降を巧みに繰り返し、撃墜を免れながら対空戦車群の上空を飛び回った。さすがに無傷と言う訳にはいかず、シャルロッテの機はあちこちに被弾したが、致命傷は受けていなかった。シャルロッテ機の動きに目を奪われている隙に乗じて、僚機が寄って集って砲撃し、敵は次々と炎上していった。

 「対空砲火潰しはうまくいったわね。これで四十輌を撃破したわ。次よ!!」

 「シャル!もの凄い大きいのがいるわ。ひょっとして、あれが噂のラスプーチン戦車!?」

 この度の作戦に、法皇国は戦況を覆すべく秘密兵器である重戦車『ラスプーチン』を投入していた。全長十m、重量四十六トン、主砲に四十六口径百二十二mm加濃砲を搭載し、前面装甲は百二十mm、八十八mm加農砲の直撃にも耐える怪物だった。

 「よし、次はあいつを殺る。行くぞ!!」

 「で、でも・・・噂では八十八mm弾を弾く化け物だって!!」

 「どうせ前面装甲のことでしょ!!上面は薄いはず。真上からぶっ放してやるわ!!」

 攻撃開始に必要な高度、七百三十メートルを求めてシャルロッテは機体を上昇させた。

 「食らえ化け物!!三十七mm徹甲弾よ!!」

 砲塔の天蓋に、まるで吸い込まれるように灼熱した赤い塊が向かって行った。次の瞬間、もの凄い爆発が起こり、巨大なラスプーチン戦車の砲塔が吹き飛んだ。

 ところが・・・。

 ドギャ!!

 鈍い音が足下で聞こえたかと思うと、シャルロッテは苦痛に顔を歪ませた。右足にまるで灼熱した鋼を当てられたようだった。

 「(私の右足が燃えている?!もしかして、私の脚が無くなった・・・!?)」

 痛みと言うよりも、それは身を炙られるような熱さだった。さすがのシャルロッテも苦痛で操縦が上手くできなくなったほどだ。

 「エンゲル、もう駄目・・・私の右足が無くなっちゃった・・・。」

 「馬鹿なこと言うんじゃない!!本当に足が吹っ飛んでたら話なんかできるはず無いじゃ無い!!そんなことより、機体と左翼が燃えている!!不時着しなさい!!四十mm弾を喰らったんだわ。」

 「(ああ、まずいな・・・。目の前が真っ暗で何も見えない・・・。)」

 「操縦桿を引け!!シャルぅぅぅぅ!!!!」

 「(そうだ、操縦桿!!)す、すまないエンゲル・・・なんとか不時着できそうな場所を・・・教えて・・・。」

 「前方は小山で地形は良くないけど、もうこのまま降りるほかはないわ!!操縦桿をもっと引いてシャル!!」

 「(何とか左足だけでラダーペダルを操作して・・・。翼が損傷してるからフラップは働かないだろうなぁ・・・。機首を上げて失速させ、機体をうまく落とすんだ……。)」

 機首が上がり、機体は急速にその速度を減じていた。満身創痍のカノーネンフォーゲルはお尻を地面に接してさらに速度を落とし、最後に機首をドスンと地面に叩き付けて停止した。

 「(あぁ・・・これで・・・これでもう休めるんだ・・・。)」

 「シャル!!シャル!!しっかりしなさい!!」

 エンゲルの自分を呼ぶ声が徐々に擦れていく。シャルロッテの意識は、ここでプツンと途切れた。


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[良い点] 有名なあのシーンがここで……
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