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カノーネンフォーゲル eins  作者: 田鶴瑞穂
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「天空の魔女」殲滅部隊①

 五月十九日、部隊に重要な変更が行われた。これまで地上攻撃にかかわる部隊は、急降下爆撃隊・地上攻撃隊・戦闘爆撃隊・対戦車隊など雑多な部隊の寄せ集めであった。これらを統合して任務を確立することになった。その結果、急降下爆撃航空団は『地上攻撃航空団』と改名され、初代航空団司令にはカール・シュテップ少佐が就任した。同時にシャルロッテは第二地上攻撃航空団第三飛行隊長に任命された。副官には、ヘルムト・フィッケル中尉が就いた。以後、彼は戦闘時にハンス・ブラットと共にシャルロッテの僚機として必ず出撃する「天空の魔女の影」の一人となった人物である。

 統合後の部隊の初仕事は、ハルキ方面で法皇国軍に圧迫を加え、周辺から彼らを駆逐することだった。ハルキ方面の要塞は、法皇国による四月大攻勢で破壊されたため、その修復と増強のための工事を行う時間稼ぎをするのが目的だった。

 「今回の作戦は時間稼ぎだ。法皇国の戦車を工事現場に近づけるな!」

 シャルロッテの訓示を受けた後、第三飛行隊の面々は各自のヴァンダーファルケへと乗り込んだ。

 「フィッケル、ブラット、我々も行くぞ!」

 「了解です、大尉・・・しかし、今日の天候はひどすぎます。雲が多くて敵機も対空砲火も見えそうにありませんよ。」

 「敵の陸上部隊は天候を理由に侵攻を待ってはくれない。視界が悪くても出撃する!なぁに、向こうさんも条件は一緒だ。雲は我々の姿も隠してくれるさ。」

 「確かにそうですね・・・行きましょう!」

 シャルロッテ達第三飛行隊は、低い雲を覆いにして出撃した。ところが、敵の密集部隊を発見した直後、シャルロッテの機体にタタタっと言うリズミカルな衝撃が伝わった。

 「むっ!機銃弾か!畜生、喰らったぞ!マリー、大丈夫?怪我は無い?」

 「私は大丈夫よ!それにしても、いったいどこから撃たれたのかしら・・・機影は見えなかったわ。雲に隠れているのかしら。」

 「旋回して雲の中に入る!」

 シャルロッテは、ヴァンダーファルケを急旋回させると、雲の中に突入した。

 「『皆、無事か?敵の機影を見た者はいるか?』」

 飛行隊の面々に無線を使って聞いてみたが、返事は『否』ばかりだった。

 「よし、雲の上に出る!」

 シャルロッテは高度を上げて、雲の上に出た。上から雲の中の機影を確認しようとしたが、厚すぎる雲は全てのものを覆い隠しており、機影などは見えなかった。

 「くそっ、何処にいるんだ!」

 シャルロッテの顔に焦りの色が浮かんだ。そこに緊急無線が入った。

 『隊長!へリンク機が撃たれました!火を噴きながら落ちていってます!』

 へリンク中尉は、地上支援で黒瑞宝章を授与された猛者の一人だった。

 「(私の勘が、「これは拙い」と警鐘を鳴らしている・・・ここは退くべきだ!)全隊員に告ぐ!今すぐ撤退せよ!繰り返す、今すぐ撤退せよ!」

 こうして、何ら戦果を挙げること無く撤退した第三飛行隊だったが、今回の出撃でへリンク機を含めてヴァンダーファルケを三機も失ってしまっていた。しかも最後まで敵の正体は不明だった。

 「一体、どんな奴なんだ・・・。まずは敵の正体を見極めなければ・・・。」

                 ☆

 時間は少し遡る。ここは、法皇国大神殿の中である。神の象徴である黄金のモニュメントの前に立つのは、法皇ラスプーチンだった。

 「チェルノブ大元帥よ・・・一体何時になったら共和国は神の御名に平伏すのだ・・・。」

 長いボサボサの髪の間から垣間見える灰色の目が、瞬きもせずに跪くチェルノブをじっと見つめていた。チェルノブは、恐ろしさのあまり失禁しそうになりながらも、何とか声を絞り出して答えた。

 「大法皇様、将兵は全力を尽くして神の代行を執行中であります。もう少しのご猶予を頂きとうございます。」

 しばらくの沈黙の後、法皇ラスプーチンは再び口を開いた。

 「・・・新型戦車まで投入した作戦も失敗に終わったそうではないか・・・。いくら神のご加護があるとは言え、我が国の資源、工業力も無限では無い・・・一体どうしてこのような失敗が続くのだ・・・。」

 法皇の口調は一本調子で、抑揚は感じられない。それが一層チェルノブの恐怖心を煽っていた。

 「共和国の空軍に凄腕の爆撃手がおります。奴一人のために我が方の戦車三千輛以上が破壊されております。」

 「・・・一人でか?・・・そんな事がヒトにできるのか?・・・」

 僅かではあるが、珍しく法皇の声に感情が混ざっていた。

 「はっ!間違いございません。共和国では奴のことを英雄視しております。」

 くわっと法皇は眦が裂けんばかりに目を見開いた。そして、長年仕えているチェルノブですら聞いたことの無い大きな声で言った。

 「其奴は、神の敵!サタンである。その男を殺さねばならぬ!」

 その言葉を聞いた途端、チェルノブは自分の報告の不十分さを悔いた。法皇の言を正さねばならないことに胃腸を吐き出さんばかりのストレスを感じつつも、今ここで訂正しなければ、一層の恥を法皇にかかせる事になる、そう考えて勇気を振り絞って発言した。

 「法皇様・・・一点、訂正させて頂かなければなりません・・・。『その男』ではありません。『その女』であります・・・。」

 それを聞いた法皇は、呻き声のような音を吐き出し始めた。しばらく続いたその状態を、チェルノブは永遠の責め苦のように感じ、遂には吐血してしまった。その様子を見た法皇は、ようやく音の吐き出しを止め、口を開いた。

 「・・・女・・・女か・・・。では、其奴は『天空の魔女』だな・・・。チェルノブよ、全ての国民に知らしめよ。我らの前に、神の敵である『天空の魔女』が出現した。必ずこれを討ち滅ぼさねばならない、と。」

 「御言葉、確かに承りました!早速、実行いたします!」

 チェルノブは血塗れの顔を床に伏せ、這いつくばりながら答えた。

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