新たな伝説
「そろそろハルキだな・・・。」
「あ、見えたわ、シャル!!」
「何だ!あの惨状は!!要塞を突破した敵戦車が次々と入って来ている!しかも見たことの無い型だわ。新型か!!」
要塞線を突破してきたのは、法皇国最強と謳われる第一親衛軍の第五、第六機甲連隊だった。新型戦車のみで構成された二つの機甲部隊の突破力は凄まじく、攻撃を仕掛けられた要塞守備隊は壊滅してしまったのだった。北側に機甲部隊を集めていたのも失敗だった。機動力に優れた敵新型戦車を要塞備え付けの機関銃や加農砲だけでは迎撃できなかったのである。守備隊を殲滅した機甲部隊は、悠々とトーチカ群を乗り越えて共和国領内に侵入していた。
「味方の救援部隊が駆けつける前に、敵の戦車群を屠らねば。皆!行くよ!」
対戦車中隊十五機のカノーネンフォーゲルは、一斉に第五機甲連隊に襲いかかった。
☆
視界が左右に猛スピードで流れていく。最初は豆粒ほどだった敵戦車がぐんぐん大きくなっていく。カノーネンフォーゲルにブレーキがかかったような衝撃が走る。前方に向かって灼熱で真っ赤になったタングステン弾が飛び、敵戦車に吸い込まれていく。次の瞬間、敵戦車は炎に包まれて停止した。すぐに大きく旋回し十分な距離をとる。次の生きている敵戦車を見つけ、そちらに向かう。敵戦車が視界の中でぐんぐん大きくなっていく。真っ赤なタングステン弾が、また敵戦車に吸い込まれていく。今度は砲塔をびっくり箱のように吹き飛ばして敵戦車は停止した。
シャルロッテは、このような作業を二十四回繰り返し、結果、二十四輛の敵戦車がスクラップと化した。他の隊員も、さすがにシャルロッテほどでは無いにしろ、各機平均十輛の敵戦車を仕留めていた。
『こちら第一親衛軍、現在敵の攻撃を受けている!繰り返す、こちら第一親衛軍、現在敵の攻撃を受けている!』
『奴らは、空飛ぶ大砲を持って来た!繰り返す、空飛ぶ大ほ・・・ぐぎゃああああ!!』
助けを求める声が空しく響き渡る。シャルロッテに鍛え上げられた対戦車中隊の攻撃により、瞬く間に法皇国が誇る第一親衛軍第五機甲部隊は消滅した。
「あらかたやっつけたようね。弾も切れたし、一旦帰還しましょう。」
「シャル!!まだ新型戦車の群れがいるわ!要塞線を今越えてきているわ!」
「今やっつけた部隊と同規模ぐらいね。敵の増援?フォーゲル1より新ケルチ。応答せよ。」
「こちら新ケルチ。」
「フォーゲル1より新ケルチ。敵の新たな戦車部隊が要塞線に出現。すぐに出撃できるカノーネンフォーゲルを準備しろ。帰還してすぐ再出撃する。」
「新ケルチ了解。すぐに手配する。」
対戦車中隊が新ケルチ基地飛行場に帰還すると、整備兵達が滑走路横で待っていた。その傍らには十五機のカノーネンフォーゲルが小気味良い音を立ててプロペラを回していた。シャルロッテが着陸してキャノピーを開くと、待ってましたとばかりに整備兵長が叫んだ。
「出撃準備は完了しています!いつでも飛ばせます!」
「有り難う兵長!よし、行くわよ、マリー!」
「OK、シャル!」
シャルロッテ達中隊メンバーは、新たなカノーネンフォーゲルに乗り換えて再出撃した。基地との間を往復している間に、敵戦車群は共和国領内にかなり入り込んでいた。
「見つけたわ、シャル!さっきの敵戦車群よ。およそ百八十輛。一個連隊規模よ!」
「よし、行くぞ!皆、我に続け!!」
シャルロッテ達が遭遇したのは、法皇国第一親衛軍第六機甲連隊だった。カノーネンフォーゲルが低空に舞い降りる。最初の敵戦車の上を通過した時には、もうその戦車は炎に包まれ沈黙していた。
「初弾命中!さすがね。」
「よし、次!」
シャルロッテのカノーネンフォーゲルが舞い降りる度に、敵戦車は爆発していく。
「また命中!」
「当然よ。・・・よし次を見つけたわ。」
隊員達も勘が身についてきたのか、先ほどよりも命中率が良いみたいだった。当初百八十輛もいた敵戦車群は、瞬く間にその数を減らしていった。
「くそっ!一弾外した!さすがに今のはちょっと低すぎたかっ!!しかし、まだ弾は残っているわ!マリー、次に行くわよ!!」
「了解!」
この日の夕刻、シャルロッテが最後の弾丸を発射して戦場を立ち去ったとき、法皇国第一親衛軍の二個戦車連隊三百六十輛の内、実に三百四十輛が撃破されていた。残りの戦車は、戦場で孤立することを恐れて、法皇国領内に撤退していった。この日のシャルロッテ達の戦闘の様子は、法皇国の砲兵観測員によって『新型戦車が、あっという間に空飛ぶ対戦車砲の餌食になった』と記録されている。