Kanonenvogel(カノーネンフォーゲル)
年が明けた神歴一三〇〇年二月、連日の出撃でシャルロッテの出撃回数はついに一千回の大台に乗った。功績が認められて階級も大尉に昇進した。しかし、それに伴って、またいつものシャルロッテならではの悩みが訪れていた。
「一千回の出撃を区切りとして休暇を取得し後方へ下がれとの命令が来た・・・。冗談じゃない、戦える者を戦線から離してどうする!私は皆と共に戦いたいんだ!!」
命令により、やむなくシャルロッテは故郷に帰ったが、休暇を取り消してもらうべく彼女は空軍省に執拗に電話を掛けまくった。
「ですから何度も言ってるじゃないですか!!今すぐ休暇を取り消して前線に戻してほしいと!!」
『休暇は君だけのためにあるんじゃない。消化してもらわないと困る!!』
「これは私個人の都合です。他のパイロットが休暇を消化するかどうかは別の話です!!」
『・・・まったく君ときたら・・・分かった、キミの要望通り休暇を切り上げてもらおう。』
「おおっ!ありがとうございます!!」
『・・・ただしキミには実験隊に赴任してもらう。レヒリンに向かいたまえ。』
「了解しました!直ちにレヒリンに向かいます。」
休暇の取り消しに成功したシャルロッテは喜色満面だったが、その一方で訝しげでもあった。
「(レヒニンか・・・確かにあそこには空軍の実験場があったけど、私にいったい何をしろと言うのかしら?)」
シャルロッテは、列車に揺られながら、空軍省との遣り取りを幾度も反芻していた。
「(飛行機ならあっという間に到着するのに・・・。列車の旅って遅すぎていつも退屈だわ・・・。)」
いつしかシャルロッテは考えるのを止め、鬱ら鬱らと微睡むのだった。
☆
北東部にあるレヒリン空軍実験場。そこでは旧知のシュテップ大尉がシャルロッテを出迎えてくれた。彼はレヒリンで編成された対戦車戦闘実験隊の一員として機体の試験を行っていた。
「久しぶりだな、シャルロッテ・ユンググラース大尉。」
「お久しぶりです!シュテップ大尉。大尉もレヒリンに赴任されていたのですね。」
「うむ、早速だが貴様にぜひとも見せたいものがある。付いてきたまえ。」
シュテップ大尉は到着したばかりのシャルロッテを、具体的な事には何も触れず、強引に格納庫まで連れて行った。確かにシュテップ大尉は先任だが、シャルロッテとは旧知の仲だった。何の説明も無いとは・・・彼は私にいったい何を見せる気なんだろう・・・。シャルロッテは訝しんだ。
「いいか、よく見ろ、ユンググラース!これが俺たちの切り札だ!!」
薄暗い格納庫の中には、もはや自分の一部だと言っても過言では無い「Wanderfalke」が一機、静かに佇んでいた。しかし、何かがおかしい・・・。見慣れたはずの機体に、もの凄い違和感を感じる・・・。眼を凝らして見ると、なにやら両翼の下に巨大な塊がぶら下がっている。これが違和感の正体だった。
「こ、この機体はいったい・・・!?」
「この機体が、この度完成したWF0式G型『Kanonenvogel』だ。両翼下に三十七mm機関砲を搭載した化け物だよ。我々対戦車戦闘実験隊は、先月からこの機体のテストを行っているが、鹵獲した法皇国軍の中戦車に対して実験を繰り返した所、この搭載砲は法皇国戦車に対してきわめて有効であると分かった。コイツがあれば狂信者どもなど目ではない!!」
「す、凄い!!確かにこれなら法皇国に勝てる!」
「ただしだ、ユンググラース・・・。ただし、コイツには大きな問題がいくつもある。一つ目は、翼下の機関砲のせいで空気抵抗が増し、飛行速度の低下が著しいこと。二つ目は、超重量の機関砲のせいで、今までの機体に比べて機敏さが低下していることだ。使いこなすには、かなり難しい機体だぞ。」
目を輝かせながらカノーネンフォーゲルを見つめていたシャルロッテは、ゆっくりとシュテップの方を振り返りながら言った。
「私のこの隊における使命は、『この子を使いこなすこと』でいいのよね、大尉。」