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カノーネンフォーゲル eins  作者: 田鶴瑞穂
16/46

ヴォロネジ大航空戦

 『こちらフォーゲル9!やられた!離脱する!』

 「『こちらフォーゲル1!了解!』・・・クソっ!またやられたか!」

 「爆撃機じゃ戦闘機には勝てないわよ。仕方ないわ・・・。」

 法皇国空軍が大挙してヴォロネジに移動して来てからと言うもの、急降下爆撃航空団の被害は見る見るうちに増加し、それに反比例するように戦果が目に見えて減少していた。

 「取り合えず、善後策を講じなければジリ貧だ!作戦の一時的停止を具申してくる。」

 基地に帰還するなり、シャルロッテは部隊長の所へと急いだ。

                ☆

 「ユンググラースに何か考えはあるか?」

 ステルツ大尉に聞かれ、シャルロッテはしばし小首を傾げていたが、やがて答えた。

 「奇を衒う方法は思いつきません。ここはやはり正攻法を行うべきかと思います。」

 「正攻法とは?」

 「奴ら、ここ二週間ですっかり迎撃の仕方がルーチン化しています。毎回、爆撃航空団が出て行くと現れて、こちらを追いかけ廻してできる限り多くの爆撃機を撃墜する。燃料が尽きたら帰還する、と言うように判で押したように行動しています。そこで、爆撃航空団を囮にして、すぐには引き返せない所まで誘き出し、奴らの数を上回る戦闘航空団で迎え撃つと言うのはどうでしょう?」

 「なるほど・・・普通だな。」

 「はい!普通です!だからこそ失敗もしないと愚考いたします!」

 「しかし、逃げている間に犠牲が増えやしないか?」

 「爆弾も模擬弾にして、機体をできるだけ軽くしておき、全力で逃げれば犠牲は抑えられるかと思います。」

 「なるほど・・・では、早速戦闘航空団と連絡を取ろう。」

                ☆

 「やぁ!ユンググラース!久しぶりだな!」

 シャルロッテ達が待機する食堂に現れたのは、ハルトマンとコルツだった。

 「ハルトマンさん!コルツさん!お久し振りです!」

 シャルロッテと二人のとても親し気な様子に、爆撃航空団の団員達はあっけにとられていた。普段、戦闘航空団との交流が無いほとんどのメンバーは二人の顔を知らなかったからだ。不審そうにこちらを見つめる団員達の視線に気付いたシャルロッテは、皆に二人を紹介した。

 「こちら、ハルトマン少尉!こちら、コルツ少尉!皆!私の学友よ、仲良くしてね!」

 二人の名前を聞くと、どこからか質問が飛んできた。

 「ユンググラース少尉、ひょっとしてそのお二人は、今戦闘航空団で撃墜数を競い合っていると言うエースパイロットのハルトマン少尉とコルツ少尉ですか?」

 「えっ!?そうなの?」

 紹介したシャルロッテの方が、驚いて二人の方を振り返った。目を丸くしているシャルロッテに対し、苦笑しながら二人は噂を肯定した。

 「そうだよ。なんだ、知らなかったのか?」

 「こちらは、ちゃんと君が“百発百中の急降下爆撃手”って噂になっていることを知っているのになぁ。」

 「ごめんなさい・・・、私、そういうのには疎くて・・・。」

 「別に攻めてやしないさ。むしろ君らしいね。やはりそうでないと!」

 ここで、皆大笑いとなった。

 シャルロッテのお陰で、戦闘航空団と爆撃航空団はすぐに打ち解けることができた。お互いを認め合うことは、協同作戦を行う上での重要なポイントだっただけに、ステルツとラングはホッと胸を撫で下ろした。

 「やはりこの三人に助けられたな・・・。」

 「彼らは士官学校の頃から仲が良かったですものね。」

               ☆

 次の日、急降下爆撃隊は“何時もの通り”出撃した。ヴォロネジまであと百キロメートルと言う所で、待望の法皇国空軍の戦闘機部隊が現れた。何時もと違うのは、千機近い数で現れたことぐらいか。

 「『さぁ、来たわよ!皆、反転百八十度!追い付かれず、引き離さず、出来るだけ共和国領内の方へ引っ張ってくわよ!』」

 『『『了解!』』』

 シャルロッテの号令を受けて、全機絶妙な距離を保ちつつ法皇国空軍を引っ張って行く。やがて、予定地点に到達した時、太陽の方向から数百機のシュバルツファルケが一斉に襲い掛かった。不意を突かれた法皇国軍は、アッと言う間に数百機が火を噴き、煙を噴きながら墜落していく。さらに態勢を立て直される前に、今度は斜め下から法皇国軍機群の中を通り抜けざまに12.7mm弾をお見舞いした。再び数百機の敵機が落ちていく。法皇国軍は何とか逃げようと抗うが、すでに戦いの主導権はこちらのものだった。

 「やほうぅぅおー!私たちもやろう!」

 「え?やるって・・・ぇぇぇぇえええ?!」

 戸惑うマリーの事などお構いなしに、シャルロッテもヴァンダーファルケで戦いの参入した。

 「マリーも遠慮なく撃ってね!私の方は7.7mmなので、いまいちだからね!」

 そんなことを言いながら、シャルロッテは両軍入り乱れる戦場の中を愛機ヴァンダーファルケを器用に飛ばしながら、法皇国軍機を次々と屠っていく。

 「もう!シャルったら!」

 マリーもぷりぷり怒りながらも見事に機銃弾を命中させていく。

 こうして二時間弱ほどの空戦で、法皇国軍が繰り出してきたおよそ千機の戦闘機は全滅してしまったのである。

               ☆

 作戦終了後、基地に戻ったシャルロッテは、上官ではなくハルトマンとコルツにこっぴどく叱られた。

 「護衛の戦闘機をそっちのけで、ドッグファイトをやる爆撃機があるか!!」

 「何かあったら、戦闘機乗りの面目丸つぶれだ!・・・まぁ、ユンググラースなら“何か”は無いだろうが・・・いや!そう言う問題では無い!」

 さすがにバツが悪かったのか、何時になくシャルロッテはしおらしくしていた。

 「ごめんなさい・・・。」

 泣きそうな上目遣いで謝ってくる彼女に二人はやれやれと首を横に振った。

 「良いか!今後一切心配をかけるんじゃないぞ!」

 「ドッグファイトに参加することは許さんからな!」

 「判りました。ドッグファイトには参入しません・・・。約束します。」

               ☆

 何処までも澄み渡る青色をバックに、三百機を超える戦闘機が入り乱れていた。今日も我が方が優勢なようだった。黒煙を曳きつつ錐揉み状態で落ちていく機は、明らかに法皇国軍機の方が多かった。その隙に、急降下爆撃隊は防空陣地へと向かい、爆撃を敢行していた。

 ハルトマンとコルツに約束した通り、その後シャルロッテはドッグファイトには参加しなかった。が、しかし、彼女は自分がただの囮で終わる気はさらさらなかった。戦闘機隊が敵を引き付けている間に、コツコツと敵対空陣地を破壊し続けていたのである。

 「よし!また一つ破壊した。」

 シャルロッテは、さほど興奮もせずに呟いた。

 「これで、百四十門か。僚機による戦果もあわせると、およそ四千門は破壊したな。ここの所、弾幕もめっきり減ったように感じるわ。」

 「マリーったら、よくそんな数字を覚えているわね。」

 「そりゃあ、我らが英雄の戦果ですもの。覚えていなきゃ恥ずかしいわ。」

 「誰が英雄よ。こんなの大したことじゃないわ。」

 「!!・・・ごめんっ!お客さんだわ。話は後で!」

 マリー・ヘンシェルは、後方から近づく敵戦闘機に気付くと、迎撃を開始した。その直後、敵機の操縦席がぱっと朱色に染まったと思うと、そのまま錐揉みながら墜落していった。

 「マリーの腕は大したものね。私なんかよりよっぽど英雄だわ。」

 「だって、いつも敵機は私達の真後ろにぴったりとへばりつくのよ。そのタイミングで撃ってるだけよ。目を瞑っていても当たるわよ。」

 「なるほどね。私も一度後ろに乗って撃ってみたいものだわ。」

 「おっと!またもや新しいお客さんだわ!」

 二機目の敵もまた、シャルロッテ機の真後ろにピタリと付いたかと思うと、次の瞬間操縦席のパイロットが朱に染まり、一機目と同様に墜落していった。そうこうしている内に、戦闘空域から離れたのか、追撃してくる敵はいなくなった。

 『航空戦力殲滅作戦』の開始から四週間、法皇国は一万機を超える戦闘機と四千門を超える高射砲を失ってその防空能力を著しく低下させていた。無尽蔵の兵力を持っているのかと世界中の人々を恐怖に陥れてきた法皇国であったが、ここに来て遂に兵器の供給が滞ってきた感があった。

 しかし、共和国側も無傷でいられた訳ではなかった。開戦から三ヶ月、空軍全体で三割の隊員が戦死していた。ヴォロネジの無力化をほぼ成し遂げられた今、航空団は作戦を一旦終了し、部隊の再編成に入ることになった。

 なお、五月に入ってからシャルロッテはこれまでの功績が評価されて中尉に昇進した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] この世界のガーデルマン、ことマリー・ヘンシェルもすげえなwww 敵国に賞金付で手配されるのも時間の問題か。 [一言] 久々にあう学友で今は戦友のお二人、素晴らしい再会!
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