ゾイレ・クヴェックズィルバーの戦い①
「お母様、お話があります。」
大統領である母親リヒト・クヴェックズィルバーは多忙である。特に法皇国の侵攻が始まってからは執務室から出てくることは希で、一人娘のゾイレですら会うのは2週間ぶりだった。
「なあに?改まって。」
熱いココアを飲みながら、ようやく気の置けない娘と会話できたリヒトは上機嫌だった。しかし、娘の次の言葉に手に持っていたカップを思わず落としてしまった。
「私、陸軍に志願します!」
目を見開いて、我が娘をしばし見つめたリヒトは、絞り出すように声を出した。
「何故、貴女が・・・?」
ゾイレは、母を真っ直ぐに見つめながら、言葉を続けた。
「今は一人でも多くの兵士が必要な時でしょう?私だけが、前線から遠く離れた安全な所でぬくぬくしている訳にはいかないわ。」
「それは、そうだけど・・・」
「お母様!私も祖国のために戦いたいの!」
リヒトは、我が娘をしばらく無言で見つめていたが、やがて諦めたかのように答えた。
「戦場は、甘い所ではないわ。いつ何時命を落とすかしれない・・・。それを承知で・・・覚悟の上で言ってるのね?」
「当然です。お母様。」
目を瞑り、しばしの沈黙の後、リヒトは言った。
「ならば・・・祖国の為に・・・頑張ってきなさい。」
「有り難うございます、お母様!」
こうして、大統領の娘であるにも関わらず、ゾイレ・クヴェックズィルバーは戦いの場に赴くことになった。