卒業
シャルロッテ達第一期生が空軍士官学校に入学して、早くも半年が経とうとしていた。間も無く卒業である。卒業後は、現地部隊に配属され、自分の所属する専門分野でさらに技術を磨くことになる。どの機種に配属になるかは、一応本人に希望を聞かれるのだが、実際には希望人数と部隊人数のバランスや、教官による本人の向き不向きの判断が重視されて決定される。
もうすぐ締め切り日だと言うのに、シャルロッテは希望調査の提出が出来ていなかった。と言うのも、彼女が優秀過ぎて、どの専門分野でも器用にこなせてしまっていたからだ。
「やっぱり憧れは、空軍のエースである戦闘機よねぇ。ドックファイトの時は心が躍るし・・・。でも急降下爆撃の職人っぽさも捨てがたいのよねぇ。訓練を積めば積むほど奥が深いし、命中した時はなんかこうお尻から頭まで電流が走るような痺れる感覚があるし。水平爆撃は、照準士とのコラボレーションが魅力だわ。二人の息がぴったり合った時に命中する!なんかフィーリングぴったしってところが素敵だしなぁ。・・・。」
こんな具合で、希望を絞れなかったのである。
しかし、そんな彼女の行き先を決めるある出会いが起きた。この日、空軍総司令官グリュックスシュヴァインが空軍士官学校を視察のために訪れたのである。そして、そこに居合わせた候補生たちに対して一場の演説を行った。それは急降下爆撃機の重要性を強調するものだった。
「諸君!士官候補生の諸君!我々空軍は、急降下爆撃隊を新たに編成するため、多くの青年将校を必要としている。戦闘機乗りに憧れる者も多いとは思うが、充分な海軍力を持たぬ我が国にとって、急降下爆撃隊は戦況を左右する重要な部隊になるだろう。戦艦の代わりに急降下爆撃機が敵艦を沈めるのだ!・・・飛行機にそんな力は無い?諸君らは、航空機の可能性をまだまだ理解していないようだな!確かに巨大な戦艦をちっぽけな飛行機で攻撃しても大した損傷は与えられないと思うかもしれない。しかし、それが出来るのだ!私は航空機には無限の可能性があると信じている!皆、急降下爆撃隊に来たれ!我々は諸君らを待っている!」
このように、グリュックスシュヴァインの演説は熱意に溢れており、シャルロッテの興味を曳くには十分だった。
「(・・・空軍総司令がわざわざこんな所に来てまで急降下爆撃の宣伝をするなんて・・・。新しい部隊・・・爆撃隊か・・・。)」
そのようなことを考えていると、ステルツ教官に案内されて、グリュックスシュヴァインが彼女の前にやって来た。
「よう!初めましてだな!ユンググラース!俺が空軍総司令官のグリュックスシュヴァインだ!教官どもから聞いてるぜ!お前ぇ、すげえ技量の持ち主なんだってな!俺ぁ期待してるんだぜ!是非、急降下爆撃隊に来てくれよな!」
空軍総司令官と言う肩書に全く似合わない、あまりにも砕けたグリュックスシュヴァインの物言いに、シャルロッテは面食らってしまった。そして、グリュックスシュヴァインは彼女が唖然としている間に、嵐のように帰って行ったのだった。
「(総司令官が、こんなに期待してくれている・・・。あの熱意に答えなきゃ・・・。)」
こうしてシャルロッテは、配属希望先に急降下爆撃隊を選んだのだった。グリュックスシュヴァインの予想通り、候補生の多くが戦闘機部隊を希望していたため、シャルロッテの希望はすんなりと通り、空軍上級見習士官として南部オデルサ近郊にある第二急降下爆撃航空団に配属されることになった。
さて、六月三〇日、第一期生の卒業式が行われた。卒業記念飛行として、成績優秀者十五機による複編隊飛行が行われた。勿論、一番機はシャルロッテが、二番機をハルトマン、三番機をコルツが務めた。練習機とは言え、十五機もの航空機による編隊飛行はなかなかの壮観であった。
その日の夜には卒業謝恩会が開かれた。会場でハルトマンとコルツを見つけたシャルロッテは二人のもとへ駆け寄った。
「ハルトマンさん!コルツさん!お世話になりました!最後にどうしてもお礼を言いたくて!」
二人は穏やかに微笑みながら答えた。
「こちらこそ!君がいなかったら、俺たちはここまで自分の技量を高めることはできなかったろう!有り難う!」
「いえ、私の方こそ助けていただいてばかりで・・・。私が一人前になれたのはお二人がいたからです!」
「俺たち二人は戦闘航空団入りだ。君とは同じ部隊になることは無いが、共に祖国を守る飛行機乗り同士だ!最後と言わず、これからもよろしくな!」
「はい!よろしくお願いします!」
こうして、シャルロッテの士官学校生活は終わった。翌七月一日、在校生たちの“帽振れ”に見送られて、卒業生達は各航空隊に向けて出発し、懐かしの学校を後にした。