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60. 願いを抱いて(最終話)


 週が明けて最初の予備校の授業で、叶先生は、僕たちの姿を見て、静かにうなずいた。

 そして、ほほ笑みながら言った。

「きっとね。いつかまた会える。そう思いますよ」

「そう願ってます」

 僕の言葉に、先生は、ちょっとお茶目に笑って、

「大丈夫。僕の予感はとっても当たるんですよ」

 そう言われると、本当にそんな気がする。

「よかったら、帰りにうちに寄っていきませんか。詳しい話を聞かせてもらえれば、と」

「はい。……いいんですか」

「もちろん」

 隣で、里見もぶんぶん首を縦に振っている。

 

 僕たちは、先生の仕事が終わるまで、先生のマンションの1階にあるカフェで、待つことにして、予備校を出た。


 歩きながら、

「なんかまだそのポケットの中にいてるような気がしてしまうな」

 里見が言う。

「うん」

「でも、気配が全くなくなってしもたから、もうおれへんって……わかってるねんけどな」

 里見が、さみしそうに言う。そして、静かに続ける。

「オレな、もっちぃのおかげで、いろいろいっぱい励まされた気ぃする」

「そやな。いっぱい励まされたし、教えてもろた気がする」

 僕も応える。

 里見が静かにうなずく。その顔を見ながら、僕は思わず口にする。

「……出会えてよかった」

 僕は里見に言った。

 なんだか今、すごく言いたい言葉だった。

「うん。もっちぃに会えてよかったよな」

 里見がうなずく。

「いや。もちまるだけとちゃう。おまえに、里見に会えてよかったなと、思ってるねん」

「え?」

「いろいろ、ありがとな。里見がいてくれて、よかった」

「え~、え~、照れるわ。どうしよ」

 口元をもごもごさせながら、照れまくった里見は言った。

「照れるけど。でも、それ、オレかて言いたい」

 そして、続けた。

「オレも、伏見に、大吾に会えてよかった。それで、」

「これからもよろしく」

 僕と里見の声が重なる。

 僕らはお互い顔を見合わせて笑った。

 

 いつかもちまると過ごした記憶が少しずつ遠くなっても、彼が僕らに残していってくれたものはちゃんとここにある。……この先もずっと。

 通り過ぎてしまうものではなく、深く心に残る出会いを、彼が残していってくれたのだと、僕たちは感じている。


「萌ちゃんは? どうしてる?」

 里見が心配そうな表情で言う。

「めっちゃしょんぼりしてたけど、泣いてたらもちまるが成仏できへん、って。笑って再会する日を待つ、って言うてる」

「そっか……そやな」

 里見がうなずく。



(大吾。……そう。それでいい)


「え?」

 そのとき、不意に耳元を過ぎる風の中に、僕はもちまるの声を聞いた気がした。

 いそいで振り向いたけれど、なつかしい気配は、どこにもない。


 冷たい風に首をすくめながら僕たちは、歩いて行く。

(また、会えるといいね)

 その願いを心に抱いて。


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