表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/60

53. 欲


「なあ、ハンバーガー食べたいな」

 もちまるが言った。

「え? また?」

「うん。昨日食べ損ねたやつがどうしても、気になる」

 昨日食べ損ねたやつ、というのは、僕の財布に入っていたお金が足りなくて買えなかった、キングサイズベーコントマトチーズスーパースペシャルバーガーのことだ。パティとチーズがそれぞれ3枚も入っている。すごいボリュームだ。当然お値段もなかなかのものだ。

「しゃあないなあ~」

 僕は、引き出しから取り出したお小遣い袋から、お財布にお金を補充する。

 そして、今日の朝ご飯は、友達とバーガーを食べるからと母親に声をかけた。


「あら? いいねえ、楽しそう。お金は? あるん?」

「あるある。小遣いあんまり使ってへんかったから貯まってるのあるし」

「そう? まあ、でも、食費やしね。大サービスで出してあげよう」

「ほんま? ええの? ありがとう!」

 母親がくれた1000円札をありがたく受け取る。

 これで、キングサイズナントカのお金がまかなえる。よしよし。


部屋で予備校に行く準備をして、カバンに荷物を放り込んでいると、萌が恨めしそうに言った。萌にも、今度の土曜日にもちまるとお別れ会だと話してある。

「大ちゃん、ずるい。ぽてちゃん♡連れてったら、わたし、一緒におられへんやん」

「ごめんごめん。でも、萌も部活ででかけるやろ?」

「それはそうやけど……。でも、大ちゃんたち、出かけたらいつも帰ってくるの遅いんやもん」

「そやな。ごめん。できるだけ早く帰ってくるから」

「ほんま?」

「夕方には」

「おっそ~。ちょっと、もちもっち、早く帰ってくるねんで」

 今度は、もちまるに直接声をかけている。


 萌は、そのときの気分に合わせて、好きなようにもちまるのことを呼ぶ。

『ぽてちゃん♡』というのが、萌がつけた呼び名だけど、里見の名付けた『もっちぃ』でも呼ぶし、『おもちちゃん』『まるもっち』『ぽてぽて』など、呼びたい放題だ。なので、もちまるもすっかり慣れて、「もう萌は好きなように呼んだらええ」と言って、どんな名前で呼ばれても普通に返事をしている。


「ねえ。もちまる? わかった?」

 萌が念を押す。

「う、うん」」

「今日は、私が抱っこして寝るからね」

「いや、それは、ちょっと、どうやろ。見た目、もちやけど、中身は男子やで」

 僕が口を挟むと、

「大ちゃん、うるさい。自分ばっかり。ずるい」

 話が振り出しに戻りそうなので、大急ぎで、僕はカバンを肩にかける。

 萌がポケットに向かって声をかける。

「帰ってきたら、寝るまでは、私のとこにおってな。ぽてちゃん♡」

「うん♡」

 声がカワイイ。

 どうも、ぽてちゃん♡と呼ばれると、もちまるは、カワイイモードになるみたいだ。



 里見と、予備校の最寄り駅の改札で待ち合わせて、3人でバーガーショップに向かう。

「おはよ~」

 里見が、僕とポケットの中のもちまるに声をかける。

「おはよ~」「おはよう」

 僕ともちまるが応える。

 予備校近くのバーガーショップに向かって歩きながら、里見がもちまるに話しかけてくる。

「元気?」

「元気」

「もっちぃ、何食べるん?」

「キングサイズナントカ」

「朝からすごい食欲やね。あれ、パティ3枚やろ」

「パティてなんや?」

「間に挟まってる薄いハンバーグのこと」

「そうか。あれ、パティていうんか。へ~。それで、おまえは何食べるん?」

「ん~未定。でも、もしかしたら、同じの頼むかも」

「そうか。他にもなんか美味しそうなんあったら、教えてや」

「りょうかい~」

 

 もちまるは、食欲だけでなく、知識欲も旺盛だ。色んな言葉を、たくさん覚えて吸収していく。知りたい、という欲求にとても積極的なのだ。


『欲』という言葉には、なんとなく、よくないイメージを持っていたけれど、彼を見ていると、もっと素直に『欲』を持ってもいいよな、と思えてくる。

 今、僕は里見につられて予備校に通っているけど、ただ漠然と大学に行きたいと思っているだけで、まだ、何を専攻したいとか、はっきりしているわけじゃない。

 でも、何かを知りたい、そう思うことが、学ぶことの原動力になるのなら、僕は一体何を知りたいんだろう。考えてみる。


 ……ナサケナイ。まだ自分でもよくわからへん。

 

「何考えてる?」

 もちまるがポケットから声をかけてくる。

「いや、これから先のこと、いろいろ考えなあかんな~って、考えてる。けっこう、今まで、ぼんやり生きてきたような気がするから」

「ふふ。そうか。楽しみが出来たな」

「楽しみ?」

「そうやろ? 何をしようかって考えるのって、ワクワクして楽しいやろ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ