47. 作戦会議
秘かに、ある作戦を、僕たちは始めることにした。僕と萌と里見の3人で。
名付けて、『もちまるハッピー作戦』
「なんか、ネーミングセンス微妙?」と萌は笑ったけど、
「ええねん。それが作戦の目標やから。ひねらんと、まんまでええねん」
僕は応えた。
そして、萌ともちまるが一緒に出かけているときに、里見に家に来てもらって、協力してほしいと頼んだ。できたら、もちまる本人のいないところで話したいと思ったのだ。
「もちまるを人間に戻す……か」
里見が、つぶやいた。
「うん。ただ、実際、本人はずっと昔に亡くなってるから、生前の彼に戻すことはできへん」
「そやな。でも、今のままやったら、もちまるはずっとポケットの中の妖怪のままってことになるよな……でも……やっと仲良くなれたのにな……」
里見の声が少し沈む。
「うん。そやんなぁ。わかるで……僕もな、はじめの頃と違って、正直、今では、もちまると離れるのさみしいと思てる。そやけど……」
僕は、自分がもちまるの過去らしき世界に迷い込んだときの出来事を話した。
洗濯物を干そうとして失敗し、竿ごと落として台無しにした、小さな男の子。ほんとは、少しだけでも母親の手伝いをしたかっただけなのに。わるさとまちがわれて叱られて。
「わるさちゃうもん」
そう言った彼。母親を困らせたことはわかっても、どうしても、「ごめんなさい」が言えなくて。そのまま、その場から逃げ出した。
その直後、彼らを大きな爆弾が襲った。
爆風に飛ばされ傷つきながらも、母親を助けてほしいと必死で訴え、助けを求めてさまよった小さな男の子。その子が炎の中で出会った一人の少年に助けられ、町をさまよい、ついには、二人とも息絶えてしまったことを話す。
「……戦争のときじゃなくて、平和な時代に、普通に子ども時代を元気に過ごして、そして、大人になって……いっぱい幸せやなって思いながら生きてほしいねん」
「……」
里見がぽろぽろ涙をこぼしながら、静かに話を聞いている。
やがて、ぽそっと、
「わかった」
呟くように言い、静かにうなずいた。
「オレ、何したらいい?」
「一緒に考えてほしい。どうやったら、もちまるを安心してこの世から送り出してやれるか。……新しく生まれ変われるように、なんとかしたい」
「よし。やろう。オレも、あのコにハッピーになってほしい。なんでかわからんけど、あのコのこと、好きやから」
「そうか。僕もや。出会ったはじめは得体が知れんやつやと思って、めっちゃ警戒しててんけど。気がついたら好きになってた」
2人で、顔を見合わせて笑う。まるで、2人とも恋バナでもしてるみたいだ。
もし、この場に、本人がいたら、きっと、「やめ。テレくさいやないか」ってちょっとおっさんぽく言って、苦笑いするだろう。
2人で、そんなもちまるの姿を思い浮かべる。
ふふ。可愛いな。
思わず笑いがこみ上げる。
「よし。そうと決まれば、何をしたらええんか、作戦立てよ」
里見が元気よく言った。
「うん」
「まず、もちまるは、妖怪を名乗ってはいるけど、ほんとのところは、成仏できないままこの世にいる霊魂、ってことやんな。それも、一人分じゃない、2人分や」
里見が言う。
「そう。そやから、なんとかして、2人ともが思い残したことを叶えるように、できるだけのことをしたいねん」
「思い残す……か。それって、できなくて後悔してること、やんな?」
(後悔)
その言葉が、きゅうっと僕の脳内の記憶を刺激した。
(そうや。少年は、ずっと後悔してるって言うてた……!)
思わず声が出た。
「後悔してるって、言うてた」
「え。何なに?」里見が目を見開く。
「坊と逃げ惑ってるとき、疲れた坊が、『抱っこ』って言うたけど、腕ケガしてて痛くて、断ったって。あのとき、腕がもげても抱っこしてやれば良かったって。そのことをずっと後悔してるって。そう話してた」
「それや。きっと」
「うん。そうかもしれん。自分は、家族もとうに亡くなっているから、いつあの世に行ってもかまわない。そう思ってたって。でも、泣きながらさまよっている坊を見たときに、この子はなんとかして助けてやりたいって。それで一緒にいて坊を守って。それでもずっと後悔してるって……」
「抱っこ、か」
「うん」
「オレらが、代わりに、なんぼ抱っこしても、その人の後悔が消えるわけとちゃうんやろな……」
「そやなぁ……」
ため息をつきながら、僕と里見は、頭を抱えた。




