31. 夜空
「うわあ……うわあ……」
もちまるが望遠鏡のレンズの前にしがみつくようにして声を上げる。僕は、レンズにしがみついているもちまるを、そっと手のひらで支える。もっちりとした感触。手のひらを通して嬉しそうな気配が伝わってくる。
「あのでこぼこのような模様が、くれーたーか? すごいな。こんなにきれいに見えるんやなあ」
もちまるは大興奮だ。
夕食のあと、もらってきた望遠鏡をさっそく組み立てて、僕ともちまるは近所の河川敷に出かけて、星空を見上げた。萌も来たがったけれど、部活で足をくじいて、あまり歩き回らないように言われているので、泣く泣くあきらめたのだ。
家の周りでは、街灯が明るすぎるので、地学部の天体観測をした河川敷にあらためてやってきた。
満月にはまだ少し日数がかかりそうだけど、月の光が美しい。
「よかったなあ……。こんなきれいな月が見られて」
僕がつぶやくように言うと、
「うん」
もちまるがうなずく。
「大吾も、ほら。見てみ」
もちまるは、レンズのところから望遠鏡の長い筒状の部分、鏡筒によじ登って、僕に場所を譲る。ちょこんと、鏡筒にまたがっている。
そっと覗くと、これまで何の気なしに眺めていた月が、こんなにも表情豊かなものなのだ、と実感する。
「宇宙って広いな。まだまだ、地球人の知らないいろんなことがありそうや」
僕のつぶやきにもちまるが応える。
「そやな。知らんことの方がずっと多いんやろな……」
2人で、ため息をつく。
知らないことの方が多い。
この世界は、知らないことばかりだ。
これまで僕が経験してきた不思議な出来事や出会いの数々は、けっしてただの夢幻ではない。その証拠に、そのたびに僕の胸には温かい思いが深く刻まれて行く。
(宇宙は広い。そして、この世界はどんなことだって起こり得るし、思いがけない縁や出会いが、人生にはまだまだたくさんある。……その出会いをどれだけ大切にできるか、意味のあるものにできるかは、自分次第なんや)
夜空の星々が僕に、そうささやきかける。
「なあ。もちまる」
「うん?」 望遠鏡の上で、もちまるが振り返る。その笑っている顔に、
「会えて、よかったよ。もちまる」
「え、きゅ、急に何言うねん。照れるわ」
「……なんか、星見ると、ちょっと気分がロマンチック? な感じになってしまうな。へへっ」
笑ってごまかしたけど、会えて良かったと思う気持ちは、本当だ。
それと同時に、胸の中いっぱいに広がったのは、不安のような寂しさのような、なんとも言えない切ない気持ちだった。
次の瞬間、
「……オレも。会えてよかったで。大吾」
もちまるが、僕の胸に飛び込んできて、言った。
もちもちの感触を抱きかかえながら、僕は、ちょっぴり泣きそうな気分になる。




