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29. 望遠鏡


 どれくらい時間が経ったのか、気づくと僕は自分の部屋のベッドの上にいた。

「……戻ってきたのか。いつのまに」

 火の玉を抱きしめていたはずなのに、僕の服は焦げてはいなかった。ただ、胸の中に熱い塊があって、僕は、火の玉から聞いた話をはっきりと覚えていた。


「もちまる」

「うん」

ポケットの中から返事があった。

「大丈夫か?」

「うん。大丈夫や」

 小さな声で話していると、部屋のドアが勢いよく開いた。

「ちょっと、大吾。電話。光子おばちゃんから」

 母が、洗濯物の山を抱えて言った。

「居間の電話。保留にしてあるから」

「わかった。……でもなんやろ?」

 光子おばちゃんは、僕の母の姉だ。僕が首をひねりながら言うと、

「なんか望遠鏡がどうとかって」

「あ。望遠鏡要るか? てこの前言うてた件かな」

「たぶんそうやね。とにかく、早よ出て」

「うん」


 電話の用件は、やはり、従兄の使っていた望遠鏡を譲る、という話だった。

 そこで、僕は、早速光子おばさんの家に向かった。自転車なら5分ほどの距離だけど、望遠鏡を持って帰ることを考えて、歩きで行くことにした。


「タツヤが高校生やったとき、使ってたけど、もう全然使わへんから、よかったら持って行き」

 ニコニコしながら、おばさんが言った。そして、クローゼットが片付くからたすかるわ。と笑いながら付け足した。タツヤというのは、この春大学を出て社会人1年目の、僕の従兄だ。

「全然、高性能とちゃうし、レンズもあまり高倍率とちゃうから、物足りへんかもしれんて言うてたけど。でも、土星の輪っかはなんとか薄ぼんやり見えてた気ぃするわ」

 そう言いながら、おばさんは2階に僕を連れて行き、クローゼットから細長い箱を引っ張り出してきた。

「十分です。僕も、まだ本格的に観測するほどちゃうから、月のクレーターが綺麗に見えたらええなあ、とか、うっすらでも土星の輪っか見えたらいいなあ、ってくらいやから」

「そうお? じゃあ、ちょうどええかな? 」


 差し出された箱は、けっこう長細いけど、軽い。けれど、落としたりしたら大変なので、大事に抱えて、1階に降りる。


「えらい荷物になってしもたけど、大丈夫? 歩き? 自転車?」

「歩きです」

「じゃあ、持ちやすいように紐でくくってあげるから、ちょっと待ってね。紐紐……どこにいれてたかしら」

 おばさんは、紐をさがしにキッチンの方へ行く。


 ポケットの中では、もちまるが、ぽてぽてと大はしゃぎだ。

「くれーたー、見えるって。土星の輪っか、見えるって」

 小さい声でつぶやきながら、なんだか僕より喜んでいる。

「よかったな。今夜早速見ようか?」

「うんうん!」

 もちまるは、すっかり望遠鏡にハマっているのだ。

 そのとき、ふとリビングのテーブルの上に載っている、1冊の分厚い本が、僕の目に飛び込んできた。



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