23. 僕に出来ることは?
ポケットの中の、小さなもちもち、もちまるに、そっとポケットの上から触れると、かすかに、ふるふると揺れている気配がする。
僕は、そっとポケットの上から、とんとんする。
(どうした? もちまる)
電車の中では話しかけるわけにもいかなかったので、電車を降りて、自転車に乗り換えたあと、僕は、大急ぎで家に向かう。
しだいに、ポケットが重みを増すような気がする。
家に着いて、洗面所で手を洗ったあと、冷蔵庫から、ペットボトルのジュースを2つ、取り出して、自分の部屋に行く。家族は、みんな留守のようで、誰もいない。
「もちまる。帰ってきたで。もう、何でも話してええよ」
僕は、そっとポケットから、小さなもちもちをすくい出す。
「まずは、喉かわいたやろうし、ジュースでも飲まへん?」
彼の好きなリンゴジュースのペットボトルをテーブルにのせる。
いつもなら、すぐに僕と同じくらいの人型サイズになるのに、なぜかテーブルの上で、小さなまま、うつむいてじっとしている。
「ん? どうした?」
僕が、そっと手のひらにのせて、顔をのぞきこむと、彼は泣いていた。
丸い顔の上を、小さな小さな涙の粒がいくつも転がり落ちる。
「どうしたん?」
「……お、オレ、思い出したんや。オレも、悪さばっかりするって、よく怒られてた。……あの日も、怒られた。でも、わるさとちゃう。わるさするつもりとちゃうかったのに、上手くいかんかったから、結局、かあちゃんに、迷惑かけて、いらんことするなって。……怒られた」
泣きながら、もちまるが言う。
「そうか。怒られたんか……。それで、そのあと、どうしたん?」
「う。……悪いことしたら、ちゃんと『ごめんなさい』しなさいって、言われたけど、悪いことするつもりとちゃうかったから、言いたくなかった。言うた方がええよな、と思ったけど、ごめんって、言えんかった」
「うん。……わかる。どうしても、言われへんとき、あるよな」
僕はうなずく。
僕にも同じような経験がある。それで、思わず、僕は言った。
「子どもにだって、子どもなりの理由がある。大人から見たら、バカみたいなことでも、要らんことに見えても、子どものやることにも、ちゃんと理由があるもんな。」
すると、もちまるが、わあ~ん、と声を上げて泣き出した。そして、今日会った男の子ぐらいの大きさになって、僕に抱きついてきた。
僕は、泣いているもちまるを抱きかかえて、その頭をなでた。背中をそっとトントンしながら、彼が語る、『あの日』の話を聞いた。
やがて、泣き疲れ語り疲れて、眠くなったのか、もちまるは、僕の腕の中で、寝息を立て始めた。僕は、彼をそっと抱えて、ベッドの上に寝かせた。
「ただいま~! 大ちゃん! ぽてちゃん!」
そこへ力一杯元気な声で、萌が飛び込んできた。手にプリンの入った袋を提げている。
「し~。今寝てる」
「え? 寝てるの? めずらしいね」
驚いた顔の萌に、僕は、今日会った男の子の話に始まって、もちまるの語った子どもの頃の話を聞かせる。
「そっか……。やっぱり、この子、ただの妖怪とちゃうね。人間の子どもやったんやね。きっと」
ベッドの上の、もちもちした小さな男の子サイズのもちまるの頭をなでながら、萌が言った。
「うん。そうみたいやな。なんでそうなったんかはわからんけど」
「これ、冷蔵庫に入れとくわ。また起きたら、『プリンあるよ』て言うといて」
萌が静かに部屋を出て行った。
僕は、ベッドの上の、もちまるの横に寝転がった。そして、そのもちもちした温もりを腕の中に包み込む。
言えなかった『ごめんなさい』を心の奥に抱えたまま、もちまるは静かな寝息をたてている。
僕は、その優しい小さなもちもちをそっとなでながら、考える。
僕に出来ることは……?
僕に何が出来るやろう? ――――ねえ。もちまる……
いつのまにか、僕も眠りに落ちていた。




