18. ちょっぴり詩人?
「……きれいやな」
「……うん」
なぜだろう? ほんとうに感動すると、口から出てくる言葉は、とてもシンプルになる。
僕は、今、家の近所の河川敷にいる。地学部の仲間も一緒だ。
今日は金曜日で、無事定期テストも終わり、みんなで久しぶりにのんびり星でも見ようということになって、急きょ、地学部の天体観測会が企画されたのだ。
幸い、明日土曜日は何も予定が入っていなかったので、僕も、喜んで参加を決めた。
このところ、僕は、姫のお屋敷の皆さんの依頼を引き受けて、あちこちで、お墓の草引きや掃除、お花を供えに行ったりするなど、出かけることが多い週末を過ごしていた。
姫の屋敷にご用件を伺いに行くたびに、迎えてくれる人の数が少しずつ減っていき、今は、最初の頃の半数くらいにまで減っていた。
願い叶って成仏されたということだから、それはそれでいいのかもしれない。でも、訪れるたびに、屋敷がなんだかさびしく、がらんとした雰囲気になっていくのが、気になっている。
たまに行くだけの僕がそう思うのだから、姫や残っている人たちは、どれだけ寂しい思いをしているだろう、そう思うと、僕は、引き受けた依頼をサクサクと片付けていいものかどうか、少し迷ってしまったりもする。
とはいえ、あの屋敷にいる人全員、姫も含めてみんなが、心安らかに最後の願いを叶えて旅立てるように、僕は僕のやれることをしよう、そう心に決めている。
今週末は、明後日、日曜日に1件、依頼主にとって大切な場所で、いたずらをする子どもに注意をしに行くことになっている。すんなり片付くのかどうかは分からないけれど。
集合場所の河川敷には、地学部員が、次々に現れる。僕は、近所なので、一番乗りだった。
「みんな、そろったか?」
部長の野崎先輩が、みんなの顔を見回して言った。
僕らは、あらかじめ分担していたテントやキャンプ道具を持って、先輩たちは、さらに個人所有の望遠鏡を背負って、現地の河川敷に集合したのだ。
僕や里見や美月など1年生は、まだ望遠鏡を持っていない。買いたくても、どれを買えばいいのかよく分からなくて、今日の観測会で、先輩たちの望遠鏡を見て考えようかな、と話している。
そろったメンバーを確認して、みんなで手分けして、テントを立てたり、キャンプ道具を取り出して、お湯を沸かせるように準備したり、望遠鏡をセッティングしたり、先輩たちのテキパキ動くのを見ながら、僕ら1年もバタバタと言われるままに動く。
次第に日が暮れて、堤防の向こうに立つ家々の窓に灯りがともり始める。
「よかった。この辺は、比較的、光害がましやな。徐々に目が慣れてきたら、けっこう星、よう見えるはずやで」
部長の野崎先輩が言う。
実は、僕は半信半疑だった。僕の家から、自転車で10分とかからないところにある河川敷なので、そんなに星が見えるような気がしない。そんなに都会じゃないけど、けっこう人も多く住んでいる住宅地が近いのだ。星なんて、どこか遠くの、空気のきれいな山奥にでも行かないと見えないもんだろう、そう思っていたから。
日が暮れて、街灯のない河川敷はすっかり薄暗くなった。今日は快晴だったので、雲一つない夜空に、次第に星がくっきりと輝いているのが見え始める。
地面に大きなグランドシートを敷いて、その上に寝転がって、徐々に目を慣らしていくと、次第にびっくりするほどのたくさんの星たちが頭上にきらめいていることに気がつく。
背中から、地面の固さと土の匂いを感じ、目の前の空には、無数の星々がある。そして、この地球は、じっとしていない。動いている。そう思うと、まるで、地球という名の船に乗って、宇宙を航海している気持ちになる。
今、僕は、宇宙にいる……。
それにしても、見事な星空。 思わず、ため息とともに声が出た。
「……きれいやな」
「……うん」
隣に寝転がっている里見が、答える。
なぜだろう? ほんとうに感動すると、口から出てくる言葉は、とてもシンプルになる。
しばらく黙って、星空を見上げていたら、ぽつりと里見が言った。
「こんなに見えると思ってへんかった……。星って、どこかめっちゃ田舎に行かんと、見えへんもんやと思ってた」
里見も僕と同じことを思っていたようだ。
「うん。僕もそう思ってた」
「見る気になって見たら、ちゃんと見えるもんなんやね」
横から、美月も、つぶやくように言った。
「他の1年も来れたら良かったのにね」
美月の隣にいた、もう1人の1年、小川さんも言った。
1年生部員は、僕を含めて、7人いる。今日は、塾や家の都合で、来れなかった子たちが、3人いる。2年の先輩たちは、7人全員そろっている。4人いる3年生は、大きい合宿には来るけれど、近隣での観測会には参加しないそうだ。
「なあ。望遠鏡、どっちが使いやすいかな」 美月が言った。
「う~ん。そやなあ。反射か屈折か」 僕が言うと、
「私は、屈折のにする。高倍率のレンズも買って、土星の輪っか、はっきり見たいな」 小川さんが言った。
「オレは、反射かなあ。まだわからんけど。今日、いろいろ見せてもらって決めるわ」
「そやな」
「それにしてもさ、こうして、地面に寝転んで星空見てると、宇宙におるって気がするよな」
僕がそう言うと、
「ほんまやな。オレ、なんか、宇宙人になった気ぃするわ」
里見が言った。
「なんやそれ」
4人で笑い合う。
「でも、確かにそんな感じするよね」
「うん」
星空は、人を、ちょっぴり詩人にするのかもしれないな、僕は、ちらっとそう思う。




