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15. 喜んではる?


 「ここみたいやで」

スマホのメモを見ながら、光瀬が言った。

「どれどれ」

僕と美月も、メモの文字と墓石に刻まれた名前を見比べる。

「あたりやな」

僕は、花と手桶を地面に下ろす。


 山の中腹にある、小さなお寺の敷地の一角に、その墓地はあった。

無事に、こちらの世界に戻って来れた僕と光瀬は、早速その週の土曜日に、教えられた墓地に行くことにした。それを知った美月が、自分も行くと言いだして、結局、3人で行くことになったのだ。

 

 その際、美月には、本当のことを伝えることにした。

怪異が苦手な彼女に、どう伝えたものか、正直僕らは迷ってはいたけど、心配していた彼女に、可能な限り、起こった出来事を伝えたいと思って。

ただ――――もちまるのことは、まだ伝えられていない。だから、今日は、ポケットの中で、やつはじっとしている。

 はじめ、恐る恐る硬い表情で話を聞いていた美月は、聞き終わると言ったのだ。

「私も行くよ。3人で、やろう」

「いいの? 」

「ええよ。私も、なんか役に立ちたい。あやちゃんが無事に戻って来れて、嬉しいし。あやちゃんが戻ってこれるように、私にできることあれば、って思ってたから。戻って来れた、お祝い代わり」

「……う~ん。それは、ちょっとビミョーなお祝い」

 少し苦笑いしながらも、光瀬は、嬉しそうだ。美月が、どれだけ心配していたか、その気持ちを察したのだろう。

  

『チクチクする雑草を抜いて、墓の周りをきれいにしてほしい』

今日、僕らは、あの屋敷で頼まれた任務を果たすべく、ここにやってきた。

確かに、その墓の周りは、雑草がいたるところに顔を出していて、鬱蒼とまでは行かないけれど、少し雑然とした雰囲気になっていた。 墓の周辺だけではなく、通路の敷石の至る所からも、雑草が顔を出している。とはいえ、手入れを怠っている、というわけではなさそうだ。落ち葉や、ゴミなどはなく、ただ、どうしても手が回らない、そんな感じだ。

ほんとに、わずかな隙間からも、生えてくる雑草の生命力には驚く。 その下には、もう生きてはいない人が眠っているのだけれど。


 「とりあえず、まず、このへんの雑草からやろか」

 僕は、リュックから、軍手とゴミ袋の束を引っぱり出す。 光瀬と美月にも、それぞれ軍手とゴミ袋を渡す。僕の担当荷物だ。 2人は、食料飲み物担当だ。

「ほい。使う? 草抜きの必需品。虫除けスプレー」

「あ、ありがとう。大ちゃん、さすが」「用意がいいね」 光瀬と美月が口々に言う。

 

 僕らは、シャツから出ている腕に、しっかり虫除けをスプレーし、作業にかかる。

「なんか、すっごい生命力やね。雑草って」 光瀬がつぶやく。

「なんかさ、これなんか、ちっこいけど、可愛い花が咲いてて、しかも細い茎で、けなげな感じする」

 美月が、オレンジ色のふわふわと儚げな花を指さす。

「ああ。それな。なんかか細くて、儚げやけど、実は、相当強いやつでな、そいつが庭で増えたら、他の植物が負けてしもて、育たへんようになるらしいで」 僕は答える。

「え、うそ? こんなに可愛いのに?」

「うん。見た目は、可愛くて、か弱そうやけどな」

「そうなんやぁ。見た目だけじゃわからへんねんなぁ」

 美月が、ため息をつく。

「でもさ、その子はその子で、生き抜くために、必死なんやろな」

 光瀬が、ぽつりと言う。

「そやな……」


 なんだか、雑草を抜く作業には、どうしても後ろめたさがつきまとう気がする。

「一生懸命生きてるのにな。ごめんな」

 僕らは、少ししんみりしてしまう。でも、任務は任務だ。 黙々と、作業を続ける。

「なあ、頼まれたところだけじゃなくて、他のところもやったげようか」

 光瀬が言う。

「そやな。せっかく、3人やし、人手はあるもんな」

「やろやろ」

 僕も美月も賛成する。


 不思議だ。

 雑草を丁寧に抜いて、作業を進めていくうちに、心の中も、すっきりと整うような気がする。 気のせいかもしれないけど、石の下で眠っている人たちが、喜んでいる気配が伝わってくるような気がした。

「なんかさ、喜んではる気がする」

 光瀬が言う。 僕と同じことを感じていたみたいだ。

「そやな。そんな気ぃするな」 僕も言う。

「そうかな。喜んでくれてはったら、ええな」 美月もつぶやくように言う。


 僕らにできることなんて、ほんとにささやかなことでしかない。

 それでも、心を込めて何かをすることで、伝わるものは、きっとある。そう思える。

 

 ポケットの中で、もちまるが、ぽてぽてと静かに身動きする。僕は、そっとポケットの上から、その丸みに手を添える。ほんのり柔らかくて、温かい。

 もちまるが、何がしたいのか、何を求めているのか、僕には、まったくわからないけど。でも、もちまるのために、僕も、何かできることがあるかもしれない。


彼の正体が何であろうと、一緒に過ごしている時間が増えていく中で、もちまると僕が出会ったことにも、きっと何か意味がある、そんな気がしてくる。


「なあなあ。ここの通路のとこ終わったら、ちょっと休憩せーへん?」

中腰になった美月が、腰をトントンしながら、提案する。

「いいね。そうしよ」「了解」


 そのときだ。

「こんにちは。お疲れ様です」

 穏やかな声が聞こえた。声の方を見ると、七十代くらいの、作務衣姿の男性が立っていた。

 優しい笑顔で僕らを見ているその人の手には、箒とちり取りがある。



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