14. 一枚余分に?
「痛いんです。なんかチクチクして」
座敷に集まった人たちの中から、周りから押されるようにして進み出た女性が言った。
「はい。……チクチク?」 僕は、聞き返す。
「多分、雑草が生えてきてるんやと思うんですけど、ここへ来て一気に増えたみたいで」
僕は、屋敷にいる人たちの『最後のお願い』を叶えるべく、彼らの話を聞くことになった。全員の話をいっぺんに聞くのは、時間的にも難しいのと、そもそも、戻れるかどうか、という不安もまだあったので、とりあえず、一人目の話を聞くことになったのだ。
彼女の願いは、『チクチクする雑草を抜いて、墓の周りをきれいにしてほしい』ということだった。 それならなんとかなりそうだ。
僕は、彼女の教えてくれた、その墓の所在地と彼女の名前をスマホでメモをとった。
そして、『よろしく』と頭を下げる屋敷の人たちに見送られながら、この世界に最初に来たとき、降り立った草地に、あやちゃんと一緒に戻った。
屋敷の中の人たちは、どうやら屋敷の敷地の外へは出られないらしい。
来たときに案内してくれた青い火の玉が、僕たちを再び、最初の場所へ案内してくれた。
「こちらです。戻りたい場所を心の中で念じてください」
そう言われて、あやちゃんと僕は、あやちゃんの部屋に戻ることを決めた。
もしかしたら、僕まで一緒に戻ったら、お母さんをびっくりさせてしまうかもしれないけど、できるだけ早く、あやちゃんが自分の体に戻れるようにしたかったのだ。
2人で、(せ~の)で、『あやちゃんの部屋』と念じる。
その次の瞬間、空間がぐにゃりと曲がるような、狭い空間に無理矢理押し込められるような感じがして、一瞬息が詰まる。そして――――
ハッと気づくと、僕は、光瀬の家の前に立っていた。
家の中から、あやちゃんのお母さんの叫ぶような声が聞こえた。
「あや!あや!」
少し待ってから、僕は、玄関のベルを鳴らした。
階段を駆け下りてくる足音がして、光瀬がドアから顔を出した。
「大ちゃん。無事帰ってこれてんね。……よかったぁ。ありがとう。ほんとにありがとう」
「よかったな。お互い、戻って来られて」
「うん。よかった」
光瀬の後を追うようにしてやってきた、お母さんが顔を出した。
「大ちゃん! あやが戻って……」
涙で、お母さんの言葉が詰まる。 でも、その涙は、大きな安堵の涙だ。
僕もホッとして、笑顔になった。
「よかったですね。じゃあ、僕、帰ります。……また明日、学校で」
光瀬と目を見交わす。
「うん。ありがとう。明日ね」
手を振る光瀬に、手を振り返して、すっかり薄暗くなった道を駅に向かう。
歩きながら、周りに人がいなかったので、左のポケットを軽くポンポンしながら、話しかける。
「もちまる。ありがとな」
「そうか。わかったか?」
「うん。僕まで一緒に部屋の中に戻ったらややこしなるから、僕だけ家の前に出てこれるように、コントロールしてくれたんやろ?」
「まあ、オレだけとちゃうけどな。姫も力貸してくれた」
「そっか。ありがとう。とりあえず、早く帰らんとな。遅なったから、萌が心配してるかもしれへん」
(あ、そや。置き手紙! もう読んだやろか。読んでたら、きっとすごく心配してるはず。無事やって伝えやんと。どうしようどうしよう)
焦る僕に、左ポケットから手を伸ばし、右のポケットをつついて、もちまるが言った。
「おまえ、何のために、それ持ってるねん」
「ん? ああ、そっか」
僕は、ポケットからスマホを取り出し、萌にメッセージを送る。
『晩ご飯のおかず、まだ作ってへんかったら、適当に駅前で買うて帰るけど、どうする?』
萌からの返信が返ってきた。
『よろよろ』
よろしく、の意味やと思うけど、おなかすいた、とつぶやいている子ブタのスタンプが追いかけるように届く。
ほっとしたら、僕も猛烈にお腹が空いてきた。
「カツや。今日は、誰がなんと言っても、カツや」
僕がつぶやくと、左ポケットの中で、
もちまるが、ぽてんぽてんと大きく跳ねた。すごく嬉しそうだ。
……これは、一枚余分に買わんとあかんかな?




