第33話 vsファイアリザード
妹の上杉スチルをバステトに診てもらうための一番の問題は、どうやってバステトを病院に連れていくかだった。
スチルが入院している病院は全日本ハンター連盟経由で紹介してもらった病院で、警護もハン連公認のハンターがついている。
バステトの気配は明らかに人間のそれを逸脱しており、普通に病院に連れていけばハンターたちに囲まれるのは目に見えている。
という訳で、今は知り合いのハンターに頼んで根回しをしているところだった。手続きが終われば、書類上はバステトは僕が召喚したモンスターという扱いになる。
根回しが済むまでの間、僕はバステトの子守に勤しんでいた。気が変わって姿を消されてしまっては困る。
バステトは人間に友好的な性格をしていて、僕らはどんどん仲良くなっていった。
「テトちゃん、新しいキャットフード買ってきたよ」
「おお、新作にゃのです!? 早く食べさせろにゃのです!」
「テトちゃん、レティーシャの配信動画、一緒に観ようよ」
「人間のダンジョン攻略動画、にゃかにゃか面白いのです。脆弱にゃ存在が小細工でにゃんとかしようとするシーンはハラハラするのです」
「テトちゃん、ゲームしようよゲーム」
「人間、今度こそは負けにゃいのです!」
「そういえば、結局テトちゃんってなんで人間に試練を与えてるの?」
「……人間? 神に問うたのですね?」
「あ」
◇◇◇
「おおおおおおおおおお!!!」
僕はバステトによってランクBダンジョンに放り込まれ、ファイアリザードに追いかけ回されていた。
慣れ親しんだ薄暗い洞窟のようなダンジョンとは打って変わって、広大な砂漠がどこまでも続き、太陽がさんさんと照りつけてくる。
ファイアリザードは巨大なトカゲのような見た目をしたモンスターだ。近づこうとすると俊敏な動きで炎を吐いて牽制してくるため、近接格闘を主体とする僕の戦闘スタイルとは相性が悪い。
――仕方ない。燃えるか。
僕は覚悟を決めて突っ込むことにした。
近づこうとする僕に向けてファイアリザードが炎の息を吐き出す。
あっという間に僕の全身は焼け焦げるが、HP常時回復によって即座に回復し、一歩踏み出し、また全身が焼け焦げ、回復し、踏み出し、それを繰り返し続け、ついにファイアリザードに接近することに成功した。
ファイアリザードの瞳をぶん殴り、貫き、脳漿にまでダメージを与えると、ファイアリザードは光の粒子となって拡散する。あとにはテンポラリーカードが残った。
「にゃはははははは! 人間、マジ脳筋でウケるのです。それは報酬にゃのです」
【名前】バステトの腰布
【ランク】A
【カテゴリ】装備・テンポラリー
【効果】
バステトの腰布を具現化する。バステトの腰布を装備すると防御力がアップする。
※テンポラリーカードはデッキ枚数上限の影響を受けない。
※テンポラリーカードはダンジョン脱出時に消失する。
僕は無言で自分の身体を見下ろす。
ファイアリザードの火炎によって装備は完膚なきまでに焼け焦げ、ほぼ全裸になっていた。
HP常時回復は自分の肉体を回復させるが、装備カードには影響しない。装備カードも一定時間ごとに修復されるのだが、修復には時間がかかるため、最近は低ランクの装備カードをほぼ使い捨てる感じで運用していた。
ランクA装備カードなら修復までの時間が早そうだ。貰えるのならありがたい。全裸卒業である。
早速『バステトの腰布』を永続化して装備すると、今回の報酬についてバステトと交渉することにした。
「テトちゃんさー、僕がなにか質問した時は、試練無しで答えられる質問か、試練が必要な質問かを教えてくれる感じに出来ないかな? このままじゃ好きな食べ物聞くたびにダンジョンに放り込まれちゃうよ」
「んー? それが今回の報酬ですか。確かに妾としても、お前が核心に迫る質問をするたびにダンジョンに放り込むのは手間にゃのです」
いいのですよ、とバステトは軽く了承してくれた。言ってみるものである。
◇◇◇
「どうかな? テトちゃん」
バステトの入室許可が降りたため、僕とバステトはスチルのお見舞いに来ていた。
人前ではバステトは黒猫の姿をして、僕の肩の上に乗っかって移動している。
スチルは苦しそうに唸りながら寝込んでいた。
スチルのこういう姿を見るたびに胸が締め付けられる。出来ることなら代わってやりたい。
バステトはスチルの姿を覗き込んで、瞳孔を開きながら何事かをブツブツと呟いていた。
「ありえにゃいのです。仮にあのトリックスターの介入だとして、何故こんな微細な魔力を回収しているのです? いや、そもそもアレの意図を読もうとするのは無駄にゃのです」
バステトはこちらに振り向くと、結論を述べた。
「これは妾ではにゃい他の神性の呪いにゃのです」
「神性の……呪い?」
意外な言葉だった。
これまでバステトと接してきて、なんとなくダンジョンもカードも、人間を強くするために用意している意図を感じ取っていたからだ。魔力欠乏は、人間を強くするのとは真逆の症状だ。
――人間に敵対的な神様もいるのか?
僕は頭を振った。今知るべきは、神様たちの事情ではない。
「スチルは治るの?」
「妾にゃら治せるのです。しかし、少々事情が変わったのです。妾としては、これからの展開のために強い手駒が欲しいところにゃのです。そうですね、お前が東京マザータワーを制覇できる程度に強くにゃって妾に手を貸すのにゃら、治してやっても良いですよ?」
「分かった。行ってくるね」
「にゃあああああああ! 気が早いのです、この死にたがり! 今お前がマザータワーに行っても即死にゃのです! 妾が鍛えてやるのでちょっと待つのです!」
マザータワーに向かって歩き出した僕をバステトが慌てて止める。
「テトちゃんが僕を鍛える?」
「自然発生したダンジョンの中からお前に合ったダンジョンを妾が見繕ってやるのです。まあ大船に乗ったつもりで任せるのです」
今後の大まかな方針が決まったみたいだ。
一向にバステトの目的が見えないが、とにかく僕は強くなってバステトに手を貸す。
どうやらバステト自らが僕を鍛えてくれるらしい。
バステトが自信満々なのが逆に不穏だった。




