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第10話 新城姫香の矜持

 今日は僕と姫香がパーティを組んでダンジョンを攻略する初めての日だ。

 僕と姫香はランクEダンジョンに向かうために電車に乗っていた。

 二人で席に座った途端、姫香が恋人のように腕を組んできたため、人の目が若干気になってしまう。毎回引き離すのが面倒になってきて、徐々に根負けしている自分を自覚する。


 とにかく、今日は新人ハンターの引率だ。軽くダンジョンについてのおさらいをすることにした。


「姫香ちゃん、僕たちハンターが何故ダンジョンを攻略しなければならないのか、理由は分かるね?」

「ダンジョン災害を防ぐため、ですよね?」

「その通りだ」


 発生からおよそ一ヶ月が経過したダンジョンゲートは、人間が中に入れるだけでなく、モンスターが外に出られるようになる。

 モンスターがこちらの世界で暴れて被害を生むことを、ダンジョン災害というのだ。

 十年前、このダンジョン災害が多発的に発生し、甚大な被害を生み出した。僕の両親が亡くなったのもこの大規模ダンジョン災害の時だ。

 僕らハンターは、このダンジョン災害を起こさないようにするためにも、ダンジョンを速やかに攻略して崩壊させなくてはならない。


「ダンジョン崩壊の条件は?」

「ボスを討伐すること、そして、ダンジョン内のモンスターの九割以上を討伐することです」

「優秀。僕らがこれから向かうダンジョンは、既にボスは討伐済みだ。今日の仕事はダンジョン内の残りのモンスターを減らすことだ」


 姫香の初陣に、僕はあえて彼女にとって最も過酷であろうモンスターを選んだ。

 彼女の潜在的なポテンシャルはランクA相当ではあるが、ハンターとしてやっていけるかどうかは彼女の心にかかっている。



   ◇◇◇



 僕らは薄暗いダンジョンの中を進んでいた。

 前方を僕が歩き、少し後ろを姫香がついてくる。


 姫香は既に三十種類ほどのランクEカードをデッキにセットしていた。

 僕の手持ちで余っていたランクEの通常カードを渡したのである。姫香いわく「ハガネさんので私の中を染められてしまいました」とのことだったが、もちろんこの戯言は無視した。

 通常カードはテンポラリーカードよりも種類が豊富で、効果も高いものが多い。同ランク同名カード累積不可の法則をさけながらステータスを上げることが容易だ。


 【名前】新城姫香

 【ランク】D

 【攻撃力】85

 【防御力】125

 【速度】125

 【感覚】110

 【魔力】190

 【幸運】380

 【デッキ】30/400


 ……ちょっと強すぎないか?

 初陣にして既に僕の十年間を余裕で超えていた。仲間として頼もしい限りである。


「それにしても、意外とダンジョンって明るいんですね」


 姫香が物珍しそうにあたりを見渡す。

 前回ダンジョンゲートに巻き込まれた時は、周りを見るような余裕は無かったのだろう。

 洞窟のようなダンジョンの中は、光る石のようなものが等間隔で配置されており、視界が確保しやすくなっている。


「ランクD以下のダンジョンは基本的に明るいね。ダンジョンの構成も簡単なものが多い。ランクC以上のダンジョンだと真っ暗だったり、トラップがあったりするみたいだけどね」


 もちろん僕はランクEダンジョンしか潜ったことが無いので、この手の知識はレティーシャ・パーネルのユーチューブ動画からの受け売りである。


「そうなんですね。神はダンジョンという試練を与えた、ですか」


 姫香がぽつりと呟いた。

 彼女の言わんとするところは分かる。

 低ランクダンジョンはモンスターが弱く、ダンジョンも人間が戦いやすい構造になっている。

 高ランクダンジョンはモンスターが強く、ダンジョンもより複雑に、人間が苦戦する構造になっている。

 つまり、ランクEからランクAまで、徐々にステップアップできるように丁寧にデザインされているように思えるのだ。何者かの意図を感じる。それが神なのかは分からないが。



   ◇◇◇



「っと、雑談はここまでだな。姫香ちゃん、今の君の感覚値なら、この先にモンスターがいるのが分かるね?」

「……ひっ」


 姫香が青ざめた。

 感覚値が高いほどハンターの聴覚は強化される。彼女のステータスなら聴こえるはずなのだ。


「ギギギ」


 というゴブリンの鳴き声が。

 モンスターに敗北して酷い目に合わされたハンターが、そのモンスターを前にすると体がすくむようになるのは珍しいことではない。トラウマになるのだ。

 姫香が今後ハンターとしてやっていくのなら、ゴブリンを相手に戦えるのかどうかは見ておく必要があった。


 ――これは駄目かもな。


 姫香は両手で自身の体を抱きしめるようにするが、ガタガタとした体の震えが止まっていない。

 顔は青ざめ、唇を噛み締め、じっと恐怖に耐えていた。


「わ、わた、私、」

「姫香ちゃん。無理する必要は無い。今日が駄目なら今度でも良いんだ」

「私、私ってすごく可愛いんです」

「うん。……うん?」


 いきなり何の話だろう。


「すごく可愛いし、勉強が出来るし、運動も出来るし、ハンターとしての才能もあるし、ハガネさんという素敵な恋人もいるし、皆から愛されているし、天は二物も三物も与えてくれたんだなって思います」

「僕を勝手に恋人にするんじゃないよ」


 とんでもない自信家だった。自己承認が高すぎる。


「そんな私が、最近はあまり眠れないんです。ダンジョンでモンスターに襲われた時のことを思い出して、怖くて、寝ていても飛び起きてしまいます」

「……」


 ああ、ようやく姫香がハンターになった理由が分かった気がした。そうか、この娘は。

 姫香はキッとした眼差しで前方を見据えた。いつの間にか震えが止まっている。


「でも、それっておかしいです。こんなに皆から愛されている私が、夜に眠れないほど不幸だったら、私を愛してくれてる皆にも失礼だなって思ったんです。だったら、私の手で、ダンジョンに置いてきたものを、取り戻さないといけないですよね」


 そう、この娘は、泣き叫び、救いを求めたダンジョンに、自らの意思で戻ってきたのだ。

 自らの矜持を取り戻すために。


「僕はそういうのが好きだぞ姫香ちゃん! よし、行って来い! 骨は拾ってやる!」

「はい! 行ってきます! いえ、違いますね……私がイくところ見ていてください! ハガネさん!」

「なんでちょっと卑猥な感じに言い直したの?」


 台無しだった。


 これは語るまでもないことだが。

 姫香はこの日、ダンジョン内の全てのモンスターを一人で殲滅したのだった。

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