02『いきなりチュートリアルです!』
ああ、勢いにまかせて言っちゃった。
でもこれが、あの『沖田畷の戦い』なら――龍造寺軍は絶対に負ける!
寡兵を侮って、偽りの敗走に騙されて足場の悪い湿地帯に誘い込まれた後、左右からの伏兵を受ける――つまり島津の『釣野伏せ』に引っかかって、龍造寺隆信以下、四天王も全員討ち死にしちゃうアレじゃない!
ダメ、隆信ちゃん。出陣しちゃダメ!
あーでも、いきなり『この戦、絶対負けます!』とか言ったのは、マズかったかな⁉︎
出陣前の士気を下げおって、こやつ無礼討ちクマー――とか、なっちゃう?
「ふむ……」
アレ? 隆信ちゃん怒ってないの?
もしかして私の話、信じてくれてたりする?
「では皆の者、出陣クマー!」
スルーですかー!
いやいや、ある意味、このクマクマ幼女おっそろしいわ!
「しゅつじん! しゅつじん! ワハハハハ!」
あらー、見るからに元気ハツラツな百武賢兼さんが、歌いながら突っ走って行っちゃったわ。
でもあれ絶対に、何も考えてないわよね?
典型的な『暴走系脳筋』ね。
「木下昌直。初めての戦で不安な気持ちは分かるぞ――」
そう言って、肩に手を置いてくれたのは成松信勝さん。
私をフォローしてくれるの?
よく見るとこの人、見た目も落ち着いてるし、もしかして、もしかして常識人とか?
「――でも、頑張ればなんとかなるぞ! さあ共に、気合、気合、気合で頑張ろう! ハッハッハッ!」
違ったー!
これ、なんでも根性でなんとかなると思うタイプだー!
言うなれば『気合系脳筋』ね。
はーっ、先が思いやられるわ。
あっ、今度は江里口信常さんと目が合った。
細い目がキラリと光るクールビューティーさんだけど、なになに? 何か私に言いたい事があるの?
「ハンッ!」
思いっきり鼻を鳴らして行っちゃった……。
でも私には分かるわ。
あれって行動に特に意味のない――知的に見えて頭カラッポさんよ……。
うーん、『クール系脳筋』かあ。
でぇ……最後にぃ、
「ウフフッ、ウフフッ」
円城寺信胤さんね。
隆信ちゃんに似て、ちっちゃくて可愛いけど、頭の上にお花畑咲いてるのが見えるわ……。
もう何も言わなくていいわ。
これ『天然系脳筋』ね、はいはい……。
うわー、噂に違わぬ脳筋軍団じゃない……。
ここまでお約束ステータスだと、かえって清々しいわ。
「では、木下昌直。そなたは『びぎなー』じゃから、別働隊の直茂に付いて『ちゅーとりある』を受けるがよいクマー」
隆信ちゃん、ソシャゲみたいな事言ったら、円城寺ちゃんと手ぇ繋いで行っちゃったわ。
ほんとあの二人、背格好が似ててまるで仲良し姉妹だわ。
って、そ、れ、よ、り、も――
「直茂さん――!」
「は、はいー!」
私がなんで、ここに召喚されたのかを、この目ぇ泳ぎまくってる残念美人さんに聞かなくちゃだ!
「なんで私をここに召喚したんですか⁉︎ あと、ここどこなんですか⁉︎ それと、なんでみんな女の子ばっかりなんですか⁉︎」
とりあえず思いつく疑問を全部ぶつけてみた。
「えーっとですねー……」
あっ、考えてる。
気合いだーとか、笑ってやり過ごすとかしないあたり、やっぱりこの人は知将と呼ばれる鍋島直茂だけの事はありそう……かしら?
「ご、ごめんなさい!」
うわっ、いきなり土下座されたぞ⁉︎
なに、どういう事⁉︎
「…………に選びました」
えっ、土下座の姿勢で、ゴニョゴニョ喋ってるからよく聞き取れない。
「な、直茂さん、顔を上げてもらっていいですから、もうちょっとハッキリ喋ってくれませんか?」
「は、はい……。あの……ですね、て、てきとーに……選んじゃいました……」
はい? てきとー?
いやいや、私の聞き間違いかもしれないわよね?
「今、適当って言いました?」
「はい、適当に召喚しちゃいました」
「…………………………。なんでじゃーーーっ!」
「あわわわわ!」
「いやいや、おかしいでしょ! なんで? 私は普通のOLだったのよ! なのに――いつ、どこで、誰が、なんのために私をここに召喚する必要があったの⁉︎ そこをハッキリさせなさいよ!」
「は、は、はわわわわ! あの、あの、あのですね――た、隆信様が、そろそろウチの四天王にも『テコ入れ』が必要だと言ったんですー!」
うわー、いやな予感しかしないわー。
「それで?」
「で、『やっぱりここは『追加メンバー』がお約束じゃろう』と言われて……」
やっぱりかー……。
これ完全に、夏過ぎたあたりの戦隊やプリ◯ュアのパターンじゃないの!
「なので色々、求人広告とかも出してみたんですが、なかなか応募も来なくて……」
未経験者歓迎、アットホームな職場ですとか出したの……?
終わってんじゃない、ここの龍造寺家!
「その挙句ついに昨日、隆信様が『有馬討伐までに追加メンバーを揃えないと、強制解散じゃー!』とか言い出しまして……」
どっかのオーディション番組?
ああ、なんかこれ以上、聞きたくなくなってきたわ……。
「仕方ないので、『角隈石宗の通信講座』で習った召喚術で、適当に異世界召喚してみたら、出てきたのがあなただったのです……」
ああ、もうツッコミ所満載だけど、とりあえず原因はあのクマクマ幼女のワガママと、この残念美人の苦し紛れの行動のせいなのかー……。
でも、なんかワガママ上司と、使えない部下に挟まれた中間管理職って、どこの世界にもいるものなのね……。
なんだか同情………………できるかー!