01『いきなり沖田畷です!』
「――クマー、――クマー!」
はあ? クマー、クマー? いったい、なに言ってんの⁉︎
って、今、私どこいるのよ?
えっ、周りにいる人たち、みんな鎧着てる?
それに刀も持ってるし……あと火縄銃?
あっぶなー! ここ銃刀法とか、どうなってんのよ?
しかも……、みんな女の子じゃないのー⁉︎
「おい、木下昌直! 返事はどうしたクマー⁉︎」
またクマーが……。
あっ、目の前にキンキラな鎧着た女の子がいる。
クマクマ言ってたのは、この子なのね。
うわー、しっかしこの子、ちっちゃくて可愛いわー。
なんか高床式っぽい椅子に座って、必死にふんぞり返って、めっちゃロリ心くすぐられるんですけど。
で、ところで木下昌直って言ってたけど、私の事?
いやー惜しい、私の名前は木下昌子なんですけどねー。
まあ微妙に間違えちゃうとこが、また幼女っぽくていいわー。
ん? でもニアピンとはいえ、なんでこの幼女が私の名前知ってる訳?
って、うわっ、幼女すっごいこっち睨んでるじゃん!
「もー、最初っからやり直しクマー!」
「ハァ……」
癇癪起こした幼女ちゃんの隣にいる眼鏡かけた――見るからに残念美人な――人がため息ついてるけど、ほんとこれどういう状況?
「では、いくクマー! ――成松信勝!」
「ハッ!」
「百武賢兼!」
「ハッ!」
はい? 幼女に名前呼ばれた人が返事してるけど――成松信勝、百武賢兼って、戦国時代の龍造寺家の武将じゃないの⁉︎
ええ、私は歴女です。
しかも自分で言うのもアレだけど、まあまあマニアックですよ。
どのくらいかっていうと、『信◯の野望』に出てるレベルの武将なら、たとえマイナーでも全部おさえているくらいは歴女なのです。フンス!
「江里口信常!」
「ハッ!」
って、点呼続いてるわ。
待て待て、状況を整理しろ私。
成松、百武、江里口、この流れからいくと――
「円城寺信胤!」
「ハッ!」
やっぱりだ、これって『龍造寺四天王』じゃない!
しかもみんな鎧、刀、火縄銃で武装してる女の子って、どういう事⁉︎
これはアレですか? 『ドキッ! 丸ごと戦 女だらけの戦国時代』ってやつですかー!
「木下昌直!」
あっ、アホな妄想してたら呼ばれた。
やっぱりこれって私の事よね。
えーっ、私、木下昌直なの……?
この人って龍造寺四天王の一人だけど……、この四天王って……アレじゃない……。
わっ、また幼女、私の事睨んでる!
あーもー、なんかよくわかんないけど、返事しとかないと――とてつもなくメンドくさそうな予感がするー!
「は、ハッ!」
うわー、ノリで返事しちゃったわ。
って、アレ? 私の横にいる他の四天王さんたち、私の返事が終わると同時に、ポーズ決めてる?
「「「「五人そろって――」」」」
あ、やな予感する……。
「「「「我ら、龍造寺四天王!」」」」
やっぱそうかー!
っていうか、この人たち何やってんの⁉︎ どっかのス◯パー戦隊⁉︎
しかも、五人そろって四天王とか、これ戦国時代の定番ボケネタになってるの分かってる⁉︎
「ワッハッハッ、よくぞ生き残ってきた我が精鋭たちよ!」
幼女、ドヤ顔だわ。
しかもそれ『た◯し城』のセリフでしょ。
あと、クマーどこいったの?
でもこれで分かったわ。あのクマー幼女の正体は――
「この龍造寺隆信のために、此度の戦も存分に力をふるうとよいクマー!」
ですよねー。ここで信長であるとか言ったら、もう収拾がつきませんよ、ほんと。
いやしかし、これが龍造寺隆信――。思ってたの違うけど、さすがは『肥前の熊!』って感じよね。
まあ語尾にクマーつけてるだけだけど。
という事は、隆信ちゃんの隣にいる残念美人さんが、
「のう直茂、どうじゃ、どうじゃ、このニュー四天王は?」
やっぱり龍造寺隆信の片腕――鍋島直茂なのね。
でも、この人ほんと疲れた顔してるわー。大丈夫かな?
「え、ええ、とてもいいですね……」
うわ、嫌々言ってるよ、この人。
あっ、顔をそむけた拍子に、目が合っちゃった。
あれ? でも、すぐに気まずそうな顔して目を逸らされた。なんで?
「直茂が昌直を『召喚』してくれたおかげで、四天王もパワーアップしたクマー!」
はい? 隆信ちゃん、今なんて言った?
召喚⁉︎
あとさっき『ニュー』四天王って言ってたよね。
って、私って召喚されたの⁉︎
わっ、直茂さんが、めっちゃ気まずそうな顔して私見てる。で、またすぐ顔そむけた!
ちょ、ちょっと、ちょっと、説明プリーズ!
「お前たちも、もう知っておろうが『有馬の女狐』めが、島津と組んで妾に逆らおうとしているクマー」
隆信ちゃん、今、有馬と島津って……。
えっ、これって龍造寺家凋落のきっかけになった『沖田畷の戦い』じゃないの⁉︎
「なので此度は、妾直々に出陣して、あの晴信をギッタンギッタンにして分からせてやるクマー!」
ギッタンギッタンって……、って、そこじゃなくて――間違いない、これ沖田畷よ!
「妾と直茂と四天王がおれば大丈夫クマー。いざいざ出陣ク――」
「待って――!」
あ……、いきなり私なに言ってんだろ。
しかも勢いで前に乗り出しちゃったし……。
うわー、みんなの視線つらいわー!
でもでもでも――黙ってなんていられない!
「――この戦、絶対に負けます!」