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9 聖女の訓練場潜入リポート

「はあ、それにしても……私だけだとこうやって調べたりするの絶対無理でした……マーリン様ありがとうございます」

「いえいえ、私も楽しく有意義な時間でしたわ」


 エレンがお礼を言うと、マーリンがそう言って微笑む。女神様かな?


 マーリンは初対面の印象が大分冷たい感じなので、仲良くなるとギャップにもだえるエレンである。たぶんウィリアムもそれで落ちた。


「では私は、ウィリアム様がもうすぐお帰りになる時間なので……今日のことお話ししたいし……もうしばらく王城に残るつもりです。エレンさんはどうしますか?」


 ほら可愛い! ウィリアム様とお話ししたいですってよ! まー。あらあらまあまあ。きゃわわわ!


 エレンもウィリアムに顔くらい見せようかなと思ったけど、マーリンとの2人きりの時間を邪魔するのもあれだし。邪魔者はおいとましまーす!


「私はですねえ、実はこれから……イアン様に……ついに、会いに行ってみようかと!」


 今度見に行きますとか言っておいて、

 なんやかんやで結局一度も訓練場に行っていないのだ。

 今度行く行く詐欺である。


 別に、八百屋にさっぱり来なかったからって仕返ししてるとかじゃなくて……なんていうか、そのぅ……自分から会いに行くのは緊張すると言うか……きょどりきょどり。


「ふふ、イアン様、訓練場にいたんですってね。

きっと喜びますわ。エレンさんに打ち明けて以来、そわそわして全然訓練に集中できないってぼやいてましたもの」


 そう言ってマーリンが面白そうな顔をする。

 実に小悪魔チックである。


 ちょっとちょっと、マーリン様。こういう表情はもっとウィリアム様の前でしましょうよー。積極的に。って言いたいんだけどなああ! 言うと逆効果なんだよなああ!?


 前に、別のしぐさで可愛いと思ったやつがあって『これと同じやつウィリアム様の前でもしましょうよー』と言ってみたところ……顔が真っ赤になって

『絶対に嫌です! もう一生しません!』と言って、本気で一生しないという固い決意を見せてしまったのだ。以来、二度と見ることはなかった……。


 おっふ。気にさせちゃって……なんか……ごみんに。


 ああ、でも実にもったいない。

 ウィリアム様にもぜひ見せたい。


 エレンが八百屋を辞めてから、気軽に顔を会わせたりとか、ここに来たら誰かしらいる、みたいな場所がなくなってしまったので、次回会う日をちゃんと約束する。


 まあ、八百屋には旧弟がいるから、伝言を聞いててもらったり、時間大丈夫そうな時は家に連れてきてもらったりもするのだけれども。


 マーリンのほうであらかじめウィリアムとイアンのスケジュールも確認してくれていたので、次回は3人でエレンの家に来てもらえるみたいだ。楽しみだなあ。


****


 ドンドンガガン!!


 初めて兵士の訓練場の中に入ったエレンは、激しい打ち合いの音が聞こえてくる方向にとりあえず進んでみることにした。


 ていうか受付に人がいなくてめちゃめちゃ戸惑う。

 入っても、いいんだよね? ドキドキ。

 玄関で靴を脱ぐスタイルっぽいので、靴を脱いでシューズボックスに入れる。

 とりあえず無人の入口でも挨拶は言うだけ言ってみた。


「ごめんくださーい、お邪魔しまーす……」


 抜き足、差し足、忍び足。

 なぜか怪しい動きで進むエレン。気分はくノ一である。決してこそ泥ではない。にんにん!


「ここかな? イアン様いるかなあ?」


 打ち合う音の響き渡るフロアの入口から中を、エレンがひょいっと覗き込もうとすると。


「あれ? エレンさんの声がしたような……幻聴?」


 フロアの中、エレンがいる場所より1段下のところから同じようにひょいっと入口の外に顔を出したイアンとタイミングがあって、おでこが、ごつん! とぶつかった。否、激突した。頭がぴよぴよする。


「いたた……エレンさんすみません、大丈夫ですか?」

「うう……だいじょばないです。あ、イアン様こちらこそすみません」


 エレンは涙目になりながら、おでこをさすりさすりして、イアンが差し出してくれた手を取り立ち上がった。どっこいしょーいち。とんだ再会である。


 イアンのおでこに治癒魔法をかけた。

 きらきらきら~。石頭ですみませんね。

 よしよしイアン様のたんこぶ消えた。なでなで。


 この間、イアンは実に様々な表情をして、最終的に心配そうにエレンに話しかける。


「エレンさんてもしかして、自分には治癒魔法使えないんですか?」

「え? ……は! 使ったことなかったです」


 ガーン、なぜ思い付かないのか。

 そして治癒魔法を自分に使ってみたら普通に治ったのでエレンはしょぼんぬだ。この前、足の小指ぶつけたのにいい。


「治癒魔法を頭に使ったら、頭悪いの治りますかね……?」

「そういう人体実験みたいなのは、止めましょう? ……ちょっと会わないだけですごく久しぶりな気分です。来てくれてありがとうございます、エレンさん」


 イアンはそう言って笑った。


****


「ああ、今ちょうど2回目の打ち合いが終わって、休憩をしていたところだったんですよ。フロアが小さいから2グループに分けて交互に練習してて……」


 首の汗を拭きながらそう言うイアンは、Tシャツにジャージといったラフな姿だ。普段、制服姿か、もっとかっちりした姿しか見たことないエレンの目にはとても新鮮に映る。


「へー、じゃあ私いいタイミングだったんですね。イアン様が打ち合いしてるとこも見てみたかったけれど……」

「結構頻繁に入れ替わるのでまたすぐ見れますよ」

「あ、そうなんですね。よかったあ」


 変な人がもし訓練場に入ってきたとしても、中にいるのは国を守る兵士達だから、そのくらい対処できるでしょ。というわけで、受付は特に置いてないらしい。

 そんなの知らない一見さんは入りづらいっすよ~! ……は! 訓練場に足を踏み入れる者は、心の強さを持つべし……的な? 第一の試練……的な?


 イアンは、魔力を持ってるとついその魔力に頼りがちになってしまうから、今後、風魔法を使いづらい場所での戦闘や、相性の悪い魔獣と遭遇した時の対策として、身体機能そのものをもっと鍛えようと思ったそうだ。

 だから、貴族の多い騎士団ではなく平民の多い兵士の訓練場に、お願いして通うようになったらしい。


「風魔法を封印していると、自分が思っているような動きが全然できなくて、難しくて面白いです。あ、そろそろ3回目が始まるみたいなのでいってきますね」

「はい、イアン様いってらっしゃい。頑張って!」


 エレンが手を振るとイアンが微笑みを返してフロアに戻る。エレンはその様子を人がまばらな見学席で眺める。


 素足で踏み込み木刀で打ち合うようだ。正面だけの簡易防具をつけるし、木刀も軽い木の素材で当たってもそれほど痛くないらしい。打ち合いの前後に礼をするところとか、なんとなく、剣道を彷彿とさせる。


 ガンドガガガドンバンバン


 あちこちで打ち合いが始まって、フロア内は大きな衝突音に溢れている。

 そんな中、エレンの目はイアンばかり追いかける。


 ベテランの兵士と充分渡り合えているし、動きが洗練されていて、他の誰よりもカッコいい。


 私、こんなにじっとイアン様を見たことなかったかも。


 今日は『見学』だから堂々と見れる。

 ずっと見てても全然飽きない。

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