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82《25》聖女は最後の謎を解く

 目覚めた王妃は、緩慢に起き上がると、ぼんやりと辺りを見ている。


「ここは?」


「……空間の狭間にあるとされる、迷宮です。

随分お待たせしましたが、お迎えに上がりました。

…………王妃様」


「そう」


 王妃の質問に応えたウィリアムは、自身が王妃の子どもだとは話さなかった。

 話す内容を最小限にして、たぶん、目覚めたばかりの王妃を混乱させないようにしている。


 王妃はウィリアムを見つめた。


「……今にも泣きそうな顔をしているわ」


「そんなはず、ありません。こうして、お会いできたのですから……」


 そう言うウィリアムは、微笑みを浮かべているのに、確かに泣きそうに見えた。王妃はゆるやかに腕を伸ばすと、優しくウィリアムの頭をなでた。


「迎えに来てくれてありがとう。ウィリアム」

「え……?」


 そうして、驚いているウィリアムを見て、王妃は嬉しそうに微笑んでいる。


「……長い長い夢の中で……時折あなたは、私に会いに来てくれていたわ。だから、覚えている……これまでのあなたも、今のあなたも。とっても素敵に成長したね。ようやく、話ができた」


「母上……」


 ウィリアムは呆然としている。

 エレンの腕の中で、悪魔が王妃に声をかけた。


「生きているのか?」

「ええ……生きてる」


 そう応える王妃の瞳には、悪魔に対しても、ウィリアムを見つめる時と同じ愛情が感じられた。


 悪魔はウィリアムよりもずっと素直で、エレンの腕から飛び降りると、王妃に抱きついた。


****


 感動の再会をそこそこに、ウィリアムが、全員で現実世界に戻る為の話をしている。


「ぼく達が通ってきた道は、炎や崖や暗闇が邪魔をしていて、大量の魔力が必要になるのだけれど……みんな、ほとんど魔力を使いきっていて、今すぐには戻れそうにないよね?

現実世界に残している体が栄養を摂取できないから、眠っても魔力は回復しづらいけれど……それでも、戻る時間を逆算して、取れるだけの睡眠を取ってから戻るのが、一番安全だと思う」


「崖や暗闇なら、オレの変身でもなんとかなるぞ」


 悪魔の積極的な発言に、ウィリアムは少し驚いて、微笑んだ。


「うん、頼りにしてるよ。交代で魔法を使って進みたいね。……君が手伝ってくれる分、安全に帰れる確率は上がりそうだけど……迷宮攻略の最大の難関に炎のエリアがあって……あのエリアだけは、一旦進み始めると途中で立ち止まることができない」


 すると、イアンが提案する。


「そのエリアだけは、全員で対処して進むほうがよさそうですね。道筋を立てる役、炎を静める役、移動速度を上げる役」


「うん。あとは……このエリアの燭台(しょくだい)や、ロープ……はさすがにないだろうけれど、カーテンとか紐代わりになるものを持ち込んで利用したり……」


「確かに、引き返す前に、使えそうなアイテムをみんなで探して利用するのは、いいアイデアですね」


 そんな感じで作戦を練っていると、王妃が記憶をたどりながら話した。


「このフロアにある……《白い扉》からは出られないのかしら?」


「──白い扉!?」


 エレン達の声がハモった。


****


 一番大きなステンドグラスの右隣。


 一見、木の壁のように見えるけれど、よくよく見ると隠し扉になっていて、開けると小さな部屋があった。

 そうして、その先には《白い扉》


「ここから出る唯一の場所っぽいんだけれど……10個のキー入力が必要なんだ。適当に押しても当たる気がしねーし、力で無理やり開けようとしても無駄だった。ヒントっぽいものも、なかった」


 悪魔がそんな風に言う。

 白い扉の左手に、操作パネルがあった。

 6種類のボタンが並んでいる。


 《↑》《↓》《←》《→》《A》《B》



「イアン様、これって……」


 エレンがそうつぶやいてイアンを見上げると、イアンがうなずいた。


「すみません、最後の2つしかわかりませんが……最後は《B》《A》です。ヒントはたぶん全部、各フロアの謎解き部屋に隠されていました」


 イアンが苦々しげに言って、ウィリアムも悔しそうな顔をする。 


「うわ、進むことに意識が向いてて全然気づかなかった……。あ、最初の1つは《↑》かも」


「え、そうなんですか?」


「うん。確かに見つけた。でも、黒い扉に向かう矢印だったから、肖像画の向きを扉に合わせろっていうヒントだと思っていて……次のエリア以降は探そうなんて思わなかったんだ」


「7つが不明だと……6の7乗……まだ約28万通りの組み合わせがありますわ。このままでは、不可能ですね……」


 おっふ。10文字から7文字に減ってもまだそんなに組み合わせがあるなんて……。エレンは考えるのを諦めた。『十字キーとABボタンなんて、ゲームのコントローラーみたいねうふふ』などと現実逃避をしている。


 でも、他のみんなは、どうにか打開方法がないかと、諦めずに話し合っている。


「……確か、厳しいエリアとなにもないエリアが交互だったよね?」


「そうですね。最後が暗闇、その前が普通の廊下で、さらに前のエリアが炎……」


「そして、その2つ前は崖エリアでしたわ」


「崖エリア直前まで戻っても新たなキーは3種類か……まだ8000弱の組み合わせが残る。崖とその次のなにもないエリアまで戻れば、組み合わせは一気に36通りにまで減るけれど……序盤は楽だったから、そこまで戻れるのならそのまま最初のフロアに戻って帰るほうがよさそうだね」


「もう少し早く気づいていればよかったですね」

「本当にそれ。悔しいな……」


「これはもう仕方ありませんわ。いくつエリアがあるのかも分からなかったのですもの」


 エレンがぼけーとしている間に、話し合いの結果『この白い扉は無理』という結論になったご様子。


 エレンと同じように、傍観していた王妃と悪魔も「難しいのねえ」「だなー」と他人事だ。



 って、あれ?


「……最初が《↑》で最後が《B》《A》?」


 エレンは首をかしげた。既視感ではない。

 前世知識的なやつでふと思い出したやつがある。


「そうですけれど……」

「なにか気づいたんですか?」


「うーん、気づいたというか……やってみたいことができたというか……」


「じゃあやってみます?」

「そうですね」


 エレンはこくりとうなずいて、ウィリアム達の横をとことこと通りすぎた。操作パネルでポチポチと迷いなくコマンドを打ち込む。


「上上下下左右左右BA」


 ゴゴン


 白い扉が開いた。



「は? えええーーー!?」

「なんで? どうして分かったのですか?」


「えっと、なんとなくです」

「なんとなく!?」


 前世の記憶って言うとややこしそうなので、エレンはぼかした。

 しかし、ゲームのコントローラーみたいと思ったら……本当にゲームネタじゃないすかー。

 この迷宮を作ったの、転生者だったりして。


 ちなみに、普段ゲームをしない人の為に補足すると、このコマンドは、レトロゲーマーなら誰でも知ってる。


 ファミコンやスーファミを触る機会がもしあれば、とりあえずスタート画面で最初に打ち込んでみるといいよ!


『世界一有名な隠しコマンド』としてギネスにも載ってるやつである。

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