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8 聖女の日記

===========================

×月×日 久しぶりに外に出た。治癒魔法を使い終わると連れ戻された。

×月×日 こんな日記書く意味あるのかな。

×月×日 聖女ってなに? 最近毎日のようにそう思う。こんなところに閉じ込められて、必要な時だけ連れ出されて。そんな風に一生を終えるなら、なんの為に。私は。

×月×日 世界がもっと不幸になればいい。そしたら私は外に出られる。次に外に出たら、そしたら。

×月×日 自分の中にあったはずの温かさが消えた。


以降、判読ができない。

===========================


 この日記は保管価値がないと判断されて、燃やされて灰になり、灰色の雪のように空に舞った。


****


「マーリン様、手伝ってくれてありがちゅっ」

「て、手伝い……!? さすがに図々しいです……現時点で9割私が調べてますわ……」


「だって、淡々とした難しい文章で、全然頭に入らないんですもん。こいつら全力で眠らせにかかってきやがる……!」


「もー! じゃあわかりましたから、エレンさんはそれっぽい資料を物色して持ってきてください」

「イエス! マム!」



『学園がお休みの日なら一緒に調べましょうか?』


 マーリンがそう言ってくれたから、聖女についての調べ物は休日に行うことにした。

 そして、王城の聖女資料保管庫に仲良くやってきたエレンとマーリンは……調べ始めて1時間程でこんな感じである。


 うふふ、マーリン様が来てくれてよかったあ。

 エレン1人の力では、即、詰んでいる。


「それにしても、公文書ばっかりですよねー。もっと聖女物語とか、せめて日記とか……そういう読み物みたいなのがあればいいのに」


「そうですね。そもそもこの文書だけだと、時代背景とかも見えづらいですし。大まかな歴史は把握していますが……より詳細を調べるには、歴史書と照らし合わせたほうがいいかもしれませんわ」


「うへえ、歴史ぃ……?」

「こらそこ、嫌な顔しないの」


 マーリンは学園でも才女として名高い。どうしたら頭よくなるのと前に聞いたら『勉強をすることですわ』と事もなげに言われた。帰宅後は日課として予習復習を3時間してるらしい。嘘やん。


 努力をするのも才能と言うよね。

 きっと夏休みの宿題も7月中に終わらせるタイプである。


 マーリンは、後で歴史書と比較できるように、聖女資料を見ながら、ノートに年月日とキーワードをさらさらと書き写している。

 たまに、マーリンの水色の髪がさらりと落ちて、耳にかける。その様子は澄み渡った川のようにキラキラと揺らめく。


 ウィリアム様に、この姿見せたいなあ。

 調べ物に夢中になるマーリン様すごく綺麗。


 エレンは、一通りめぼしを付けた資料をテーブルに集めたので、向かいの椅子に座って、マーリンのそんな様子を眺めていた。

 それ以外特にすることもなくて、頬杖ついて、うとうととする。



 魔獣については、その後少しだけ明らかになったことがあった。

 近隣に生息する魔獣が凶暴化する時間について。

 観測した結果、多少のぶれはあるがほぼ夜中に変異することがわかった。また、変異する魔獣の数は日に2~3匹である。


 この調査で、王国騎士団が夜間も森に入っていたので、ここ数日はエレンも夜中に叩き起こされる日々だった。

 でもまあ、凶暴化した魔獣をほぼ狩り尽くしたことと、夜中に凶暴化する確率が高いということがわかったのは大きな前進だ。


 今後は、夜中は国内の見回りをするに留めて、朝になってから騎士団が近隣の森をパトロールし凶暴化した魔獣を狩ることになっている。

 そして、正午から夕方までなら一般の人達も、国外への外出をしてもよい、という方針になった。

 輸出入もまた少しずつ再開するのだろう。



「エレンさん、エレンさん起きてください」

「ううん……あれ、寝てました……?」


「寝てました。……まあ、お疲れでしたものね。私も一通り調べ終わりましたわ。とりあえず、エレンさんが気になってた『治癒魔法以外を扱う聖女がいたか』についてお話ししますね」


 マーリンのその言葉に、エレンは一気に覚醒する。


「結果は……いた……かもしれません」

「かも?」


「記述がすごーく微妙なんです」

 と微妙な顔でマーリンが言う。


「それっぽいのは、例えばここの記述ですわ。『戦時中、前線で治癒を行っていた聖女は幾度となく命を狙われたが、その攻撃はことごとく軌道を変えた為、聖女に当たることはなかった』」


「おお! これはもしやもしや…!?」

「風魔法かもしれませんわ」

「ぎゃふん!」


 そんな感じでマーリンが聖女エピソードを語る度に、エレンが「もしや!?」「今度こそ!」「ついに来たか!?」とか言っては、マーリンが「火魔法かもですわ」「水魔法っぽいですわ」「たぶん土魔法ですわ」とか言う。


 お願いもうやめて! 期待させてから落とさないで! エレンのライフはもうゼロよ…!?


「うう……マーリン様、私わかったことがあります」

「なんですかエレンさん?」

「別にこういう魔法を聖女が使える必要、ないですよね……。みんながいれば、怖くないよね……」

「エレンさん……」


 えへ、でも涙がでちゃう。だって女の子なんだもんっ。


「まあ、呪いとか病とか治せるようになったら聖女っぽくてカッコいいですよね! 私はそっちで頑張ります! でもどうやればいいんでしょうねえ」


「そうですねえ、大昔の聖女はみんな大小はあれど使えてたみたいなんですけどね……」

「え、そうなんですか?」


「ええ。聖女と呼ばれる以前から彼女達は、神秘の力を使って病や災いを取り除く存在として崇められていたようですわ。

そしてその力は50年単位で少しずつ形を変えながら継承されていきます。

そうして、今からおよそ200年前……あらゆる怪我も病も呪いをも治癒させるほどの……大聖女が現れるまでに、至りました」


「ほほー、少しずつ強くなっていった感じなんですね」


 エレンの言葉に、マーリンが頷いた。

 そして、続ける。


「ですが、そこで終わりです」

「終わり?」


「はい。大聖女は次の聖女が現れる前に亡くなってしまいました。なので、呪いの解き方も病の治し方も、今はもうわかる人はいないのです」


「亡くなった? なぜですか?」


「病死とも事故とも言われています。……亡くなったのは大きな疫病が流行った年でした。ですがその数年前からはもう、人々の前にはめったに姿を現さなかったようです」


「大聖女でも、そんな風になっちゃうんですね」


 ふうん、残念。じゃあ自力で頑張るしかないかあ。

 ところで呪いってそもそもどういうもので、誰がかけるんだろう?

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