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71《14》聖女は王と会った

「やあ、今日は突然すまないね。

ウィリアムから一通りの話は既に聞いているけれど……君達からも聞きたいと思ったんだ。夢の話を教えてくれないか」


 王城で王様とお茶するとなると、超長いテーブルの端っこと端っこでやり取りするイメージのエレンだったけれど、場所は前回ウィリアムがおもてなししてくれた丸テーブルだった。


 私服姿で現れた王様は優しそうなおじ様といった感じで、ウィリアムとマーリンの間のいすに座って、柔らかく微笑んでいる。ちなみに、マーリンの隣がエレンでその隣がイアンでその隣がウィリアムという配置である。


 丸テーブルの真ん中には3段の回るトレータワーがあって、各段においしそうなお菓子が可愛く盛り付けられている。


「どうぞ遠慮せず召し上がれ」と言って、王様が真っ先に食べて見せた。気を使わせない為の心遣いと思ったので、エレンは「ありがとうございます、いただきます」と言って遠慮せず食べることにした。


 エレンのほっぺたが落ちた。


 比喩である。

 おいひいよう、おいひいよう。


 意外と他のみんなは食べるより話すほうを優先していて、エレンばかり食べている。エレンもちょっとくらいは参加しようと思って、マーリンの話に相づちを打ったり、イアンの話に相づちを打ったりした。

 みんなで同じ夢を見ていたから、たぶん2人の話で完全網羅できてる。


 王様はゆったりと振る舞いつつも、使用人にさりげなく目配せをした。壁に控えている使用人達が静かに動き始める。王様が言う。


「今夜も君達はまた、その夢を見るだろう。

《黒い扉》は試練だ。だが挑まないことも、先延ばしすることもできる……もう1つの《白い扉》を使いなさい。そうしたらその夢は終わるはずだ」


「なぜ、父上が断言できるのですか?」


「決まっていたからだ。ウィリアム……これはお前が生まれる前から定められていた」


「……ぼくは聞いたことないけど」


 ウィリアムが戸惑っている。


「条件も時期も、不明だったんだ。だが、その現象が起きた今、私には話す義務がある。……ウィリアムの友人まで含まれたのは、予想外だったがね」


 夢にしては、色々不思議と思っていたけれど、まさか王家の定め的なやつだったなんて!


****


「神託があった。『王の子どもは悪魔に魅入られる。生まれ落ちて間もなく失われるだろう』と……悪魔に魅入られるというのは、魔力が覚醒した状態で生まれるということだよ……その場合、魔力が強いほど不浄の者に狙われやすい。なぜかわかるかい?」


「……善悪を知らないからですか?」


 エレンがなんとなく言うと、王様がうなずいた。


「そうだ……無垢で何色にも染まる。それに世界が設定している倫理観にも守られない。

神託があった以上、逃れられないが……我々は悪魔に見つかる前に、生まれる子の魔力を封じることにした。だが、こちら側にも悪魔側にも予想外なことが起きた。なんだと思」


 王様の話をウィリアムがさえぎる。


「父上、早く本題に進んでください……ぼく達が困っているのは、迷宮の夢についてです」

「え!? この続き気にならない?」


「気になる気にならない以前に……夢との繋がりが見えない上に無駄に問題出してきたりして、いらっとしてる」

「え……反抗期?」


 王様の目がショックで見開かれ、口に手を当ててふるふると震えた。ウィリアムは頭を抱えた。


「あーもう、だから、そういうのいいから!

早く先に進んでよ……みんな、付き合わせて本当にごめん……」


「いえ、あの、王様のお話、気になりますわ」

「ええ……その、物語みたいですね」

「ですね! 徐々に核心に迫っている? 感じで」


「うう、君達はいい子だね……誰かさんと違って」

「ぼくは誰かさんに、周りに気遣いを強制してる自覚を持ってほしいと、切に願ってるよ……」


 そんな感じに脱線しつつも、話は本筋に戻って再開した。一応王様は、質問を挟むことは止めたご様子。


「ウィリアムは予定より1カ月早く生まれてね……魔力封じの道具が間に合わず、居場所を特定された。悪魔を倒すか諦めさせなければ神託通りになるところにいた。

だが、悪魔は手出しできなかった。信じられないことに……ウィリアムは魔の気配を感じると火魔法を放って、自力で撃退していたんだ。

悪魔はすぐに逃げるから、追い込むこともできなかったが……ウィリアムをさらうのは難しいと思ったのだろう。目に見えて出現頻度は減っていった」


「へー、だからウィリアム様は今も無事、ここにいるんですね」

「とても信じられないお話ですが……すごいです」


 エレンとマーリンは素直に感心した。

 夢の話との繋がりは分からないけれど、ウィリアムの赤ちゃんの時のエピソードとして聞く分には普通に楽しい。

 エレンはわりとリアルな感じで、ウィリアムが赤ちゃんの時の映像が浮かんだ。


「ああ、ウィリアムの才能は、神託を変えるほどの力があった。事実、変えた。……そして、君達が見ている迷宮の夢に繋がる……」


 王様は結構、舞台とか小説が好きなのかもしれない。ここで、あえて一拍置いて、ゆったりと紅茶を飲んでエレン達をジラし始めた。もし王様がテレビのディレクターだったら、この辺からガンガンCMを入れたであろう。


 ウィリアムが「いい加減早く話を……」と言いかけて、イアンに口を塞がれた。クッキーを口に入れられたウィリアムは、仕方なくもぐもぐしている。そして食べ終わって改めて文句を言おうとしたところ、再びイアンに別のお菓子を詰め込まれていた。


「ちょっと、イアンやめ……っ!?」


 と、口を開けるとお菓子が入るので、ウィリアムはなにも言えず、イアンは涼しげに「全種類いきます?」とか言って次のお菓子を手に取っている。


 はわわ、またBのLみたいなことしてる……!


 ウィリアムが黙ったまま首を横に振って終わったけれど、絵になるような魅力的な2人の仲が相変わらず大変睦まじいでゲス。

 イアンの強引モードがウィリアムに向けられていて、エレンはちょっとうらやましい。

 王様はジラしてる間に注目されなくなってシュンとしている。


 そうして王様が「うおっほん」と実に王様チックな咳をして、再びみんなの注目を集めると、ようやく核心をついた。


「ウィリアムをさらうことを諦めた悪魔は、王妃を身代わりに連れ去ろうとして、失敗し……空間の狭間……《迷宮》に落ちたらしい。

神託は『条件が整った時、迷宮の門が開かれる。黒い扉は《挑戦》、白い扉は《逃避》だ』と言った」


「では、あの黒い扉の先には母上が?」

「わからない。でももしいるのなら、そこには赤子のお前をさらおうとした、黒い悪魔もいるだろう」


 エレン達は、この話にとても入れない。

 ただただ、2人の会話を聞く。王様は続けた。


「無理はするな、ウィリアム。もう16年だ……お前がもっと小さい頃、私は、迷宮の門を開く条件を必死に探していた。だが、もう、王妃も生きてはいないだろう。お前や、友人達を危険にさらしてまで、挑戦する価値は、あの場所にはもうないんだよ」

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