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7 聖女とお引っ越し

 翌日は、たいして多くない荷物を持って、新お父様と旧弟と並んで歩きながら、和気あいあいと新居に向かった。

 そして建物に近づくと懐かしい顔を見つけてエレンが走り出す。


「父さん母さん!」

「エレン、久しぶり! 元気にしてたかしら?」

「おおエレン、立派になったなあ!」


 旧父さんと旧母さんだ。

 エレンが二人に駆け寄ると、旧父さんがエレンを持ち上げてくるくる回る。


「うふふふふ」

「ははははは……はあっ! 持病のぎっくり腰が!」

「父さああん!?」


 なーんてね! 私を誰だと思ってやがる!

 エレンは即効で旧父さんの腰を治癒した。きらきらきら~


「おお、持病のシャクが……」

「よかったわね、あなた」


 腰に爆弾抱えているのにヤムチャしやがって……。

 ってあ、後ろをなんとなく見たら、新お母様に同じことをしていた新お父様が、同じように腰を押さえてのたうち回っている。エレンは新お父様にも魔法を使った。きらきらきら~


「エレンちゃんお久しぶり。こんなタイミングで来て、本当にいいのかしら……」

「お久しぶりです、お母様。もちのろんですよ! 一緒に暮らしてた頃、とてもよくして下さいましたもの。それにお父ちゃ……お父様も喜ぶし」


 新お母様は優しい儚げ美人さんなのだ。弱点は貧乏。貧乏になると将来を悲観してヒステリックブルーになるので、甲斐性なしとは暮らせない。


 ところで新旧の家族がそろって呼び方がややこしい。

 旧父さんと旧母さんは「父さん」「母さん」

 新お父様と新お母様は「お父様」「お母様」

 とこれからは呼ぼう……エレンは心に決めた。


 ちなみに旧弟の呼び方はどうしたものか。旧弟の名前はなんやかんやでまだ一度も出てきていないのだ。


「わー、お屋敷だー! ねえ、探検しよ」

「うん。お姉ちゃんぼくあっち行ってみたい」

「うん行こ行こ。噴水かな? 花壇もありそうだねえ」


 エレンは問題を先送りにして、旧弟と屋敷を探検して過ごした。エレンも旧弟もとことんタイプなので、建物の下の隙間とかまで覗き込む。ふむふむ、雨が降ったらここを通って用水路に流れて行くのね……ほほーん。まさかお屋敷も主にここまで見られるとは思わなかったであろう。


「ねえ、お姉ちゃんは聖女になってさ、もう嫌だってなったりすることない?」

「ん? なんで?」


「だって……自分がそうしたいわけじゃないのに、力があってさ。やりたくなくても、苦しくても、嫌でも、やらないといけないなんてさ。役目が……重たいよね」


 後から思えば、旧弟がこんなこと言うのは珍しかった。私はこの時にもっとちゃんと、この言葉に向き合うべきだったんだ。


 いつものような他愛ない話の一つだと思っていたから、この時に私がなんて言ったかはもう覚えていない。

 でも旧弟は、私の答えを聞くと満足して、こう言ったんだ。


「わかった。ぼくもね、頑張るよ。ぼくはぼくとして、いられるように……最後まで頑張る」


****


 エレンが聖女になったことにより、国からもらえたお屋敷は…な、ななななんと、3階建10LDKの大豪邸だ!

 全ての階にトイレとお風呂がついていて、吹き抜けのリビング。

 キッチンも広い……ってま、まさかこれは……オシャレ主婦の憧れ……アイランドキッチン!?


 これまでの風呂なし1Kアパートとは雲泥の差である。


 耳を澄ませばほら、シャンシャラララ~という音楽が聴こえてくるでしょう……? あと『なんということでしょう』というナレーションが。まあ確実に空耳なわけですが。でも気分は完全に、劇的ビフォーアフターである。


「まあでも私達は6人家族になったわけだし……6部屋が埋まるよね。あと4部屋どうしようか?」

「そうだなあ、日中はお手伝いさんを雇うとして……お手伝いさんの休憩室に1~2部屋と、あとはゲストルームかな」

「ほほー、なるほど」

「お手伝いさんに……ゲストルーム……!? なんて贅沢な会話なんだ」


 男爵経験の有無による違いか……新お父様が提案したお部屋の雅な使い道に、旧父さんが口に手をあてて「はわわわわ」となっている。


「弟くんも、この先いつか一家の大黒柱になるんだ。お屋敷の運用について学んでおくといいぞ」


「うーん……でもぼく、おじちゃん家によく行ってたからなんとなく分かるよ。これからは修繕費とかも毎月貯めてたほうがいいんじゃないかな? ペンキが劣化したら壁がもろくなるし、雨漏りそのままにしてたら木が腐るよね」


「はわわ……なんで息子は未来が分かるの」

「え……見ただけだよ……没落していく様を……」


 そして最終的に夜逃げした過去を持つ新お父様と私が「あはは~」と目をそらす。だがしかし旧弟の観察力よ……。

 旧弟も貧乏ゆえに文字と計算だけの初級学校しか通えなかったはずなんだけどな。八百屋でもマダム達と上手くやってて、可愛い可愛いと言われているし、将来有望でお姉ちゃんは実に嬉しい。


「弟くん! 今からでも学校に通わないか!?」

「えー……アルバイトしてお金もらえるほうがいいよ」


 旧弟自身は、あまり野望とかはなさそうである。


「私、庭いじりしたいわあ」

「あら素敵ですね、私もご一緒してもよろしいかしら」

「うん、一緒にしましょ」


 旧母さんと新お母様も仲良くできそうで実になにより。うむうむ。

 そんな感じで周りを観察していたら、旧弟がてくてくとこっちにきて、話しかけてきた。


「お姉ちゃんはもうご飯作らないの?」

「え……うーんまあ? そのつもりだったけど……週1くらいで作ろっか?」

「えー……今まで毎日だったのに?」

「それはだってお金なくて、1ヶ月1万円生活だったからだよ」

「むぅ……じゃあ週2」


「ふふ、毎日のようにご飯食べに行ってたものね。エレンの作る料理、私も食べたいわあ」

「そこまで言われたらしょうがないなあ。じゃあこれからは週2回作るね」

「うん、絶対だよ」


 旧弟がそんなに日本食好きだったとは。

「いいよいいよ」なでこなでこ。


 ってんん? この世界観でお金の単位が『円』なのはおかしいって?

 ほほほ、なにをおっしゃる。もし『1ヶ月10万ペリカ』とか言ったら今度は『ペリカは、日本円換算だといったいいくら?』って絶対なるくせにー。


 ちなみに10万ペリカは1万円である。

 このビール……キンキンに冷えてやがるぜ……

 ざわ……ざわ……


 借金は今月中に完済できちゃうし、お屋敷の護衛については国負担でしてもらえるらしい。

 あとで月々の予算を新旧父と要相談だけど、来月からはみんなにお小遣い的なものも渡せるんじゃないかな?

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