67《10》聖女と不気味な部屋
「4人同時に同じ夢を見ているなんて、不思議ですね。今なにが起きているんでしょうか」
「さっきエレンさんとも話していたのですが、なにもわからないんです。……でも、みなさんに会えてよかったですわ」
「ですよね! ずっと1人ぼっちだったから怖くて心細かったけど……みんながいるなら、また明日この夢を見ても、別にいいかも」
イアンやマーリンとそんな風に話していると、ウィリアムが言った。
「それなんだけどさ……この夢を終わらせる方法があるかもしれない」
「え!?」
「ウィリアム様、なにかわかったんですか?」
全員がウィリアムを見つめる。そんな中でウィリアムは、エレンに目を合わせて質問した。
「エレンさんは、この迷宮に魔力を流した時に、なにか気づきませんでしたか?」
「なにか? ……私、人を探そうと思って魔力を流したので……3人いるな、としか思わなかったです」
エレンは質問の意味がわからないままそう応えた。「そうですか」とウィリアムが言う。
「ぼくは、エレンさんの魔法をヒントに、探索をイメージして魔力を使ったからか……もう少し、手に入れた情報があります。たぶん、迷宮の出口らしきものがある」
ウィリアムはそう言うと、床に流したままだった魔力を細い一本の道しるべにした。火の魔力は、前方と後方に続いている。
「ただ……出入口のようなものは2箇所あります。
出口かもしれないし、より深い迷宮の入口かもしれない。進むか戻るか、留まるか……どうしようか?」
4人はお互いに顔を見合わせた。
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エレンも出入口を魔力で確認することにした。
ウィリアムの魔力をたどって前方と後方の通路を進み、行き止まりにたどり着く。
「本当だ! 行き止まりがありますね。どちらも、それ以上先には、魔力が通らないです」
「そこから先は魔法が使えないんですかね?」
「扉だけが阻害している可能性もあるけどね」
「では、両方見てみて……それから方針を考えるのはいかがですか?」
マーリンの提案に、全員が賛成した。
そうして、近いほうの扉の前に行く。
白い壁に見慣れていたから、エレンは濃茶の扉にちょっと感動して『ふおお、扉!』ってなった。
「開けます。いいですか?」
イアンが前に立って、みんながうなずくのを見ると、警戒しながら扉を開けた。
ギイイイイ……
錆び付いた音が、重厚な扉っぽい。
少し開けてなにも出てこないことを確認してから、イアンが扉の中をのぞき込み中を確認する。
「イアン様、中はどうなってるんですか?」
「……危険なものはなさそうですが、不気味な部屋ですよ」
そう言って、みんなにも見えるように大きく扉を開いた。ウィリアム、エレン、マーリンもドキドキとのぞき込む。
中を見て、マーリンとエレンは悲鳴をあげた。
「きゃーー」
「ひええ、ななななにあれ怖いっ」
2人は、はわわわわと両手を握り合った。
部屋中、壁面びっしりと肖像画が飾られている。その肖像画がなんだかすごく気持ち悪い。
ウィリアムは、そんな部屋の中をしげしげと興味深そうに眺めている。
「全部、肖像画にしては、目が変な方を向いているね。なにか法則性があるような……なんだろう……? あ、奥に扉がある。イアン、ここの扉が閉じないように、見張っててくれる?」
そうして中に入ろうとするから、イアンが止めた。
「いえ、ウィリアム様。こういうことは私が」
「いや、大丈夫。イアンはマーリンとエレンさんのそばにいて。イアンなら大抵のことに対処できるし、ぼくも1人のほうが力を使いやすいから」
「……わかりました」
「気をつけてください、ウィリアム様」
「うん」
イアンが引き下がり、マーリンが声をかけた。
エレンもイアンやマーリンと、ウィリアムを見守る。
ウィリアムは、警戒しながら部屋の中に入ると、1つだけ火球を作った。そして手近な絵にぶつけるのでエレンはびっくり仰天した。
「えええーー!? 絵絵絵ーー!?」
ちょ。思い切り良すぎませんか。
こんな不気味な絵を燃やしたら呪われそう。
でも火球は絵にぶつかる直前で消失した。
「えっと、今までと構造が違うから破壊できるかテストしてみようと思って。でも、やっぱりダメだったね……これまでの白い廊下も、壁に焦げ目1つ作れなかったんだ」
「へー。そんな実験してたんですね」
「うん。まあでも、この部屋の中でも魔法は使えるっぽいから、もう少し進んでみるよ」
「ウィリアム様、あまり無理はしないでください」
「大丈夫、わかってるよ」
イアンからも釘を刺されたウィリアムは苦笑して応え、慎重に室内を進んで、奥にある黒い扉の前に立った。
「持ち手がない。押すのかな? 素材も不思議だ……あ、押してもびくともしないや」
と、黒い扉に触れたとたんに、状況が変わる。
ギイ……
「戻って!!」
ドドドン
軋む音がして、マーリンが叫んだ。
ウィリアムは即振り返って、離脱する為に足元を高火力で爆発させる。
イアンが閉じようとする濃茶の扉を風魔法と剣で無理矢理抑える、ガキンという音がした。その隙間をくぐるようにウィリアムが通り過ぎた。
壁に激突するところだったウィリアムを、間一髪でマーリンの作った水魔法のクッションが全方位で包んで受け止める。イアンも、バキリという音を立てながら剣を抜き取り、扉が完全に閉まる前にくぐり抜けた。
水魔法から解放されたウィリアムが苦痛に顔を歪める。
「痛……」
「ウィリアム様!」
「ごめんなさい……私の受け止めが不充分だったかもしれません」
イアンとマーリンがウィリアムに駆け寄る中で、エレンは治癒魔法を展開した。ウィリアムの両足が焼けただれ粉々に砕けている。ウィリアムに駆け寄ったイアンも、扉を支える時に無理をしていたのか体の筋のいくつかを痛めていた。それらをまとめて治癒する。
「いや、マーリンのクッションは完璧だったよ。この前の隣国の話からもうモノにしてるなんて、勉強家だね。……イアンと、エレンさんもありがとう」
ウィリアムのお礼に対して、珍しくイアンが苦言を呈した。
「……無理、しないでください。『わかってる』と……そう言ったばかりじゃないですか」
「ごめん、どうなるか気になってさ」
そう言うと、もう平気な顔して立ち上がり、ウィリアムは続けた。
「でも、そのお陰でいくつかわかったことがある。
部屋の先の扉を、下手に触るのは危険だ。
たぶん、開けるには必要な手順をたどらないといけなくて……この部屋については、不気味な絵がなんらかのキーになっているんだと思う。
あと、夢だと侮っていたけれど……この夢の中で作った怪我は痛みを伴い……治癒魔法で完治する……そして、痛くても夢は覚めない」




