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66《9》聖女は探索した

 1人ぼっちで、果ての見えない迷宮をさ迷い続けるなんて、もうできない、したくない、怖い。

 エレンは、先行きの見えない廊下をそれ以上進む気になれなくて、力なく地べたにうずくまった。


「早く、目が覚めないかな……」


 静かで冷たい無機質は廊下は、進むことを止めたところで、寂しさも不安も消えない。


「イアン様に、会いたいな……」


 こんな寂しい世界だけれど、それなら全然怖くないのにな、とエレンは思う。

 それに、絵くらいしかない世界だけれど、もしもイアンが隣にいたら、手を繋いで他愛ない話をしながらのんびり歩いたりとかして、むしろ楽しい夢になるのでは?


「は! 夢なんだし、願えばいける? いでよー、おいでませ、イアン様!」


 とても良い案だと思ったので、エレンは夢をどうにか改ざんできないかと、色々やってみることにした。でも特になんも起きない。


 まあでも『夢とはなんぞや……深層心理……的な? じゃあ、強い気持ちがあれば……的な?』みたいな漠然とした感じでやってるので、色んなポーズで祈ったくらいだ。


 手を合わせてみたり、瞑想してみたり五体投地してみたり、エクソシストを倒す神父風なやつとか、陰陽師っぽいやつとかを、曖昧な知識で全力でやっていたからとても疲れた。あと途中から目標も見失っていた。たぶん目が覚めたら今回も超しんどい。


「あ、そういえば、イアン様も疲れてる的なことをルカが言っていたような……」


 寝不足で疲れているなんて、タイムリーだなあ。訓練を休むほどって相当だ……疲れていてなにもできず泥のように寝たエレンと同じような感じ?


「んん? イアン様は、いつから寝不足なんだろう?」


 王宮に行った日の夜から続いている悪夢。

 この迷宮にいるのは、エレンだけなんだろうか。

 調べる方法は、たぶんある。


 エレンは目をつぶった。そうして、きらきらした魔力を床一面に広げていく。以前、狂暴化した魔獣が大勢の人々を傷つけた時、一括治癒する為に使った探索魔法。


 分岐という分岐を全て通って、迷宮全体に広げて行くイメージでエレンは魔力を広げていった。すると、ほどなく、反応を見つける。


「1、2、3……3つの気配がある。やっぱり、私は1人じゃなかった!」


 エレンの魔力だと気づいたのだろう。3つの気配は、エレンに向かって急速に進み始めた。そのうち2つの気配は合流して一緒に近づいている。そして、もう1つの気配は一番エレンに近い。もう、すぐ側に来ている。


 エレンは立ち上がると、魔力を消して、目を開けた。敵か味方かわからないから、万が一の時の為に、逃げられるよう準備する。でも、どうか、知ってる人でありますように。


 そうして、廊下の向こうから現れたのがマーリンだったので、エレンはほっとして笑顔になった。


「エレンさん!」

「マーリン様!」


 心細かった2人は、駆け寄って両手を繋いで、再会を喜んだ。


****


「エレンさんは、いつからこの夢を見てますか?」

「曖昧だけどたぶん、王宮に行った日から毎晩です」

「私も、同じです。きっかけはなんでしょうね?」

「んー……そこが問題ですよね……」


 壁にもたれて情報交換をする。

 でも、エレンとマーリンがまったく同じ状況ということしかわからなかった。


「あ、そうだ! 私さっき魔力を流した時に3つの気配を感じたんです。もう1回やってみますね」


「気配が3つで、残りの2つが合流して近づいて来ていたということなので、ウィリアム様とイアン様の可能性が高いとは思いますけれど……あんな大規模な魔力をもう一度使って、エレンさんは大丈夫なんですか?」


 そんな心配をマーリンからされて、エレンは、はて、と首をひねった。

 さっき使った魔力量はどれくらいなんだろう。


 疲れてきたら魔力がなくなったんだな、ってわかるけれど……あんまり普段枯渇することがないから、この規模なら何回使える、みたいな判断方法をエレンは持っていない。


「魔力が持つかは、やってみないとわからないですけれど……でも、たぶん、少しずつ使うようにしたら限界はわかると思うし……今回はおおよその位置も分かっているので、やってみます!」


「わかりました……気をつけてくださいね。あと、私が危険と判断した時も止めてください」


 エレンはこくりとうなずいて、目をつぶろうとした……その時。足元を温かい気配が通る。エレンは「わあ!」っとなって、足をわたわたした。


「え、え、なにこれなにこれ?」

「大丈夫です、エレンさん! たぶん、ウィリアム様が今、先ほどのエレンさんと同じことしていますわ」

「ウィリアム様が?」


 確かにこの温かい感じは、火の魔力なのかもと思う。安心すると、ぬるま湯みたいでほっこりする。ぬくぬくほわほわ。


「ええ、たぶん……いえ、この魔力量なら確実にウィリアム様です!」

「魔力量って、普通はどれくらいなんですか?」


 そういえばよくわからないなと思って聞いてみる。マーリンが考えながら応えてくれた。


「そうですね……例えば私なら……今見える範囲の3倍くらい……たぶんそれくらいの空間を満たすほどの魔力を使ったら、魔力切れになると思います」

「え、そうなんですか?」


 ちなみにエレンは、国全体を覆う大規模魔法を使ったことが2回ほどある。1度目は魔力切れで倒れたけれど、あの時はそれ以外にも色々魔法を使っていたから……それがなかったら普通にいけてた。


 エレンなら、国を覆える程の光魔法が使える。

 エレンの驚いた顔を見て、マーリンが微笑んだ。


「エレンさんが特別なんですよ? 50年に1人の聖女様なのですから。スタミナと同様に、訓練で魔力量を増やすことは可能ですが、その上限にも個人差があって……生まれ持ったものが大きいです」


「へー。じゃあ、ウィリアム様も、普通の人より魔力量が多いんですか?」

「ええ。建国した王の先祖返りと言われてますわ」

「ほほー」


 そんな話をしていると、残りの2人が到着した。


「マーリン!」

「エレンさん!」


 その声は思っていた通りの2人だったけれど、『もし違っていたらどうしよう』という不安もあったから、現れたのがウィリアムとイアンで、エレンとマーリンはとてもほっとした。

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