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59《2》聖女のうきうきウォッチング

「さっきはびっくりしましたね」

「ね、びっくりです! お父様が帰ったらどんな顔するんだろう?」


 イアンと手を繋いで歩きながらエレンが笑う。2人は優しいし、赤ちゃんができたと知って泣いて喜ぶ新お母様がとても綺麗だった。

 生まれるまで十月十日もかかるのに、エレンはもう生まれてからの素敵な未来に想いを巡らしてにこにこしている。


「生まれたらきっともっと賑やかになりますよ。

夜泣きとか大変かもだけど、うちはいつも誰かしらいるから、交代であやして順番に寝たらいいし」


「エレンさんはなんとなく、赤ちゃんをあやすのとか得意そうですよね」


 そう言うイアンは、エレンが全力で高い高いしたり、いないいないばああ! と作画崩壊した顔であやす姿を想像している。赤ちゃんの数倍体力がありそうな感じである。

 実際エレンは『ふふふのふ』と自信あり気だ。


「自分で言うのもなんですが、なかなかですよ! 泣く理由がわからなくて困った時は、とにかく気をそらすのがコツです。ルカがね、昔すごく泣き虫で……」


 そうしてエレンは小さな頃の話をした。お留守番をしている時にルカが目を覚まして泣き出してしまって、2人で手を繋ぎながら寒い日の夕暮れに外に出て、母さんを待っていた話とか。


 ちなみにエレンは15歳の時に前世を思い出したけれど、あくまでも記憶は記憶であり、性格が変わったりとかはなかった。


 というか前世の記憶は、他の古い記憶と同じように普段は引き出しにしまわれていて、デジャブや興味や話題に紐付いて思い出すから……よくよく思い返すと、もっと小さな頃から記憶はあったのかも?


 おやつが食べたいというルカの為に、エレンが作った初めてのおやつは、パンの耳を炒めて砂糖をまぶしたやつだったし。

 どこかで見たことあるやつと思って作ったけれど、この世界では結局どこにも売ってなかった。


「エレンさんは昔からお姉さんで、ルカくんは甘え上手だったんですね」


「へへー、実はそうなんです。あ、そういえばイアン様って、ルカと仲良しですよね」


「え、そうですか?」

「そうですよー。だってルカにはタメ口だし、なにやら独自の連絡手段もあるらしいし?」


 エレンは唇をとがらせた。『私彼女なんですけど』とか思ってるような顔をしている。イアンは『ええ……?』みたいに困惑しながらもエレンに嫉妬されて嬉しそうだ。


「ルカくんとはまあ……エレンさんが行方不明になってからもやりとりがありましたから。一緒にエレンさんを探してた仲間、みたいな感じです」

「あ、すみません」


 こっそり夜逃げして音信不通になったエレンは、猛烈な後ろめたさにより、しおしおしお~と、瞬く間に小さくなった。

 でもでもだって、あの頃は1日1日を生きていくのに必死だったんだっぺ!


「いえ。連絡手段は、そうですね……後でお見せしましょうか」

「うん、見たい見たい! 絶対ですよ?」


 イアンはそんな感じで、あっさりとエレンの機嫌を直した。エレンは後のお楽しみの秘密にわくわくしている。 


「あ、待って、エレンさん」

「え? わ!」

「しっ!」


 手を引かれてバランスを崩しかけたエレンを、転ばないようにイアンが支えた。

 エレンはイアンを見上げて首をかしげる。


「イアン様、どうしたんですか?」

「……これ以上、進むとまずい」


 イアンの緊迫した様子に、エレンはごくりと唾を飲み込み緊張しながら、イアンの視線の先を見た。


 こ、この先にいったいなにが!?


 すると、とても見慣れた2人組の後ろ姿が見える。

 それを見て、はわわわわとなるエレンだ!


 エレンは、両手で口を抑えながら、テンションが爆上がりした。


 ウィリアムとマーリンが露店街をのんびり歩いていた。ちなみにマーリンの着てるお洋服はこの前エレンが見繕ったやつである。


 あ! ウィリアム様が、今さりげなくマーリン様の手を握りましたよ!? そしてマーリン様が一瞬びくっとしながらも『全然普通』って感じを一生懸命演じながらウィリアム様となにか話しております。真っ赤な横顔で! あらー、まあー!


「見つからないうちにここを去りましょう」


 そんな風にイアンが言うけれど、エレンは心の中で飼っている野次馬が暴走している。目がきらんきらんである。


「ちょっとだけちょっとだけ! あ、アクセサリーを見てる! 髪飾り? あらまー、さりげなくマーリン様の腰を抱いて……で、でたー! ウィリアム様の王子スマイル!」


 あたかも大声で言ってる風だが、エレンは小声である。


「なんですかそれ」

「ウィリアム様の必殺技ですよ!」


 これはマーリン様もひとたまりがない!


 イアンが呆れたような諦めたような顔でエレンを見ているが気にせずに、エレンは2人をガン見しながら「わあ、髪に触れた!」などと、きゃーきゃーしている。


 が、しかし。ここでウィリアムに気づかれた。そして、ウィリアムが石化したことに気づいたマーリンが首をかしげて、ゆっくりとエレン達のほうに振り返る……!


 ……のを、ウィリアムが阻止した。

 とっさにマーリンの後頭部を手で押さえて強引に抱きしめたウィリアムは、エレン達に向かって『あっちいけ。しっし!』と目と口ぱくと手信号でエレン達に合図する。


 さすがにエレンもこくこくとうなずいて、右手の手のひらをウィリアムに向けながらピシッとおでこに当て『イエッサー』と敬礼した。


 超恥ずかしがり屋なマーリンに、ずっと見てたことがバレるのは、さすがのエレンもやべえと思う。


 だがしかし、ウィリアムにバレた時点でもう遅い。


「い、いい加減に……」

「は! しまった!」


 ぷるぷると肩を震わせるマーリンに、ギクッとするウィリアム。


「……してください! ハレンチですわー!!」


 そして、人前で抱きつかれたことにより恥ずかしさが限界突破したマーリンの、水魔法がウィリアムに炸裂した。ウィリアムの足元から突き上げるように出現した水柱により、青空に大きな虹ができた。

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