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51《27》聖女の作戦

 屋敷に戻って、イアンに反逆防止の首輪が付いていることを話すと、アレンが「なぜ隠してた」とものすごく怒っていた。

 リヴェラのほうは、先ほどエレンが気づいた時のようにショックを受けていて、そんなこんなで話し合いの前に多少わちゃわちゃしたのはいた仕方なし。


 やがて冷静さを取り戻して、今日を無事に切り抜ける為の作戦会議が始まった。エレンがまず言ってみる。


「リヴェラさんとアレンさんにループ前の記憶が残っていたように、レスター王子にも記憶が残ってるっていう可能性はありませんか? そしたら、王子とは前回仲直りしたし、リヴェラさんを助ける為に協力もできたし……イアン様も大丈夫だと思うんですよ!」


 そもそもレスターが悪いことなんもしないルート。超ベリーイージー。

 もしこれがゲームなら、webにクソゲーとかぬるゲーとか書かれるやつである。そして中古ショップでワゴン300円とかで投げ売りされる。


 そんなエレンの言葉に、アレンが反応をくれた。


「確かに、その可能性もあるが……その場合ならなにもしなくていいはずだ。それよりも、こちらが行動を起こさないとヤバいパターンについて考えたほうがいい」


「なるほど……!」


 エレンはかしこまった感じにイスに座り直した。

 アレンが続ける。


「もう一方の可能性……レスター王子に、改変された記憶しかない場合。3日目は昨日とはまったく異なるものとなる」


「……と言うと?」


 イアンが質問した。外部からやって来たエレンとイアンには本当の記憶のほうしかない。そんなイアンの疑問には、リヴェラが答えてくれる。


「2日目に私とエレンちゃんはレスターに会ってないことになってる。会場以外でレスターに会おうとしたら、たぶん側近達に妨害されるし……会場に行けば、無実の罪で断罪されるわ」


「じゃあじゃあ……あ! アレンさんの時と逆なら、イアン様に魔力がなくてもアレンさんが助けられるのでは!?」


 そしたらベリーイージー。イアンの生存確実ルートである。でもアレンは苦い顔をした。


「家族とバレてる……俺の魔力も止められるだろう」

「じゃあ、他の人に助けてもらう!」


 そしたらイージー。どんどん難易度上がっていくけどまだイージー。

 アレンが、この国のどこからでも見える高い塔を顎で指し示した。


「……あの処刑塔が象徴するように……この国では有史以来、当たり前のように処刑が行われている。助けた者は死罪だ。……国内の人間では、難しいだろうな」


 イアンが口元だけで笑う。


「困難ですね」

「イアン様」


 他人事のようなイアンの言葉に、エレンが真剣な声音で名前を呼ぶと、今度はちゃんといつも通り微笑んだ。


「……大丈夫です、諦めてはいませんよ。

……まだ私に風魔法をコントロールする力がなかった頃に……何度か兄さんと逃げ回りながら兵士と戦ったことが、あります。兵士の足取りのいくつかを覚えています。時間稼ぎくらいなら、できるかもしれません……兄さんが助けてくれるなら」


 アレンが立ち上がって、後ろ手でイアンの頭をぐりぐりと撫でた。


「すぐに詳細な地図を持ってくる。作戦立てるぞ」

「うん」


 イアンの髪の毛がちょっとボサボサになって、子どもっぽくなった。はぅ、かわわ! とエレンは思ったが……目があったイアンが苦笑しながら髪に手ぐししてしまった為、一瞬で戻ってしまった。


 さらさらヘアーめ!


****


 イアンとアレンが、隣のテーブルに大きな地図を広げて、書き込みながら逃走経路をあーだこーだ話している。


 エレンは、リヴェラにも相談したいことがあったから、目の前にいるリヴェラに話しかけた。


「レスター王子の生誕パーティーについてなんですけど……闇が襲ってくる場合について」

「うん」


「……闇の外側は固くて、光の魔力が弾かれて痛かったけど……内側は違うかもなんです。昨日は力尽きちゃって試せなかったから、たぶんですが……」


「……うん、痛かったよね……ごめんね、エレンちゃん」


 リヴェラが悲しそうに謝ってきたから、エレンは慌てて首を横に振った。


「あ、えっと、それは全然いいんです。そうじゃなくて……闇に攻撃できるのも、闇からの反撃を受けるのも、私だけみたいだったから……最初から私が狙われたほうが戦いやすいかもと思って。今日、一人で参加してみたいんです」


 リヴェラの瞳が悩んで揺れた。でも頷く。


「うん、私は会場に行っても……足手まといにしかなれない。途中まで一緒に行って、処刑塔の近くで降りるね」


「処刑塔? なんでですか?」


「私も……やってみたいことがあるの。どこからでも、たぶんできるけど……処刑塔の近くが一番いい気がする」


 リヴェラはそれ以上答えるつもりはないようだったから、エレンは「ふうん?」と言った。

 リヴェラがエレンの手を握る。


「私達の、問題に……エレンちゃんとイアンくんを巻き込んで、本当にごめんなさい」


 エレンは不安でいっぱいだったけれど、それでも微笑んでリヴェラの手を握り返した。悪いことばかりではないと思うから。


「ううん。リヴェラさんとアレンさんが昨日無事でよかったです。記憶も残ってて、すごく嬉しいです」

「エレンちゃん……」


「私、今日レスター王子に会ったら、頑張って説得して、イアン様の処刑を止めてもらいます。それまでイアン様達が逃げられたら、ハッピーエンドです! ……私達は、前のループを覚えてる。だから、きっと、上手くいきますよ」


 今日、エレンがやることは決まっている。

 レスターと話して処刑を止めてもらうこと。


 そして呪いのような闇がまたエレンを襲ったら……次こそしっかり打ち消すんだ。それはきっと、光の魔力を持つ、エレンにしかできない。


 もしかしたら、イアンとエレンが隣国に来たのは、この国が前に進みたいと思っているからなのかもしれない。

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