46《22》聖女は異議ありと物申す
「レー様の婚約者様は、隣国から来た騎士と恋仲になって、自分の護衛にしてたんですう。そうして、道ならぬ恋をしてたんですう! あろうことか……レー様を隠れ蓑にして!」
花子がそう言って、書類をバサッと撒き散らした。全ての紙に同じことが書いてあるようだ。
リヴェラとアレンの不貞についての報告書。1日目にエレン達とホテルに入ったことや、2日目にリヴェラが喫茶店で『アレンとキスした』『アレンが好き』と話したことなどが書いてある。
レスターもその報告書を拾い上げて読んだ。そしてリヴェラに問う。
「リヴェラ……この報告書の内容は真実か?」
「……ええ」
ざわめきが大きくなった。招待客達はこの醜聞に驚きながらも好奇心を滲ませて「なんてことだ」「信じられない」などと口先で言いながら……にやついた笑みを浮かべて、とても面白そうに見物している。
レスターはリヴェラの返答を聞くと「そうか」と呟き、冷たい目を向けた。そうして、とても暗く冷たい声で、リヴェラに更に問う。
「……なにか言い分があるなら聞いてやろう」
リヴェラは震えながら、レスターを見つめた。そして、考えながら答える。
「……キスは、事故です。それまで、私達はなにもなかった。そして、これからもないと誓えるわ……だって、ちゃんとわかっているもの。自分の立場と責任を……」
「そうか。なら、お前の護衛を処刑しても構わないな?」
レスターが飛躍した結論を出した。リヴェラは、蒼白になってレスターに問う。
「なんで、そうなるの? これから先、彼とはなにもないと言ったでしょう……!?」
するとレスターは、嗜虐的な笑みを浮かべた。
まだエレンの見ていなかった、レスターのもう1つの顔。これまでのループで、アレンを処刑し続けた残虐な一面。
「リヴェラ……お前は勘違いしているようだが……今お前が取れる選択肢は2つしかない。
お前の護衛を処刑して、お前が俺の妃となるか……お前の護衛を処刑して、お前を俺の妾にするかだ。
選ばせてやろう。俺の手を取るか、取らないかだ」
そうして、リヴェラの前に手を差し出し、底冷えするような声で言う。
会場はしんと静まりかえり……。
「異議あり!!」
緊迫した状況の中で、先ほどの花子に負けぬ大声が、会場中に響き渡った。
会場中の視線がエレンに集まる。
某ゲームの名セリフを叫んだエレンは、レスターに人差し指を突きつける!
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「は? え? エレンちゃん?」
レスターがまさかの横やりにポカーンとした。
エレンは怒りに燃えている。
そしてこのまま進んだら、どうせこのループは失敗だし、それなら言いたいことは言っちゃえ言っちゃえ! と、開き直ったエレンである。
「さっきまでのレスター様は、ちょっと素敵だったのに。今は最悪です! そんな風に言われたら……結婚しても愛せない。やり直しを要求します!」
どよどよと戸惑う来賓者達。リヴェラとレスターも戸惑っている。レスターは、エレンに『素敵』と言われてちょっと嬉しいのか、若干態度が混乱している。
「えっと……やり直しって、どんな?」
エレンはこくりと頷いた。
「嫉妬してるなら、嫉妬してると言えばいいんです。リヴェラさんが欲しいなら、リヴェラさんにちゃんと求婚したらいいんです! 大切なものを奪うんじゃなくて、大切な人を目指してください……今まで会いに行ったこともなかったんでしょう? お互いに誤解してたんでしょう? アレンさんを処刑するなんて、最悪の最悪です」
レスターは、先ほどまでリヴェラに向けていた冷たい視線をエレンに向ける。
「王族を侮辱したんだ。処刑してなにが悪い!」
エレンは動じない。
「花子さんのことは許したくせに!」
エレンの言葉に花子がびくっとした。急に話の中に名前が出てきて大層驚いたようだ。自分からは目立ちに行くくせに、逆をやられるのは苦手なご様子。
レスターはそんな花子を一瞥して、エレンに視線を戻すと、目線だけで続きを促した。エレンは続ける。
「貴族を侮辱したら処刑というのは……確かにこの国のルールなのでしょう。でも、昨日のレスター様は、こう言いました。
『そんなことをしたら国民がいなくなる。多少は融通を利かせるさ』って。そうして落としどころをつけて、昨日は笑顔を見せていたのに……なんでそれが、アレンさんにはできないの?」
エレンは怒りに震えている。人の命を、感情一つで左右するのが許せない。
もっと先にやれることがあるはずだ。そして、レスターにはそれができるはず。
だって、花子にはできてたんだから。




