45《21》聖女は楽観視していた
城内のパーティー会場に入ると、会場内はざわざわと賑わっていたが、レスター王子はまだ来てないようだった。
会場では、レスターの登場を待ちわびながら、ワインやカクテルを片手に、談笑する大勢の男女がいる。
「いよいよだね。上手くいくといいんだけど……」
そう言うリヴェラの顔は蒼白だ。
エレンが震えるリヴェラの手を握るととても冷たかったから、きらきらした温かい魔力をリヴェラの中に流した。
リヴェラがきょとんとする。
「エレンちゃん、これはなに? 治癒魔法? なんか、温かいね」
「治癒魔法……ではないかもですけど……寒い時に温かくしたり、元気にしたい時の魔法です。元気出ましたか?」
「そうなんだ。うん、なんかちょっと元気出たかも。エレンちゃんの魔法って素敵だね」
そう言って微笑むリヴェラはまだ緊張していたけれど、顔色は良くなっている。エレンも微笑んで言った。
「きっと上手くいきますよ、大丈夫です!」
エレンも緊張はしているけれど……でもどこか楽観的な気分だった。馬車の中の軽口で心も軽くなったのかもしれない。今は『なにもかもが全て上手くいく』そんな成功のイメージがある。
まず、イアンは剣術だけじゃなくて、風魔法の扱いもとても上手なのだ。もはや無意識レベルで使えるっぽくて、エレンに熱湯が跳ねたりした時もとっさに風魔法で守ってくれる。
むしろ、風魔法が得意過ぎて、騎士達との魔法有りの訓練だと全然訓練にならないからと……わざわざ一般兵の訓練場に通って、魔法を使えない環境で剣術を学んでいるくらいだ。
だから、アレンが風魔法を封じられて処刑塔から落とされても、イアンが絶対に守ってくれるだろう。……うむうむ、アレンの死亡エンドは余裕回避だ。
そして、リヴェラの断罪についても……1回目ルートがどういう流れだったのかをエレンは知らないけれど……少なくとも今回は、2日目時点で断罪理由を潰している。
レスターも、ちゃんと話を聞いてくれる感じの印象だった。現にこの会場にいる使用人や王子の側近と思われる人達の男女比率が、昨日から大きく変わっている。
まだ女性のほうが多いけれど、たった1日で……。レスターは昨日した約束を果たす為に、あれからものすごく奔走したのかもしれない。
ほら、不安要素なんもない。
エレンがそう思ってのほほんとしていたら、会場が、わー! と盛り上がりを見せた。レスター王子が来場したのだ。
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レスターは登壇すると、生誕パーティーの挨拶と来賓への感謝を伝え「今日はぜひ楽しんでほしい」とにこやかに述べた。
そうして、大きな拍手の中、壇上を降りてからは、レスターの元に集まる人達と一言二言の会話を挟みながら、エレンとリヴェラのいる方に歩いて来る。
「2人ともよく来てくれた! ただでさえ美しいのに……驚きの美しさで目が潰れそうだ!」
そう言うレスターの目は本当に『*』←こんな感じになっている。エレンは、レスターの体を張った渾身のギャグにびくっとした。よくもまあ、真っ直ぐ歩いて来れたものである。
「レスター様、お誕生日おめでとうございます」
「おめでとうございます、目がアスタリスクになってますよ!」
は! エレンはうっかり声に出してしまった。
リヴェラも『わーお』という顔をしている。
だけど、レスターは目を元に戻してにこにこだ。
「このギャグに反応くれたの、エレンちゃんが初めてかもしれない……!」
とか言う。反応ないのに続けてたんかーい!
エレンは心で突っ込みを入れたが、そうと知らないレスターは、顔をキリッとしてリヴェラに手を差し出し見つめた。
「リヴェラ……俺達はお互いに、何年も大きな勘違いをしたままここまで来てしまったが……これから、お互いを知っていこう。伴侶となる為に」
「レスター様……」
呆然とするリヴェラに、レスターは尚も言葉をつむぐ。少し照れた様子で。
「それにな……リヴェラ。俺から君に会いに行く勇気はなかったが……俺は、本当はずっと……君が……」
だが、そんなレスターの言葉は、最後まで続かなかった。会場に響き渡るほどの大きな声が、会場中の人々の会話を止めたのだ。
「レー様! 騙されてはいけません! この人は……浮気をしてますう!」
その声の主、花子は……このパーティー会場の中で唯一普通の洋服を着ていて……その場にまったくそぐわなかった。手にはなにか書類のようなものを持っていて、髪の毛を振り乱し、目をギラギラと燃やしていた。
その迫力に会場中が息を飲み……小さなざわめきが生まれ、徐々に大きなうねりとなる。
「どういうことだ……?」
レスターの顔から表情が消えた。




