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42《18》聖女は王子との面会を終えて…

 レスター王子との面会を終えて外に出た。


「なんか……思ってたのと違いました」

「あ、エレンちゃんも? 私も」


 あれからレスターと色々話して、様々な誤解があったことがわかった。そもそもレスターはリヴェラが今日、城に来て待っていたことも知らなかったらしい。


 約束の時間になってもまだ来てないと言われていて、かと思いきや突然リヴェラがやってきて『今すぐ会いたい! 会えないならすぐ帰る』と言ったと聞かされていたそうだ。


 で『俺の婚約者はわがまま可愛いな』とか思いながら急いで来たらしい。なんだ、と……?


 花子への態度もおおらかだったし、女性に対してはべたべたに優しい人っぽい。


 その一方では、3年間のループの中でアレンを処刑し続けている側面があるはずで、絶対に気を許すことはできないけれど……今日見たレスターの印象とはあまりにもかけ離れ過ぎていて全然結びつかなくて、エレンの中では、レスターがそこまで憎めなくなっていた。


 明日だって、なにかしら行き違いがあったとしても、こちらの言い分も……ちゃんと聞いてくれるんじゃないかな……と思う。


 そんなことを思いながら歩いていると、アレンやイアンとの待ち合わせ場所に向かう道すがらで、王宮を出てからずっと沈んでいたリヴェラがエレンのそでを掴んだ。「待って」と言って。


「アレン達に会う前に……エレンちゃんにだけ、打ち明けてもいいかな……」


 エレンは「うん、もちろん」と言った。

 そうして手近なカフェに入って、エレンはリヴェラの懺悔(ざんげ)を聞く。


「私、レスター王子は私を嫌ってると思ってたんだ。でも違った。レスターはレスターなりに、私のことも大切にしようとしてた……。私、でも全然知らなかったの……」


 そうおもむろに話し出す。


「……致命的に女好きって感じはしますけどね」

「あはは、うん、まあそれはあるよね」


 そして誰にでもちやほやするから、使用人達の中にはレスターに気がある人もいて、タッグを組んで婚約者であるリヴェラにずっと陰で嫌がらせをしてたわけだけれども。


 そんなことも、今回話してて発覚したから、その人達は別の部署に移すと言っていた。


 というかそもそもレスターの近辺は役人から使用人まで女性比率が高すぎる。……のもレスターが女性にことさら甘いせいなのだけど、さすがにまずいと思ったようだ。


 レスターによく苦言を呈していて以前左遷した男性官僚を、レスターの配下に至急戻すと言っていた。男女比率も見直すと。


 だからこれからは安心して王宮に来てほしいと。

 そして、もしまたなにか、嫌な目にあったら、これからはなんでも話してほしいと。


 リヴェラは俺の婚約者なんだから、と。


「私、家が決めた結婚がずっと嫌だった。幸せな未来が全然見えなかった。……でも、レスターのこと悪い部分ばかり見てて……良い面を見ようとしてなかった……改善しようとも相手を知ろうとも思わなかったの」


 エレンは「うん」と相づちを打つ。

 リヴェラはそんなエレンを見て小さく微笑む。


「たぶんさ……今日話してお互いに誤解を解いたから、明日は断罪されないと思う。

そして、レスターと結婚したら、それはそれで幸せなのかもしれないって思う。色んな女の子に色目使ってるのを怒ったりしながらも、喧嘩して仲直りして、楽しく過ごせるかもしれない。ループもたぶん終わると思う。でも……」


 うつむいたリヴェラの瞳から、涙があふれてぽたぽたとテーブルを濡らした。


「私は……もう、アレンが好き。身分違いの、許されない恋だけど……ずっと、好きだったの。

……そして、私の側にいる為に、反逆防止の首輪をつけた時から……アレンの気持ちも……知ってる」


 リヴェラは震えながら、おしぼりで目元を隠す。


 この絶望的なループの中で、何度記憶を失っても、孤独に戦い続けていたリヴェラが、誰にも言えず秘め続けていた想いを、エレンだけに語る。


「だから、今日のアレンの言葉が……忘れられない。さらってほしい……と願ってしまったの。そうして2人で暮らす未来を……想像してしまったの。

でもさ、私がそれを願ったら……そうしてまた時間が巻き戻ってしまったら……その出来事そのものが、なくなっちゃうんだよね? ……初めてされた、アレンのキスも。……そんなの、もっと……耐えられない……」


「リヴェラさん……」


「ふふ、何度ループしても私の願いは叶わない……。

だから、つらいし……苦しいけど……。このまま私は、自分の運命を受け入れて……アレンが生きる未来にするよ。きっと、それが一番いい未来だから」


 そう言って、リヴェラは涙を拭うと、微笑んだ。

「聞いてくれて、ありがとう」と言って。


 好きな人と両思いでも、その想いすら隠さないといけないなんて……。


 エレンはこれまで身分差とかを感じることなく生きてきた。エレンが貧乏でも令嬢でも聖女でも……周りは普通に接してくれたから。だから、それがどれだけ恵まれていることなのか、知らなかった。


 だからこんなことを考えてしまう。言葉にする。


「レスター王子に、アレンさんが好きだって言ったら……一生懸命伝えてみたら……どうですか? ……もしかしたら、リヴェラさんの幸せを応援してくれるかも」


 そしたらリヴェラがふふ、と笑う。


「そんなことしたら、アレン、殺されちゃうよ。

だってレスター王子ですら、私と婚約破棄するには……私が王妃として不適切だと、証明して断罪する工程がいるんだもん」


「あ、それで世の中の王子は断罪するんですね」


 へーへーへー。

 乙女ゲームとかで、王子がヒロインを選んだ時に、なんでわざわざ悪役令嬢を断罪するかわいそ展開を入れるのか前世で全然理解できなかったエレンは、初めて知る衝撃的事実に、へー、ってなった。


「……でも、今回のループに思い入れがなかったら……ちょっと試してみたかったな。

……素敵な2日間だったから、みんなの記憶に残っててほしいから、やらないけどね」


 そう言うリヴェラは、さっきよりはずっと吹っ切れた明るい顔をしていた。

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