41《17》聖女は王子と対面した
王宮のティールームに通されたものの、紅茶を1度出されたきりで、使用人もいなくなってしまった。
王宮の人が誰もいない部屋にリヴェラと2人で待つ。リヴェラが言った。
「15分くらいしたら一回催促して、30分経ったら『もう帰ります』って言おうか。帰り支度すると来るから」
「この時間を指定してきたのは向こうなのに?
……なにそれ嫌な人ですね」
それ、催促しなかったら何時間待たされるんだろう? リヴェラは今のやり方を確立するまで、どれだけ待たされたんだろう。
そんなこと考えると嫌な気分になって、エレンが口を尖らせて不満を言うとリヴェラが笑う。
「うん、ほんとほんと。嫌なやつなの。
だからね、今日エレンちゃんが来てくれて心強いよ。待ってる間、なにか女子トークとかしようよ」
「あ! じゃあ私、リヴェラさんとアレンさんの出逢いとか聞きたいです」
「えー、そこ聞いちゃうー? 困ったなあ……えっとね……家出した時にさ、暴漢に襲われそうになったところを、通りがかったアレンに助けてもらったの」
そうしてリヴェラは、アレンと出逢ってからの話を懐かしそうに話してくれた。
アレンは任務帰りに偶然隣国に立ち寄って、リヴェラと出逢って……なんやかんやあったゴタゴタを2人で乗り越えたりとかして、そうしたらそのまま国に帰らずにリヴェラの護衛になっていたらしい。
それからずっと一緒にいる。
急にエレンとの外泊を決めたり、リヴェラは今ではずいぶん自由に伸び伸びと過ごしているけれど、アレンが必ず守るという前提で……王妃になるまでは、自由を満喫できるようになったと言った。
「ってあ! しまった! もうずいぶん時間経っちゃったね。催促してないから誰も来ない……!?」
「えええーー!?」
「しょうがない……帰りますアピールしてくるわ」
「うん、いってらっしゃい」
「ん、いってきまーす」
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帰ると言うと、王子すぐ来た。なんだこいつ。
リヴェラ寄りのエレンは、初対面からして王子が嫌なやつに見えてしまって、内心でぷくっと頬を膨らませている。
でも相手は王子なので顔には出さないけれども。
リヴェラも表情を面に出さない。
「王宮に来るなんて久しぶりじゃないか、リヴェラ。明日会うと言うのに待ちきれなかったのか?」
そう言う王子に、リヴェラはすまして答える。
「ええ、いつもレスター様は忙しいご様子なので。本日もずいぶんスケジュールが押したようですね」
すると、レスターは笑って「まあな」とか言う。
レスターがイスに座ると使用人も入ってきて、紅茶のおかわりを出してきた。
「だが君は大事な婚約者だからな。忙しい合間でも、君と話す時間くらいはとろう。なに話す?」
んん? あれ? 嫌なやつと思ってたけど、王子は意外と友好的? エレンは混乱した。
そんなエレンを見てレスターが更に言う。
「ところでリヴェラの隣の子、だれ? お友達?」
「ええ、隣国の友人です」
「あ……エレンです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく! 年下? 可愛いな」
エレンにも友好的である。握手がなんか下心が滲んでいて気持ち悪かったけど。そしてもう一度握手しようとしてきたから、エレンは気づかないふりをして、2回目は握手しないを選択。
でも、今のところリヴェラを断罪する気配はない。
リヴェラがなにかを言おうとしたところ、ぽわんぽわーんとした声が遮った。
「ああ~、レー様こんなところにいたあ!
いないから探しましたよお」
エレンは振り返ってぎょぎょぎょー! っとなった。声の主はぽわぽわした口調に見合わないボロボロっぷりである。
右足にギブスを巻いていて右手で松葉づえをついていて、左手も骨折してるらしく肩から三角巾で吊るしている。
さらにおでこにも包帯を巻いていて左目は眼帯だ。
そんな女の子に、レスターがにこやかに詫びた。
だがしかし、たぶん全然悪いと思っていない。
「ああ、すまんすまん、花子。客人が来てな」
は……花子おおおーー!?
エレンはびっくり仰天した。
ちょっおまっ……転生者か!!
エレンは心の中でつっこみが追いつかない。
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「も~レー様ったらあ、花子はやめてって言ったでしょお? 花ってぇ、呼、ん、で? ……はぁ適当に名前つけて本気で後悔だわ……」
ちょっとちょっと花子さん。
小さい声で全部聞こえてますよ。
「えっと……花……さんは、その……お怪我どうされたんですか?」
リヴェラがとりあえず義務感で質問すると、花子は目をうるうるさせて言った。
「そうそれそれ聞いてくださいよ~、私ぃ、いじめられてるんですぅ!」
その言葉にガガーンとショックを受けるレスター。
「なに!? そうだったのか! どじっ子なのかと思っていたぞ! なんてむごい……いったい誰にここまでのことを……?」
「レー様の! 婚約者様ですう!」
ぽかーんとする他の3人。
あ、レスターがこっち見た。こっち見んなし。
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「えっと……リヴェラに?」
「そうですう!」
「いつ?」
「いつもですう!」
「どこで?」
「色んなところでですう!」
レスターすらリヴェラに会うのは久々で、そもそも花子は、今この場所にいるリヴェラが、レスターの婚約者だと気づいていない。
レスター王子に会いに来れる程度に身分の高い、年の頃も丁度いい令嬢を前にして、確認もせずいけしゃあしゃあとつむぐ嘘……強いのか? あほなのか?
レスターが助けて欲しそうに、こちらを見ている。
エレンは無言で治癒魔法を使った。
きらきらきら~。
花子に使ったが治癒魔法が効かない!
どうやら健康体のようだ。エレンは言った。
「えっと、花さんは、怪我してないですよ?」
「なんであなたにわかるんですかあ!?」
「そうだ、なんでエレンちゃんにはそんなことがわかるんだ! はっもしや……女神なのか!?」
エレンは無言でレスターに治癒魔法を使った。
きらきらきら~。
「おお!?」
「これ治癒魔法なんです。足の小指治りました?」
「そう言えば……さっき急いでぶつけた右足の小指が痛くない!?」
エレンはとても面倒臭くなってきたけれど、じと目で花子を見た。
「人を貶めるような嘘をつかないでください。
リヴェラさんはそんなことしないです」
「なんでそんなことわかるのよ」
「お友達だから」
「エレンちゃん……」
ぽかんとしてたリヴェラがつぶやいて、レスターもそうだなと言った。
「花子……君はもしかしたら知らなかったのかもしれないが……貴族を嘘で貶めると死罪なんだ」
「え……!」
蒼白になる花子。だがレスターが続けて言う。
「……でも君に協力した人を全員教えてくれたら、さっきの発言は聞かなかったことにしよう」
「言います言います!」
ゲロゲロと出るわ出るわ大勢の名前達。
「よくぞ言った、偉いぞ花子。
じゃあさっき約束した通り、先ほどの侮辱は聞かなかったことにするから……安心して今日はもう休め」
「あ、はい……すみませんでした……」
花子はトボトボと退出した。
お、おや? 温情のあるスピード解決。えっと、あれ? 実はいい人? レスターの人柄がさっぱり掴めなくてエレンは混乱した。
リヴェラも意外そうに言った。
「意外ですね……もっと酷な罪にすると思ったのに」
するとレスターも意外な顔をする。
「どうして? そんな必要はないだろう?
……まあ、君にとっては嫌な気分かもしれないが……戯れだよ。
こんなことでいちいち命を消したら国から人がいなくなってしまう。多少の融通くらい利かせるさ。
それに、城内で君に悪意を持つ人間を洗い出せたんだ……いいことじゃないか」
「レスター様……」
レスターは涼やかに微笑んでいる。
よくよく見るとイケメンである。
「まあ、男なら死罪だったけどな!」
否、こいつはただの女好きである。




