37《13》聖女には難しかったので茶を淹れた
込み入った話になりそうだったので、イアンの泊まる部屋で話をすることになった。
ホテルに向かう道すがらの屋台で、食べ物をたくさん買っていく。
アレンが「この国に来たからにはこれを食え」と、イアンの好きな思い出の食べ物を4人分ずつ買ってくれた時なんかは、イアンがむずがゆそうにしていてすごく可愛かった。
今回でループが終わるといいな、とエレンは思う。
だって、アレンがイアンのことを弟と認めてくれている。
そして、イアンの思い出の食べ物が、4人の思い出になろうとしている。
これが未来に続くルートになったら、すごく素敵。
そうして、部屋にこっそりと4人で集まって、今この国に起きているループの話をした。
今、たぶん一番このループについて多くを知っているイアンが話を進行する。
「この国では今、3日間をループする現象が起きています。そしてそれは恐らく、リヴェラさんを起点として発生しています。
3日目にリヴェラさんは婚約破棄を言い渡され、兄さんが殺される。このループの解除条件は……兄さんの生存なのだと思われます。
……だからこそ、この認識合わせが必要です。
リヴェラさん……今は何度目のループですか?」
そんなイアンの質問に、リヴェラが戸惑いながら答える。
「さっき、エレンちゃんと話していた時も不思議だったの。……私は、今朝初めて、3日前に戻っていると……認識したわ」
「え……! 今日が、初めて……?」
エレンが驚いた声を上げた。
だって全然期間が合わない。
イアンが話を進める。
「……兄さんは、私の姿からもっと長い年数を覚悟していますよね? ループが起きる前は、5歳違い……13歳だったはずだから。今16歳になっています。
この国が3日間のループを繰り返すようになってから、他の国では、3年が経過しました」
「え……なんで……?」
今度はリヴェラが混乱した。
アレンのほうは落ち着いていて、イアンに「それで?」と続きを促す。イアンが頷いて話を続ける。
「私が今回この国に入国したのは、5日前でした。
そこでまず驚いたのは……ループ3日目に死ぬ運命と思っていた兄さんが……外部の助けがない状況で、なぜか生存していたこと。
そして、リヴェラさんが『やっと助けられた』と呟いたのを聞いたことでした。
その時のリヴェラさんに聞いたら、5度目のループだと話していました」
なんだか話が難しいので、エレンはお茶のおかわりを淹れることにした。みんなの喉を守るお!
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エレンがみんなの湯のみにお茶を注いでいると、アレンが考えながら話した。
「つまり……俺が3日目に死んだ場合、リヴェラはその記憶を残したまま1日目に巻き戻るが……俺が3日目に生存した場合、リヴェラの記憶は他の人達と同様にリセットされて1日目に時間が巻き戻る。……そういうことか?」
イアンが「ええ、その可能性が非常に高いです」と言った。
エレンは「へー」と感心するばかりだ。
そんなことになってるの今? ややこし。
というかなにこの兄弟。頭良すぎませんか?
エレンは答え合わせを聞いててもいまいちよくわからない。
不安になってリヴェラを見ると、エレンと同じく戸惑った顔で目が合った。よかったー! 仲間仲間。
イアンが更に続ける。
「たぶんこのループは、少なくとも2人が起点になっています。
そのうち1人はリヴェラさん。兄さんの生存で3日目が終わることを望んでいます。
ですがもう1人は……兄さんの死を望んでいる。
兄さんが生存して3日目を迎えた時のみループを起こす。
だから……リヴェラさんの記憶がリセットされた時、逆に……このタイミングの時だけ記憶を残したままループしている人が……いるはずです。
これが、他国が『時を止めた国』と呼ぶ……この国のバグの正体です」
「じゃあ、堂々巡りじゃないですか……どっちの場合もループしてしまうなんて。どうしたらいいの?」
エレンは疑問を投げかけることしかできない。
そして、その疑問にもイアンが答える。
実にできる男である。
「もう1人の起点を見つけること。そしてその人を諦めさせることができれば……兄さんが生きている状態で、ループが終わると考えています。
……だから、リヴェラさん。兄さんを殺したい人に心当たりはありますか? もしくは前回のループで、ループしていることをほのめかした人がいませんでしたか?」
リヴェラは記憶を辿って……1人を告げる。
「私の婚約者……この国の第一王子……レスター。彼は、ループ前にこう言ったわ。
『お前を手放さない、あいつには渡さない』と……」




