35《11》聖女はティファニーで朝食気分
翌朝、目を覚ました時、エレンはぼんやりと『あれ? 今日は雨かな?』と思った。
でもしばらくぼんやりしてから覚醒すると、イアンのシャワー音だと気づく。
イアンが部屋にいない間にさくっと着替えておく。
それにしても……うわー、なんか、うわー!
イアン様って、朝シャワー派なんですね!
ひょんなことからイアンのプライベートが垣間見えて、エレンはどぎまぎする。
というか、シャワー音を聞くなんて、なんかいけないことしてる気分である。
「そそそそうだ! お湯! お湯沸かそう!」
とりあえず、無音はやばし。
あ、でも手帳は書いておかねばと、今日の日にちに『1』と書いた。
「エレンさんおはようございます」
「おはようございます、イアン様。コーヒーとお茶どちらにします?」
「じゃあコーヒーで」
「はあい」
お湯がちょうど沸いた頃、イアンがやって来て挨拶を交わした。その頃にはエレンもすっかり平静だ。
「そういえばイアン様、朝食はどうしましょうか」
「そうですね、近くにモーニングサービスをしている喫茶店があるので、そこに行きましょうか」
「あ、いいですね。どんなメニューだろう」
そういえばあんまり喫茶店とかに普段行かないエレンである。イアンともそういえばあまりデートっぽいことをしたことがなかった。
隣国に来てからというもの、怒涛の初体験がエレンに押し寄せる。
2人でソファーに向かう時にイアンが質問した。
「今日からは……部屋は別々ですか?」
「え?ももももちろん! 熱っ」
びっくりしてコーヒーこぼした。
「わ、大丈夫ですか!?」
「あ、はい、手にちょっとかかっただけなので……」
そして自分ですぐ治癒できる。きらきらきら~。
はあびっくりした。
「エレンさん……昨日はベッド別々なら全然いいって感じだったのに……」
「う……それはあのその……イアン様と泊まるイメージがちゃんとできてなかったんです……」
シャワーとかの生活音を聞かれるのは恥ずかしいし、下着をイアンの見えるところに干すわけにもいかないし、乙女のピンチになるのも困るし、2人きりで泊まるというのは、実際問題かなりあれだった。
昨日の自分はどうかしてるぜ! 今後は二度とないようにしようと、エレンは心に誓う。
そしてそんなエレンの固い決意を感じとってイアンはガックリとうなだれたのだった。
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営業スマイルの受付のお姉さんに、3連泊したいと伝えて、エレンとイアンはそれぞれで部屋を取る。
チェックインには早い時間だけれど、旅行バッグは預かってもらえたので、とても身軽になった。
そうして、イアンと喫茶店で朝食を食べながら、昨夜未消化なまま打ち切った、今回のループ中の行動などについて話す。
「今日は1日目から兄に接触したいと考えています。
そして、兄の護衛対象の令嬢に接触したいです」
「うんと、令嬢に会うことが今日の目標ですか?」
エレンがハニートーストをナイフで1口サイズに切りながら聞く。バターと蜂蜜がしみしみだ。
すると、イアンはサラダをフォークで綺麗に食べながら「そうですね」と答えたから、エレンは再び首をかしげて「どうして?」と聞いた。
せっかく隣国に来たのだから、もっと兄との交流をメインにしたらいいのに。
そんなエレンのまったりした考えとは裏腹に、イアンはいきなり核心をつく。
「今回のループ原因が、おそらく彼女だからです」
「えええーー!?」
エレンは小声で絶叫するという特殊技能を使った。
どんなに驚いても、お店の迷惑になることはしないのだ。客の鏡である。
それにしても3年間誰もどうにもできなかった隣国の謎について、今日から取りかかろうとしたばかりである。それなのにもう謎が解けてる? え、展開早すぎません?
エレンはまだ令嬢に会ってもいない!
「……もし令嬢がループ前の記憶を持っているなら……私を知っているはずです。前回ループで接触してみたので。今日はそれを確かめてみようと思います」
イアンは、カップの中にまだなみなみと残っているコーヒーを、揺らし見つめながら、言った。




